55話 テツカミバチ?
「はぁはぁはぁはぁ……土蜘蛛のこの脚きゅんとくるわぁ」
「きゅん? それは土蜘蛛の脚を見てるだけでなれるんですか?」
「そうなんです! 良ければ小鳥遊さんも一緒にどうですか?」
「モンスターもこの辺りは湧いて来てませんし、僕で良ければ御一緒しますよ」
「おっ! 小鳥遊さんもこれでモンスターの観察と剥製作りの沼にハマりますよぉ!」
「沼にハマる!? それはダメージを受けるって事ですか?」
「ええっと、HPは減りませんけど……つまり心を射ぬかれるみたいな事です!」
「なるほど。僕は趣味で美術館に行く事があるんですけど、その時はもう独創的な絵画に射ぬかれて射ぬかれて……。この間も素敵な出会いをして1枚購入してしまったんですよ」
「ハマればそれと同じ感動、そして大金を出してでも剥製を手にしたくなりますよ」
「……それは興味深いですね。えっと、土蜘蛛の特に脚がいいんですよね?」
「脚もですけど目とかお尻も最高ですよ!ほら、土蜘蛛のお尻は自分の弱点なんですけど、それが相手から見て少しでも小さく映る様にストライプ模様になってるんですよ! どうですか? 生きる為の知恵が体に刻まれてるんです!」
「これは……面白い!」
ちょっと休憩をとっていると小鳥遊君と一ノ瀬さんが意外にも仲良さ気に会話をしていた。
全然違う性格同士だから仲は良くないかと思ってたけど そんなことなくて安心……じゃなぁあいっ!
小鳥遊君がやべえ趣味に興味持ち始めちゃったじゃん!
いらないんだよもう、そんなに濃いキャラクターはさあっ!
っていうか小鳥遊君お堅すぎるにも程があるだろ!
あの一ノ瀬さんがたじろぐレベルで言葉の意味知らないのは流石にどうかと思うよ!
後一ノ瀬さんの豆知識が本当にちょっと知的なのがまた腹立つなっ!
あーツッコミ疲れた。
……とにかくモンスター好き趣味を小鳥遊君が理解しないうちに早いとこ休憩を終わらせたいけど、今休憩入ったばっかりだからなぁ。
あぁなんかないかなんかないかなんか――
「あれってあれだよな?」
辺りを見回していると、奥の茂みに生える一本の木にあり得ないくらいデカい蜂の巣を見つけた。
チョロチョロと出入りする蜂に似たモンスターの手には黄色いドロッとした塊が見られる。
普通の蜂って確か口で蜜吸ってるんじゃなかっけ?
やっぱりダンジョンのモンスターともなると風変わりな奴が多い。
「それでそれでですね――」
「あ、すみません。ちょっと待ってもらってもいいですか? ……神様、もしかしてモンスターが出ましたか?」
小鳥遊君っ!
あんたって人は筋金入りの探索者だよ!
やっぱりモンスターの剥製作りより狩りだよなあ!
「結構遠いんだけどあそこに……。蜂みたいだけどサッカーボール位のデカさはあると思う。巣はそんなのが簡単に出入りする位デカい。木々で丁度影になってたみたいだけど1回存在を認識すると目立ってしょうがないね」
「本当ですね。でもこれはチャンスですよ。巣って事はそれだけ多くのモンスターがいる。場合によってはボスみたいなモンスターもいるかもしれません。そういったモンスターは総じて取得出来る経験値の量が多いですし強いモンスターは……ちょっとワクワクしますね」
孫●空じゃん。そんなのもう。
THE探索者なのはいいけど小鳥遊君思ったより戦闘狂なのよなぁ。
体格もいいし勝手にバーサーカーってあだ名付けようかな。
「おおっ! あれってテツカミバチの巣じゃないですか!」
俺と小鳥遊君が巣を見つめながら話していると一ノ瀬さんがいっそう高いテンションでそのモンスターの名前を言ってみせた。
色々知ってそうな雰囲気があるからちょっとつついてみるか。
「テツカミバチ? 一ノ瀬さん知ってるんですか?」
「はい! 普通の蜜蜂と違って手に触手が付いていてそこから花の蜜を吸うモンスターで、体内に運ばれ貯められた蜜は酸素や体液によってドロッととろみが付くらしいです。味は市販の蜂蜜よりスッキリとしていて、それでいて癖のない甘さが特徴なんだとか。あと触手は人間や他のモンスターと戦う時にも使われて、鞭のように攻撃を仕掛けてくるそうです。因みになかなか見つからない、1度倒すと次のスポーンまでの時間が長い、というのが特徴で相当レア。テツカミバチの蜂蜜は希少価値が高くて取引価格は燕の巣と同じかそれ以上になるそうですよ」
一ノ瀬さんめっちゃ詳しいな。
モンスターの体に興味があるってだけじゃなくて博識なのは恐れ入った。
さっきの豆知識の時は苛立ちすら感じたけど、今回のはただただ感心してしまった。
そして今の説明で俺は1つ確かめてみたい事が。
「あのモンスターの蜂蜜……そんなに高い食材ってどんだけ旨いんだろう」
「神様もやっぱり味が気になりますよね」
「私も食べた事がないので、食べてみたいです!パンケーキにたっぷりかけたら美味しそうぉ」
飲食店勤務の性なのか、やっぱり味が気になるよなあ。
よし。あの巣、持ち帰っていっちょ俺がパンケーキを焼いてやるか!
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