29話 スライム君さぁ……
【ファイアボール】を喰って徐々に膨らむトロル。
俺はというと目眩に加えてこめかみの辺りに頭痛まで起き始めてきた。
発射したり、発動するよりも溜めの時間が一番辛い。
その所為でどうしても最大溜めじゃなくて、細かく刻んで発射してしまう。
だけどトロルのその腹は……。
「お前もう限界なんだろ?俺はまだまだ行けるぜ」
「が、ご、ずう゛う゛う゛う゛う゛う゛っ……」
トロルの額から汗と涙が零れて落ちる。
こいつは間違いなく限界、逃げないのは多分腹がいっぱいすぎて動けないって事だと思う。
……何かこの戦い方はドラ○ンボールのヤ○ン戦みたいかも。
確かあれだとエネルギーを喰いすぎて――
――パァンッ!
そうそう、こんな感じで弾けてやられるんだよね。
「っつう……ちょっと意地になり過ぎたかもな。肉は無理だけど魔石だけは回収し――」
弾けたトロルの一番大きな破片に近づくと、そこからドロリと赤い何かが飛び出してきた。
血?
それにしては色がオレンジがかっているし……こいつスライムか?
俺はどこかへ移動しようとするスライムにそっと近づいたけど、スライムは恐ろしいほど素早くその場から逃げてしまった。
あれってもしかして滅茶苦茶レアなモンスターだったのかも……。
あぁはぐれメ○ルに逃げられた時の事思い出しちゃったじゃん。
あれも台パンしたくなるくらいイラッとするんだよな。
「……追いかけるか。これゲームじゃないし、どこまで逃げても結局最下層でお見合いするもんな。あと9フロア……持ってくれよ俺の脚ぃいいいい!!」
流石にここまで飛ばしてきて張りを感じる脚に無理をさせながら俺は階段を見つけ掛け降りていくのだった。
◇
「はぁはあはぁああ、ん、ぐあ、おえっ、く、はあはあはあ……ふぅぅぅ」
ヤバい無理しすぎた。
途中軽く足つったし、なんか吐きそう。
やっぱ歳には勝てないなぁ、喉の奥が酸っぱいのなんのって――
「でも着いた、最下層」
ゴブリンのいたダンジョン【NO1】の時はあんまり意識してなかったけど、最下層は壁が魔石みたいなものでキラキラと光っていて幻想的。
薄暗い事もあってプラネタリウムに似てるかな。
ロマンチックな雰囲気はモンスターさえいなければデートに使いたいレベル。
まぉ俺彼女いないんですけど。
「これで水晶に触れればダンジョン踏破だ。えーっと水晶は……あった!」
辺りを見回すと台座の様なところに水晶が飾られていた。
この前までコボルト1匹をなんとか倒せるってレベルだったのに、これで2つ目の踏破か。
思い返すとあの辛い辛いひびを思い出して感慨深――
――じゅうぅぅぅぅ
くっさ、何だこの臭い。
焼けるような溶けるような音と一緒に俺の鼻腔をツーンとする臭いが刺激した。
「どこからだ? ……もしかしてっ!」
俺は音の元を辿りながら水晶の元まで走って駆け寄った。
もし俺の予想が当たっていたとして、それが手遅れな状態だったら……。
マジで! ほぉんとうに、最悪なんですけどっ!
勝手におねえ口調にもなるですけどお!
――じゅうぅぅぅぅ
「やっぱりお前か! 止めろっ! 頼むからそれから離れてくれ!」
水晶の裏側にはトロルの破片から現れたあの時のスライムがベッタリと張り付いてもにょもにょと動いていた。
微かに煙のようなものが見えるし……こいつ水晶を喰うつもりで溶かそうとしてるのか!
「くっそ【ファイアボール】!!」
水晶を溶かす程のスライムの身体に触れるのはまずいと判断して俺は【ファイアボール】を放った。
でもそれが直撃したはずのスライムは水晶から離れるどころかちょっとデカくなっている様に見える。
もしかするとさっきのトロルの能力をコピーしたのか?
今の【ファイアボール】も喰われた、だから爆風もさほど起きなかった……あーもう、厄介だな!
「ならこれでどうだ……【ファイアボール】っっ!」
俺は最大まで溜めるとスライムから少し離れた場所目掛けて【ファイアボール】を放った。
すると着弾の際に巻き起こった爆風が凄まじい勢いで水晶からスライムを引き剥がした。
「よっしゃ今のう――。お前しつこいってぇ!!」
すかさず俺が水晶に触れようとすると、引き剥がされたはずのスライムが今度は俺のローブに張り付いてそれを阻止しようとし出した。
スライムからすれば自分の餌を盗られまいと必死なんだろうけど、流石にこれは鬱陶しい。
「しかもローブ溶けてきてるじゃん……。もうローブは新しいの買うよ! 買えばいいんだろっ! 買うから……水晶は俺に触らせろっ!」
必死に身体を伸ばすスライムよりも早く俺は水晶に触れた。
『ダンジョンの踏破を確認しました。褒美として宝箱が出現します。スライムに触れた状態で踏破されました。【スライムのテイム】が可能になりました』
「スライムのテイム?」
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