第65話 全身タイツ(頭まで)
そう思っていたけれど……。
まず、生宝氏の発見は、あっけないほど簡単だった。
モニターにその姿が映し出されるまで数瞬しか要していない。
で、絵に描いたようなマヌケってのを、この目で見るとはね。
酷いもんだ……。
生宝氏はECS (Electromagnetic Camouflage System)で姿を隠していて、現時人からは見えない。
でも、僕たちの時間跳躍機の機能からは丸見えだ。てか、ECMを使っているからこそ、こちらのヴェトロニクス、CECM装備で発見できて丸見えになった。
こっちの時間跳躍機は、不正が感知できないじゃ済まないから、最低限のそういう機能は持っているんだよね。あんまりおおっぴらにはしていないけれど。
で、民生用の時間跳躍機には、そういうのが付いている例は極めて少ない。過去に行くのには全く不要なシステムだからだ。
時間跳躍ボタンの操作自体は係長権限だけど、業務に付随する電子戦に相当するものは、僕と是田が担当している。って、このために仕方なく連れてこられたのかな、僕たち。
でさ、大奥の女性たちから見えないのをいいことに、生宝氏は女の園を覗き放題の極めてオゲレツな行動をとっていると思ってたんだけど……。
なんでこんなトコで固まっているんだろう?
とは言え、想像はつくんだよ。
大奥には男は入れない。でも警備は必要だから、女の武道の達人がいるんだ。その人たちに気配を読まれて酷い目にあったんじゃないかな。お風呂とか覗きに行って、見つかる一歩手前とかありそうじゃない?
生宝氏、殺られちゃわないようにだろうけど、廊下と納戸の出入り口でできた窪みみたいなところで、必死に壁に張り付いて息を殺している。で、ECMスーツってば、全身タイツみたいな仕様だからね。頭までスーツを被ったそのタイツ姿が、しょーもないコントみたいで、相当にマヌケだ。
きっと、廊下の床板もウグイス貼りだから、歩く一歩ごとに床がきいきい鳴る。姿こそECMで視覚的には隠せても、体重がなくなるわけじゃないから、逃げ場がまったくない。
結局、ここにいるしかないんだろうね。
これなら、大奥より表での方が将軍暗殺は楽だったんじゃないかな?
てか、今までがあまりにプレイボーイ過ぎて、女なんか自分の思うがままになるとか時代錯誤にも舐めてた?
この時代、別式女とか佐々木累とか、シャレにならないのに。
もしくは、これも男のロマンとして、これも許容した計画だったのかな。
僕だったら、いくら女の園に入れる機会だからといって、暗殺は暗殺として実行するとして、こんなついでの計画にはしない……、んじゃないかな?
いくら女しかいない空間にいられるからって、そもそもそんないいもんじゃないよ……、ね?
大奥って、女の権謀術数の巣窟で総本山で、純で無垢な娘なんかいなくて、ウチの係長みたいのばかりがいるんだろうから、夢の見すぎだ……、よね?
うーん、なんか、考えれば考えるほど……、ちょっといいかも。
綺麗なお局様から、命の危険がない程度に程々にイジメてもらったら、うふうふうふ。
あ、いかんいかん。いかんぞ。
2、3、5、7、9、11、13、17、19、23、29、31……
よし、落ち着いた。やっぱ、素数は効くなあ。
うん。
こんな計画は、バカが立てるものだ。
現に、全身タイツ姿の生宝氏の姿はマヌケだ。
ああはなりたくないよな。
僕の中でモラル復活っ!
よしっ!
「是田、きっきの取り上げた情報端末をよこせ」
「はい」
是田、さっき早苗ちゃんが「はずれ屋」で押収した情報端末を係長に渡す。
受け取った係長、その端末にUSBXのケーブルを繋いで、時間跳躍機のサーバー側から何やら細工を始めた。
とは言っても、1分そこそこのこと。
で……。
「生宝さんに電話しな」
と、係長、ケーブルを外して、僕に情報端末を放って寄越す。
うん、すべてのプロテクトが外されちゃったんだな、この端末。誰からでも、普通に使える状態になったってことなんだろう。
生宝氏にコールすることにどんな意味があるかわからないし、なにを話すのかもわからないけれど、係長の指示だからねぇ。
さ、では、電話、掛けようかねぇ。
ぽちっとな。
突然、大奥の廊下で、キ○ーティー・ハニーのオープニングテーマ曲が大音量で響き渡った。
生宝氏、あんた、なんでこんなの着メロにしているんだよ?
昭和に作られ、平成、令和から、今の年号に至るまでの5つの時代で欠かさずリメイクされて続けてきた名作とはいえ、大金持ちの事業家が選ぶ曲じゃないだろっ。
それも、髭で渋さを演出している人がっ。
そして、全身タイツ姿の生宝氏、廊下の窪みでてんやわんやの慌てぶりを披露してくれた。情報端末も見えないようにしなきゃだから、ECMスーツの内側にしまい込んでいたんだねぇ。
操作だけはスーツの外からでもできるようにしておいたんだろうけど、まぁ、直接操作するのに比べたらやりにくいだろうしねぇ。
ひょっとして係長、生宝氏の端末までハッキングしたのかな。きっと、マナーモードになっていたのを解除して、音量を最大にしてって、そのくらいのこと、うん、やるよね。
そういう性格の鬼だから。
「出合え! 出合え!!」
奥女中さんたちの声が響き渡り、それこそ大奥中が騒然となった。
次から次へと襖が開け放たれ、薙刀を持った別式女に指示されて、奥女中さんたちもおっとり薙刀で走り回る。
生宝氏はなんとか情報端末の音を止めると、再び壁と同化した。
でも、相当に焦ったらしくて、肩が大きく揺れている。つまり、息も絶え絶えってことだ。
うーむ、係長、アンタ、相変わらずタチの悪いことをしますねぇ。僕なんかにゃ思いもつかない。
係長、もう一回なんかごそごそしてから、また僕に言う。
「雄世、もう一回掛けろ」
「はいっ」
うん、2回もできてうれしいぞ。
それでは第65話のハイライト!
ぽちっとな。
これも昭和の名作だな。この間リメイクされたのを見たんだ。
やれやれ……w




