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46話 コボルトのとろとろすじ肉カレー

「売り上げは上々店自体も流行って言うことなしだな。正社員にも住宅補助出して上げようか。優夏ちゃんもうちに就職しないかい?」

「え、いいんですか?」

「宮下よりフロアの仕事出来るし、正社員登用すぐに責任者にしてもいいと思ってる。宮下も見習ってフロア仕事をだな」

「いやいやいや、俺元々探索者ですよ!」


 休憩室の他愛もない会話。

 そう、肉の生産がシステム化された今、俺はモンスターを締める以外の時間をフロアスタッフとして過ごすようになっていた。


 いや店が繁盛するのは嬉しいけどさ。

 このままじゃ、探索者っていうアイデンティティがなくなりそうなんだけど。


 小鳥遊君と細江君に至ってはもう丸1年くらいダンジョンに潜ってないんじゃないの?


「あ、お疲れ様です」

「あれ? 細江君、今出勤?」

「いや、今日は俺が動画の撮影担当だったんでダンジョンに行ってました。夜は店に出ますよ」

「そうなんだ、じゃあ今日は結構ハード……え、ダンジョン行ってたの?」

「はい。まだまだ神の域には到底及びませんけど、結構レベルも上がったんですよ!最近は小鳥遊先輩と制限時間を決めてどこまで深い層に潜れたか勝負したり、どっちが美味しい食材を見つけられるか勝負したり、そういった企画の動画が再生数伸びるんですよ!」


 ……いぃいいいいいなぁあああああっ!


 俺もダンジョン行きてえっ!

 動画の撮影とか最初は俺の仕事だったじゃん!


 何で何で何で何で何で俺ずっとフロアスタッフの業務やらされてんの?


「そ、そっかじゃあ今度は俺もそれに混じっちゃ――」

「宮下君は派手だけど爆発とかモンスターの飛び散る様とかとにかく画面が見辛くなるからダメ。それに画に緊張感がない」


 休憩室に遅めの昼食を持ち運んできた景さんに早口でダメ出しされてしまった。


 確かに前にアップロードした動画は見辛かったけど……そこまで冷たく言わないでもいいじゃん。


「宮下君は人当たりがいいから特別な事がない限りダンジョンに行かなくていい。フロアの仕事も板についてきてるよ」

「そう言ってくれるのは嬉しいんですけど……」

「と、とにかく冷めないうちにこれ食べて夜も頑張ろ」

「……はい」


 俺の返事を聞いてふぅっと息を吐くと、景さんはおぼんに乗った賄いカレーを配り始めた。


 なんでか店長と優夏ちゃんがくすくす笑っていたのが滅茶苦茶気になったけど、そうだな、何はともあれ飯だ飯!


「それにしても今日も旨そうですね」

「うん。自信作だから」


 アルバイトの人が増えた事、肉の処理が魔剣によって大幅に楽になった事、それがきっかけで最近の賄い飯は以前より凝っている。


 今日のカレーも朝の準備が早々に終わったからっていって景さんが営業前から仕込みを始めて、営業中も手を掛けていた。


 パッと見は具が少ないカレーだけど、調理過程からしてかなりの野菜が溶かし込まれているはず。

 それに浮かんでるコボルトのすじ肉は見た目だけで柔らかい事が分かる。

 上に乗った温玉と混ぜ合わせて食べる事を考えただけで涎が溢れる。


「いただきます。……おっほ、カレー屋のカレーより旨いですよこれ!」

「それは誉めすぎ」

「いやいや、肉の脂と沢山の野菜から出たコクと甘味、それらからこそっと顔を出す辛味が本格的で、それでいて日本人好みの和の香りも感じられるから凄い食べやすいです。コボルトのスジ肉もとろとろでルーによく絡んで……いやぁ旨い。辛いのが苦手な人でも温玉があるとかなりマイルドになりますし、万人受け間違いなしですよ!」

「本当だっ!俺あんまり辛いの得意じゃないんですけど温玉と野菜と肉の甘味でめっちゃ食べやすいです」

「細江君まで……。おかわりもあるからゆっくり食べて」

「「はい」」

「ふふ、でも本当は卵ももう少し凝りたいなって。安い卵だとカレーに卵自体の味が潰されてる気がして。でも良い卵って割高で何だか勿体な――」

「卵なら最近ダンジョンで見ましたよ。コカトリスっていうモンスターの巣で見たんですけど、あれ旨そうだなって思ってたんですよ」


 意外な方向に話が進む。

 これもしかしてチャンスなのでは?


「つまり細江君でも卵は取れなかったって事かしら?」

「そうなんですよ。コカトリスは蛇の顔をした長い尾から毒液を吐くので近づくのもヤバくて、卵どころか逃げ帰るのが精一杯でした。あれは耐性があるか、それなりの防具を揃えないと」

「細江君、毒液なら宮下君でも無理かもしれないよね?」

「どうですかね、神のステータスは異常ですし、毒液を浴びても回復するまでHPが持つんじゃ――」

「そうだよな!じゃあ久々に神の威厳を見せてやるかっ!店長、明日はダンジョン行っても良いですよね?」

「まぁ人は元々足りてるし、卵は色んな料理に使うからな。ただ……いやなんでもない」


 景さんが細江君にダンジョンは危険というのを喋る様に誘導をした気がしたから俺は隙をついて咄嗟に話しに割り込んだ。


 景さんはぎろっと細江君に目を向けているけど、細江君はそれに気づいていないみたいだ。


 っていうか景さん俺にどんだけフロアの仕事させたいんだよ。

お読みいただきありがとうございます。

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