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時空系公務員の受難  作者: 林海
僕たち、江戸の置き去り……

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第64話 再び時間跳躍機(公用車)


 犯罪に対しても、僕たちの時間のルールは面倒だ。

 見つけても、なにもできないってことが多すぎる。


 それに対して、江戸ルールはある意味現実的だ。

 泥棒見つけたら、その場でみんなで袋叩きにしてもそうは問題にならない。やりすぎで殺しちゃいでもすりゃあ、問題だけどね。

 江戸の町の100万人規模という大きさに対して、南北奉行所の警察業務担当の同心はたった30人にも足らない。これじゃ規模があまりに小さすぎて、いろいろと行き届かないことが多い。ってか、絶対無理。

 それをカバーするのが、町の中で行われているこのような私刑だ。


 私刑というと、リンチなんてふりがなが振られたりして聞こえが悪いけど、江戸は私刑で上手く回っていた部分は否定できない。

 だって、公式の罪人である入れ墨者になる前に、町中でリンチにあって更生するのなら、それにこしたことはないだろ?

 入れ墨者になっちゃったら、就職だって難しくなるんだから。

 だからこそ、奉行所もこういった自治を黙認しているんだし。


 法治と人治、バランスなんだよね、きっと。

 あ、あと、ファッションとしての刺青(いれずみ)と罪人の入れ墨はモノが明確に違うからね。



 で、今回の拘束劇の顛末、僕と是田について限定するならば……。

 僕たちがまったく知らないところで、係長が手を打っていてその結果だ。だから、佳苗ちゃんの実力行使は僕たちのせいにはならないと思う。


 逆にだけど、係長がこのことがバレないように、僕たちを口封じに江戸に置き去りにするって可能性はあるな。

 結局、問題はいつもここに収束する。

 係長から見て、僕と是田の生命、二束三文どころか、値のつかないたんぽぽの綿毛の軽さだということだ。

 だからこそ、どのような扱いをされるか、不安が尽きないんだ。


 とりあえず、係長がなにを考えているかわからない以上、僕たちは係長の指示を守って、それを続けるしかない。

 幸い、悩む間はない。

 次から次に来るお客に挨拶し案内し、料理を運んでお金を受け取り、それだけでも飛ぶように時が過ぎる。

 1回店の外で喧嘩があったけど、火事と喧嘩は江戸の花、そう珍しいことではないし、店から出て様子を窺う前に終わってしまった。



 そして、夕方。

 いよいよ芥子係長が「はずれ屋」にやってきた。

 僕と是田が急にぺこぺこしだしたので、「はずれ屋」の面々までに緊張が走った。

「いらっしゃいませー」なんて呼び込みしている店員の女の子の顔色まで青くなったぞ。そりゃあそうだ。店長が顔色変えたら、バイトの子だってビビる。

 まったくもー、どうしてくれるんだ、この事態。


 なのに、佳苗ちゃんだけは違った。

 係長を見た瞬間に、その顔が輝く。

 どんな手なづけ方したら、こういう顔させられるんだ? 僕と是田の顔見ると、ため息すらつきかねないっていうのに。

 でもって、係長、その佳苗ちゃんを手懐ける優しさがあるなら、それを僕たちにだって向けて欲しいもんです。


「是田、雄世、()()が来てやったぞ」

 あまりのことにぎょっとして、僕も是田も一瞬凍りついた。

「……えっ、そんな、誰がそんな、ひ、酷いことを言ってるんですか?」

「ふん、お前たちが陰で私のことをどう言っているかなんて、みんな知っている」

 くっ、佳苗ちゃん、アンタ、僕たちを売ったなぁっ!


「い、いいい、言ってません。

 ……たぶん」

「申し訳ありません。

 あ、あくまで冗談で、その、あの、えーと、本気ではなく……」

 しどろもどろ。

「そうか、間違いなく聞いたぞ」

 !

 佳苗ちゃん、いくらなんでも酷すぎる。なんで、そんなことまで言っちゃうんだっ!?


 それでも僕たち、言い訳するかしらを切るか、それしかやりようがない。

 口々に弁解していると……。

「やかましいっ。

 いいから行くぞ」

「はい。

 どこへでしょう?」

「黙れ。

 付いてくればわかる」

 ……店で、客を含めて、現時人に聞かせたくない目的地なんだな。


 僕たち、店を引き攣った顔のみんなに任せて、係長の後について歩き出す。

 目的地は案外近かった。寛永寺の裏。

 人目につかない空間に鎮座している、一見生物的な、より具体的に言えば昆虫みたいな形の時間跳躍機(公用車)を見た時、僕、涙が溢れてきちゃったよ。

 是田もぼろぼろ涙をこぼしている。

 汚たねぇ泣き顔だなぁ。


「いいから、さっさと乗れ」

 そう言われて、僕たちは時間跳躍機に乗り込む。

 これで帰れるかもしれない。

 そう思ったら、また新たに涙がこみ上げてきた。

 でも……。

 あ、ディスプレイモードは、時間じゃなくて、空間跳躍でしたか。残念。


 事前に目的地は入力してあったのだろう。係長がタッチパネルに触れると、時間跳躍機はなんの振動も感じさせず空間転移していた。


 えっ、ここ、ひょっとして大奥?

 僕、長く江戸にいたためか、この時代の女性のおしろいの匂いがわかるようになっている。

 建物の外まで流れ出している、その匂いがとても濃い。

 そして、建物がやたらと大きくて立派。

 だって、万事大ぶりで柱が太く、コストを考えていない建物だ。

 単におしろいの匂いが濃いってだけだったら吉原って可能性もあったけど、遊郭の建物じゃこの豪壮さはないよ。


 生宝氏がここにいるってことだろうか。

 そして、係長はどうするつもりなんだろう?

 まさか、私人逮捕に踏み切る気なんだろうか。現行犯なら私人逮捕も問題ないはずだからね。

 でも、僕たちじゃ弱すぎて、物理的に生宝氏を抑え込めないぞ。係長だって、格闘技やってたなんて話は聞いたことがないし。


いよいよ大奥……

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