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時空系公務員の受難  作者: 林海
僕たち、江戸の置き去り……

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第23話 佳苗ちゃんの正体


「『すぱいす』とは、なんでございましょうや?」

 僕と是田の言い争いに、見るに見かねたのだろう。

 佳苗ちゃんがおずおずと僕たちに聞く。

 悪いな、佳苗ちゃん。是田がぽんこつだから、こうやっていちいち揉めることになるんだ。


 僕、佳苗ちゃんの問いに、考え考え答えた。

「うーん、江戸にあるかなぁ。

 胡椒とか、ターメリックとか……。

 そうだ、ターメリックはウコンというらしいです。ばあちゃんが湯呑に粉を入れて飲んでいました。『不味い不味い』って言いながら。

『カレーに入れたら不味くなくなる』って言ったら、『それじゃ薬にならない』って言うんで、苦行かよって思ったんです」

「そういうものなのですね……。

 そのウコンというものが薬なのであれば、薬種問屋に行けばあるやもしれませぬ」

「ああっ、なるほどっ。

 江戸の規模だったら、薬種問屋の品揃え、相当多そうです。

 なんとかなるかもですっ」

 そうか、スパイスは料理材料じゃなくて、漢方薬と同じ扱いなのか。

 僕、これでスパイスの入手ができて、あとは浅蜊とか牡蠣カレーが作れればいいって、一気に問題が解決した気になった。


「なるほど、薬種か……。

 そういや、昔、そんな仕事もしたな」

 さらに、是田が嬉しいことをつぶやいた。

「えっ、それって、どんな?」

 もう、僕の声、生涯で一番うきうきしたものだったと思う。


「俺、前に富山藩で仕事したことがあるんだ」

 そこまで言ってから、是田の視線が一瞬佳苗ちゃんの顔を通り過ぎた。

 ああ、「現時人」がいるから、言葉を濁したんだろうね。


「本来、富山の薬売りが日本中を回りだすのは、今から20年から30年後なんだけどな。

 それでは戦国の世から大阪冬の陣に至る多くの戦傷者が可哀想だということで、常世の神様が関ヶ原のすぐあとから薬が入手できるように時間の流れを整備されたんだ。

 雄世、お前がウチの係に配属される1年くらい前の申請だったな」

 うわっ、佳苗ちゃんに聞かれてまずいことは、みんな常世の神様のせいか!?


 まぁ、いい方法ではあるんだけど。

 でも、これは朗報じゃないかな。是田が薬種問屋とかにも顔が利くなら、スパイスの入手は確定できたようなもんじゃないか。


「じゃ、是田さん、薬種問屋とかに顔が利いて、薬にも詳しいんですね?

 そういやスパイスって、漢方薬なんでしたっけ?

 やだなー、もっと早く言ってくださいよー。

 変に悩んじゃってたじゃないですかー」

「……知らん」

 えっ!?

 なにが?

 なんでだよっ!?


「だって、薬を普及させるルートを作るっていう申請だったから、薬自体はまだろくに生産もされていなかったんだぞ。だから流通ならともかく、俺がそんな薬のコト、知っているはずないだろっ!」

「じゃ、せめて、薬種問屋の知り合いがいるとか……」

 僕のすがるような思いを、是田はたった一言で粉砕した。

「富山藩にならいるぞ」


「ちっ、やっぱりコイツ、使えねぇ……」

 僕の内心の声、思わず漏れてしまった。そんな僕を誰が責められよう?

 みんな是田が悪いんだ。

 だって、またもや的の近くにはいても、的には当たっていないんだからさ。って、いいや、江戸と富山は十分遠いぞっ!


「こ、この野郎っ!」

 今晩、何度目だろう?

 是田がキレて、僕に掴みかかろうと立ち上がった。

 僕も、もう今回は応戦してやろうと考えて、同じく立ち上がろうとして……。


 僕と是田の鼻先を、なにかが凄まじい勢いで横切って飛んでいった。

 そして、2つのなにかはそのまま塗壁に突き立った。細かく震えているそれを見れば、是田が使っていた竹箸じゃねーか。恐ろしいことに、その軽いはずの竹箸は、壁に刺さるときに「どかっ、どかっ」って音をたてた。


 思わず僕、鼻を押さえる。

 いや、当たってはいないんだよ。でも、かすめただけで摩擦熱で煙が上がりそうな勢いだったんだ。

 前を見たら。是田も僕と同じく鼻を押さえて、目をまん丸くしている。


「お止めくださいませっ!」

 佳苗ちゃんの声に、僕と是田は視線だけそちらに向ける。

 したら、佳苗ちゃんの両手には、僕が使っていた箸が1本ずつ収まっていた。

 もう、次弾装填済みかよっ!


「私めが、吉原でこの身をお金に替えますゆえ、常世の方同士での諍いは何卒(なにとぞ)

 お聞き届けいただけないのであれば、次は鼻でも頬でも、当てまするぞっ」

「なんで、吉原と手裏剣が脅しとして並列なんだよっ!」

 僕、両手で顔を覆いながら、思わず思いっきり反論しちゃったよ。


 でもって、佳苗ちゃん、アンタ、手裏剣術なんて極めていたのかよっ?

 非力な女の子に見えていて、両手投げで竹箸を土の塗り壁に突き立てる威力って、どれだけの修練積んだんだ?。

 だから、この時代は嫌なんだっ!

 こういう怖いのが普通にうろうろしているんだから。


 それにしても、可怪しいだろ。

 なんであの女衒に対しては逃げるだけだったのに、僕たちに対しては容赦ないんだ?

 女衒本人よりその借金に対して義理立てしたのか、佳苗ちゃんにそうさせるほど僕たちが醜い争いをしているのか、それとも単に僕たちが佳苗ちゃんに舐められているのか……。

 まったくもー、いろいろすべて、ぜーーんぶひっくるめて冗談じゃねからなっ!!


投げる技はある程度極めると、焼鳥の竹串で蛍光灯のガラスの筒を撃ち抜けるようにすらなるのです。

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