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時空系公務員の受難  作者: 林海
僕たち、江戸の置き去り……

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第41話 佳苗ちゃんの自責


「お腹はお空きではありませぬか?」

 って、佳苗ちゃんが僕たちに確認。

 まあ空いているな。

 かなりの量があったとはいえ、あの粘土、そもそも3人で食べようってものを5人で食べることになった。さらに、母娘2人で食べるのと、男2人と佳苗ちゃんの3人で食べるのを等分したんだから、僕たちの方が足りなくなるのは当然だ。


「この際でございますから、厳しい懐事情とはいえ、夜鷹蕎麦も食べておいた方がよろしくはありませぬか?」

 ああ、まあ、ね。

 つまり、あの母娘には聞かれたくない相談もあるってことなんだろう。

 そして、そのついでに自分の小腹も満たしたいってことだ。

 ま、屋台の蕎麦なら、3人で18文。そのくらいならなんとかなるだろうさ。

 夜鷹蕎麦の偵察自体も面白そうだ。屋台での調理の具体的過程が見られるのもありがたいと思うな。



 そこで、是田がつぶやいた。

「そうか、夜鷹蕎麦かぁ」

 あ、是田、なんだって?

「夜鷹かぁ……」

 ……なぜか、是田は僕とは違うところに食いついているみたいだ。

 なに考えてんだ、是田……。


 僕の非難がましい目に気がついて、是田、あたふたと挙動不審になった。

「いやな、江戸の人って、吉原だ、飯盛女だ、夜鷹だってどれほど女買うの好きなんだよって思ってたんだよ。

 佳苗ちゃんだって、吉原に落っこちかけてたし。

 それとも、江戸は男女比率のバランスがあまりに崩れている町だから、こうなっちまうのかな。基本的に、女性が極めて少ない人工の町だからね。参勤交代だって単身赴任だし、寺も多いし、流れの職人も、田舎から出稼ぎに来るのも男だし。

 まぁ、その現場ってのを一度見学しておいてもいいかな、と……」

「……んなこた、最初っからわかりきっていたことでしょう?

 なに慌てて言い訳しているんですか?

 見学って言うけど、夜鷹見物したいってことでしょ?

 アンタのと、係長が考えていることと、どう違うんだ!?」

 さらに僕、容赦なくツッこんだ。


「アレと一緒にするなっ!!

 それに俺は、女を買おうなんて考えてないぞっ!」

 僕のツッコみ、だいぶ効いたみたい。

 是田の声は、ほとんど悲鳴に近かった。


 まぁ、是田の気持ちもわからなくもない。

 アレと一緒にされたら、僕だって必死に否定するだろう。

 仕方ないから許してやろうかと思った瞬間……。


「ふーーーーん、なるほど」

 と、これは佳苗ちゃんの声。

「考えていないというのは、無理があります。

『オレっちの手は、女の手をにぎるのと尻を撫でるのが専門でさあ』とか、さっきも蕎麦屋台の元締に言ってましたものね」

「そ、それは違うだろっ!」

 あ、ますます必死だな、是田。


「私め、しっかり聞かせていただきました。

 そして目太様。

 目太様は元締にそう話しているとき、とても嬉しそうでございました。

 さらに私に至っては、比古様の許嫁にされてしまいましたし……」

「嘘も方便って言うだろっ。

 あの場じゃ仕方なかっんだよっ!」

 佳苗ちゃんの追求は容赦ない。

 そして、うん、順当に是田が追い詰められていて僕は楽しいぞ。


 ま、是田が、本気で女を買おうなんて思っていないのはわかっている。

 でも、ここはイジるところだからね。僕は品行方正だから、そんなこと、冗談にしても思いつきもしなかったし。

 ここで、差を付けておかないと。


「そうですよ、是田先輩。

 女性の気持ちってのは、大切にしないといけませんよ。

 それに、佳苗ちゃんは嫁入り前の娘ですからね。僕の許嫁だなんて、あらぬ噂が立ったら困るでしょう?」

 ふふん、僕、乗れる尻馬には乗るよ。

 そのくらいの軽い気持ちで言ったのに……。


「比古様、あなた様はお優しい」

 えっ、なんでそこで涙ぐむ?

「えっ、いや、そんな……」

 佳苗ちゃんの言葉に、僕は尻馬に乗っただけとは言えず、僕、口ごもった。


「吉原に売られようとしていた私を救ってくださったのみならず、その事実が周囲に知られてしまった私めのことを、たとえ冗談でも許嫁と言われても嫌な顔一つせず……」

「ええっ、それは、まあ、その、はい」

 ……そう考えるのか、佳苗ちゃんは。


「さらには、あらぬ噂が立つとまでおっしゃっていただけるとは……」

 えっ、どういうこと!?

 って、すぐにその答えは思いつくことができた。


 武士階級の女性の貞操観念は、やたらと高かったからな。

 吉原に行く覚悟ってのも、農民、町人の娘に比べてものすごいものだったに違いない。そして、父親の葬儀費用を払うためとはいい、一度はその覚悟をしたこと自体が、自分はもう汚れてしまったなんて自責の念に心を炙られる理由になっていたんだろう。

 まぁ、さらには、世間体って奴もあるんだろうし、気丈に振る舞えば振る舞うほど、その自責の念は消えなかったに違いない。


「大変だった過去を、でも、過ぎた過去を、忘れろとは言えないし言わないけれど、気にしすぎる必要もないと僕は思うよ」

 そう僕が、不慣れな言葉をとぎれとぎれに言うと、佳苗ちゃんは目をうるうるさせて頷いた。


 その一方で、「なんでお前がいいこと言って、俺が悪者になる流れなんだ?」って、剣呑な目で是田が僕を睨みつけている。

 仕方ないよ。これは、単なる巡り合わせと偶然だよー。

 僕たちの時間の価値観からすれば、是田だって同じことを思うし言うんだろうけど、タイミングの問題なんだってばさー。

……誤解から始まった、のかもw

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