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2話 チート能力はどこ?

何も見えない。

何も聞こえない。


「―――。」


声を出そうとしてみるが自分が口だと思っていたところには何もなかった。

―――というか体がない?


意識がはっきりしてくると自分の状態がなんとなく分かってきた。

というよりも、「よく分からない」ということが分かったとでも言うべきだろうか?

何も見えないし何も聞こえない、動こうとしても何も変化は起きず体の感覚もないが、どうやら俺は広い空間を漂っているらしい。

形は不定形で流動的、まるで紅茶に溶ける角砂糖みたいに。

ただ、角砂糖と違いこの体は決して空間には溶けて混ざらず、まっすぐどこかを目指して進んでいる。


まあ、全部そんな気がするってだけだが。


やっぱり俺は……死んだのか?


省吾と『アドマ』で雷の話をしていたところまでは覚えているがその後の記憶がない。

雷が落ちたら死ぬかもなー、と盛大なフラグを立てていた気もするがさすがにそんなことは…。


「死んだよ」


なっ!?えっ、誰っ?

自分だけの不思議空間だと思っていた世界で突然声が響いた。


「驚いた、魂の流れに逆らってくるなんて。キミ、誰?」


盛大に驚いたのはこっちの方である。

誰と聞きたいのもこっちの方だと言いたいが悲しいかな、俺には声の出し方が分からない。


うん、仕方ないな。無視するか。

『アドマ』をプレイ中に俺が寝落ちして夢を見ているという可能性もまだ捨てきれない。

うん、仕方がない。不本意だけど。


「無視なんてひどいなー。悲しくて壊しちゃいそう、あはは!」


無視以外の選択肢がないので冗談でそんなことを考えていたら、『声』は笑いながら返してきた。


こ、壊す? 何やら物騒な言葉が聞こえたぞ! 誰だ無視しようなんて言ったやつは! すいません嘘です!

つい出来心でっ……ってコイツ俺の心の中読んでないか? そういえば第一声から俺の心の声に答えていた気がする。


「そうだよ、僕はキミの魂に直接話してる。キミは喋れないっぽいから勝手に頭の中見させてもらってるけどね」


やっぱりか! っていうか、えっ? なんかさらっと言われたけどどういうことだ?

やっぱ俺は…死んだのか? 雷で?

夢じゃないのか?


「うん死んだ。雷に打たれたっぽいねー。あはは、なんか魂もちょっとビリビリしてるよ。まあそんなことはどうでもよくて…。そっか、君は何も知らないのか。ということは…どっかの悪魔の仕業かなこれは。僕の世界に他の世界からの干渉を許すくらいだから大体誰の仕業か見当つくけど」



やっぱり雷に打たれたのか俺は。っていうか魂ってビリビリするんだ。

まあ、あれだけフラグ立ってたしな…。

短い人生だったけど、痛みもなく一瞬で死ねたことがせめてもの救いか。


自分でも意外だが死んだと聞かされても俺はずいぶんと冷静だった。

死とは悲しいものだというイメージがあったが、死んだ側としてはこんなものなのだろうか?


それとも……俺がどこかおかしいのだろうか。


冴島航、享年16歳。

やり残したこと…といえばやり残したことだらけではあるのだろう。なにせまだ16年しか生きていなかったのだから。


ただ何をやり残したのかと聞かれるとそれも困ったもので、俺は科学やゲームなんかが好きだったが、何か絶対に成し遂げたいことがあったわけでもなければやりたいことが明確にあったわけでもない。


他の大勢の高校生と同じく、友人たちと多少の青春を謳歌しながら無為にモラトリアムを過ごしていただけだ。

彼女いない歴=年齢で、もうそんな機会もないのかと思うところはあるが、それで後悔に押しつぶされるということもない。


16年という年月は短い。守りたいものや成し遂げたいことを見つける途中で死んだ俺からすれば、死んだ悲しみというのはイメージよりもよっぽど小さかった。


あえて未練があるとすれば死ぬ直前までプレイしていた『アドマ』、あのゲームをもうプレイできないことくらいか。

今までで一番ハマったゲームで、科学技術部のみんなと一緒に魔術の開発をしていた俺達は間違いなくトッププレイヤーだった。

死んでなおやりたいことがゲーム、というのは自分でもどうかと思うが。


「うーん、君が考えてるものとは違うけど似たものならあるよ?」


また、俺の頭の中を読んだのか、『声』が聞こえる。



「君がこれから行く世界には同じ魔術がある。というよりも僕の世界を参考にして君の世界の管理者が作ったゲームが『アド·マジック·オンライン』だよ」


管理者が作ったゲーム? 管理者っていうのが何かは分からないが、雰囲気的に神様みたいなやつのことなのだろう。つまり『アドマ』は神が作ったゲームってことか?


「そういうこと。他の世界の仕組みを自分の世界でゲームにして試してみる、なんてことは結構よくあることだよ。珍しいことじゃない。まあ、そのゲームをプレイしていた人間が参考元の世界に行くってのは前例を知らないけど」


参考元の世界に行く? 俺は死んで……天に召される途中とかそんなんじゃないのか?


「違うよ」


『声』は数瞬黙ったかと思うとまた喋りかけてきた。


「―――これはあれだね。キミの世界の言葉で言うと誰かがキミを『異世界転生』させようとしてる」


異世界転生? 異世界転生というとあれか?

ラノベやアニメなんかでよく見る記憶を持ったまま転生した主人公が異世界で無双するあれか? 


ということは……期待していいのか!?

なんやかんやあって死んだ主人公が最初に行く神の空間的な場所。

そこでもらえるアレ!

そう、チート能力!

もとの世界では異世界転生といえば主人公が無双するのが常だった。

そしてそれを実現可能にするのが転生するときにもらえるチート能力だ。


「ないよそんなもの」


内容を噛み砕くごとに高揚していた気持ちはその一言でがらがらと崩れ去った。


な、無いのか!?

異世界転生なんだろうこれは!?


「ない。というかなんで誰かが呼んだ魂に僕が能力をあげなきゃいけないわけ? むしろ余計な干渉を排除するために魂ごと壊したっていいんだ。『アドマ』みたいな世界に行けるってだけで満足すれば?」


確かに『声』は『誰か』が俺を呼んだと言っていた。自分が呼んだ訳でも無い俺に能力を贈るのはおかしな話だろう。

だが、それでは困るのだ。『アドマ』は基本的に死に覚えゲーだった。トライアンドエラーの繰り返しで攻略していくのに、エラーが起きたら即終了というのはキツすぎる。またあの世界に行けるのは嬉しいが、何もなければすぐに死んでしまうだろう。

あの世界で生き抜くにはチート能力をここで手に入れるしかないのだ。


『声』! 頼む! 何もなければ『アドマ』に行けてもすぐに死んで終わってしまう! そこをなんとかできないか!?


「しないよ僕は」


ぴしゃり、と考慮する余地はないと伝えるかのように『声』は断言した。


「人は平等に生まれるわけじゃない。能力、環境、容姿、その全てが違う。だけどね、それがその人だということなのさ。僕が手を加えてそれらに差をつけるのは違う。それに、―――そもそも君には記憶や知識が残っているじゃないか、チートというのならそれは既にチートだよ」


『声』はそう言うと、もう話すことはないと言って黙ってしまい二度と現れなかった。


それからどれくらい時間がたっただろうか?

感覚がないと思っていたが急に眠気が襲ってきた。

このまま意識を失ったら異世界に転生ということになるのだろうか。


そういえばあの『声』は俺を壊してもいいと言っていた、俺にとっちゃありがたいことなんだろうが、逆に考えるとなぜ壊さなかった?


そんなことを考えながら、俺の意識は抵抗のしようもなく途切れたのだった。

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