願い事
緊急入院した僕は、昏睡状態から目覚めてから、僕を心配する皆んなに、これ以上心に負担を掛けたくなくてね、その時にある約束を交わしたんだよね。
その約束とは、何時尽きるか分からない、残りの人生を楽しく過ごすって、そんな約束。
その皆んなとの約束を守る為に、楽しく過ごそうと思って、病院のベッドの上で、点滴を打ちながら、あれこれ考えてます。
「……暇だ……。こ〜もする事無いと…な〜んにも思い付かないや…。入院してから3週間…そういえば、僕この個室から1度も出てないよね?…後で、病院内を探索しても良いか、看護師さんに聞いてみよ〜っと」
ポタッポタッポタッ…
………遅い…。
これが終わったら何をしようかな?とか、そう思った時ってさ、何で時間が経つのが遅いんだろう…。
よし!点滴の袋をギュッとして、スピードアップしてやろう〜!そうしよう♪
そう思って、点滴の袋をギュッとしようと手にした時…
「調子は如何ですか〜?」
と、看護師さんが部屋に入って来ました…。
「あっ…」
「えっ?…」
何でこんな時に限って、タイミング良く?悪く?まぁ何方にしろ見付かるんだろうね?不思議不思議。
「…ちょっと蓮輝さん!何をしようとしてるんですか!!」
僕がしようとした事を理解した、看護師さんがそう聞くので、素直に
「えっと…点滴余りに遅いから…スピードアップしてやろうと…思いまして…ダメ?…だった?かな…」
「ダメに決まってるでしょ!病院で取り扱ってる薬品は、少しでも間違った処方をしてしまうと、とても危険なんですよ!?」
と、エッライ剣幕でお叱り頂きました!
アザーっす!済いません!ごめんなさい!
「ごめんなさい…もぅしません…」
「しませんって、当たり前です!貴方もいい歳した大人でしょう!?…本当にもう!…今後絶対やらないで下さいね!」
「はい…」
今度隙をみて、また挑戦してみ…
「絶対ですからね!!」
「はい!!」
うっわ、凰哦さんばりの読心術ですわ…。
これは素直に言う事聞いておこう…。
「それで宜しいんです!…ったく、今度隙をみてとか、ブツブツ言うのだから…それと読心術じゃ無いですからね!」
あうぅ…僕の癖が出ただけだったのね…。
もぅ悪い事はしません!しっかり反省します!
そうしないと、また僕の癖出ちゃいそうだもんね〜。
「…ちょっと聞きますけど、何故そんなバカな事をしようと思ったのです?」
「あのですね〜、僕ずっとこの部屋から出てなかった事に、先程気づいちゃいましてね、それでこの点滴が終わったら、院内を探索しようかなぁ〜?みたいな感じで…。あっ一応、ちゃんと確認してからするつもりだったよ?そこは本当!」
僕の話を聞いた、看護師さんは
「ふぅ〜〜っ……」
と、おでこに手を当て、大きなため息を付くのです。
ありゃぁ、僕またお叱り頂くのでしょうか?
「確かに蓮輝さんは、この部屋を1度も出てなかったから、出たい気持ちは分かります。それなら、ちゃんと先に相談してくれたら、先生に確認取って、点滴の時間とか変更出来たのに…」
「えっ?そうなの?…あのため息、またお叱りなのかと思っちゃった…ハハハ…」
「私はそこ迄鬼じゃ有りません!私、とても優しいのよ?」
「あっそれ、自分で言うんだぁ〜。そんな人、初めて見たかも〜」
「…蓮輝さん?…貴方、怒らせるの上手でしょ?…良いわ、それがお望みなら貴方だけ、鬼の看護師さんとして、接して上げますからね!」
と額に、米米さんがクラブを開くかの様に、沢山出て来ました!
「ごめんなさい!許して下さい!優しい看護師のお姉さん」
「まぁ今回は、大目に見てあげましょう…。でも!今後は無いですからね!?良い!?」
「…はい…」
「それじゃ、丁度点滴も終わったみたいだし、ちょっと待ってて、先生に確認して来るから…」
「えっ?本当!?ありがとう!それじゃお願いしま〜す」
「はいは〜い…じゃ直ぐ戻るから待っててね」
「は〜い!」
そう言って、パタパタとナースステーションに戻って行く。
しばらく…っていっても、約30分程してから(結構長いよね?)戻って来た看護師さん。
「お待たせ、遅くなってごめんね〜!他の患者さんが、急に具合悪くなって、対応してたの…本当ごめんね…」
「大丈夫だよ、気にしないで〜。僕は平気だから〜」
「そぉ?それなら良かった!それじゃ先生に聞いて来たの伝えるわね」
「うん、ありがとう。で、如何だった?」
「今は安定してるから、院内から出ないのなら、気晴らしするのも良いだろうって、OKがでたわよ〜!良かったわね!」
「本当に!?やったー!嬉しいなぁ〜!」
「それじゃ行きましょうか?」
「えっ、看護師さんも一緒に来るの?」
「そりゃそうよ、もし貴方に何か有ったら困まるもの。しばらくは、付き添う事になるから宜しくね」
「…1人でも良いのに…。でも今は、それでも良いかぁ〜。それじゃ宜しくね、看護師さん!」
「さっきから、私の事看護師さんって呼んでるけど、名前覚えてくれて無いの?」
「ごめん…でもだって…看護師さん沢山居るし、直ぐ担当変わるから、覚えられないんだよね…」
「そっかぁ…そうだよね…。でも私だけは覚えて頂戴!これからしばらくは、私が付き添って一緒に院内探索するのだから」
「だね、それじゃ改めて、名前教えてくれる?」
「ええ…私は仲上と言います。覚え易い名前でしょ?」
「仲上さんね。…よし、覚えたよ〜」
「良かった、覚えてくれてありがとうね。それじゃ早速探索に行く?」
「勿論!」
「それじゃちょっと待っててね、車椅子取って来るから」
「あっ、それは止めて!ちゃんと歩きたいから…」
「でも、何かあったら困るし…」
「ムリそうって感じたら、直ぐ仲上さんに言って部屋に戻るから、歩かせてお願い!」
「その条件なら妥協しますか…。それじゃ行きましょう〜!ムリだな?と感じたら、直ぐ言ってね」
「了解!」
財布を手にして、仲上さんと院内探索開始!です。
ヘェ〜、此処の作りってこうなってるんだぁ〜。
此処がナースステーションで、あそこに共同トイレと、向こうに在るのは、お風呂なんだね。
久々に少し多く歩くと楽しいけれど、やっぱりちょっと動きがギコチない気がするね。
でも未だ辛くは無いから、売店とかに行きたいなぁ…。
「ねぇ仲上さん、この病院には売店とか飲食店とか在るの?在るのなら、休憩がてらにお茶して、売店でノートとか買いたいんだよね。ダメかな?」
「この病院に、売店も食堂も在るわよ。でもいっぺんにすると、後が辛くなったりするわよ?またにしたら?」
「うん、だから休憩挟んで、休み休みでしようかなって思ったんだ〜。それでもダメかな?」
「……食堂で、お茶して休憩迄なら良いけれど、やはり今日は、売店迄は止めておきましょう…。実は結構距離が有るのよねぇ売店迄…。それか、売店だけにして、途中のベンチで休みながらにする?」
「僕としては、両方を強く望みます!」
「もう!それでもやっぱり止めておきましょう…。両方は、明日の楽しみに取っておいてくれない?」
「……分かったよ、仲上さんの言う事聞くよ…残念だけどね〜。それじゃ、明日何買うか決めておこ〜っと!何買おうかなぁ〜?」
「ウフフッ、切り替え早いのね?羨ましいわ〜」
「そぉ?でもそれ、良く言われる。切り替え早い方が、ムダな労力使わないで済むからねぇ」
「アハハッそうよね!それじゃもう直ぐ食堂だから、もうちょっと頑張ってね」
「そうなの?話してたらあっという間だったね!」
部屋から出てそこそこ長い廊下を歩き、エレベーターに乗って1Fに降りて、目の前に見える食堂迄、およそ10分ちょっと。
入院する前ならこの距離は、5分も掛からなかったのに、久々に歩くと、やっぱり少し衰えてるんだなぁ〜と、感じたよ。
でも、そんな自分の変化に驚き気付く事が出来て、ちょっと面白いよね?人の体って、そう不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
結構僕って、今はポジティブな感じだけどさ、10代の時はとても荒れていて、凰哦さんを困らせていたんだよね…。
悪い事したよね…。
ちゃんと孝行してないのに、こんな病気になっちゃったから、今のうちに少しでも孝行出来たら良いんだけれど…。
うん、出来る様に頑張ろっとねぇ!
仲上さんと到着した食堂に入ると、ちょっと驚きました。
正直、病院の飲食系のイメージってさ、狭く暗く重い気がしてたんだよね〜。
でも此処は広くて綺麗だし、座席数も多く有って、何処かの洒落たお店って感じなんだよね。
「へぇ〜、思ってたのと違う…。もっと暗いイメージしてたんだけどね…」
「あらそうなの?以前は確かにそんな感じの所も在ったんだけどね、今はバリアフリーとか、見た目にも華やかな感じになってる所が多いわよ」
「そうなんだ〜、それに結構お客さん居るよね。患者さんやお見舞いの人も、これなら明るく話せるよね〜。その方が気持ちも良いからね」
「そうよねぇ!蓮輝さん良い事言うじゃない!人を怒らせるだけじゃ無かったのね〜」
チクチクチクーッ!
未だ根に持ってますなぁ…仲上さんの言葉の針、痛いのですが…。
そろそろ許して頂けないでしょうかね…。
「人を怒らせない様に、気を付けます…。って事でぇ〜!な〜に注文しようっかなぁ〜。あ〜この時期だけれど、アイスコーヒー久々に飲みたいよね〜!ガムシロップた〜ぷり入れて〜ミルクも入れて〜!あっこのケーキ美味しそ〜う!食べよっかな?」
「貴方って人は…反省続かないのね…。それに切り替えの速さも速すぎて、追いつかないわ…」
「エヘッ!そんなに褒められても〜」
「……まぁ良いわ…楽しんでるのなら、それに越した事はないのだからね」
「ですよ………ねぇ〜!てな訳で、済いませーん!アイスコーヒーとこのケーキを下さ〜い!あっ、ガムシロップタップリ下さいね〜、後ミルクも〜」
「フフフッ子供みたいな人ね〜」
「それ初めて言われた…で、仲上さんは何を注文する?」
「私は要らないわ、患者さんと一緒に食べたり、患者さんから何かを頂いたりしてはいけないのよ、気持ちだけ貰っておくわね、ありがとう」
「ええぇ〜っ!そうなの?それじゃ僕だけじゃ、気が引けるしつまんないよ!……じゃあさ!テイクアウトして、コッソリ食べようよ?ねぇお願い!じゃなきゃ、今後も此処のケーキとか、食べる事出来ないよ〜。だから今回だけでも良いでしょ?」
「…もぉ…そんな事言われたら、断れないじゃない…。分かったわ、でも本当に今回だけよ?それと、私太り易いから、アイスティーだけで良いわ」
「本当!?良かった!それじゃアイスティーも追加で!あっガムシロップとかは?」
「私は要らないわ」
「そうなの?店員さん、だそうです!後テイクアウトでお願いします」
「はい分かりました、直ぐご用意しますからお待ち下さい」
「はいは〜い!」
少々待って
「お待たせしました、合計1,500円になります」
「此処、カードいけますか?」
「カード払いですね、はい…ではカードをお挿し下さい…はい支払い完了しました〜。ありがとうございます」
「いえいえ〜ん、また来ま〜す!」
「それじゃ、部屋に戻る?それとも屋上に行ってみる?」
「出来れば屋上で!」
「屋上ね分かったわ、それじゃ一応念の為に、車椅子持ってくるわね?荷物置きにもなるから、別に良いでしょ?」
「うん、良いよ!お願いね〜」
「ちょっと待ってて、直ぐ持って来るから」
「了解、それじゃ店の前で待ってるね〜」
「はいは〜い、じゃあ行って来るね」
そう言って、足早に車椅子を取りに行く仲上さん。
店の前で、仲上さんを待ってた時、目の前を見覚えの有る人物が通り過ぎようとしてた。
僕も、その人も目が合って
「あっ」
「えっ!?」
と、固まる。
その人物とは、あのストーカー(仮)さんだったのでした。
「ストーカーさん…」
「えっ?」
思わず小声で言った僕の言葉に、聞き取れなかったストーカー(仮)さんが、反応した。
「ううぅん、なな、何でも無いです!」
「そうですか…」
かなり気不味い2人。
「……以前は失礼しました…それでは……」
と、何も無かったかの様に、その場を離れようとするストーカー(仮)さんに、僕は思わず
「あっ!ちょっと、ちょっと待って!」
と、呼び止めてしまいました。
「……あの?僕に何か?……」
「あっいえ……」
「用が無いのなら、失礼します…」
「あっ待って!」
「…本当に何でしょうか!?…僕に何かご用でも?」
「…あの時、僕が貴方に対して取った行為を謝りたくて…」
「!?……それは如何言う…いえ、謝る必要は無いですよ…。もう終わった事ですから…それでは…」
「ああっ本当待って!下さい!…お願いします!」
僕の必死さを理解してくれたストーカー(仮)さんは、立ち止まって
「本当に良いのに…。でもそこ迄言うのでしたら、少しならお話ししましょうか…。ただ、僕も今からお見舞いに行くので、余り時間は無いですが…」
「ごめんなさい、忙しいのに…。ありがとうございます。…出来ればちゃんと2人っきりで、話をしたいから、僕の我儘ですが、そのお見舞いの後か、貴方の時間に余裕が有る時に、お話し出来れば嬉しいのですけど…ダメでしょうか?」
「…それでしたら、明日の今の時間なら、仕事も休みなので、構いませんが…」
「えっ?本当に!?」
「えぇ、大丈夫ですよ…」
「良かった〜、嬉しい〜!」
僕が安堵して笑った顔を見た彼は、少し赤くなってたけど、それに気付かない僕。
その時
「お待たせ〜蓮輝さん。…あら知り合いの方?」
と仲上さんが、車椅子を持って来た。
「えっ?もしかして、入院してるのですか…?」
「えっ?あっそうそう、僕今この病院に入院してるんですよね〜。エヘヘェ〜」
「えぇっ!?本当に入院してるのですか!?誰かのお見舞いじゃ無く!?」
「だからそうですって〜、ほら見たら患者さんのガウン着てるでしょ?」
「!!」
それ迄気付かなかった、蓮輝が羽織るガウンを見て、ウソでは無いと知るストーカー(仮)さん。
「エヘヘ〜、僕患者さんなんですよね〜」
「そんな笑い事じゃ無いですよ!いったいどんな病気で入院されて…」
「その事については、プライベートな事なので、お答え出来かねます。如何やら顔見知りって感じですから、ご理解頂けますか?」
そう仲上さんが言うと
「…確かにそうですね…」
と、申し訳なさそうに言うストーカー(仮)さんに
「それなら今日、今この時点で顔見知りから、知人になれば良いんだよね?」
僕はそう提案したら
「それはそうだけど…」
「なら、貴方が良ければ、僕と知人になってくれると嬉しいのだけど…。ダメですかね?」
蓮輝の問いに
「…それは僕のセリフですよ。僕は構いません」
「やった〜!嬉しいなぁ〜。…あっそう言えば、お名前知らなかったですよね?僕は河橋蓮輝って言います」
「河橋蓮輝さんですね、僕は宮津隆志です」
「宮津隆志さんだね、それじゃ隆志さん、これから宜しくお願いしますね〜!」
いきなり名前呼びに、顔を真っ赤にして、ドキマキしてしまう、宮津隆志。
「あああ、明日…またこの時間に来ますから、きょ、今日はこの辺で失礼します…」
「あっはい!明日お願いしますね!明日も此方で待ってますから〜」
「はい、そそそ、それでは…」
そう言って、この場を離れて行く隆志だった。
「…ねぇ、2人はどんな関係なの?」
そう聞いてくる仲上さんに
「聞きたい?」
「えぇ聞きたいわ、ちょっと興味が出てきちゃったから…。本当は患者さんの情報とか、聞いちゃダメなんだけどね〜」
フフフッと笑いながら仲上さんが言う。
「まぁ僕は気にしないから、教えても良いんだけどね。隆志さんのプライベートな事でも有るからねぇ、内緒にしておくよ」
「そうよね、とても残念だけど、聞くのは止めとくわ。それじゃ、早く屋上に行きましょうか?」
「そうだね、今直ぐ屋上に行こう!久々の外の空気吸うの、メッチャ楽しみ〜!」
「アハハッ!思う存分楽しんでね!」
「うん!」
そう言って僕達は、屋上に向かうのでした。
明日は晴れるかな?
晴れたなら、屋上で隆志さんと、テイクアウトしたドリンク片手に、色々話出来たら良いなぁ〜。
そう思って僕は、着いたばかりの屋上から、見える街並みを眺めていた。
今話で、第1話にちょっとだけ出て来た、ストーカー(仮)さんが、再登場しました。
僕の小説を読んで下さる方達には、コイツ誰?と、思われてるかも知れません。
ですから念の為、その方の為に、誰だったのかを説明しておきますね〜。
蓮輝が何故、この方に謝りたかったのかとか、次話にて語られると思います。
では次話をお待ち下さい。