家族の関係
朝から雨が降っている。
正直、夜中だけに降って欲しい。
朝から雨って、何だか憂鬱になるよね〜。
凰哦さんは、青柳さんの事で、部下に絶品天ざる蕎麦をご馳走してから、社長不在の方が何かと都合が良いだろうと、出社はしなく、ずっとこの1週間家にいたのだった。
ハイハイハイっ!ちょっとお聞きします!
何故、社長不在の方が都合が良いのでしょう?
ただキューと一緒に、だらけていたいって、だけだったんじゃないの?
僕としては、そんな疑問しか浮かんで来ません!
さぁて、この憂鬱がてらに、尋ねてみよう…
「ねぇ凰哦さん、何で社長不在の方がさ、都合が良い訳?」
「…ん?何だ、そんな事か…」
「そんな事かって、どんな事よ?ただキューと一緒に、ダラダラしたかったんじゃないよね?」
「確かにそれも有るがなぁ…情報操作する為に…ってお前!そんな事思ってたのか!?失礼だな!」
「あっごめん…で、その情報?操作?…如何いう事なの?」
「あぁ、余り詳しく言えないが、大手の会社の情報ってのはな、案外ライバル社とかに、知れ渡ってるモンなんだよ…」
「えっ?それってスパイとか!?」
「まぁ確かにスパイは居るよ!?…だけどな、俺の社員だぞ?俺が目を光らせてる事も有るが、信用のおけない者は、1人も採用してないから、我が社には、他社から来たスパイ何かは、誰1人として居ないよ…」
「それなら良いけど…でも何でツーツーなの?内情知られたら不味いんじゃ無いの!?」
「マジでヤバいのは、即潰してるから大丈夫なんだが、今回はワザと流してるんだ」
「えっ?ワザと!?」
「ああワザと!」
「何でまた…」
「俺が長期休暇を取る事が、先ず珍しい事だっただろ?」
「うん…」
「それ!それをワザと情報として流せば、俺に何かあったのかとか、会社がヤバい状況に陥ってるのかとか、色々探り入れてくるだろ?」
「あっなる程ね!そうやって、探りを入れてきた時に、適当に話合わせて、警戒心が薄れたところで、相手さんの情報を上手く頂くって寸法なんだね!」
「そうだ!正にその通りだよ!」
「やっぱり凰哦さんは、凄いね〜!キレキレ頭脳だね!」
「一応、家でも部下からの連絡で、分かった情報を整理したり、指示を出したりしてるんだぞ?」
「そうだったんだ!知らなかったよ…。僕に気付かれないって、余程隠すのが上手いんだね!こりゃ相手も敵わない筈だよ…」
そう感心した僕でした。
感心しながら外を見ると…
ザーーーー ザーーーー ザーーーー…
まだまだ止みそうにもない雨。
この雨が、そろそろ雪に変わる頃なのだなぁと、思っていたら、ある事に気付く僕。
「ねぇ凰哦さん…」
「如何した?」
「キューの事なんだけどね…」
「キューが何だ?」
「キューって、冬眠するのかな?…」
「……冬眠かぁ…そういやそうだな…。普通の野生の動物は、栄養蓄えて、春迄冬眠するものな…」
「えっ?まさかキューのあの食欲…冬眠の準備だったりして…」
「確かにそれ有り得るな!…だが分からない者同士、話ししてても埒があかない…。直接キューに聞いてみよう!」
「そだね…」
ここ最近、リビングのソファでTVを観る事を覚えたキューが、子供用の番組を観て、一緒に体操をしていた。
崩れ落ちる2人…。
久々のクリティカルヒットです!
キュートなキューよ、ウェルカム!
良いよ!我が家の天使さん!
貴方のその可愛さの為なら、何度でも胸を撃ち抜いてくれても構わない!
もっと撃ち抜いて下さいよ!
取り敢えず2人、無言で携帯のカメラで、動画や写真を撮りまくるのでした。
ハァ〜良い仕事した〜!って違う!
話し聞かないと!
取り敢えず落ち着く為に、呼吸を整える。
ヒッヒッフー…ヒッヒッフー…
はい!皆んなが良くやる間違いの呼吸法!
これ本当に、プチパニックしてたら出てくるよね〜。
はい、それじゃ落ち着いた事だし、聞いてみますか…
「キュー、体操楽しい?」
「うん!楽しい!」
「楽しいんだ、良かった!…でも楽しんでるところ悪いけどね、キューの事、まだ知らない事多くてさ、幾つか聞いても良いかな?」
「良いよ!何蓮輝お兄ちゃん?」
「実はさ、キューって冬は…う〜んと、寒い寒い時に、空から白い冷たい粉が降ってきて、お山が真っ白になる時の事なんだけどね、分かる?」
「うん分かるよ〜!それがどぅしたの?」
「えっとね、その白いのが無くなる迄、キューは如何過ごしてたのかなぁ〜って思ってね、それをキューに聞いてみたんだ」
「えっとね、その時はね、地面にお穴深く掘ってね、沢山のね、葉っぱを掛けて、あったか〜くなる迄、お休み〜してたの〜!」
「そうだったんだ、それじゃこれからやって来る寒い時は、僕達の家で、暖かくなる迄寝ちゃうかもなんだね…」
「多分そう!でもね、此処暖か〜いからね、まだ眠くならないの…不思議〜」
きっと、家の空調がしっかり効いてて、寒さを感じないからなのかも知れないね…。
「…何だって、凰哦さん。…やっぱり、冬眠してたみたいだね」
「その様だな…でもまだ眠くならないって、それはそれで、大丈夫なモノなのか?…変に何時もと違う事して、キューの体に異変が起きないか、ちょっと心配になるぞ…?」
「う〜ん、確かにそうかもだけど、こればっかりは、なってみないと分からないもんね…。それに、今迄の習慣で、温かくても寝ちゃうかも知れないしね…」
「だよな…キューの事、色々分かったつもりでも、やはり違う生き物なんだと思ったよ…。人の言葉を話すから、つい人間の子供とも思ってしまう節も有るしなぁ…本当不思議な存在だよな、キューって…」
「そうだね、本当不思議だよね…。その上さ、キューの変化に気付いてる?」
「ん?何をだ?」
「キューがこの数日のうちに、話し方が変わったの…」
「!あっ!そういえば!…確かに初めのうちから比べて、辿々しい、幼児語が減ってきたよな…」
「でしょ〜?僕も違和感無く話ししてたから、気付いたのさっきなんだもん…。そう思ったらね、キューの学習能力凄いよね!」
「ああ確かに!スプーンやフォークも直ぐに使いこなしていたし、最近じゃ、箸も使える様にもなったからな…」
「それだけじゃないんだよ?文字を教えたくて、文字の練習帳を与えたらさ、あっという間に文字を理解して、何を書いてあるのかも、理解してるみたいなんだよね〜」
「はぁ?そうなのか!?」
「うん、本当にそうなんだよね…。僕達が勝手に、3歳児だと決めつけてたけど、実際は何歳なのかな?カッパとかって、人と違って成長遅かったりするんだったら、結構年齢いってるかも知れないね…」
「有り得るよな…だが、それを知るのは怖いから、今は辞めておこう…」
「だよね…そうしましょ〜」
と、そんな感じでアヤフヤなままにする事に決定です!
「…でさ、1つ提案が有るんだけどね、聞いても良い?」
「今度は何をだ?」
「青柳さんに、キューを見せる事…」
「…!はあっ!?お前何言い出してるんだ!?そんなバカな事出来やしないじゃないか!」
「…うん、そう言うと思ってたから聞いたんだよね…」
「分かってるのなら、何故聞く!?」
「いやだってさ、凰哦さん言ってたじゃない、俺にお父さん出来たって、僕にしたらお爺ちゃんだからってさ…」
「…あぁ、確かに言ったが、だから如何してそんな発想になる?」
「だから、そんな大切な人達に、家族に想える人達にさ、キューの事を知って貰いたいじゃん!…キューの事隠して付き合おうって、そんなの家族でも、大切な人達でも無い気がしたんだよね…だから、凰哦さんに相談したんだ…」
他人嫌いな蓮輝から、大切な人達や家族の言葉と聞いた凰哦は、自分もそうだが、蓮輝も変わりつつ有るのだと思った。
その大切な変化を大事にしないと、過去にあった蓮輝の深い心の傷が、また振り返さないかとも思う凰哦。
だがそれ以上に、キューを大切な家族なんだと言いたいと、そう思ってくれる蓮輝の気持ちが嬉しくて、ポンコツでは無く、ただ父親として抱きしめるのだった。
「お、凰哦さん?」
「…蓮輝…お前のその気持ち、そう思った事が凄く嬉しいよ…。ありがとうな、こんな嬉しさに溢れさせてくれて…」
「ちょっ、ちょっと恥ずかしいよ!…でもそう思ってくれたなら、僕も何か嬉しくなるね…」
蓮輝の背をポンポンと叩いて、抱きしめ終えると、今度は蓮輝の両肩に手を乗せて
「よし分かった!蓮輝の言葉で俺もそうしないといけないな!って思ったぞ。だからこの後話に行こうか!」
と、とても真っ直ぐな目をして、答える凰哦だっだ。
「えっ本当に良いの?」
「ああ!そうしよう!…それに青柳さん夫婦も、きっとキューの事受け入れてくれると思うからな!何せ、俺の父さんで、お前のお爺ちゃんなんだものな!」
「そうだと良いけど、多分凄く驚くだろうね〜」
「それはしょうがない、しっかりお詫びして、2人には許して貰うさ!」
「うん、それじゃお店が休憩の今の時間に、行っちゃう?」
「だな!そうと決まれば、お〜いキュー!お出掛けするぞ〜」
「えっ?お出掛け?やったー!凰哦パパ、お出掛けしよ〜」
と、言われても無いのに、自らリュックに入ってスタンバイOKのキューに、ついつい笑ってしまう僕達だった。
車での移動の最中
「ルンラッララン!ラッタターラタ!タタッターラタ!」
と、楽しそうに歌うキュー。
ん?何か聞き覚え…有る気がするなぁ?…まぁそのうち思い出すでしょ…。
そんな感じで、キューに癒されプチドライブを楽しんで、コインパーキングに車を停め、傘をさして青柳さんのお店に向かうと、休憩の看板をぶら下げに店から出て来た青柳さんに、タイミング良く会えたのでした。
「おや?これは凰哦君!いらっしゃい!それと君は確か…」
「あっ甥の蓮輝って言います」
「蓮輝君か…いやぁ凰哦君といい、君の名前も良い響きの名前だね!」
「それはとても恐縮です…エヘヘヘっ」
嬉しくてつい、笑っちゃった〜。
「それで今日は、2人して如何したんだい?お腹でも減ったのかな?…ただ悪いけど、蕎麦が切れてしまったから、休憩中に蕎麦を仕込もうかとしてた所なんだ…。蕎麦以外なら、何か直ぐ作ってあげるよ、何が良い?」
「あっいえ、2人共お腹は減ってませんので、何も作らなくても大丈夫ですよ!」
そう凰哦さんが答えたら
「そうなのかい?それじゃ如何したのかな?顔を見せに来てくれたのかな?」
「まぁそんな所です…」
「おーーい!母さん!凰哦君と、甥の蓮輝君が来てくれたよー!」
「あらそうなの?直ぐ其方に行きますから、席に案内してくれます?」
「あい、分かったよ!…ってな事で、ささっ!中に入って入って!」
「それじゃ失礼します」
「お邪魔しま〜す」
お店の中で、1番広いテーブルに案内され、青柳夫婦と向かい合う形で、席に座る僕達+キュー。
「こんな雨の中に、わざわざ顔を見せに来なくても良かったのに。…でも来てくれると、とても嬉しいものだね…」
そこに、お茶を運んで来た美砂さんが
「本当にそうね〜!私もこの人から社長さんと親子になったって聞かされた時、何バカな事言ってるの!?って思ったのですけど、いざこう向かい合うと、あつかましいとも思いながら、私も息子がそこに居る気がして、胸が熱くなりますわね…」
「そう思って頂けたら、此方としても大変嬉しく思います」
「いいえ、嬉しいのは此方ですから!それで、此方の…」
「蓮輝です…」
「蓮輝君は、甥っ子さんでしたよね?息子さんじゃ無く…」
「はいそうなんです。実はこの蓮輝も私同様に、両親を幼い時に、事故で亡くしてしまいまして、それから私が育ての親として、ずっと一緒に暮らして来たんです」
それを聞いた旦那さんの正樹さんが
「えっ!?それは本当なのかい!?」
それに対して僕が
「ええ本当ですよ〜!僕は凰哦さんに、育てられました!」
と、良い笑顔で答えたら
「何と…2人して同じ境遇だなんて…」
「2人共…とても辛くて苦労されたんじゃないの?…」
と、悲しそうな顔をして、今にも泣き出しそうになっていたので
「僕は、両親が亡くなった時は辛かったけど、凰哦さんが居てくれましたから、何も不自由もなく、とても楽しくやって来れました!」
「私も、この甥の蓮輝が居てくれましたから、これ迄頑張って来れましたよ」
と、凰哦さんも優しく笑って答えたからか
「本当にその様なんだね…それを聞けて嬉しいね…」
「そうですね、本当そう思いますわ…」
と嬉しそうにしてくれて、僕の胸がギュッときちゃった。
「実はですね、お2人にお話があって、今日は来ました。それとこの時間なら、休憩中だろうと思い、この休憩時間を狙ってやって来ました」
「おや、それは何か大事の様な感じだね…。もしかして、再開発の件かな?」
「いえ、それは今調査中と、ある事の仕込み中でして、もう少しお時間が掛かりそうです…申し訳有りません…」
「いやいや、謝る必要など無いから謝らずに!…何だか急かしてしまった様で、此方こそ申し訳ない…。で、私達に話したい事とは…?」
「以前、身内がご迷惑を掛けたと言った事、覚えてますでしょうか?」
「…あぁ!確かにそんな事、言ってましたなぁ…。それが如何したんです?」
「実は、信じられないでしょうが、私達2人の他に、家族が1人…いや1匹と言いますか、その者がおりまして、今この場に一緒に来ているのですが、その者を紹介したく思い…」
「ああ凰哦さん!まどろっこしい!長い!僕が説明するよ!」
「あ…あぁ済まん…それじゃ宜しく頼むよ…」
「此処からは、僕が説明しますね!お2人は、カッパの存在を信じますか?」
「カッパ!?…いやそんな急に言われても…まぁ信じないかなぁ?」
「私も、昔話で聞いたりはしましたけど、実在するなんて、ねぇ…思えないわね…」
「実はですね、実在するんですよね!」
「えっ?ハハッまたまた年寄りを揶揄って…」
「いえ揶揄ってなど無いですよ?本当に今此処に居ますから!2人には、ちょっとだけピリッとするのを我慢して貰えたなら、カッパの姿をお見せ出来ますけど、見ます?それとも、若造の戯言だと思って、止めます?」
「何と!そこ迄蓮輝君が言うのなら、見せて貰いたいよ!」
「私もそれが本当なら、人生で1度でも不思議体験してみたいわね…」
「それじゃ、お2人了承って事で宜しいですね?」
「ああ良いとも!」
「私もお願いしますね」
「って事だからキュー、この2人にも、お前が見える様にしてくれるかな?」
「うん!良いよ〜!」
「それじゃ僕の手を握れば良いんだったよね?」
「ううん、あの時はね、僕に力が足りなかったから、蓮輝お兄ちゃんに手伝って貰ったけど、今の僕ならねぇ、1人でも出来るよ〜!」
「そうなんだ!それじゃ2人に、凰哦パパにしたみたいに、してあげてね!宜しくね〜」
「は〜い!」
そう言って、リュックから飛び出し、2人の元へと行き、2人の手を握るキュー。
「えい!」
「あだ!」
「ひゃっ!」
キューが力を込めた掛け声の後、正樹さんと美砂さんが、痛みに驚いた声を出す。
「済いません…痛い思いをさせてしまって…。でもこれをしないと、此処に有るカッパのキューが見えないものでして…。少し時間が掛かるかと思いますけど、凰哦さんの胸の辺りをじっと見ていて下さい。段々と見えてきますから!」
そう言って、凰哦さんにキューを抱っこさせる。
言われた通りに、凰哦さんの胸の辺りをじっと見る2人。
そして、キューの姿がハッキリと見えだし
「わあああー!居る!カッパが居る!」
「キャア!…わ、私にもカッパが見えますよ…」
「良かった、2人にもちゃんと見えた様で、ちょっと安心しちゃった〜」
と僕が言うと、凰哦さんが
「もしこのキューを見て、とても不快に思ったのでしたら、何とお詫びをして良いか分かりません…。ですが、出来ましたら、如何してもお2人にキューの事を知って頂きたくて、そして何故知って貰いたかったかを説明させて頂けたなら、とても嬉しいのですが…」
「……ああー、ビックリしたぁー!……えっ?あっごめん凰哦君、驚いてて、ちゃんと話聞いてなかったよ…」
「全く貴方って人は!…ごめんなさいね、遠慮なく説明して頂戴…。私はしっかり聞きたいわ…」
「それじゃ、お言葉に甘えて…実は…」
そして凰哦さんが今迄の経緯を話、今後もずっとお付き合いしたいと想える、大切な人には、キューの事を知って貰いたいという、僕の勝手な想いを話したのでした。
ドキドキしながら2人の反応を待つ僕達。
そこに、突然バンッ!と大きな音をたてて、テーブルを叩く正樹さんに、2人同時にビクついたのですが
「嬉しい!私はとても嬉しくて感動してるよ!」
奥さんの美砂さんも
「私も…あぁ何故か涙が止まらない…嬉しくて嬉しくて…」
とちゃんと理解して、そして泣きながら喜んでくれていた。
「これで本当に私達は、親子で家族になったんだね…ああ、こんな嬉しい事は、息子が産まれた時以外、無かったよ…」
「それを運んで来てくれたのは、きっとこのキューちゃんなのね…ありがとうねキューちゃん!」
本当に喜んでくれてるのが伝わってきて、僕達も凄く嬉しいし、それに美砂さんが言った言葉、喜びを"キューが運んで来てくれた"って言われた時、僕も凰哦さんも、そうだよね!キューが沢山のモノを運んでくれたんだよね!って、思えてたんだよね…。
それはもうそろそろ、冬か始まる頃の出来事なのでした。
キューの存在を見る事が出来る方、2人増えましたね〜。
蓮輝と凰哦にキュー、そして青柳夫妻の繋がりは、今後如何なって行くのでしょうか?
そんな感じで、次話をお待ち下さい。