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38話 オーク涎で瞬間接着剤

「はぁはぁはぁ、ま、て……待ちやが、れ、待ってください」

「ぶもぉっふ」


 飯食ったばっかで走ってるから横っ腹が痛い。


 でもあの小馬鹿にするような笑い方をされたら止まるのも癪に触る。


 くっそ、直接ぶん殴ってやりたいけどもう【ファイアボール】で仕留めちゃおうか。


「豚の丸焼きにしてや――。って消えた?」


 俺が手を翳してファイアボールの溜めに入ろうとした時、小さいオークが突然姿を消した。


 よく見れば、小さいオークの走っていた先には小さな空洞。

 ここからだとほぼ黒で見えにくいあの空洞に小さいオークは入っていったのだろう。


「ん、これは流石に入れないなぁ……。っしあのオークごとここもぶっ壊してやるかっ! ――【ファイアボール】っ!!」


 俺は空洞の入り口に向かって全力で【ファイアボール】を撃ち込んだ。


 あっはっはっはっはっ!!

 さぁ怯えろ! 驚嘆しろ! 絶望しろ! 泣きわめけ!

 芸術は……爆は――


「爆発しないんだけど……」


 空洞の入口部分の壁は完全に吹き飛んで狭かった入口は人が普通に立って通れるくらいに拡張された。


 入口と違って中は思ったより広そうではあるけど……その奥に見える壁部分が全く削れてないな。


 全力で撃ったのに削れていないってことはダンジョンの最下層にある水晶と同程度の硬度があるのかもしれない。


 問題は何でそんな硬い壁でこの空洞が作られているのかってとこだけど……。


「ここまでの作りで罠ってことはないよねぇ?」


 俺は自分を信じて一歩、また一歩と踏み出した。


 ――空洞の中は水晶と同じ色、光で照らされて目がチカチカする。


「逆に見えにくいってこれ……。若干坂になってて躓きそうだし……」


 ん?

 坂って事はこれ下ってるよね。

 もしかしてゴブリンの時と同じでこれが最下層に繋がる道なのかも……。


 ダンジョン探索の運だけはあるのかもしれないな俺。



「ぶもぉっ……」

「お前……。ふふふふふふふふふ、やっと追いついたぞ」


 暫く空洞の中を走るとようやくあのオークの姿が見えた。

 疲れたのか、唾液を溢しながらペタペタとゆっくり歩いている。


 これなら顔面に強烈なやつをお見舞い出きるぜっ!


 俺は残ってるスタミナを全部使いきる勢いで小さいオーク目掛けて駆け出した。


 ずっと姿が見えなかった目標がいるからか、何だか足が勝手に進む、進みすぎる……。



 ――あっこれ急斜になってるわ。



「止ま、止まらららなぁーーーーーっい!! ヤバ、落ち落ち落ちるうぅぅうううう!!」


 光の所為とはいえ、こんな事に気づけないとか一生の不覚かもしれな――


「ぷっーくすくす、ぶもっぶもっ!」


 てめえこのオークごらあ!!

 さっきまでのは疲れた振りだったのかよ!

 てかなんでお前は普通に歩いて行けるの!?


 俺は勢いよくオークを抜き去った。

 抜く時に聞こえた憎たらしい笑い声に危機感より苛立ちの方が上回る。


「ヤバい地面っ! くっ!と、と、止まっ――」


 頭から転びそうになる身体を必死に脚をブレーキにしながら止めようとするけど、残念ながら全く意味がない。


 それどころか地面に身体が近づいた瞬間、全身が浮遊感で包まれ、そして目の前の光景がガラッと変わる。


 せめて受け身をとろうと右肩側から身体を前転させようと動かしてみるが間に合いそうもない。


 はぁ、打ち身で済んでくれればいいなぁ――



 ――べちょ。



 べちょ?

 あれ? 痛みが殆どない。勢いも死んでる。そんでも

 って身体がベタベタ……助かったけど、これ何?


「透明で弾性のある……スライム? じゃないな、これはさっきあのオークも出してた……」

 

 ――涎。

 間違いなくこれはオークの涎。


 ……汚なぁっ!!

 涎のクッションきったねぇ……。

 何か変な匂いするし、ボンドみたいな変な粘着性があるし――


 そういえばさっきオークが急斜面を歩けてたのって、この涎を使ってたのか?


 なるほどね。

 オークだけが行き来出きる特別な道、しかも他の生き物に怪我をさせて、そこを襲うトラップでもあると。


 でも残念、お前らが残した涎のお陰で俺は無傷。

 詰めが甘いのよ詰めが。


「どっこいしょっと……。あれ?」


 涎から身体が離れてくれないどころか、身動きがとれない。

 涎は本当にボンドや瞬間接着剤のような効果があるらしい。


「なら、地面ごと抉ってや――」

「ぶ、も……」


 弱々しいオークの鳴き声。

 これはさっきのオークとは違う個体だ。

 声のする方は……隣か?


 俺はそっと顔だけ右に向ける。


 すると、そこには俺と同じように涎で身動きが出来ないオークがそこかしこに。


 ――しかもあれって……


「遠藤……」


 涎で拘束されたオーク達のずっと奥。



 ――クチャクチャ、げふぅ。


「ぶもぉ……。ぶふほほほほっ」



 壁の上で張り付けになる遠藤の姿と、その横にある水晶の上で偉そうにそして満足そうに腕組みをしながら不適に笑う1匹のオークの姿が俺の目に映った。


 今喰ってたのは……オークの腕?


 ――おいおいおい、オークの肉を生のまま喰って満足してるようじゃお前は真のグルメになれそうもないなぁ!

お読みいただきありがとうございます。

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