これは箱の物語
この世界では、人種とは異なる姿形の知的生命体をモンスターと呼ぶ。
そしてモンスター達は、人間と同じようにひとところに集まり村、町、ひいては国を作っていた。
しかし、そこには人種には無いある独特な行事が存在した。
それは、4年に一度モンスター達の序列を決めその序列によって仕事を割り振るというものだ。
上位の者はより良い暮らしを求めて都市に向かい、下位の者は村で畑を耕す。
モンスター達にとって、自分たちの上には強者しか許さず戦いにおける強さこそが最も求められるものだった。
この行事は、そんなモンスター達の性質を色濃く反映していると言える。
そんな中、一番不遇と言えるモンスターはミミックである。
空も飛べず、歩く事すら一苦労の彼らは待ち伏せを得意とし、ダンジョンに稀にある宝箱に身を扮する事で釣られた冒険者を喰らい、生きてきたのだ。
しかし、その戦法はモンスター同士の戦いに於いて全くの無意味である。
そもそも序列を決める戦いの場は村、町ごとに作られた闘技場であり、そこに宝箱が自然にポップするわけが無い。存在する箱は全てミミック。他のモンスターからしてみれば、動きがノロマなミミックはただの的でしか無い。
しかも、ミミックを倒すのに力は殆ど必要ない。というのも、もともと体を木箱で覆っている彼らがこれ以上の装備をつければ、重さでさらに動けなくなってしまう。故にミミックに装備なんてものは無く、ミミックに攻撃を通す為に必要な力は木箱を壊せる程度の力で十分なのである。
さらに—いじめているようで説明するこちらの心が痛くなってくるが—ミミックの上に誰かが乗っているのをイメージして欲しい。どうなるのか、もう私の口からは言いたくはない。
要するに、ミミックは知性のあるモンスターの中で最弱。
これがこの世界の一般常識だった。
これは常識を過去にする物語。
これは最弱と言われ、人間からも、モンスターからも蔑まれてきた一介の箱が、世界を変える物語だ。