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時空系公務員の受難  作者: 林海
僕たち、江戸の置き去り……

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第11話 すたこらさっさ

 

 僕と是田、顔色、真っ青になっていただろう。いいや、青を通り越して土気色って奴かもしれない。

 今ここで、悪事が語られているんだからね。あとから書類上の不正を発見したってことなら経験しているけど、正面から悪巧みを生で聞いた経験なんて、さすがにないぞ。


 それにさ、話の規模がやたらとデカくないか?

 おそらくだけど、生類憐れみの令と忠臣蔵がなくなるってことだし、これってどのような方法かでもって、将軍綱吉の暗殺ってことじゃないのか?

 で、武士の中でより、奥女中の中での実行の方が楽って踏んでいるんだろうな。



 生類憐れみの令については、綱吉がいなくなればダイレクトに話が終わる。かつては稀代の悪法と言われていたけれど、今の僕たちの時間ではそうは言われていない。

 戦国の血なまぐさい世の中から、農民町人、武士に至るまでが人間としての優しさに目覚め、平和な世の中になる切っ掛けだったと今は高く評価されているんだ。

 だから、この令をなくさせてはいけない。


 忠臣蔵、つまり赤穂浪士の討ち入りについては、綱吉がいないとこの事件は起きない。

 そもそも浅野内匠頭が吉良上野介に斬りつけたのが事の発端だけど、それに対する綱吉の裁定は、浅野内匠頭は切腹、吉良上野介はお咎めなしだった。つまり、両成敗じゃなかったことが討ち入りに繋がったわけだ。

 とはいえ、綱吉からしてみれば、武家という軍人たちを血なまぐさい存在から官僚にさせるための改革の真っ最中に起きた事件だからね。その努力を台無しにした浅野内匠頭を許せなかった、っていう側面はある。

 文字どおりの、「お前、なにしてくれてんの?」ってやつだ。


 ただ、武家という軍人たちによる改革への抵抗は、不甲斐なくも背傷を負った吉良上野介に対する冷遇という形で顕わになった。

 吉良上野介って、結構可哀想な人になんだよ。

 それが、綱吉がいなくなって事件の裁定が両成敗となったら、討ち入りは確実になくなるし、その後の吉良家への徹底した冷遇もなくなる。吉良家自体が幕府にとって不要になりつつあったって説もあるけど、ここまであからさまな冷遇にはならなかったはずなんだ。


 そう言えば、生宝真正氏の住民票は、群馬の安中だったな。旧吉良上野介所領だ。メインの所領は愛知だけど、上野介というだけあって、群馬にも領地があったんだ。


 案外、生宝氏の動機はこのあたりなのかもしれない。

 ついでにいえば、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いで、生類憐れみの令についても冷静に見られていないのだろう。

 だけど、この計画、言い逃れのできない完璧なテロだ。

 ここにいる3人、裁判になったらほぼ間違いなく死刑ってことになる。



 ただ……。

 ここであらためて僕、困ってしまった。

 まずは情報端末が使えないから、今までの会話を録画することもできない。僕たちが口々に訴え出たって、大金持ちの生宝氏とはそもそも社会的影響度が違う。しかも、そもそも証拠の確保ができていない以上、死刑にならないために必死で抵抗してくる生宝氏を押え込めないかもしれない。

 ってかさ、そもそも自分たちの時代に戻れないと、そもそも訴え出られないんだけどね。

 もー、そもそもがいくつ重なるんだよ……。


 時間跳躍機を失った今、僕たちは無力すぎる。

 なんか手はないのかっ?


「ま、この際だ。

 大奥で風呂を覗くとか、ま、()()()の方も楽しまなきゃな」

「手は出すなよ。

 げへげへ」

「状況次第だなぁ。

 出せる状況だったら出しちゃうかもなぁ。

 男日照りで苦しんでいるのがいたら、助けてやるのが男のつとめだろ。

 ぐふぐふぐふぐふ」

 ……こ、こいつらぁ。



 許せない。

 多分、是田もそうだろう。

 そう思って横を見たら、是田が「ふんぬ」ってなにかを決心した顔になったので、僕、その口を押さえて必死に逃げ出した。

 佳苗ちゃんがわけもわからないままだっただろうけど、僕に協力して是田のばたつく足を持ってくれたので、そのまま生宝氏に気が付かれずに逃げ出せたんだ。

 まぁ、悪巧みの相談を聞いちゃっているのは察してくれたんだろうね。


 だってさ……、そりゃあ逃げるよ。

 是田が決心して、独りで生宝氏のところへ踏み込むのは勝手だけど、それをやったら是田は間違いなく殺されちゃう。

 そして、またもやとばっちりを食うのは僕で、その僕も殺されちゃう。

 もう、絶対にだ。

 僕たち、生宝氏から顔を知られているし、生宝氏にしてみたら死刑になるかどうか、死ぬか生きるかの瀬戸際なんだもの。


 僕と佳苗ちゃんに抱えられて運ばれている是田、身体をばたつかせて抵抗する。

 あー、めんどくさっ。

 あんまり騒いだら虫だって鳴くのをやめちゃうし、そうしたら僕たちの存在に気が付かれちゃうじゃないかっ。静かにしろっ。


「むー、むー」

 と押さえられた口を開こうとする是田の頭を、偶然の振りをして立木にぶつける。これで静かになりやがれ。

「むー、むーむー、むーむー、むー」

 って、うるさいっ。

 もう一度だっ。今度は力を入れてやるっ。


 あ、静かになった。

 ふん、自業自得だ。

 そして、かなり無理があるかもだけど、これは正当防衛なんだかんなっ。


 いよいよ、そう、いよいよだけど、あの性悪、芥子係長になんとかしてコンタクトする必要がある事態だ。

 でも、そんな方法あるんだろうか。

 再び僕、くらって目眩がしたよ。


品性下劣だと、げへげへとか、ぐふぐふとか笑うのです。

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