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69話 まさか、ね

「はいはいはいはーい。券はこっちでチェックはそっちのオークでお願いしまーす!」


 探索者の群れだよこれ。

 しかも列を作る様子もないし、目の前で喧嘩始めるし……。

 折角チェックが済んだ人もヤバい探索者にボコられて……券争奪戦、バトルロワイヤルみたいになってんじゃん。


「見苦しいですねえ。でも、こういう雰囲気は嫌いじゃないですよ」

「社長、あんまり近づくと巻き添え喰らいますよ。ここは上より強い探索者で溢れてますから。さっきうちの探索者が踏んづけられて気を失ってたの見たでしょう」

「あれはあいつが弱すぎただけですよ。まさかあんなに情けない奴がうちの会社にいたなんて……。一回探索者の能力をしっかりチェックする必要があるようですね」

「あれだけ人が押し寄せていれば、ああなるのも仕方ない気が……ここまで楽に来れたのは社長がちょっと異次元過ぎるだけなんですよね」

「ん?…何か言いましたか?」

「いや、別に何も」

「そうだ。どうせなら鈴木さんの実力も見てあげましょう。ここにいる探索者達の争いを止めて見せてください」

「えーっと。それはちょっとしんど――」

「出来ないんですか? 一応あなたには部長という役職を与えてますよね? これくらいも出来なければそれを取り上げないといけませんかね?」

「わ、分かりました! 精一杯頑張らせていただきます!」


 荒れているこの階層の奥で他人事の様に辺りを見回す2人の男。

 遠目で見辛いけど、片方は見た事があるような……。


「殺さずに鎮圧だけならちゃんとした武器は使えないし、でも素手だと流石に探索者相手だと……これでやるか」


 へこへことしていた方の男がその辺に落ちていた太めの木の枝を拾って、軽く曲げたり叩いたりして強度を確かめる。

 ここのダンジョン内は基本洞窟のような内装になっているけど、草花や木々がちらほらと生え、それ目的で侵入してくる人も少なくはない。

 さっきからオークがチェックしている探索者達の半数以上はドラゴンではなくこういったものを持ってくる。

 そりゃあどれを持ってきても同じ評価なんだからわざわざ危険を冒す必要はないっていう話。


 別に持ってくるものは何でもいいけど、ここの階層で拾ったものはチェック対象外なんだけど――


「ふぅ……【閃】!!」


 男の姿が消え……てはいないけど、スキルによる攻撃なのか、ニンゲンでは不可能と思える程速く、しかも地面を滑るように移動を始めた。

 その手に握られた木の枝で争っている他の探索者達の顎、鳩尾、脚を強打して周っているようで、次々に探索者達は地面に伏していく。


 多分速すぎて避ける暇も無い、いやそれ以上に動きを目で追う事も出来ていないのかもしれない。

 レベルを上げているおかげなのか、俺にはその動きがなんとか見えてるし、避ける事だって――


「はあっ!!」

「ってこっちも狙ってくるのかよ!!」


 木の枝が俺の顔を狙って振り払われる。

 咄嗟にしゃがんで避けれたけど……この人、もしかして券を独り占めする気じゃないだろうな?


「避けられた!?」

「何なんですか!? 券上げませんよ!」


 男は足を止めて俺の正面に立った。

 他の探索者は見事に無力化されてしまっている。


「券はいりません」


 一番恐れてた事態。

 ここにやたら強い『橘フーズ』の人が来るパターン。


 このパターンになったら動画の音声だけ先に切らないいけないんだっけ。

 全部垂れ流すと参加者が減っちゃうからな。


「えーっちょっと変わった人が来てしまったので対処させて頂きます。個人情報出るかもなんで音声だけ切りますね」


 オークにその内容の手話を送り音声を止めさせた。

 本当はこういう事態になる前に神様が戻ってきてくれるのが最高だったんだけど……まぁ見せ場が出来たと思って頑張るか。


「すみませんけど、まだここ以降の階層で頑張ってるイベント参加者の探索者とか今から来る人がいるんでここは通せませんね」

「……いやはやイベントを通じてあんな人数を呼び寄せるとは思いませんでした。ここで乱闘している探索者ならまだしもいそいそとここに来ようとしている若い探索者とかに手を出すのは忍びなかったですし、そもそも人数が多すぎて今みたいに何とか出来るもんでもなかったです。いやあ本当に面倒な事をしてくれますね」

「それもこれもあなた達をここに来させない為の作戦ですからね。でも来てしまったなら……」


 俺は武器を取り出して、構えた。

 すると、男は再び同じスキルで攻撃を仕掛けてきた。


 動きは追えるし、なんとか急所を外させる事も出来る。

 ただやり返すのは難しすぎるな。


「いい動きですね。俺はこれでもA級探索者なんですけどね」

「A級ですか……。でもうちのトップより弱いっすね」

「煽った所で無駄ですよ。俺のストレス耐性は尋常では――」

「止めなさい」


 男がもう一度スキルを使おうと構えた瞬間だった。

 いつの間にか、もう片方の男が木の枝を掴み攻撃を止めたのだ。


 ってこの顔……。いやまさか、声も違うし……まさか、ね。

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