43話 コボ超スピード
「あっ! こんちわっす神様! あれ? 何か珍しいモンスターと一緒ですね。というか上からって……」
「これからちょくちょくここに来ることになる遠藤だ。後輩だからって虐めるんじゃ――。ん? コボ、遠藤がモンスターって言った?」
「ええ。モンスター特有の匂いっていうんですか、モンスターはモンスター同士で分かる事があるんですよね」
「コボルトが……喋ってる――」
暴走気味の一ノ瀬さんを仕事場に押し込んで、遠藤をコボに紹介するとコボは遠藤がモンスターである事を見抜き、不思議そうな顔を浮かべた。
遠藤はそんなコボに対して驚いている……そうだよな、モンスターがしゃべるって普通じゃないよな。俺達の感覚がちょっと狂ってんだよな。
「そういうもんなのか……。遠藤、こいつはコボルトのコボ、養殖場のリーダー的な存在で肉の生産について指揮を執っている。提携の際の肉の供給量についての相談はコボを交えて話し合う事になると思う」
「コボルトがコボルトの肉の生産……それ倫理的にどうなんだ?」
「モンスターの世の中弱肉強食ですよ。弱かったら食われる。それはどの個体も生まれたときから刷り込まれてる事で、同じ種族同士でも同じ。余裕があれば別ですけど、腹が減ってる時はガンガン同種族も食べるのがモンスターってやつです」
共食いに関しては俺も思うところがあったけど、そういうもんなのか。
「だからあんまり気にしないでください。ってなわけでよろしくお願いします」
「あ、ああ」
コボが手を差し伸べると遠藤は恐る恐るそれを握った。
マグちゃんと比べてコボの対応が柔らかいのは助かったけど、ちょっと不気味だなぁ。
なんかいい事でもあったのかな?
「今日はコボルトの肉の生産状況を遠藤に見せて、あと新しい肉の生産について話していこうと思――」
「神様、その前にあれがあるんじゃないですか、あれが」
「あれ?」
「いやあ、勿体ぶらなくてももいいですよ! マグの奴にマウントとられるのもこれで……ふふふふふふふ」
すっげぇ不気味に笑ってるんだけど。
何この子。キモイんだけど。
「えーっと。ごめんマジで分からないんだけど」
「!? もしかして、俺の事を非常食にする為にテイムしてくれない気ですか? そんな、頼みます頼みます頼みます! 俺の事もテイムしてください!」
一気に汗を拭きださせて、懇願するコボ。
あー、多分遠藤がテイムされてるのを見て、自分も行けると思ってるのか。……。
「その期待してるとこ悪いんだけどお前はまだテイム出来ないんだよ。コボルトのいるダンジョンは踏破してないから……。ま、まぁ別に非常食にするつもりはないから」
「……そ、そうですか。はは、大丈夫です。じゃあ、コボルトの肉をとりに行きましょう。ほら、遠藤もこっち来て。……はぁ」
コボは特大のため息を漏らしながら、肉の生産部屋に案内を始めるのだった。
◇
「肉の生産状況は分かった、分かりました。店用の肉の事も考えると、これはちょっと少ないですね」
「だよなぁ」
遠藤はコボルトの肉の取得状況を見て呟いた。
あれだけの企業とコラボ商品を出すってなれば、販売の規模は大きくしたいはず。
やっぱりこれだけの肉じゃ足りないよな。
使う部位とかの事もあるし、いくら商品の内容量を減らしても、今から貯蔵を始めても流石に……。
「コボ、今より肉の生産量を増やす事は出来そうか?」
「うーん、発生装置から出るコボルトの数も、装置が稼働する時間も限りがあるので、ちょおっと厳しいですね。そもそも、肉の処理の事もありますから」
「そうだな。肉の処理を外部に任せるとなると、それでまた費用もかさむしな……。もっと肉の処理を簡単に、あと出来る人員が内部に増えればいいんだけど」
「もし、急ぎじゃないんなら、ゴブリンは無理なんでコボルト達に仕込ませる事は出来ると思います。あいつら、喋れないんすけど頭はそこそこいいんで」
「時間かぁ。コボ、それは大体どれくらいかかると思う」
「数ヶ月から半年位じゃないですかね?」
俺達の会話を聞きながら遠藤は渋そうな顔を見せる。
そんな顔されても俺達が困るんだけど。
ちょっと空気も重いし、先に最下層で手に入れたオークの発生装置と生産について――。
あ、そういえばコボルトの発生装置って最下層のやつじゃないんだよな。
なら、あのダンジョンの最下層に行けば装置は手に入るか。
コボのやつもテイムモンスターにしてほしそうだし、次のダンジョン目標はあのダンジョンの踏破で決定でいいかも。
そういえば、俺は宝箱から発生装置を手にいれてるけど、他の探索者もあれ手に入れてるんだよな。
使ってる話は聞かないし、捨ててる? 倉庫番にしてる? もしかしたらダンジョン内以外に入手先があるかもしれない。
「あ、そういえば俺の使ってた包丁が研いでも研いでも切れ味が悪くて……お手数なんですけど、新しいのもらったり出来ます? それと肉を捌く練習をさせるように追加であと数本あればいいんですけど」
「分かった。……そうだ、取り敢えずその包丁の代わりに……これ使ってみろよ」
俺はアイテム欄を開くと宝箱から入手した魔剣を取り出してコボに手渡した。
魔剣には青色の石が刀身の中央にハマっていて中二心をくすぶる見た目をしている。
確か青色は使用者を強化するバフ効果があるんだっけか。
「おおっ! こんなに立派なもの……ありがとうございますっ! じゃあちょっと今神様が仕留めた奴を……」
コボは生産状況を見せる為に殺したコボルト【RRR】に魔剣の刃を当てた。
すると……。
「え? すっごこれ……」
いつもなら面倒な血抜きを魔剣が血を吸う事で一瞬で終わり、コボの腕はあり得ない速さで動いて、あっという間にコボルト【RRR】の毛皮を剥いで部位ごとに分けてしまった。
――ヒュン
「普通に振るスピードは変わらないですし、攻撃力も上がった感じはしないんですけど……。俺の捌く技術だけ異次元に――」
「おそらく、コボは肉を捌くスキルだけを持っていて、それを自動的に強化したんだろ、だと思います。このスピードで肉の処理が出来るなら早さに関しては問題ないかもな、かもですね」
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