真相
クリスマスパーティーが終わり、正樹お爺ちゃんの年越し蕎麦を作る所を見せて貰う約束した後、凰哦さんが
「クリスマスプレゼント」
と言って僕達3人に、ニュース番組を観せるのでした。
ニュースの何処がプレゼント何だろうと、不思議がっていたら
「山家建設の社長、山家秀元68歳が逮捕されました」
とアナウンサーが言って、直ぐには理解出来ずに固まる僕達…。
「「「エエッ!!」」」
理解した僕達は、同時に驚きの声をあげていた。
「お、凰哦さん!こ、これ如何いう事なの!?」
「凰哦君、一体何が…」
「凰さん…何が起きたの?」
一斉に問い詰める僕達に
「し〜っ!今少し黙って、ニュースの内容を聞いて欲しい。後からちゃんと説明するから」
と、やはり少しニヒルな感じで笑うんだ。
だから僕達は黙って、ニュースの続きを観ていた。
「建設会社の社長山家秀元68歳は、政治資金の賄賂に脱税と、不良物件の売り付け、契約内容を購入後に改竄するなどの詐欺や、恫喝などの行為を繰り返し、土地や店舗などを不当に安く買収した疑いで、逮捕されました。一方当の本人は、記憶に無いと無罪を主張しています」
ピッ…プツン…
TVを消して凰哦さんが
「如何だった?」
って、得意気な顔で言う。
「逮捕って…はあ!?如何いう事!?」
未だ理解し切れてない僕から出た言葉に
「土地開発の親玉の逮捕だよ!」
「土地開発の親玉?もしかして、正樹お爺ちゃん達の商店街を嫌がらせで閉店に追いやってたヤツの事!?」
「そうそいつだ!」
「何と!あの地上げ屋とかの嫌がらせは、山家建設が関係してたのかい?」
「そうなんです、正樹お父さん」
「それが突然逮捕だなんて…何故なの?凰さん…」
「実は突然何かじゃ無いんです、美砂母さん」
たったこれだけの説明では、全く理解出来ない僕達。
「まあ、説明はもう少し後にしますが、取り敢えずキューを寝かせて来ますね。とても満足そうに寝てますから…」
そう言って、そっとキューを抱き上げ、自分の部屋に連れて行く。
その間
「ねぇ正樹お爺ちゃん、美砂お婆ちゃんも、この事知らなかったの?」
「私は初めて聞いたよ…」
「私もそうなのよ…。まさかこれがプレゼントなのかしら…?」
そんな事を話していたら、戻って来た凰哦さんが
「お待たせ!それじゃ詳しく話しましょうか…」
そう言いながら、ソファに座るのだった。
「ねぇ凰哦さん、これが僕達へのプレゼントなの?」
「そうだよ?」
「何か別の物用意してるのかと思ったけど、まさか逮捕ってのが、プレゼント何だとは思いもしなかったよ…」
僕が素直な感想を述べると
「そうだね、まさかこれがプレゼントとは、度肝抜かれた気になるよ…」
「えぇ本当に…」
正樹お爺ちゃんと美砂お婆ちゃん迄、こんな形でプレゼントを貰うとは、夢にも思っていなかったみたい。
僕だって同じ気持ちだよ…。
「ねぇ凰哦さん、変な事聞くけど、偶然クリスマスに捕まったの?何だかタイミング良過ぎる気がするんだけど…」
「蓮輝の思った通り、この日に逮捕される様に警察とマスコミに、裏から情報操作はやってたが、本当に今日になると知ったのは、パーティの最中だったんだ…。これでサプライズプレゼントになって、正直ホッとしてるってのが現状何だがな…」
満足そうに話す凰哦さんだった。
「その情報操作とか、色々と大変だったのじゃ無いのかい?聞いてるだけでも私らからしたら、途轍もない事なんだがね…」
正樹お爺ちゃんの言い分は良く分かる。
けどね
「優秀な部下達が頑張って調べ尽くして、この数ヶ月間、警察の協力も有って、巻いた種が身を結んだんですよ」
「そう言えばかなり前に、仕込みとか何とか言ってましたものね…。もしかしてそれの事なのかしら?」
「まさにその通りなんです、美砂母さん」
「何とまあ!それは何時頃からなのかい?凰君?」
「私達が家族になる前からですね…」
「そんな時から…。いやはや…それはたまげたよ…」
そんなに前からずっと、こうなる様に下準備をしていたと知る僕達は、凰哦さんと優秀な部下さん達の凄さに、驚く事しか出来なかった。
「でも何故、今日このタイミングに逮捕出来たの?」
この質問は、当然だと思う。
「年末の決算時に、売上とか色々帳尻合わせて誤魔化せるからな…。今迄そうやって、脱税や裏金を誤魔化して来たから、税務署何かも長い間発見が出来なかったみたいなんだ」
「でも今回は、その脱税とか発覚したんでしょ?何で?如何やって…?」
「以前、蓮輝にはスパイの事話しただろ?」
「うん、大手の企業程スパイが存在してるって、そう言ってたね」
「そうなの?凰さん?」
「そうなんですよ、美砂母さん」
「それじゃ、そのスパイってのが、今回関係しているのかい?」
「ええ!」
「そんな危険な事、如何やったのさ!?」
「その為の、優秀な部下だ!」
「えっ!?部下にやらせたの!?」
「そうだよ、我が社から数人、山家建設に社員として潜り込ませて、情報を得ていたんだ」
「それ…命の危険とか無かった訳?」
「そうなった時は、直ぐ撤退させる手筈になっていたし、向こうの社員は、余りにもブラックだったから、内情などすんなり答えてくれた様だ。それと派遣したうちの1人はビビクラの小野田をも、スパイとして向かわせたからな」
「ええっ!?あの石橋叩いて叩いて叩き壊すビビクラさんを!?」
「そうだよ、だから適任だと思ってな」
「それでビビクラさんは、任務を壊さなかったの?大丈夫だったの!?」
「やる時は頼りになるって言っただろ?」
「うん言ってたね…」
「ちゃんと仕事して、最後にそのクラッシャーで、向こうのちゃんとした内情をぶち壊してくれたよ。だから残ったデータは、不正のみ残ってくれたんだ」
「はぁ〜そうなんだ…。ただのビビクラじゃ無かったんだね…。意外だよ…」
「ハハハハハ!なっ?やる時はやる頼りになるやつだっただろ?」
「みたいだね」
「小野田は、本当に信用のおける奴なんだよ。あのビビリがあいつの武器でも有るからな」
「ふ〜んそうなんだね…。でも1つ…それ以上になるかもだけど、聞いても良い?」
「ん?何をだ?」
「正樹お爺ちゃんと美砂お婆ちゃんが、僕達の家族になる前から仕込みって言ったよね?」
「あぁ言ったが、それが如何した?」
「あっ蓮ちゃん、それ私も思ったよ」
「あら貴方もなの?私もそう思ったわ」
正樹お爺ちゃんと美砂お婆ちゃんも、疑問に思ってたみたい。
「…それに関しては私怨も入っていまして、正樹父さんと美砂母さんに出会う前から、正攻法で潰すと決めてた会社でも有ったんですよ…」
「凰哦さん、それ本当!?」
「実はそうなんだ蓮輝」
「私怨とは、それを聞いても良いモノなのかい?凰君…」
「大丈夫ですよ正樹父さん」
「凰さんは話しても、本当に辛くはならない?私怨なのだから、話すのは辛い筈よ?」
「お気遣いありがとう美砂母さん、でも本当に大丈夫ですから、私としては聞いて欲しいです。嫌で無ければなのですがね…」
その後、僕を見ながら
「ただ…蓮輝にはキツい話になる内容も含まれてるんだが、蓮輝、お前は如何する?聞くか聞かないかは、お前が決めて欲しい。」
「えっ?それって内容によるけど、聞かない方が良い感じなの?」
「俺の両親の事だけならまだ良いんだが、お前の両親の死にも関係してるかも知れないんだよ…」
「えっ!僕の父さん母さんの事故死にも!?そこ迄聞かされると、聞かない訳にはいかないよ!」
「そうか…そうだよな…。済まん、半ば強制的に聞かせる事になってしまって…」
「凰君、それは私達も聞くべき事なんだね?」
「えぇ出来れば聞いて欲しいです。父さん達にも知って貰った方が、隠し事も無くなりますからね…」
「そうなのね、それじゃ聞かせて貰える?凰さん」
「ありがとう美砂母さん、正樹父さんも…」
そして僕達は、凰哦さんの両親の事を聞き
「そうだったのか…」
「そんな酷い事が有ったのね…」
「僕、そんな事知らなかったよ…」
と、此処迄は凰哦さんの両親について、酷い事をした奴だと思ったんだけどね、僕の両親の話の内容を知った僕達は、怒りが爆発しそうになる。
特に僕は信じられないし、それが本当ならとてもじゃ無いけど許せなかった。
その内容とは…。
「実はお前の父さん槍馬さんは、蘭姉さんと俺の両親の事を知って、山家建設の社員として働いていたんだ」
「えっ!?何で!?」
「そうだよ、何故わざわざ敵とも言える者の会社なんかに、勤めようとしたんだい…?」
僕と正樹お爺ちゃんの問いに
「山家の不正を暴く為…」
「不正を暴く為!?」
「そうなんだ蓮輝…。孤児だった槍馬義兄さんは、幸せな家庭を持つ事が夢だったんだ。そして出会った蘭姉さんと恋に落ち、付き合って直ぐに結婚したんだ。その時、俺達の両親が居ない事を知って、自分が孤児だったからか、正義感も強かったのも手伝って、敵を取ってやろうと思ったらしい…。蘭姉さんは山家の悪どさや、自分と結婚した事で、篠瀬に関わる者として、気付かれたら危ないから止めてと言ったんだが、苗字も違うし大丈夫だと反対を押し切って、入社したんだ」
両手をギュッと握り締め、俯きながら凰哦さんは話す。
「蓮輝が産まれて、家族を守るんだと更に正義感が強くなった槍馬義兄さんは、上役しか見る事も知る事も出来ない極秘データを知る為、着々と会社での地位を築き上げていったんだ。でもそれは…山家の罠だったんだ…」
「罠!?えっ…?何それ…如何いう事なの…凰哦さん…?」
「…山家は悪どい奴だと言っただろ?槍馬義兄さんが入社面接に行った後、山家の部下によって、全て調べ上げられてたんだよ…槍馬義兄さんの事をな…」
「調べ上げてたって、父さんだけ!?」
「いや違う…社員全員だ…」
「はぁあ!?社員全員!?」
「凰君、それは本当なのかい?…」
険しい顔をしながら、正樹お爺ちゃんも聞くのだった。
「そうなんですよ…」
「そうなんですよって、何故そんな事するの!?」
美砂お婆ちゃんも、とても怪訝そうな顔をして聞く。
「弱味を握る為です…」
その言葉に僕達3人は、一瞬思考が停止してしまう。
「嘘だろ!それマジで言ってる!?ねぇ凰哦さん、本当にそんな事してんの!?」
「そうなんだよ蓮輝…。だからあれ程ブラック企業なのに、誰1人として辞められないんだ…。その上、犯罪にも手を染めさせられ、尚辞められなくなってしまう様にされているんだ…」
「凰君、それが本当なら何とも言えない極悪人だな…」
「父さんが言った事に、私も同意見だわ…」
正樹お爺ちゃんと美砂お婆ちゃんも、心底嫌悪を感じたんだろうね、苦痛に満ちた顔をしていた。
「それじゃ僕の父さんも犯罪に手を染めたりしてたの?」
「それは無かった筈だ…。山家の目的は、俺達篠瀬一家を飼い慣らす事たったんだ…復讐されない為にな…。だから、槍馬義兄さんだけは悪事には触れさせず、何時でも自分の身近に置いて見張っていたかったと、槍馬義兄さんが書き残してくれていたんだ」
「書き残してた?何それ…。それと疑問何だけどさ、僕達を飼い慣らすその為だけに、父さんを役職に就かせたの?」
「その様だ…。自分は幾らでも俺達の命を消せると分からせる為に、槍馬義兄さんに他の社員達の非道さを見せ付けて、懐柔しようとしたんだ。だがその時、既に様々な不正データを手にしていた槍馬義兄さんは、そんな脅しに屈する事は無かったんだ。絶対懐柔出来ると思っていた山家は、それは無理だと悟り、情報を知ってる槍馬義兄さんを亡き者にする為、プロの始末屋を雇い事故を装って2人を殺害した様だ…」
「ねぇ凰哦さん、何でそんな事迄知ってるの!?それに父さんが書き残してたって言ってたけど、まさかそれも父さんが書き残してたっての!?」
「…そうなんだ…。多分槍馬義兄さんも身の危険を感じてたんだろう…独自に山家からの動きを調べていたらしいから、義兄さんが知り得る情報を残してくれていたんだよ…」
「…父さん…自分が殺されるって事、分かってたんだ…」
「……義兄さんと姉さんの遺品を整理してた時に、この手紙が出て来て、俺はその時初めて知ったよ…」
そう言って部屋から戻って来た時に、持って来ていた手紙をテーブルの上に置く。
「なぁ凰君、その事を警察には話さなかったのかい?」
「正樹父さん、それは勿論話ましたよ…。でも警察は、山家の事を調べる事はせず、ただの事故として処理したんです」
「ええっ!?何故!?」
「私もそう思いましたよ美砂母さん…。ですが当時、義兄さんが見付けた不正のデータは残されて無く、有るのはこの手紙だけだったので証拠不十分でしたし、ただの虚言か妄想だろうと言って取り合ってくれませんでした…」
「そんな…何て酷い…」
「ですから、あの時に誓ったんです。絶対許さないと、必ず正攻法で追い詰めてやると」
それを聞いた僕達は、長い間、凰哦さんただ1人だけ、こんなにも重く辛いモノを抱えていたんだと知った。
「ごめんね凰哦さん、こんなにも辛くて重いモノを1人で抱えさせていて…」
「そんな事は言わなくて良いぞ蓮輝…。山家を潰すと決めてはいたが、お前さえ居てくれたなら、俺はそれだけで充分だったんだから…」
「ありがとう凰哦さん…。でもその話を聞いて、僕のすべき事でも有るから、その復讐を僕も手伝わせて貰うから!それは絶対譲れないからね!!」
「…本当の事言うと、危険だから止めて欲しいんだが、止めても無駄だろうからな…。分かったよ…でも出来るだけ傍観に徹してくれよ?」
「…うん分かった…」
本当は今直ぐにでも行動を取りたいと思ったけど、凰哦さんや正樹お爺ちゃんに美砂お婆ちゃんにも迷惑掛けるから、素直に言う事を聞く事にした。
「それでまた聞きたいんだけどさ、スパイで潜らせた社員さん達、その人達も犯罪に加担させられたりしてないの?」
「そうなりそうな時に前もって連絡入れさせていてな、その場に先回りして、屈強な社員を派遣して犯罪行為をさせない様にしたりと、色々と目を光らせてたよ。だから誰1人として、犯罪は犯して無い」
「そうなんだ…」
「それに今回、正樹父さん美砂母さんのおかげとでも言うか、土地再開発の事を知って、あいつを追い詰める事が出来たんだ」
「私達のおかげとは如何いう事だい?再開発が関係しているってのは…」
「実はですね正樹父さん、賄賂を渡す相手の大物議員数人と山家と手を組んで、近い将来に、商店街の近くに駅を作ろうとしていたみたいなんです」
「それ初耳なのだけれど、本当なの凰さん…?」
「本当なんですよ美砂母さん。その議員達が来年の中頃に議案を提出して、年末辺りに決定する予定だったみたいなんです。だからその前に安く土地を買い占めて、駅が出来る頃に、高値で売り付ける算段だったんですよ…」
「何と!…その為に私達はずっと嫌がらせを受け続けてたのか…ふざけている…」
「あの嫌がらせのおかげで、パートさんも辞めてしまいましたものね…」
「そうだったの!?だからお爺ちゃんお婆ちゃんだけだったんだ…。あの良く通る声で、お爺ちゃんに注文を告げるの聞くのが結構好きだったのに、居ないから辞めたとは思ってたけど、その為だったんだ…」
「そうなんだよ…。私も厨房で調理してると、あの声が聞き易くて助かっていたんだがね…」
「本当そうでしたわね、良く働いてくれる良い方でしたから残念に思ったけど、身の危険に晒される事を思えば、しょうがないと諦めましたものね…」
2人の話を聞くと、更に怒りが沸いてくる。
「私がお2人と親子関係になった事も有り、何が何でも叩き潰さないとと思い、今迄以上に意欲が出て来まして、部下には迷惑掛けましたが、何とか追い込む事が出来ましたよ…」
「そうなんだね。凄いね、凰哦さんもだけれど、社員さん達も」
「本当に、優秀な部下達に恵まれて良かったよ」
「ありがとう凰君、君と君の部下さん達のおかげで、助けられたよ」
「本当そうですよね、ありがとう凰さん」
「いえ、礼には及びませんよ!何せ私怨でも有りましたし、大切な私の家族、正樹父さんと美砂お母さん何ですから」
「嬉しいよ凰君、ありがとう」
「本当に私も嬉しくて、あぁ…涙が止まらなくなって来ましたよ…ありがとう、ありがとう凰さん…」
凰哦さんに大切な家族と改めて言われ、泣いて感謝する2人に、僕も涙が溢れそうになったよ…。
「…ねぇ凰哦さん、あいつ、直ぐに出て来る事は無いの?」
「それは絶対無いと言い切るよ!何故なら、完全な不正データと、大物議員数名の名前も警察に提出しているし、後蓮輝…お前の両親の事故についても証拠となるモノが出て来たみたいだから、釈放される事は先ず無い筈だ…」
凰哦さんに聞かされた、両親の事故についての証拠というフレーズに、僕は如何反応していいのか分からなくなっていた。
夜も更け、クリスマスが終わろうとしていた。
蓮輝や凰哦に、正樹と美砂も加わっての、山家秀元との因縁は一応、決着は付いた様な終わり方でしたね。
取り敢えずは、次話を待って下さいね。




