冬の童話祭2021 風隠しの少年
「しまった!」ふみはチョキを出してしまって失敗したと思いました。
グーの手がならぶなか、チョキを出したのはふみと合わせて3人だけだったのです。
鬼になりたくない。ジャンケンポン!
負けたのはちょっと年上の男の子でした。ほっとしながらも今度は自分の靴をどこに隠すか決めなければなりません。
あかねちゃんが「行くよっ」と走りだします。
ふみも目をつぶっている鬼から離れ、草むらに片方の自分の靴を隠しました。
これが嫌いでした。大事な靴を脱いで離れるなんて不安な気持ちいっぱいになります。
「みーつけた!」
鬼の男の子の子は誰かの靴をほおり投げました。一番に見つからなければいいんです。後は早く見つけて欲しい。
全員の靴が見つかってもふみの靴は見つかりませんでした。鬼は探すのに飽きてしまったので、ふみはケンケンしながら自分の靴を取りに行きました。
ところが隠したはずの場所に靴がありません。
あかねちゃんも一緒に探してくれましたが、見つかりません。
もう悲しくて泣きたくなった時、風がサーッと吹いてきました。そして草むらの草をなでつけ、ふみの白い靴が現れました。
ふみが駆け寄ると知らない男の子が笑って走って行くところでした。
「私の靴、探してくれたんだ」なんとなくそう思いました。
また別の日。ふみは靴隠しの鬼になってしまいました。
草ぼうぼうの土手の上で見つけられる訳ない。
探す前からふみはもう泣きそうでした。
するとサーッと風が吹いてみんなの靴が見えたのです。「みーつけた!」次々と靴を取り上げて行き最後の靴をつかんだ時、あの男の子が笑って走って行ったのです。
ふみは追い掛けようとしましたが、少年は足が速くすぐにいなくなってしまいました。
その晩、ふみは夢を見ました。
あの男の子がふみのクラスに転校して来るという夢でした。
朝教室に入ってからふみは男の子が来るんだとわくわくしていましたが、その日は何もありませんでした。
また土手の上の靴隠しの遊びがはじまりました。鬼になってもならなくても、ふみはこの遊びがちょっぴり楽しみになってきました。
困った時は風が吹く。少年が風を吹かしてくれる。
ある時、いつも威張ってる男の子の靴が、靴隠しの間に行方不明になってしまいました。
ふみは最初いい気味だと思っていましたが泣きそうになっている顔を見てるうちにかわいそうになりました。
あの子、来てくれないかな。風吹かしてくれないかな。
だんだん空が暗くなり、帰りの時間が近づいてきました。とうとう靴の見つからない男の子は友達に支えられてケンケンで帰って行きました。家に帰って怒られるのかな。遊んでいたみんなが悲しい気持ちになりそれぞれの家に向かって行きました。
ふみもひとり暗い道を急いでいました。その時風が吹いてきたのです。
サーッ!あ、あの子!?
ふみは目をこらしましたが少年の姿は見えません。
その代わり夜空の一番星がかすかにまたたきました。