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咆哮



「よくも散々コケにしやがったな。掛かってこいよ、ぶっ潰してやる。」


 こんなことを言いながら、俺は内心ひやひやしていた。


 影の手に追加で魔力を使っているので、吸引(サクション)無しでうてる火炎(メガファイヤ)は気絶覚悟でうってもあと2発といったところ。


 確実に相手を仕留めるには、ベアーガのときのように2発当てることを考えなければならない。さらに、しっかり当てることが出来てももう1人をどうにかしなくてはならない。


 ただ…それでも言いたかったのだ。弱くはないという事を。


「…」


 リザードはもう挑発する様子は無く、槍を構えてじりじりと間合いを詰めて来ている。

 バルールはボウガンを回避してから、さっきよりも大きな魔法を使う準備をしている。

 俺は改めて気を引き締め、二本の影の手を出した。その瞬間、


「シッ」


 リザードが一気に間合いを詰め、突きをしてきた!


「うおっ」


 俺に槍を受ける術はない。すかさず影に魔力を送り、サイドステップする。

 壁に滑り込み、時間を稼ぐ。使える魔力には限りがある。判断は慎重にしなければならない。


「おらあっ」


 リザードが追撃してくる。

 リザードにとって壁はあってないもののようで、お構いなしに槍を振り回す。簡単に壁は崩れ去った。


「くっ、そっ」


 避けるので精一杯だ。魔力をかなり消費している。たまらず後ろに下がってしまう。


 リザードとの間に壁がなくなる。


 リザードはその隙を容赦なく突く。


「くらえや…咲突き(さかづき)!」


 魔力の花びらが渦を作り、こちらに飛んで来る。


 避けられない!


「!、メ、火炎メガファイア!」


 魔法が衝突し、大きな爆発を生む。咄嗟の判断だったがどうにか相殺できた。


 爆風が体を包む。


「ぐっ」


 どうすればいい?そんな事を考えていると若者の声が一際大きくなった。


「おおっと!大きな爆発だ!…ん?あれはなんだ!?これは…メガを超える、ギガ級の魔法だぁ!」


 火花放電によるバチバチとした音が聞こえる。

 横を見るとバルールが巨大な雷の球を浮かべていた。

 バルールが勝利を確信した笑みを見せた。

 不味い!そう思った時にはもう全てが遅すぎた。


「こいつで消し炭にしてやるっキィ!超電撃(ギガサンダー)!」


 火炎じゃあ相殺できない!


 焦りが思考を邪魔する。


 考えが纏まらない。


 くそっ、どうしようもないのか…?








 …その時、親の魔力を感じた気がした。


 このままやられて良いのか?そう言っているようだ。


 いや…まだだ…!


 まだ、1人倒しただけだ。勝負には勝ってない。


 まだ、魔力は残っている。


 親を…助けるんだ!




 落ち着きを取り戻し、俺は目を見開いた。



 バルールは超放電ギガサンダーで俺たち両方をやるつもりだ…体を見る限りほぼ全ての魔力を使った筈、なら!


「うおおおお!!」


 全力で超電撃ギガサンダーに向かって飛ぶ!当たる瞬間ありったけの魔力を注ぎ込む!


 影の手を自らの体に巻きつける。


 巨大な光の球の中に、小さな黒箱が入り込んだ。


「ぐあああぁぁ!」


 体がギシギシと歪んだ音をたてる。


 影が打ち消されていく。


 耐えろ!耐えろ!耐えろおぉぉ!


「がああああぁぁぁ!!」


 獣のような声を上げて、俺は必死に意識をつなぎとめた。


「キィッ!?」


 超電撃をすり抜ける。そこには驚いた顔のバルールがいた。


 案の定、回避する余裕はなさそうだ。


 そして、俺は気が遠のきながらも飛んだ勢いのままにバルールを…喰らった。


「…吸引(サクション)


 ビクンとバルールが跳ねる。残り少ない魔力を吸い取られ、バルールは気絶した。


 魔力が体に染み渡る。脳が一気に覚醒する。俺はバルールを捨て、円の際に着地した。…危ない。ギリギリフィールドから出ていなかったようだ。


「なんということだ!この村で数人しか使えないギガ系統の魔法をうったバルールがダウンだー!!!そしてくらった筈の二人がまだ立っているー!」


 ウオォォォォオオオ!!!


 闘技場がヒートアップする


 その中、俺の意識は一点を集中していた。


「お前も耐え切ったのか」


「あ?お前が当たった残りで俺様がやられる訳ねぇだろうが」


 俺はすり抜けたが、あいつは受けとめなければならない筈だ。敵ながら天晴れである。


「その割に足元が覚束ないようだが?」


「はっ!それはこっちのセリフだ。もうお前、あの黒い手出せねえだろ」


「…」


 やはりバレているか…


「じゃあとっとと終わらせますカァ」


「ああ、こいよ」


 もう俺は影の手は出せない。火炎を撃てるほどの魔力も残ってはいない。いまの俺が取れる手はたった一つ、吸引(サクション)しかない。


「お前…ミミックにしてはそれなりに強かったぜ。あばよ、朧突き(おぼろづき)…」


 魔力で加速することで実現された、残像が見えるほど高速の突き。


 絶体絶命の状況だが、今回は不思議と心が揺らぐことはなかった。


 極限まで鋭くなった感覚が、時間の経過を緩やかにする。


 俺は突きを繰り出すリザードを()()、笑った。


 それなら耐えられる…!


 俺は槍を避けることなく…ぴょんと、()()()()()()()


 そして…


吸引(サクション)っぐぁぁ!」


 バキッと俺の体を槍が貫通する。激痛が電撃のように疲弊した体に響き渡る。俺は意識を手放さないようにするので精一杯だったが…



 …それで十分だった。




 ここはフィールドの端。


 相手は最後の魔力を使い、限界まで引き上げられた速度で突きを放った。


 俺が跳ねた事で槍は上を向くことになる。上を突くのは、かなり踏ん張り難い。


 更に、踏ん張る瞬間、吸引(サクション)を使っている。ふらふらで、魔力を吸い取られた状態では踏ん張ってあのスピードを制御するのは無理だ。


「うおあっ…」


 文字通り気が抜けた声でリザードは自分の体を前に放り投げた。槍を持つ力も残っていない。




 砂埃が舞う。



 この時ばかりは、村の皆も声を上げることなく結果を見守っていた。







 フィールドには、体に穴が空いたミミックだけが残っていた。


「ウオォォォォオオオ!!!」


 俺は吠えた。村に、親に、俺の勝利を伝える為に。






「な、何という幕引き…リザードは場外…Bブロック勝者は…なんと、なんとミミックだぁっ!」


 ウオオオオォォ!!


 観客席からの歓声を聞きながら、俺は、遂に意識を手放した。



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