転生
「はは、やぁっと起きたのう?」
「…… こ、ここは?」
目が覚めると知らない空間にいた。
あたり一面が白い空間で、そのほかは何もない、色も無い、少しでも気を抜けば、自分は立ってるのか、横になってるのかさえ分からなくなる。
例えるならば圧迫のない雪の中に閉じ込められてる、そんな感じ。
「まったく、いくら部下達のためだからと、たった1人で殿務めるとか正気じゃないぞ」
なんか俺の頭をバカにしてくる声が聞こえる。
その声の元に目を向けば、後ろ足で立ってる一匹の猫がいた。
そう、猫だ。目の前には白猫が煙管をくわえながら、呆れた眼差しでこちらを見てくる。
因みにブサ猫だ、Noスレンダー、yesファット。
ほのかなピンク色のしてる鼻の下あたりに大きなホクロ?がある。
…ってハナクソじゃねぇかあれ。
「誰がブサ猫じゃい!?…わしゃぁ神じゃ、敬え、にゃっ」
「いやどー見てもブサn〈グサッ〉…」
ブサ猫って言おうとしたらなんか飛んできた。反射的に
裏拳で弾いたら空中でなんかに刺さった。
よく見たらダーツのような尖った形状をした魚だった、ダツって名前だっけ?
「籠手無しでわしのノーモーション狙撃弾くとか…さてはおめぇさん、人間じゃねぇだろ」
この猫、さっきから俺を貶すのだが、どう料理してやろうか…というところで、さっきの猫の言葉を思い出す。
「は?神?」
「あん?…思ったよりそこの反応遅かったのう…。
そ。お前さんが死んだから神様自ら出向いたって訳だ」
そう、か。死んだ人間をお迎えするためか。まさかの人間を迎える神さまがニャンコだとは思うまい。
……ん?
…ん、んー?
「し……死んだ?俺が?」
「そりゃそうじゃて、二十人もいる部下を全員逃がしながら軽鎧と刀一本で練度の高くて重火器持ちの一師団とヤりあって、生還出来るわけなかろうて……。
と言いたいが、ほんとに勝ちやがって、神のわしでもバケモンじゃと思うたぞ…ま、帰還中に餓死したがの。
そこばっかりはやっぱり人間じゃったっちゅーことがや」
呆れながら言われた言葉に頭をフル回転させて記憶を絞り出す。
そうだ、やけに好戦的な隣国からの襲撃に砦が耐えきれず、撤退しようにも銃器の格好の的となるから、隊長の俺が食い止めようとしたんだった。
なんか部下の野郎が俺も一緒に死にますとか言いやがって、勝手に殺すなってうなじに刀の裏面を振り下ろしたっけ。
国王から銃器に使用を勧められたんだけど、あの弾速程度じゃぁ俺レベルの剣士相手だと全部逸らされて切られながら近づかれ、装備変えたりする前に銃器ごと切り捨てなんて、帰ったらカミさんに耳かきしてもらおうかとかくっだらないこと考えながらレベルで余裕すぎだからいらんってなって、さっきの神の言う通り、籠手と胸当、脛当てと刀で挑んでやった。
最新式の耐刃とか言ってたけど、元々ゼリー並みだったのに寒天の量が増した程度でどう防げると思ってんだと思いながらバッサバッサぶった斬ってたらいつの間にか俺しか立ってなかった。
敵の生き残りいないから帰ろうと思って、その帰路の中急に視界がブラックアウトしてたんだ。
「まじか、飢えて死んだとか恥ずかしいな」
「最初の感想それかね?よく聞くけど、戦場でカッコよく死にたいと思うお前さん達騎士に気持ちにゃぁいつまで経っても分からんぞ…。あいや教えようとせんでよろしい。
ていうか、死んだことに何も思わねぇの?」
死んだ事実は変わらない。なら受け入れるしかない。
惜しむらくは敵軍の中の1人が使ってた対物ライフルを逸らしきれなかった事だ。
あれで刀身を半ばへし折られることになってしまった。
「いや、対物ライフルで狙撃されて生きてるのもおかしい筈じゃぞ?
悔やむな誇れよ」
いや、そうは言っても…
「俺の剣術はまだ先があるって知ったらまた精進したいのに、死んだらなぁ…」
「その目標は人間の目標じゃなねぇ、いや、あれか?
まさか弾弾くまでじゃねぇよな?」
「…全てお見通しって事か」
「頭おかしいこの人間(ダツを投げる)」
「ツッコミで人様を殺すんじゃねぇ(バチンバチン)」
猫にドン引きされた。ていうか猫のドン引きってあんな顔なんだな。
「まぁええ、そんなおめぇさんにいい取引がある」
そう言うと、どこから取り出したのか、猫の手には一枚の紙がある。
「なんだそれ」
「まぁ神との契約じゃな、おめぇの住んでた世界とは違う世界、異世界に、おめぇの記憶そのままで転生してもらうってやつじゃ」
「それ、俺になんのメリットがあるんだ?」
異世界に転生して俺は何をさせられるのだろうと思った。
しかし、
「転生っちゅう事は、赤ん坊の状態からってことになるのじゃが、親なしだからそれだとしんどいし、即死やぁから…んまぁ、最盛期辺りでypかろうて。覚醒したその時には既におめぇは覚醒してる。…違うな、この言語ほんっと難しいのじゃが…前世の記憶がある。まぁ、極端に言えば」
………
「おめぇはまた、剣の道を歩めるってことじゃて」
「何すればいい?(即答)」
この神猫の言葉でもういくことに躊躇いはなくなった。
なんでもするぜ、シュッシュッ。
「決断はえぇのう、まぁええ、その方が助かる。実はその異世界にゃ剣と魔法のファンタジーってやつで……あ、分からんか、まぁそこは現地で情報集めてくれや。
んで、魔王っちゅう敵の親玉がいるんじゃが、そいつは軍で立ち向かっても勝てる見込みなしのバケモンじゃて、その為に、その魔王と敵対する国々が勇者という強者グループを形成するんじゃが、そいつらでも勝てん。
そこで、おめぇにはそいつらの手助けをしてもらいたい。
具体的に言えば、各地に迷宮ってのがあって、それらを攻略して魔王の弱体化、もとい魔王軍の縮小を頼みたい。」
「んーあー、オッケーオッケー、つまり魔王っての殺せばいいんだな?」
「いや、そこまでピクニック感覚で請負われると心配なるのじゃが…まぁよい、究極的にゃそうしてもらえればいいかのぅ」
「期限とかはあるのか?」
「いや、まぁ、人類滅亡しなければいいかの」
まじか、人類滅亡とか起きるのか、さすが魔王だな、斬り甲斐があるぜ。
「…もうツッコマねぇからの?おめぇはそういうやつじゃからの、知っとったわ。
あと、生まれた後にステータスと念じてくれい、技能とスキルって項目があるのじゃが、
そこへわしからのささやかな贈り物をしておいた。」
「ステータス?」
「んー、まぁ、個人情報掲示枠と思ってくれ、自分の情報は他人には見えないからの」
「了解、もう行けるのかい?」
「おう、そこの紙の下におめぇの指紋の跡付けるところあるから、押してくれたら転生開始じゃ」
「よし、いくぞ」
猫から渡された紙に指を押し当てると、その指から光の粒子に変わってくる。
「心せよ、次の世界にゃおめぇよりつえぇ奴は五万といる。決して井の中の蛙となるでないぞ」
パチンッと神様が指を鳴らすと自身の身体が白く輝いた。(あと今更カッコよさげな顔出されても遅いんだよなイロイロ)
やがて意識が遠退いていく。
短かった人生が終わり、新たな人生が幕を開ける。
猫神がさっきからずっと刺しっぱなしだった魚のダツを引っこ抜いて咥えながら手を振ってくる。
そういえば何もないところから出しているが、あれが魔法ってヤツか?
そう思った次の瞬間には俺の意識は完全に闇の中だった。