67話 ドラゴン大量です
「今、上から凄い声が……コボの奴大丈夫なのか?」
「あれでレベルは高いですし、魔剣もあります。認めたくはありませんが実力は僕や細江と同程度、きっと大丈夫ですよ。さぁ、心配してても仕方ありません。早く下に向かいましょう」
ドラゴンのけたたましい鳴き声を聞きながら俺達は先に進む。
出てくるドラゴンの強さを見極めながら残ったオーク隊、コボルト隊を各階層に残し、遂に残ったのは数匹のコボルトと小鳥遊君、俺。
階層は49。
結構な数を用意したと思っていたけど、ギリギリもいいところだな。
「――あっおじさん! ……そうか、煽ったのが逆効果になっちゃったかぁ」
49階層の中腹。
ドラゴンの背に乗りながらのんびりとしているのは『橘フーズ』副社長の橘伸二。
相変わらず緊張感がないというか……軽い奴だな。
「てっきり『橘フーズ』に移るって言いに来たのかと思ったけど……そのお仲間さん達を見るに強行手段に出たって訳だ」
「ご明察。このダンジョンにいる『橘フーズ』でテイムされたドラゴン橘は殲滅。俺がダンジョンを踏破して状況を全部上塗りしてやるよ。そんでもってここを占拠。そっちの財源を奪って逆に脅させてもらう」
「野蛮なやり方だねえ」
「それをお前だけには言われたくはなかったな」
「それでどうするの? 戦うの?」
「勿論だ」
「そっか。じゃあ俺はこの先に用が出来たから……おじさん達はこの子達が相手をするよ」
指がぱちんと鳴らされると奥からドタドタと騒がしい音が聞こえてきた。
滅茶苦茶嫌な予感がするのは俺だけじゃないよな。
「それじゃ、死なない程度にボコしといて」
「おい待て!」
「多分おじさん達の仲間が各階層に散ってるんだよね。だったらその処理を急いでしないと……あー本当面倒な事してくれたよ」
俺が引き留めようと声を上げてももうそれを聞こうとはしない。
奴の言い方からすると、今の状況をひっくり返す何かがこの先にある。
それをされたら作戦が水の泡。
何としてでも追い付いて止めないと……。
「「ぎがああああああああああああっ!」」
「――なんだよこの数……」
入れ替わりでやって来たドラゴンはおおよそ20匹。
飛んだり地中に潜ったまま移動するような奴までいる。
地中に潜って顔だけ出してるのはおそらくスキルが関係しているんだとは思うが……壁抜けか。ロマンだよな、それ。
――ぼぁっ!
――ごぉっ!
あまりのドラゴンの強さと数に圧倒されていると、ドラゴン達は大きく口を開き、各々赤と青どちらかの息を吐き出す。
焼かれる地面に凍る天井。もうここが熱いんだか寒いんだかもわからない。
「火と氷の多重攻撃か……。火はまだしも凍らせられるのはまずいな」
「神様! まずは階層内に火が回らないように火の息を吐いている個体からお願いします!」
「分かった! 小鳥遊君達も気をつけて」
「了解です」
まずは火の息を吐くドラゴン達に近づこうとするが、そうすると他のドラゴンが邪魔をして道を塞ぐ。
しかも地中に潜れるドラゴンがこっちをからかうようにチクチクチクチクと俺の体を尻尾で叩いてダメージを与えてくる。
とはいえ痛みは殆んどない。
ただこのままじゃ近づく事もままならな――
――ヒュンッ!
俺の横辺りからとてつもない勢いで剣が投げられた。
するとそれは火を吐くドラゴンの1匹に命中する。
ドラゴンが攻撃を中断して痛みに喘いでいると、次々と俺の後ろから剣が投げられる。
「こいつらは直ぐにまた火を吐いてくるはずです! 今のうちに神様は下へ!ここにいたら相当な時間をロスする羽目になりますよ!」
「「があ!」」
小鳥遊君の言葉の意味を理解してなのかコボルト達はそれに続けて吠えた。
「でも、これだけのドラゴンをこの数だけじゃ……」
「大丈夫です! 僕これでも強くなってますから。あっ丁度いいや――」
地中から現れたドラゴンに小鳥遊くんは目を向けると、持っていた剣であっという間に硬い鱗を切り裂いた。
力はそこまでいれているように見えなかったけど……。
「一ノ瀬さんとモンスターを研究していてそのモンスター柔らかい部分、弱点っていうのが分かるようになったんです! コボルト達は言葉が分かるみたいなので、指示を出しながらなら勝てます! だから先に行って下さい!」
「……分かった、ありがとう。絶対に死なないで」
「了解です」
俺は小鳥遊君達にここを任せると、1人最下層に進むのだった。