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絶品大絶賛

蕎麦屋青柳の店前に、“本日貸切”と書かれた看板が立っていた。

お店の中には、凰哦の部下達15人が何組かに分かれ、時間をずらして、来店するのだった。

お店の作りはとても広く、30人もが入れるキャパなのだが、一遍に15人が集うと、流石に少し狭く感じてしまう。

集まった者達が、席に着くと

「皆んな今日は本当にご苦労だったな!さっきも言ったが、これは俺からの感謝の気持ちを込めた労いだから、遠慮無く絶品天ざる蕎麦を堪能してくれよ!」

「「はい!ご馳走になります!」」

「それと、皆んなに紹介するこの方が、青柳夫妻だ」

「皆様、初めまして…。私くしがこの店の店主の青柳と申します。此方が妻の美砂(みさ)です、どうぞ宜しくお願いします…」

「妻の美砂です、主人の正樹(まさき)共々、何卒宜しくお願いします」

と、深々と頭を下げるのだ。

社員を代表して、鐘川が

「此方こそ、どうぞ宜しくお願いします」

と、スッと心に入ってくる様な、優しいトーンで答えるのだった。

「ありがとうございます、では皆さんお腹もお空きの様ですので、早速天ざる蕎麦をお持ちします。少々お待ち下さい」

と厨房に2人は向かう。

それを見ていた数人の社員が

「運ぶのお手伝いします」

「私も運びますので、お2人は休んでいて下さい」

と、自ら率先して運ぶのだった。

それを見ていた凰哦は、とても素晴らしい者達だと、誇らしげに思えていた。

「皆んなに行き渡った様だな、それじゃ美味いうちに食べてくれよ!」

凰哦のその一言で

「では早速!………美味い!なんて美味しいんだ!?」

「本当、蕎麦もツルツルしていて歯応えもあるし、つゆも蕎麦に合った出汁が効いてて、ドンドン入って来ますね!」

「天麩羅も絶妙な揚げ方で、しつこく無く、サクサクしていて、本当に美味しいですね!」

「美味い美味い!これは止まらない!」

「とても口が幸せですよ〜」

などと、不味いとは誰1人も言わないのだ。

ズルズルすする音が、会話をしているかの様だった。

それが大変嬉しくて

「足りないのなら、()()()()追加してくれよ?遠慮は要らないからな!」

と凰哦が言ったのだが、直ぐ後悔するのだった。

「えっ?本当に良いのですか?…それなら僕はもう1度同じ天ざる蕎麦を追加します!」

「あっ私も!」

「僕は蕎麦を追加で!」

「俺は天ざる蕎麦を2つお願いします!」

「私は1つ追加お願い出来ますか?」

などと、全員が本当に遠慮する事なく、追加の嵐を巻き上げるのだった。

「ハ…ハハ…」

予想外の追加の嵐により、言葉が出ない凰哦だった。

更に厨房でまた忙しく、全員の追加分を必死に作る店主。

それが1段落した時に、凰哦が

「済いません、私はこれにて失礼しますが、また必ず来ますので、部下達の胃袋を満足させて下さい。此方に今日の分のお支払い分です。足りなければ部下に仰って下さい、直ぐお支払いに戻りますので。もし余った場合は、部下に渡して頂けますか?そして部下に、好きな様に使って良いからとお伝え願いますか?」

そう言って、現金50万円を手渡すのだった…

平然とポンッと札束を出す凰哦に、目を大きくして

「失礼ながら、篠瀬社長に1つ言いたい事がございます。言っても宜しいでしょうか?」

「?…はい、大丈夫です。一体如何されましたか?」

「では失礼ながら、幾ら追加が多いからといっても、これは出し過ぎですよ!それに、かなりの金額が残りますよ!?それを部下に好きな様に使えと言っても、逆に恐縮してしまい、誰も使わないですよ?ですから今回は、後日払いでお願い出来ませんか?その方が此方としても助かるのですが…」

と、そう断る青柳さん。

少し人とは違う、金銭感覚を持っているのだと知って貰いたくて、ワザとそう言うのだった。

「えっ…そうなんですか!?…失礼ながら、足りないとばかり思ってました…。何時もカード払いでしたので、此方でもカードを使ってましたから、金額を知らなかったものでして…。今日は部下を置いて先に帰宅するので、流石にカードは止めておこうと、久々に現金を用意したんですよ…お恥ずかしい限りです…。もし参考にお聞かせ下さるのなら、どれ程残るのでしょうか?」

「40万以上は残りますよ…」

少し呆れた風に答える青柳さん。

凰哦もそんなに残るのかと、驚くのだった。

「そ、そんなに残るのですか…。確かにそれ程残るとなると、部下も気が引けるでしょうね…」

「分かって頂けましたか?」

「はい、勉強になりました!本当に良かったです!青柳さんの様に、親切に教えてくれる方は居ませんよ。ありがたい事です」

「そう思って頂けたなら、此方も嬉しいですね!何せ、あの大会社の社長さんに、私が何かを教えるなんて思ってもいませんでしたよ」

と、優しく笑いながら答えてくれる。

その優しさに、不思議な安らぎを覚える凰哦。

多分それは、早くに父を亡くし、義理では有るが、ずっと憧れていた兄が出来た事をとても嬉しく思えていたのに、その義兄が突然の事故で姉と一緒に亡くなり、父母と姉に義兄も居なくなった凰哦にとって、青柳という者が、父親の様に接してくれてる事に、実の父親の様な気がしていたからだろう。

「お父さん…」

「…はい?」

「ッ!あっいえいえ!…なななな、何でも有りま……」

少し間を空け

「…正直な事言いますと…私の両親が私の子供の頃に亡くなりまして…青柳さんが、そんな感じで私に接してくれると何故か、亡くなった父の様に感じてしまい、思わず…その…お父さんと…言葉が勝手に出てしまいました…恥ずかしい所をお見せして、済みません…」

それを聞いた青柳さんは

「そうだったのですか…それはそれは、さぞ寂しい思いをされてたのですね…ご苦労も合ったでしょう………えっ?それでは今の会社はお1人で作られたのですか!?」

「えぇまぁ…大学生の時に立ち上げました」

「!何と!!それは凄い!」

「いえそんな事は有りませんよ。ただ運が良かっただけです。私はただ自分が出来る事をやって来ただけですよ」

「何を謙遜されてるんですか!その自分が出来る事をするだけでも、どれだけ大変な事なのかと、私は思います。そんな貴方に、父親として感じられるなんて、とても嬉しいモノですね!今私の心は、とても幸福感で満たされてますよ…」

「そう言って頂けると、私も嬉しくなります!」

「「ハハハッ」」

同時に笑い合う2人。

「…実は私達も、早くに息子を亡くしてまして、先程篠瀬社長に説教した時、息子に教え説いてる気になってたのですよ…」

「ええっ!?そうだったのですか!?…済みません…余計な事を話させてしまいましたね…」

「いえそんな事は無いですよ。…こんな話をしたからか、社長様の事が、息子の様にも思えてくるなんて、不思議なものですよ…」

「それは私も同じ、青柳さんが本当の父親の様に思えてしまいますね」

「「アハハハハッ」」

また同時に笑い合うのだ。

「良ければ、もう1人の父親と思っても宜しいですか?」

「それを言うなら、私ももう1人の息子と思っても良いって事ですよね?」

「アハハッそれじゃお互い、父と息子って事で、これからお付き合いしていきましよう!」

「えぇ是非!」

「それでは今後、私の事を社長様では無く、出来れば凰哦と呼んで頂けたら、とても嬉しいです」

「分かりました、今後はそうさせて頂きましょう。でも部下や貴方を知る者がいた時は、社長と呼びますから、その辺はご了承下さいよ?」

「ええ勿論です!…いやぁ〜、誰にも言わないでいた、私の望みが1つ叶えられましたよ。今日は良い日になりました」

「それは良かった!私も新たに息子が出来て、とても良い日になりましたよ」

「あっ後、出来れば敬語も止めて頂けたら、尚嬉しく思います」

「はい、分かりました。それも部下や貴方を知る者が居ない時に、そうさせて貰いますね」

「ええそれで結構です!では今日はこの辺で帰ります」

「はい、気を付けて帰って下さいよ」

「ありがとうございます!あっ忘れてました、お支払いは必ず請求して下さい!支払いを言い訳に、また顔を出せますから!」

「分かりましたよ!でも何も無くても、何時でも顔を出して下さい。もう1人の息子の顔をちょくちょく見たいので…」

「はい、そうします!私ももう1人の父親に会いに来ますから!それではまた…」

「はいお疲れ様、帰ったらゆっくり休んで下さいよ!」

「はい、では…」

何とも言えない、幸せな気持ちで家路に着く凰哦だった。

(お父さんかぁ…何年振りに言ったのだろうか…。言える事は幸せな事だよなぁ〜)

蓮輝の育ての親にはなったのだが、凰哦自身、育ての親となる者が居なかった事が、やはり寂しく思えていたのだった。

確かに自分から誰の助けも要らないと、頑なに、誰にも頼る事をやらなかったのは、家族以外の者達を信用していなかったからなのだ。

凰哦の親も会社経営をしていて、幼い頃は裕福な生活を送れていた。

だが部下の裏切りにより、会社が不正を働いたと虚偽の決算書などを各関係者に報告、提出され、それにより信用を無くしてしまい、最後には倒産するハメとなったのだ。

凰哦の両親は、自分達の事など二の次と、全ての社員の為にと、少しでも良い条件の再就職先を探す事に奔走していたのだった。

その為、無理をし過ぎてしまい、重い病を患い父は病死し、母は疲れからくる眠気により、単独事故を起こしてこの世を去るのだった。

姉と2人残された凰哦は、2度と他人を信用する事はしないと、強く心に決めたのだった。

そして、蓮輝の両親も事故により他界し、信用出来る筈も無い他人に、蓮輝を育てさせるつもりはなかったので、大学に入ってから程なく、蓮輝を育てる為の資金を稼ぐ為に、自ら起業し会社を立ち上げたのだ。

会社を立ち上げてから、親の会社を倒産させる原因を作った者が会社を立ち上げ、更に成功している事を知る。

その事を知った凰哦は、とても憤りを感じ、必ずや正攻法で叩き潰してやるのだと強く決意し、着々と起業した会社の規模を拡大させたのだ。

そして、親の仇を取る為の事業部門を作るのだった。

その部門とは、土地開発部門である。

叩き潰したい憎い相手とは、山家建設の社長、山家 秀元(ひでもと)

その山家が今回の土地開発と称して、青柳さんの構える商店街一帯を買収しているのかも知れないと、部下の調べで分かった時は、怒りと同時に

(これが本当に奴のやっている事ならば、本当に許せない!絶対に阻止してやる!そして確実に俺を怒らせた事を後悔させてやるからな!…あの時誓った正攻法で、必ず破滅させてやるぞ!待っていろ…必ず両親の仇を取ってやるぞ!)

と高まる気持ちなのだが、冷静さは保っていた。

冷静さを保っていたのだが、どんな感じで追い詰めようかと考えると、アレやコレやと色々思い付き、ついつい楽しくなってフフフッと、悪い顔で笑っていたのだった。

その状態での帰宅。

自宅に入ると

「凰哦さん…何か企んでそうな悪い顔して笑ってるけど、どうしたの?」

と、蓮輝に言われハッとするのだった。

(いかんいかん…個人的な思いを知られてはいけないな…皆んなに迷惑が掛かってしまう…その事を肝に銘じておかなければな…)

「いや別に何も無いぞ?…ん?おっ?今日はお好み焼きなのか?」

「うん、そうだよ!きっと凰哦さんの事だから、キューと同じ物食べたいからって、食べずにいるか、食べてもざる蕎麦だけだろうから、タップリお腹を満たして貰おうとね〜」

「凄いな蓮輝!良く分かってるじゃないか!そうなんだよ、何も食べて来なかったから、ペコペコだぁ〜…。ありがとうな〜」

「全然!帰りが遅くなるって連絡無かったからさ、そうだろうと思っただけだよ。だからキューと食べずに待つ事にしたんだ〜」

「そうなのか?いや本当ありがとうな!」

「良いって…でも本当に何も無かったの?僕的勘だと、再開発の相手が、クソなライバル会社だったとか何じゃない?」

そう言い当てる蓮輝に、とても驚く凰哦。

「!!何でそんな事分かるんだよ!?」

「えっ?だってさ、凰哦さんのその悪巧みする様な、ニヒルな笑い顔って、見た目カッコよく見えるけどさ、僕にしたら結構近寄り難い感じなんだよね〜。でもそんな時って大体、悪い事してる奴を如何してやろうかって、色々考えて楽しんでる時の顔だから、僕は直ぐ分かったよ!」

「ええぇっ!?そうなのか!?そんなに分かり易いのか?」

「気にしないで大丈夫だよ!分かるの多分僕だけだから。余程親しい人しか分からないんじゃない?…あっでも、今後鐘川さんと親しくなりそうだから、鐘川さんには、そんな顔見せない方が良いかもねぇ〜」

「……そうか…忠告ありがとう。でも今日、社員達に言ってしまったからな…」

「ん?何を?」

「今後、素の俺を曝け出していくって、宣言して来たんだ」

「はあっ?何でまた、そんな事したのさ!?」

「お前のせいだぞ!」

「僕のせい!?」

「そうだよ!お前が何枚もキューの写真送るから、デレ顔連発して社員が驚いてたから、もう良いかってなってな、社員達の前でも、これから何度もデレ顔して驚かれるよりマシだと思ったからな…」

「…そうなんだね…でも良かったじゃない!素で在られるのなら、気も楽だし、それに社員さん達も、そんな凰哦さんを見られて、嬉しくなってくれると思うよ!近寄り難いより、親しみが湧くからね〜」

「…お前、それ本音かぁ?本音だとしても、絶対俺で楽しんでるだけだろ?」

「えっ?………そんな事ないよ?」

「今の間は何だったんだ!?」

「べべべ…別に〜!そんな事より、早く食べようよ!キューが待ちくたびれてるからさ!」

「…ったく、そうやって直ぐキューを持ち出しやがって…さぁキュー!食べような!待たせてごめんな〜!」

「切り替え早っ!」

「ふんっ!何せお前の父親(仮)だからな」

「確かにねぇ〜、僕の切り替えの早さ、凰哦さん譲りだからね〜、それじゃまだ温かいうちに食べよ〜」

「それじゃキュー、ご飯の挨拶頼むぞ?」

「は〜い!い・た・だ・き・ま・す」

「「い・た・だ・き・ま・す!」」

そんな感じで、今日も楽しく夕食を食べる僕達。

「そうだ、蓮輝に1つ言っておくな」

「うん?何を?」

「俺に父さんが出来たよ…」

「ブフゥーーーッ…はあ?如何言う事!?」

「出来たと言うより、お互い親子の様なそんな関係に思えるってだけなんだが、向こうも俺の事、もう1人の息子だと言ってくれたんだ」

「そ、それって誰なの?」

「青柳さんだよ」

「ええっ?あの青柳さん?」

「そうだ、あの青柳さんだ」

「何でまた!?」

「いや、色々話をしてたらな、お互い親と息子の様だなみたいになってさ、俺はお前と同じ両親がいないし、青柳さんも早く息子さんを亡くしたみたいで、それじゃ今後は親子の様に、関係を築きましょうってなったんだ」

「…そうなんだね…それじゃ凰哦さんも、青柳さんも良かったじゃない!」

「だから青柳さんは、お前のお爺ちゃんでも有るからな!」

「はあぁ?…如何したらそうなるのか、よく分からないけどね、凰哦さんがそう望むなら、僕は別に良いよ…それに本当に凰哦さんと青柳さん、親子って言われても違和感無いだろうからね。あの人結構お年召してるからね」

「ああ、そのせいでも有るんだよなぁ〜。年齢は60後半みたいだからなぁ、今度それとなく聞いてみようか…」

「そうしたら?でも問題が解決してからにしてね」

「そうだな、そうするよ…」

そんな感じで、全く予想も思いもしなかったお爺ちゃんが、僕に出来た様なのです。

そうなれば、出来たらキューの事も知って欲しいよね。

大切な家族として紹介したいから…。

その事は、明日の朝にでも、凰哦さんと話し合おうかな〜、如何しようかなぁ…。

そういえば、何だか僕達2人に、大切な人が増えてきてるんだけど、それはとても良い事なんだよね?

以前の僕達からしたら、考えられない事だから、戸惑いは有るけど、良い事なら問題なし!だもんね〜。

それじゃ明日の朝、凰哦さんと相談して、キューの事知って貰おうかな…。

凰哦にお父さん、蓮輝にとってはお爺ちゃんが出来ましたね〜。

今回もまた、キューが活躍しない話になりました。

そろそろキューが活躍して欲しいと、思ってます。

では次話をお待ち下さい。

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