キューの旅
自分も皆んなと同じメニューに、安心した凰哦。
それが嬉しくてしょうがない様子だった。
そんな凰哦さんに尋ねてみよう。
「ねぇ凰哦さん、ここ最近分かったんだけれど、っていうか、前々から気付いてはいたんだけれどさ、凰哦さんって可愛いものに目がないよね?」
「ブフゥッ!」
「度々、マスコットキャラとか、2頭身系のマルっとしたの見て、デレ顔してるもんね?」
「ゴホッゴホッゴホッ…ななな、何を突然言い出すんだ!?そそそ、そんな事…」
「有るよね?」
「…有るよ!有りますとも!」
「やっぱりね〜、完全に開き直ったね」
「悪いか?俺が可愛いもの好きでいけないか?」
「全然…寧ろ良いと思うよ」
「おっ!そうなのか?なら別に良いじゃないか…今後は隠さずにいるつもりだ!」
「うん、それでも構わないけどさ、ただ確認したくてね…」
「?ー何をだ?」
「僕の事…」
「!?蓮輝、お前の事!?」
「あっ、少したじろいだでしょ?」
「い、いや別に〜…」
「聞きたいのはさぁ、可愛いもの見てポンコツ化するのは理解したんだけどさ、何故僕でもポンコツ化してるのかを聞きたくてね、ねぇどうして?僕2頭身でもないし、マルッとしてないよ?どうして?」
「………」
「あれっ?言えない何かが有るの?」
「いや…聞いて怒らないかと…」
「それはその時!怒らない様にするから教えなさい!」
「…怒らないでくれよ?…ただお前が未だ子供だと、ついつい思ってしまってたんだよ…それに、自分で言うのも何だが、お前が産まれた時から溺愛してるからだと思われます…はい…」
「…なる程ねぇ、それで納得したよ。だからだったんだね〜、今迄のポンコツ化は…」
「…はい、正にその通りです…」
「えっ?それじゃ、結婚とか恋人が居ないのは何故?」
「?結婚?恋人?どうしていきなり話が飛ぶんだ?」
「飛んでないよ!至って普通に疑問として出て来るって!」
「そうか〜?…結婚かぁ…考えた事も無かったよなぁ…」
「そうなの?恋人も?」
「あぁそうだが、それよりお前はどうなんだよ!?」
「僕?分かってるでしょ?僕が他人嫌いな事。だから僕はいいのです!」
「確かにそうだもんな…まぁ俺は、ある人との約束も有ったからなぁ…だから、本当に考えた事ないな…」
「約束?誰と?」
「それは知らなくてもいい事だ!それより早くご飯食べなさい!」
「ちぇっ!分かったよ…」
何か上手く誤魔化された気がするけど、まぁ聞きたい事の1つは聞けたから良しとしよう。
2日振りの食事は美味しかった。
ずっと食欲がない僕だったけど、今日の朝食はしっかり食べ終えました。
さぁ〜て、片付け終えたら、洗濯物と掃除して、その後は大事な事をキューから聞かないとね。
テキパキ家事を済ませて、午前のティータイム。
キューは、僕が起きて食事の用意をしてた時に起きて来て、僕に抱きつくなり、目が覚めて良かったと言ってくれた時は、泣きそうになったよ。
だから尚更、キューの事しっかり聞いて、キューの事知らないといけないよね。
なので、お絵描きさせながらも、キューにこれ迄の事真面目に聞くつもりです。
「ねぇキュー、これから沢山の事聞くけど、分かる事だけでいいから、僕達にキューの事、教えてくれないかな?」
すると
「うん、いいよぉ〜」
「ありがとうね!それじゃ先ずは、僕達に会う迄どうしてたの?」
「…僕ねぇ、あそこでねぇず〜っといたの」
「居たってどれくらい?何日も?」
「う〜んとねぇ…」
そう言いながら、指を折って、一生懸命に数を数えるのだった。
「よく分かんないけどねぇ、10が3回!」
「えっ?という事は、大体1ヶ月くらいかぁ…僕達、あのお店行くのは、2ヶ月弱振りだったもんね…で、その間の食事はどうしてたの?」
「最初はねぇ、勝手に食べてたのぉ〜」
「勝手に食べてたんだ…それでそれで?」
「そしたらねぇ、おじさんがねぇ怒り出したの…」
「えっ!?僕達以外にもキューが見えた人いたんだ!?」
「違うの…頼んだの無いって…無くなったって…僕ぅ食べちゃったから…」
確かに見えないと、勝手に無くなる訳だから、注文した人もおかしいぞってなるだろうし、お店側も出した筈なのにってなるよね…。
「キューが食べちゃったから怒ったんだね、そのおじさん」
「うん…だからねぇ…それから余ったのだけ食べてたのぉ…」
「何!?余ったのだけだと?それじゃ余らなかったらどうしてたんだい?」
凰哦さんが驚いて聞き返す。
「小ちゃい蕎麦だけ食べてたのぉ」
と、両手で蕎麦の大きさを表現するキュー。
「そんな少ない量…それも無かった時はどうしてたの?」
僕がそう聞くと
「食べないのぉ…」
「キュー、それはどれくらい続いた事あるんだい?」
優しく聞く凰哦さん。
また指を折って数えるキュー。
「4」
その答えに、言葉を失う2人。
4日も食べない日が続くなんて、人とは違うとしても、よく生き延びてくれたものだと思った。
その気になれば、奪ってでも食べただろうに、それをしないで我慢するなんて、本当に無垢で純粋な心を持っていると、改めて思うのだった。
この時正直、あの日に出会って無ければ、本当に消えてしまってたのだと、それも改めて思うのだ。
それと同時に、もっと早く出会っていたら、もっと早く助けてあげられたのにとも思い、養おうと心に決めた事に、自分で自分に感謝するのだった。
「そんなに我慢して、僕達に会えなかったらどうしてたの?」
「だからねぇ、入口のねぇ、なっがーい布にねぇ、僕が見える人が来たらねぇ、ビリってくる様にねぇ、おまじないしたの〜」
あぁ〜だからかぁ…あの時ビリって電気走ったの…。
「そしたらねぇ、蓮輝お兄ちゃんとねぇ、凰哦パパがねぇ来たの!」
「そうだったね!」
「でもね…最初ねぇ、蓮輝お兄ちゃんとねぇ、おめめあったと思ったのにねぇ、気付いてくれなくってねぇ、悲しくなったのぉ…」
「ごめんなさーい!本当ごめんなさーい!!」
僕はひたすらキューに謝りました!
だってあの時、まさかカッパが居るだなんて思ってもいないし、そんなにも何も食べてなかっただなんて、思いもしなかったもの…キュー、本当ごめんよ〜〜!
「?どったの?」
「いや何でも…ごめんね…」
「よく分かんないけど、いいよぉ〜!でね、悲しくなったらねぇ、ちんじゃいそうになったの…」
「本当済みませんでした!」
「おい蓮輝!謝るのは後!まだキューの話続いてるんだから、最後迄聞きなさい!」
「はい…」
「でもねぇ、蓮輝お兄ちゃんがねぇ、お蕎麦たぁ〜くさんくれたからねぇ、元気出たのぉ!嬉しかった〜ん」
およよ〜ん、それは良かったよ〜、泣けるよね〜。
「でね!でね!今一緒にねぇいられてねぇ、凄く嬉しいのぉ〜」
ダハァーッ、もぅ号泣ですわ!
なんていい子なのでしょう〜、本当天使♡
「僕達、あそこで出会えて、本当良かったね!僕も嬉しいよ」
「それは本当だよな、あの時は驚いたが、今は俺も幸せ一杯だよ!蓮輝が見つけてくれたおかげだな!」
凰哦さんも、とても喜んでくれている。
その凰哦さんが
「ところでキュー、あの蕎麦屋に来る前は、何処でどうしてたんだ?」
と聞くのだった。
あっそれ、僕も気になってた!
「えっとねぇ、僕ねぇ、お山の中で住んでたのぉ〜。でもねぇ、今は遠すぎてねぇ、どこか分かんないの…」
「山に住んでた?…何故山を降りてきたんだい?」
凰哦さんが山を降りた理由を聞く。
「僕の居たお山にねぇ、火が沢山ついてねぇ、火事になったの…その後にねぇ、汚いのがイッッパイになってねぇ、住めなくなったの…」
「山火事?汚いのイッパイ?…キュー、もっと詳しく教えてくれないか?例えばその山に、なにか家が有ったとか、建物が有ったとか、何か無かったかい?」
どうやら、凰哦さんに心当たりがある様だった。
「うん有ったよぉ〜」
「それはどんな建物だった?」
「うんとねぇ、えっとねぇ、スっごく大きくて広いの!いつもねぇ、その周りにねぇ、汚いものが流れててねぇ、僕達ずっとねぇ困ってたの〜」
それを聞いた凰哦は、ある事件を思い出したのだ。
「…それってもしかして…2年前のあの薬品工場の火災の事か…?」
それを聞いた僕は
「凰哦さん、それってN県のあの事件の事?」
「あぁそうだ…あれ以来化学汚染が酷くて、未だ元に戻ってないから、未だにニュースになる程だからな…」
「あれって確か、従業員のミスで起きた火災で、沢山の危険な薬品が流れ出たってヤツだよね?…えっ?もしかして、キューそこに居たの!?」
「多分そうだろ…憶測だが、可能性は高いな…」
「でもそれ、2年前の話だよね?僕達に会う迄、キューはどうしてたんだろ…?」
「それだよなぁ…2年もの間、何処でどうしてたんだか、これもキチンと聞いてみないと、分からないよな…」
「なんか色々と、大変な目に遭ってた気がするよ…聞くの怖いな…」
「それでも聞かないとな…よし、蓮輝聞いちゃってくれ!」
「!丸投げしたね!…ったく、分かったよ…」
渋々触れられたく無い過去だろうと思いながらも、キューにその2年間の出来事を聞いてみた。
「ねぇキュー、お前がさ〜、お山に居たのはどれくらい前だったの?」
キューは、う〜んと思い出しながら
「僕がお山からサヨナラサヨナラしてからねぇ、寒い寒いがねぇ、2回あったよ〜」
やはり2年前だと分かった。
寒い寒いとはきっと冬の事だと思ったからだった。
「そっか…お山とバイバイしたのは、2年前だったんだね。それからどうしてたの?」
「えっとね、違うお山にねぇ行ったの〜」
「うん、それで?」
「そしたらねぇ、そこに居た僕の仲間とかねぇ、違うこあいモノにねぇ、スっごく怒られてねぇ、僕逃げたの…」
「何ぃ!?今からそいつ達を締め上げてやろうか!」
と、凰哦さんがブチ切れる。
「ちょっと抑えて!キューが怯えるでしょ!僕だってムカつくの我慢してるんだから!」
「あっいや済まん…」
「ったく…で、キューは逃げてからどうしたの?」
「他のお山にも行ったけどねぇ、何処も気持ち悪くてねぇ、あっちこっちのお山に行ったの〜」
「お山が気持ち悪かった所が多かったんだ…」
「そうなの〜、だからねぇ、お山をねぇ離れる事にしたの〜」
「お山を離れたんだ…それで?」
「お山を離れたらねぇ、たくさんの人がいてねぇ、ビックリした!それでねぇ、こあくてねぇ、ウロウロしてたらねぇ、いい匂いがしてきてねぇ、あとについていったの」
「良い匂い?それどんな物だったの?」
「なんかねぇ、たくさんの箱をねぇ運んでた〜!その中からいい匂いがしたの」
う〜ん、なる程〜。
多分運送会社の人が、食品を運んでたのかな?
「凰哦さん、それって多分、食品とかの配達だよね?」
「ああ、そう思うぞ…」
「で、その後付いて行ってから、どうなったの?」
「僕ねぇ、その箱にピッタリくっついてたらねぇ、バタンって音がしてねぇ真っ暗になっちゃった。そしてらねぇ、スっごく揺れてねぇ、こあくてこあくてたまらなかったの」
蓮輝と凰哦は、あぁ〜荷物と一緒に、運ばれたんだなぁ〜と思ったのだ。
「とても怖かったんだね、良く我慢できたね!偉いよ〜!」
「ケヘッケヘ〜、褒められたぁ〜うれしぃ〜!」
ああ〜可愛い♡
その可愛さに持っていかれた凰哦さんが、キューに抱きつこうとしたので
「待て!ハイふせっ!」
と、再度凰哦ワンコを躾けました。
今回は、凰哦さんも話の途中でポンコツ化した事を反省したみたいで、大人しく従ってます。
「その後は、どうなったの?続き聞かせてキュー…」
「揺れてたのがねぇ、とまったの〜、そしたらねぇ明るくなたの〜、たくさんの箱をねぇ、持っていったの〜。僕その後についていっちゃった〜」
「えっ?後を追いかけて行ったの?」
「?おいかけ?よくわかんないけど…」
「あっ、付いて行ったんだね?」
「うんそう!いい匂いがしてるのに、ついていったの!そしたらねぇ、蓮輝お兄ちゃんと、凰哦パパと会ったところに入ってたの〜」
なる程〜、それがキューの経緯なんだ〜。
とても大変な冒険の旅だったみたいだね…。
僕が3歳児だったら、絶対無理な大冒険だよ…。
凰哦さんも、キューの大変な経緯を聞いて、こんなにも幼い感じのキューが、よく頑張ったのだと、胸をうたれてる感じだね。
苦労した筈なのに、そんな素振りも感じさせないとは、本当偉いよなぁ〜キューは…。
「大変だったね…キューは大冒険したんだぁ〜。とても僕には出来そうにないや…本当凄いよ…」
「そうなのぉ?」
「ああ、とても凄い事だぞ!偉い!キューはとても偉い子だぞ!」
と、凰哦さんも大絶賛してくれている。
2人にとても褒められたキューは
「ケヘヘェ〜、た〜くさん褒められたぁ〜ケヘッケヘ〜♪」
と喜んで、両手を上げてユラユラと小躍りする。
それを見た僕達は、キューの会心の一撃をくらい、ピクピクと悶絶してしまう。
本当やりよりますわ…最早凶器ですよ!この可愛さは!
「…此奴やりよる…」
「あぁ…確かにな…」
瀕死の僕達は、何とか生還する為、一旦リビングを離れた。
凰哦さんは、自分の部屋に。
僕は取り敢えず、咽せる程タバコでも吸って気を紛らわそうと庭に出たら、突然のゲリラ豪雨!
「うわあぁ!マジかー!バカヤロウー!洗濯物が濡れるじゃないかよー!!」
と、慌てて洗濯物を取り込む。
もぅビッシャビシャっスわ!
洗濯物はやり直しだし、僕もズブ濡れだから、シャワーを浴びなくちゃいけなくなったよ…。
取り敢えず洗濯物は、凰哦さんに任せてシャワーを浴びる僕。
まぁおかげで、キューの会心の一撃で瀕死状態から、復活は出来たのだけれどね〜。
さて、話の再開だ。
「キュー、さっきの話の続きなんだけど、あのお蕎麦屋さんに着いてから、僕達に会う迄、誰も気が付かなかったんだよね?その間寂しかったり、悲しかったりしたのかな?」
「…うん、スっごくしたよ〜、でもねぇ、蓮輝お兄ちゃんと凰哦パパに会えたからねぇ、イヤイヤナイナイしたの!」
「そっか、キューが喜んでくれたなら、僕達もとても嬉しいよ」
「うん!」
「キュー、俺達に出会ってくれて、ありがとうな…パパも嬉しいよ!」
「うん!」
2人に元気良く返事をするキューだった。
それにしてもキューの旅は、大冒険だったんだなぁ〜と、改めて思うよ…。
まだ聞かなきゃいけない事、沢山あるけど、そろそろお昼だし、ランチタイムにしますかね?
話はランチが終わってからにしよう。
キューの冒険譚風にしてみました。
では次話をお待ち下さいませ〜。