願い事 その3
いや〜冷えて来たねぇ〜。
飲みかけのホットココアも、微温さも無くなってしまって、ちょっと冷たくなってます。
体が冷えてはいけないと、屋上から個室に戻って来た僕達。
如何しても聞かなきゃあ〜、あっいけない事があ〜有るのですよ〜!
ちょっとふざけて歌舞伎口調で言ってみました…。
その聞きたい事を聞くには、長くなりそうだったし、キューも寒さでウトウトヘロヘロになってたからね…。
部屋に戻ると、やっぱり暖かいや。
思いの外、結構体が冷えてたんだね…。
ぬくぬくで休まるね〜!ホッとするよ…。
ホッとしたからなのか、部屋に着くなりベッドに入って爆睡するキュー。
「凰哦パパ…」
「おっ?何だ?俺の夢でも見てくれてるのか〜!」
と、嬉しそうにするのだけれど
「パパのご飯…不味いの…」
と、寝言でディスるキュー。
「アガッ………」
まさか愛しのキューに、今迄とは違う意味で、心撃ち抜かれる凰哦さん。
目を大きく見開き、開いた口が塞がらないまま、固まって動かなくなってます。
「凰君、如何したんだ!?」
「ちょっと凰さん、大丈夫!?」
心配して声を掛ける2人に、僕は
「あっ大丈夫ですから〜、そっとしてあげましょ〜!…まぁ当分は立ち直れないだろうけどね…。フヘヘヘッオモロ!」
「また蓮君は!…でもそうだね、しばらくこのままにしておくかね…」
「取り敢えず、椅子に座らせましょう。こんな一面も有ったのね…」
「だから飽きないでしょ?僕、凰哦さんのこう言う所、大好き何だよね〜!エヘヘェ〜」
そんな感じで、和やかになったのだけれど、ただ1人置いてけぼりの隆志さん。
「あっ、ごめん!僕達のコントみたいなやり取りで、困惑して無い?」
「…ちょっとだけ…」
「本当ごめんね〜!でも大体何時もこんな感じなんだ〜」
「そ、そうなのか?…何てギャップの有る家族何だ…」
「嬉しいじゃないっすか〜、そんな褒めなくても〜ね〜」
「いや、褒めてないから…」
「だね!…バカな事は此処迄にして、隆志さん、開いてる椅子に座ってよ」
「あっうん…」
「それじゃ僕ちょっと、皆んなの飲み物買って来るね」
そう言って部屋を出ようとしたら
「ダメダメ!貴方は此処に居なくちゃ!そんな事は、私がするからね?少しでも休んでて、お願い」
と美砂お婆ちゃんが、売店に買いに行くのでした。
「あ〜、気を遣わせちゃったなぁ…。後でちゃんとお礼しておこっと」
「そんな事しなくても、あいつも分かってるから、ただ笑顔で居てくれれば良いんだよ、蓮君…」
「…うん、そうするよ」
このやり取りを見ていた隆志が
「蓮輝君、君は強いね…。さっき聞いた過去、僕だったら今の君みたいには、出来そうにも無いよ…」
「今度こそ、褒めてくれてありがとう!でもね、こうなれたのはね、そこでポンコツ化してる凰哦さんのおかげだし、人を大切だと思える様になったのは、爆睡してるキューだし、血は繋がって無いけど、本当の家族だと思える様になったのは、正樹お爺ちゃんと美砂お婆ちゃんのおかげなんだ〜。だから本当の僕は、そんなに強くは無いよ?」
「それでもやっぱり僕は、蓮輝君は強い人だと感じるよ」
「そんなぁ〜、照れる〜」
「フハハッ…蓮輝君って、やっぱり強いよ。嫌な思いをしたり、他人嫌いだって言うけれど、そうやって笑いに出来る力が有るよね、それは凄い力だよ。だから惹かれたのかな…」
思わずポロッと、本音が漏れた事に気が付かない蓮輝と隆志。
だが、キューによって生きた屍となっていた凰哦が、何故かそれを聞き逃さなかったのだ。
「惹かれただと!?それは如何いう事だ?」
まるで威嚇するかの如く、目の奥から光を発する凰哦。
それに怯える隆志。
ガルルルル…
そう聞こえそうな感じだよね?この凰哦ワンコさんは…。
ったく、せっかく友達になれそうなのに、ブチ壊す気ですか?
スマホにキューのドアップ写真を表示して、それを手の平に乗せ、そっと凰哦ワンコさんの前に出し
「はい、お手!」
「ワンッ!」
「グッボーイグッボーイ!良く出来たね〜!偉いよ〜」
「ワンッ!」
「ってバカ!何でそんな怖い顔して、人を怯えさせるのさ!」
今回、一手間入れました。
そうしないと、怒りたいの僕なのに、逆に怒られそうだからね〜。
「…わ、悪かったよ…だがな!人前で犬扱いするんじゃ無い!恥かいたじゃ無いか…」
「それはごめん!でも、いきなり怯えさせた罰だからね!」
「…はい…」
「ったく…キューに不味いって言われて、落ち込んだと思えば、これだもの…。凰哦さんも料理の腕上げて、キューに美味しいと言わせたいでしょ?今度料理教えてあげるから、今日は大人しくしててよ?良い?」
「それ約束だぞ!それなら大人しくしてるよ」
「はいはい…本当ごめんね〜、これも何時もの日常なんだよね〜」
「ハハ…ハハハ…」
ただ笑うしか出来ない隆志。
正樹は、既に慣れてしまい、このやり取りを楽しみにしているのだ。
それは美砂も同じだった。
「改めて紹介するね、こちら宮津隆志さん。そしてこっちが迷惑掛けた叔父の凰哦さん。で、こちらが正樹お爺ちゃんで…」
「お待たせ〜、飲み物適当に買って来たわ」
「丁度良いタイミングで来た、この方がね、美砂お婆ちゃんです」
「?…美砂です」
「美砂お婆ちゃん、こちら宮津隆志さん」
「宮津隆志です、如何ぞ宜しくお願いします」
「まぁ丁寧に、此方こそ宜しくお願いしますね」
てな感じで、紹介は完了です。
其々に、買って来た飲み物を手に取り、聞き取り調査開始!
「さて隆志さん、貴方…カッパのキューがお見えになると仰いましたが…はぁて…それは一体…如何いう事…何でしょうか?ねぇ…」
パチコーン!
ジュースの缶で、凰哦さんに殴られました!
「いっつつ…」
「お前こそ、何ふざけてんだ!?何だそれ?2流か3流の刑事か探偵のマネしてないで、ちゃんと聞きなさい!」
「…はい…でね?本当に見えてるの?」
「切り替え早っ!…あっうん…見えてるよ…」
「えっ!それじゃまさか、隆志さんも何か病気とかしてるの…?」
「いや全く…子供の頃から、見えてたよ」
「あっ、そっちの方…そっか、それなら良かった」
「えっ?それ如何いう事?…」
「あっ何でも無いよ!気にしないでね〜…」
“?”となりながら
「…まぁそのおかげで、僕も変わり者として、蓮輝君程の事は無かったけど、虐められてたんだ…」
隆志も衝撃事実を話し、驚く蓮輝達。
「ええっ!それマジなの!?」
蓮輝が驚いた顔で聞くと
「本当だよ…」
「そんな過去、良く教えようと思ったよね…。聞いても大丈夫なの?」
「僕の前に、僕以上のブチ込んだ君が言う?」
「だね〜」
此処で“ドッ”と、全員が笑うのだった。
「でも本当に良いの?」
僕が確かめると
「ああ、勿論良いさ」
「それじゃ悪いけど、聞かせてくれる?」
「そのつもり…。でもそうだね…僕の幼い頃からになっても良いかな?」
「僕達は大丈夫!」
「それじゃ…僕が幼い頃、何故か他人には見えないモノが見えて、今でも続いてるんだけど、その事周りの人に言ったらさ、気持ち悪いとか、そうやって人の気を引こうとしてるとか、色々言われたんだよ…。それが何時迄経っても続いてさ、中学迄の僕を知ってる奴が居ないと思って、わざわざ遠い高校を選んでも何故か僕を知る奴が居て、結局高校でもバカにされたよ…。だから僕も蓮輝君と同じ、人を好きになる事は無かったんだ…」
まだ隆志さんの話は続くと思って、僕らは静かに隆志さんの話を聞く…。
「子供の頃から憧れてた消防士になりたくて、頑張って大学出て、消防士の試験を受けたんだけど、見事落ちちゃったよ…」
「えっ?何で?」
僕が聞くと
「見ての通りガタイは貧弱だし目も悪いしね、こんなひ弱な奴は、余程の事が無い限り受からないよ…。でも、少しでも携わりたくて、何とか消防関係の仕事には就職出来たよ。だけどやっぱり今でも夢は諦められなくて、トレーニングとか頑張って、再度試験受けたんだけど結果は同じ…。やっぱり僕には向いて無いのかと落ち込んでた日が続いたある日、仕事帰りに立ち寄ったオープンカフェで、蓮輝君、君を見たんだ」
「あっ、それって告白されたあのカフェ?」
「そう…」
「僕あのカフェ、タバコを吹かせながらボーッと出来るから、お気に入りなんだよね」
「そうなんだ」
「って事は、前に言ってた4年前に、僕を見付けたんだ…」
「ううん、違う。その1年前の約5年前」
「えっ!?更に1年前なの?…」
「うんそう…。最初の頃は、綺麗な女の人だと思ってたんだ…」
「隆志さんも、そうだったんだ…」
「あっごめん!」
「良いよ別に、何時もの事だから、気にして無いよ」
「そう?ありがとう。でさ、僕もあの店を仕事で嫌な思いした時とか、ちょくちょく利用してたらさ、蓮輝君を度々、偶然見かける様になって、見てるだけで少し癒される気がして、すっかり常連客になってたよ。そのうちキツい事とかあった時、つい癒されたくて、君を一目見たさにお店に行ってたんだ」
「うんうん、それで?まだ続きは有るんでしょ?」
「うん有る…。何度も君を見てたらさ、タバコを吸う時、何故か物悲しそうな表情をしたと思ったら、隣の席の子供が泣いてたら、必ずスケッチブックに絵を描いて、簡単な絵本を読み聞かせて泣き止ませたり、店の前の横断歩道で、渡り切れないお婆ちゃんとかをさ、荷物を持ってあげたりしながら、安全に一緒に渡ってあげてるの見て、何て素敵な人なんだろうって、胸の中が暖かくなってたんだ。だけど、やっぱりタバコを吸う時は、物悲しい顔になるのを見たら、堪らなく切なくなってて、何とかしてあげたいって感じた時、あっこれ…僕は初めて人を好きになったんだって、思ったのが4年前。その後、ナンパされてる君を見て、止めに行こうとしたら、“僕男だよ?”って胸を見せたりして、初めて男の人だと知ったよ…」
「あはっ…面倒い奴らの撃退法を見たんだ…」
「そうみたいだね、その時正直ショック受けたよ…。僕は勘違いして男を好きになったのかって…。だから初恋は叶わないモノだと諦める事にしたんだけれど、何故かちょくちょく店に行ってしまって、4年後のあの日、君がナンパされてるの見たら、これ以上誰からもナンパされて欲しく無いって、衝動的に告白してました…。しかも、いきなり結婚を申し込むという、バカをしてしまいました…」
「ふ〜ん…なる程ねぇ〜、そうだったんだぁ〜。…だそうだよ?凰哦さん」
「ああ、良く分かった…」
「えっ!?それで終わり!?」
「?…えっ?うん、そうだけど…。如何したの?」
「……いや、反応薄いと言うか…軽いと言うか…。気持ち悪いとか、その他の事は思わないの?」
「ううん別に…これと言って、特に何も無いよ?えっ?如何して?」
「いやだって、告白した時…君が…言っただろ?…気持ち悪い変態って…」
「言いました!本当にごめんなさい!!」
猛スピードで、頭を下げる僕。
「いや、それは本当に良いんだ…僕もそう言うかもしれないからね…」
「それなら良かった〜、でも本当にごめんね…。あの時は、そう言っておけば、次言われる事無いだろうと思って、簡単に言ってしまった言葉何だ…。だから、今は言わない言葉でも有るよ…。とても汚くて酷い言葉だもんね…」
「そう、そうだよね、傷付ける言葉は、どれも汚くて酷い言葉だよね…。僕も気を付けなくっちゃ…」
「そうだな、特に蓮輝は肝に銘じておかなきゃな!」
何故か便乗する凰哦さん。
お叱りの方向へと向かってません?
気のせい?
「は〜い分かったよ…」
「本当にだぞ!?」
「分かったって!…で隆志さん、話は変わるけど」
「んん!?…フッ…君は、本当コロコロ切り替え早いね…で何の話に変わるのかな?」
「隆志さんの仕事、聞いても良かったら何だけど、聞いても大丈夫かな?」
「えっ?仕事?」
「うん、仕事!僕は売れない絵本作家、隆志さんは?」
「絵本作家だったんだ、だから子供をあやす時に、即席絵本を見せてたんだね、納得。あ、僕は緊急時のオペレーターだよ」
「緊急時のオペレーター?」
「ああオペレーター、救急車とか消防車の電話受付のやつだよ」
「あれっ…もしかして…ちょっと聞きたいんだけど…」
「今度は何?」
「いや…僕が隆志さんを振った日の事なんだけど…」
「あの日ね…あれ以上に、まだ何か有るの?」
「うん、気になってた事有りまして〜、あの日の仕事の最中にさ、酔っ払いのイタズラ電話の対応…何てしてないよね?」
「あの日の事は全て覚えてるよ…。何せ、心底ダメージ受けたからね…」
「あぅ…ごめんなさい…」
「あ、ごめん!そんなつもりは無いから!…うん、確かに有ったよ」
「ありゃ…」
「確か…無事帰宅したとか、酔うと誰彼構わず電話するとか…。それが如何したの?」
それを聞いた僕と凰哦さんは、顔を見合わせ、2人揃って頭を下げた。
「重ねてごめんなさい!」
「本当に申し訳ない!」
これ以上ない程に、深々と頭を下げる僕と凰哦さん。
それに困惑する隆志さんと、青柳夫婦。
「如何したんだい凰君に蓮君」
「えぇ2人して、突然頭を下げて…」
「僕…謝られる事、何か有りましたっけ?…」
と、其々口にする。
「それが有るんです〜〜」
「誠に申し訳ない!」
更に謝る2人。
「えっ?本当に何に謝ってるんです!?」
「…その電話…僕達なんです…」
「はあぁっ!?…あの電話…それ、本当に…?」
「うん本当…」
「エエエエェーー!?」
「隆志さんの声、告白の時以外にね、何か聞き覚えが有るよなぁ〜って思ってたらさ、消防士になりたいって、でもなれなかったから、携わる仕事に就いたって言ってたから、まさかぁ〜、でも一応聞くだけ聞いてみようかな?って…聞いてみました…。そしたらビンゴ!!だったから、僕達、今メッチャ驚いてるし、懺悔の気持ちでいっぱいです…」
「まさか、こんな偶然が重なるなんて…本当に申し訳ない!」
此処にきて、更なる新事実発覚で、変な空気が漂って来ましたよ…。
「あぁ〜そうだったんだぁ…。あの電話、蓮輝君達だったんだ…」
「重ね重ね、ごめんなさい!」
「あっ良いよ!大丈夫だから!本当に!」
「えっ?…何で…?」
「確かにあの電話の後、またこの手のイタズラか!って思ったんだけどさ、何故かあの電話以降、あの日緊急通報の電話が鳴らなかったんだ。とても不思議な事だったから、イタズラ電話がもたらしたのかな?って、そう思えたからね」
「それ本当?」
「ああ本当!関係者以外には教えたり、見せたり出来ないけど、ちゃんと記録されてるから、嘘じゃないから安心してくれて良いよ」
「そうなの?…あぁ良かった〜、でも迷惑掛けたのは、紛れも無い事実だから、それだけはキチンと謝らせて?」
「そこ迄言うのなら…」
「「済いませんでした」」
「はい!」
「あ〜やっとスッキリしたぁ〜!」
「だな!」
凰哦さんも、安心した顔をしていた。
「それは僕としても良かったよ」
「ありがとうね、隆志さん!もっと前に、こんなに良い人だと知ってたら、もっと早く仲良くなれたのにね〜、残念…。それにもっと沢山、隆志さんの事知りたいなぁ〜」
その言葉を聞いた隆志は赤面して無言になるが、それとは打って変わって、悲痛な思いを出さない様に、無言になる凰哦達だった。
「でね、此処からは僕の我儘なんだけど、皆んな聞いてくれるかな?」
「何をだ?」
そう聞き返す凰哦。
「出来れば隆志さん、貴方にも聞いて欲しいんだけど…」
「えっ僕にも?僕は良いけど、一体何を?」
「それはね、春が訪れた時にしたい事何だ〜」
「「「「春?」」」」
「うん春!その時にしたい事を皆んなにお願いしたいのと、後は相談ってとこ」
そうほんの少しだけ、何かを匂わせながら、僕は如何話せば良いのかを考えていた。
何故なら、僕の…最後の願い事になりそうだから…。
さて今回で、隆志が蓮輝を好きになった経緯がメインで書きましたが、如何だったでしょうか?
此処数話、暗い話になりましたが、次話は明るい話になれば良いのですが、如何なるのでしょうね…。
では次話をお待ち下さいね。




