年越し蕎麦
何とか年内に退院した僕。
ギリ、クリスマスを自宅で開催出来ました!
青柳さん夫妻と、隆志さんを自宅に招いて、そして僕の強い要望で、鐘川さん一家もお招きしました。
だって、可愛い摩羽ちゃん見たいんだもの〜!
ピンポーーン
おっ!チャイムが鳴ったね〜!
先ずは誰かなぁ〜?お客さん第1号さんは。
「は〜い!」
弾んだ声で、インターホンのボタンを押す僕。
モニター画面には、見知らぬ女性が2人。
「お忙しい所済みません、ただ今皆様に幸福をお届けしたいと思…」
「充分幸せなので、間に合ってます!」
「そんな事仰らずに、話をお聞…」
「話を聞いて欲しいなら、それ相応の料金掛かりますけど、支払ってくれるの?」
「話を聞くだけなのに、お金を取るって仰るのですか!?」
「当たり前でしょ?聞きたくも無いのに、ムダな労力取られるんですから!」
「まあ〜!何て罰当たりで失礼な!そんな事言う様じゃ、地獄で苦しみますよ!!」
「でしょうね〜貴方達がね〜!他人に押し売りするのを許す神様って、さぞかし徳の低くてやっっっっっすい神様なんでしょうね!ちなみに、この家には既に福の神が居ますので〜」
「本当に何て失礼な人なんでしょう!!地獄に堕ちると良いわ!」
「あっそれ楽しみで〜す!オバン達が堕ちるの〜!じゃあね〜オバハンズ〜!」
ピッ
こちとら、誰が1番最初に来てくれたか、メッッッチャ楽しみにしてたのに、台無しにしてくれてムカつくっての!
しかも、あっっつ厚の厚化粧した汚い顔2つも見せやがってさ!
ピンポーーン
チッ!オバハンまた来たのかよ!
ピッ
「しつこいよ!厚化しょ…あっ…」
「…ご、ごめん……」
モニター画面には、隆志さんが映っていた。
「イヤイヤイヤ!ごめん!違うから!ちゃんと説明するから帰らないで〜!お願い〜!ごめ〜んなさ〜い!」
「…本当に…良いのかい…?」
「良い良い良い!ササッ今門の鍵開けるから、中に入って来てよ〜。ちゃんと説明するから〜」
「それじゃ…」
あっっのクソオバハン!幸せ処か、要らない不幸置いて行きやがって〜!
「お邪魔しま〜す…」
「いらっしゃい!さっきは本当ごめん!宗教の勧誘のオバハンと、口論してたんだよね〜…だからまた来たのかと…」
「あぁ…そうなんだぁ…。なる程ねぇ、確かにしつこいもんね、あの手の勧誘って。緊急の電話にも掛かってくるから、辟易してるよ…」
「エエェッ!それマジー!?」
「マジだよ…。しかも長いから、その間に、本当に緊急の人から電話があったらと思うと、キレそうになるからね…」
「隆志さんでも、なるんだね…。怒らない人かと思ってたから、凄く意外…」
「そりゃ僕だって怒る時は怒るし、キレる時はキレるよ!」
そうなんだ〜。
隆志さんは、僕が入院してる間、ほぼ毎日の様にお見舞いに来てくれたんだよね〜。
隆志さんの知人も、バイク事故で入院してたから、両方のお見舞い出来るからっと言って、多分知人よりも、僕を優先して来てくれてたんじゃないかなぁ〜と、思ってます。
何せ、面会時間ギリギリ迄とか、出勤ギリギリ迄が多かったからね〜。
ピンポーーン
あっ正樹お爺ちゃんと美砂お婆ちゃんだ!
「隆志さん、突き当たりがリビングだから、適当に座っててくれる?僕、お爺ちゃん達迎えに行ってくるから」
「分かったよ、そうしてる」
僕はお爺ちゃん達を迎えに出ると
「蓮輝さん、ご無沙汰してます。お元気でしたか?」
と、鐘川一家もやって来てました。
「あっ鐘川さん!久しぶり〜!正樹お爺ちゃん美砂お婆ちゃんいらっしゃい!皆んな一緒に来たの?」
「いや直ぐそこで、鐘川さん達とバッタリとね」
正樹お爺ちゃんが、摩羽ちゃんを見ながら言う。
「そうなのよ、鐘川さんには助けられっぱなしで、ずっとお礼したかったの。今日そのお礼が出来そうで嬉しいわ〜」
美砂お婆ちゃんも、何だか嬉しそう。
「そんな事無いですよ!青柳さんの蕎麦食べに行った時、大変ご馳走になりましたもの、あの蕎麦食べられるのなら、何だってしますよ!」
「私も本当に美味しくて、夢中で食べてしまいました。摩羽も奥様が作ってくれた特製の離乳食がお気に入りな様で、私の作ったの食べようとしないのが、ちょっと悲しいと思いましたが、この子が美味しいと感じてくれてるのが、とても嬉しく思えました」
「あらそうなの?嬉しいわね、そう言って貰えたら。でもごめんなさい…摩羽ちゃんが貴方のご飯食べないのは、辛いわよね…。余計な事しちゃったわ…」
「そんな事無いですよ。おかげで摩羽がパクパク食べてくれたら、奥様の味に近付いたって思えて、嬉しくなりますもの。でも出来れば、作り方を教えて頂けたら、凄く助かるのですが、ダメでしょうか?」
「そんな事無いわよ、私で良ければ是非教えてあげるわ」
「本当ですか!?嬉しい〜!是非教えて下さい!」
「それじゃ今度、お店に来て頂戴。良ければママ友達も誘って来てくれても良いから、遊びに来るつもりで来て下さいね!」
「ありがとうございます!是非そうさせて頂きますね!」
美砂お婆ちゃんと爽子さんのトークが弾んだみたいで、とても嬉しくなった。
「さっ!皆んな…寒いからさ、中に入ってよ!」
「そうだね、母さんそうしようか?摩羽ちゃんも風邪ひくといけないからね」
「そうだよ爽子、中に入らせて頂こう。でも…やっぱり篠瀬社長は凄いなぁ…立派な邸宅に住んでるよね〜」
「凰君は、本当頑張って来たんだね…。そんな息子なのだと思うと誇りに思うが、ちょっと気が引ける思いがしてきてしまうなぁ…」
「そうよね…。お店の事で迷惑掛けてるのに、凰さんの親になるなんて、本当に私達なんかで良かったのかしら…」
青柳夫妻の言葉で、“親?”となる鐘川夫妻。
「青柳さん…その社長の親とは…?」
「あっそれに関しては、後程説明するね〜…。だから早く入って入って!」
慌てながら、家に入って貰う様に促す僕。
凰哦さん、会社の人達には説明して無かったんだ…。
まあ、やましい事してないから、ちゃんと説明すれば良いよね?
取り敢えず、正樹お爺ちゃん美砂お婆ちゃんには、親子になった事、家族になった事は黙ってて貰う事にした。
後でサプライズって事にして、キチンと凰哦さんから説明して貰おう。
さて、後1人だけ未だ来ていないけど、クリスマスパーティーを始めよう。
最後の人は、こんな日迄仕事だから、来れるか分からないって言ってたからね。
「凰哦さん、残りは後1人だけど、パーティー始めようよ」
「そうだな、それじゃ皆さん、今日は好きな様に楽しんで行って下さい。食べ物も沢山用意しましたし、蓮輝と2人でゲームも用意したから、今日1日楽しんで下さい!」
流石、社長をしてる事だけ有って、スピーチは上手いよね。
「あっ摩羽ちゃんは、このベビーベッドを使ってね」
そう言って、リビングの片隅に設置した、キューのベッドを用意しておきました。
「えっ!?こんな事迄して頂いてるのですか!?」
「えぇまあ…知人のをお借りして来ました…。だから恐縮がらなくても良いので〜」
鐘川夫妻には、キューの事言えないからね〜。
そのキューはというと、冬眠モードに入ったからか、凰哦さんの部屋のキュー専用のベッドで、ただ今絶賛爆睡中。
もし起きて来たとしても、正樹お爺ちゃん達に、代わり代わる相手をして貰う事になってるから、安心して今日を迎えられました。
人生で初めてかも知れない。
こんな楽しくクリスマスを過ごせる何て…。
凰哦さんは、正樹お爺ちゃん美砂お婆ちゃんの事を鐘川夫妻に説明してるし、僕は僕で、隆志さんと会話するのが楽しいし、途中で始めたゲームは白熱して、お腹を抱えて心から笑ったんだ。
本当に楽しかった。
ただ残念だったのは、結局仕事で来られなかったもう1人のお客さん、仲上さんが来なかった事。
入院中にお世話になったから、ちゃんとお礼したかったんだよね…。
でも仕事だからしょうがないよね…。
そう思ってた時、賑やかな声で目が覚めたのか、キューが起きて来た。
「蓮輝お兄ちゃん…凰哦パパ…おはよ〜」
僕達は、小さな声で
「「おはようキュー」」
と言って迎えた。
「…ねぇ、正樹お爺ちゃんと美砂お婆ちゃんに、隆志お兄ちゃんも居るね〜、如何したのぉ?」
また小さな声で
「今日は、皆んなとクリスマスってお祝いをする日なんだ。キューが起きて来てくれたから、一緒にお祝い出来て嬉しいなぁ〜」
そう僕が言うと
「そうなの〜?お祝い!良く分からないけど、良かったねぇ〜!ケヘケヘッ」
嬉しそうに笑ってくれるキューが、堪らなくて抱きしめたくなった。
でも、最近分かったんだ…。
余命幾許も無い者がキューに触れると、異変を起こす事。
僕1人の時だけ、激しい異変を起こしたのは、僕から出る病気という穢れが、キューを苦しめてた事。
如何やら僕の悪いモノを吸い取って、代わりにキューが浄化してくれていたみたい。
悪い事させてたな…。
だからそれが分かってからは、僕はキューを触っては無いし、ご飯も作ってあげられてない…。
凰哦さんに無理をさせてるけど、僕が監修して、料理の腕前も上がった凰哦さん。
今日のクリスマスメニューもね、全部凰哦さんが作ったんだ…。
凰哦さんは、キューに上手いと言われる様になったと、それはとても喜んでくれたけど、何だろう…ちょっと寂しい気もするんだよね…。
でも笑顔!少しでも多く、楽しく過ごす約束したのだから、約束は守らないとね。
「キュー、今日も凰哦パパがね、た〜く沢美味しいご馳走作ったから、食べたいでしょ?」
「うん!僕パパのご飯だ〜い好き〜!食べた〜い!」
「それじゃ顔を洗って来ようか?1人でも出来る?」
「うん出来るよ〜」
「それじゃ待ってるから、顔を洗っておいで…」
「は〜い!」
テケテケと洗面所に顔を洗いに行くキュー。
それを見た美砂お婆ちゃんが、キューの後を付いて行ってくれた。
(後ちょっとで、大晦日かぁ…。その日もキュー起きていてくれるかな…。起きていてくれたなら、年越し蕎麦一緒に食べたいな…)
「食べられるさ、絶対に…」
こんな時迄僕の心読むのよして欲しいけど、今のは読んでくれてとても嬉しかったよ。
ありがとう凰哦さん…。
「な〜に、大した事しては無いよ…。如何だ?お前は楽しめてるか?」
「うん、とても…とてもね…」
皆んな、ありがとうね!本当に楽しい日になったよ。
大いに楽しんで、鐘川一家は
「とても素敵な1日になりました、今日はありがとうございました」
と言って、嬉しそうに帰って行きました。
隆志さんも
「今日は生まれて初めて、クリスマスパーティーをしましたよ!篠瀬さんお招きありがとうございました。蓮輝君、それじゃまた!くれぐれもムリしないでくれよ?」
「うん分かってるよ、それじゃまたね!バイバ〜イ!」
「バイバ〜イ!」
またね…か…今迄思わなかったけど、凄く良い言葉だよね、またねって。
そうだね、またね!皆んな…。
鐘川さん達と、隆志さんが帰った後、正樹お爺ちゃんと美砂お婆ちゃんはそのまま残り、年が明ける迄、一緒にこの家で過ごす事になっていた。
書き入れ時の今年の大晦日は店を閉めて、僕達の為だけに蕎麦を作ってくれるんだ。
申し訳無い気持ちも有るけどね、特別な事だからさ、メッチャ嬉しいんだよね〜!
去年迄は、凰哦さんと僕だけの年越し蕎麦だったけど、大切な人達と年を越せると思うと、本当に嬉しくて楽しみなんだ〜。
出来れば、隆志さんや鐘川さん達に、仲上さんも一緒に食べたいとも思ったけどね、隆志さんは年末年始は急患とかで必ず忙しくなるって嘆いてたし、仲上さんも同じ感じだったから、気を遣うより、お互いが楽に過ごせるなら、そっちの方が良いからね。
鐘川さん達は、奥さんの爽子さんの実家に行くらしいから、其方が何より大切な事だし、それを無理に誘う事なんて出来る訳ないものね。
僕はこれで良かったと思ってる。
皆んなが笑顔で居られるなら、それ以上素晴らしい事は無いんだから。
それにね、何やら凰哦さんから重大発表があるらしくて、本人から未だ内容を聞いては無く
「楽しみにしていて欲しい」
とだけ言われ、メッチャ気になるんだけどね、楽しみに待つ事にしたんだ。
何だろうね〜?
鐘川さん達と隆志さんが帰ってから、ワイワイ話ながらパーティーの片付けも終わったし、後は夕食を済ませて、一家団欒タイムを満喫するだけになりました。
キューの分は作れないけど、せめて凰哦さんや正樹お爺ちゃんと美砂お婆ちゃんに、僕が淹れたコーヒーを飲んで貰おうと、久々にコーヒーをドリップしています。
以前はずっとやってた事なのに、当たり前が当たり前じゃ無くなると、如何してこんなにも寂しくて悲しくなるんだろうね…。
だから今、コーヒーをドリップしてるのが堪らなく嬉しい。
しかも誰かの為にしてると思えるのは、こんなにも心満たされるんだね…。
不思議不思議…。
コーヒーを淹れ終え
「お待たせ〜、コーヒー淹れて来たよ〜。久々だから、上手に出来たか分かんないけど、不味かったらごめんね〜」
と言いながら、リビングのテーブルに運ぶと
「お前が淹れてくれてるんだから、不味い筈はないだろ?」
と凰哦さんが言ってくれた。
「それなら良いけどね〜」
手渡したコーヒーを飲んだ正樹お爺ちゃんが
「蓮ちゃん、お世辞抜きで美味しいよ!」
美砂お婆ちゃんも
「本当…とても美味しいわ〜」
と言ってくれたんだ。
「ねぇ蓮ちゃん、このコーヒーの味、1人1人の好みに合わせて作ってたでしょ?」
「えっ美砂お婆ちゃん、そんな事分かるの?良く分かったね!?」
「だって、コーヒーの香りや色が違うんですもの」
「そうなんだよね〜。凰哦さんには、少し苦さを控えめにしたブラック。正樹お爺ちゃんは、濃いめのコーヒーに、砂糖1つ半。美砂お婆ちゃんは、アメリカン風に淹れて、砂糖2つ。そんな感じで淹れてみたんだ」
美砂お婆ちゃんの嗅覚とかって、凄いんだなぁ〜って驚きましたが
「蓮ちゃん、そんな事迄してたのかい!?凄いじゃないか!よく私達の好みわかったね!?」
って、逆に正樹お爺ちゃんに驚かれちゃった。
「うん…だってね、観察してたら何となく分かるでしょ?僕観察するの好きだから。それに大切な人の事、色々知っておきたいじゃない。でも勝手に観察とかして、気を悪くしてたらごめんね…」
「いやそんな事無いよ、とても嬉しくなったよ。ありがとう…蓮君…」
正樹お爺ちゃんは僕の名を呼ぶ時、“ちゃん”と"君"を使い分けてる事に気付いて無いのだけれど、和やかな時は“ちゃん”で、気持ちが昂った時は“君”と言うんだよね。
だから今の“君”は、本当に嬉しいと思ってくれたんだと僕は思った。
それだけで、幸せ気分が増してくるんだぁ〜。
「ねぇ正樹お爺ちゃん、今度僕に蕎麦を作る所見せてくれないかな?ダメじゃ無ければだけどね…」
「そんなの全然構わないが、料理上手な蓮ちゃんにしたら、退屈してしまわないかい?」
「そんな事は無いよ。僕ね、人の手で1から造られていく所を見るの、とても好きなんだ〜!美砂お婆ちゃんがキューの縫いぐるみ作るの、楽しくワクワクしながら見てたんだよねぇ〜。だから、正樹お爺ちゃんの蕎麦作る所見たいな〜。きっと格好良いんだろうね〜!」
「ワハハッそんな風に言われたら、照れてしまうなぁ。蓮ちゃんが見たいなら、好きなだけ見て良いから。張り切って作らせて貰うよ!」
「良かった、ありがとう!それじゃ、年越し蕎麦の時に見せてね!」
「あいあい、それじゃその時にね蓮君」
「宜しく〜!」
「良かったな蓮輝」
「本当良かったよ!凰哦さん」
「ハハハッ…。おっ?もうこんな時間かぁ…それじゃそろそろかな…?」
「えっ?こんな時間?…何がなの?」
「まあ観てれば分かるさ…。さてと、TVのニュースニュース…」
そう言ってTVを点け、始まったばかりのニュース番組を観せる凰哦さん。
「これは正樹父さん美砂母さんと、蓮輝へのクリスマスプレゼント」
「プレゼント?」
僕が聞き返すと、正樹お爺ちゃんと美砂お婆ちゃんも
「一体どんなプレゼントなのかい?」
「プレゼントだなんて、そんなの宜しいのに…。でもどんなプレゼントなのかしら?」
と、不思議そうにしていた。
「まぁ観てくれたら分かりますから!」
ちょっとニヒルな顔になって笑う凰哦さん。
その時、ニュースから聞こえてきたのは…
「山家建設の社長、山家秀元68歳が逮捕されました」
だった。
アハハッと笑う凰哦さん。
打って変わって、何が起きたのか分からない僕達。
僕達3人は、困惑しながらニュースを観続けたのでした。
クリスマスイベントのお話になりました。
タイトルは年越し蕎麦なんですがね…。
ラストの部分の展開は如何でしたか?
では次話を待っていて下さいね。




