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婚活パーティーのプロフィールカード

「美夕、少し話がある」


やばい、ばれたか。即座に天才の頭脳が言い訳を考え始める。


「懺悔室のことだが」


誰かが勝手に持ってきていた。いや、だめだ。脅された。いや、誰に。


「お前といつも一緒にいる彼は、その、男か?」


「は?」すっとんきょんな声が出た。


なんだ、賽銭箱の話じゃないのか。びっくりして損をした。


にしても男?それ以外の何に見えるというのか。

あれで女ならびっくりする。それで婚活をしているのだから更にびっくりする。


「答えなさい」いつにもまして優しい神父の声。ついにぼけたのだろうか。


「それ以外の何に見えるんですか」教えて欲しい。


「いや、そうか。うん、そうだな。お前も良い年だしな」


「え?」私の年齢とあの男に何の関係があるというのか。


「今度、話してみるか。うん、そうしよう」


ぶつぶつ呟きながら神父は教会を出ていった。ああ、徘徊癖まで。


どうしよう、神父がぼけたら教会は本格的に終わってしまう。

現実的な危機感を前に私はめまいを覚えた。

「いらっしゃいませ」精一杯の営業スマイル。


「ははは、まるで普通のお店みたいですね」


「それは違います。あちらはお客様が神様。ですが、教会において私もあなたも神ではありません」


「ははあ」気の抜けた返事はこの男の専売特許なのか。


「要するにあなたに遠慮はしないという事です」


その辺の立場は分からせないといけない。人に媚を売るのは私の性に合っていないのだ。


金は貰っているので精一杯の対応はするが、それで調子に乗られても困る。もっともこの男には杞憂だろうけど。


「今日は婚活パーティーの続きでしたね」さっさとお勤めをすませよう。


「ええ、今日はプロフィールカードの話をしましょう」


「3分間で何を話すのかという私の質問に対する答えですね」


「そうです。それがないと時間が足りず、何のために参加したのか分かりません」


実際にお見せしましょう、そういうと彼は賽銭箱に1枚の紙を落とした。


できればお金以外は入れないで欲しい、とまでは言えなかった。


「まあ、汚い字」プロフィールカードを見た最初の感想。


「ははは、そこですか。流石ですね」なにが流石だ。


プロフィールカードには個人情報が書き連ねられていた。

血液型、身長、住まい、家族構成、職業などなど。


名前まで書いているものを私に渡して良いのだろうか。


「そういえば僕のことは何も話していなかったので丁度良いかもしれませんね」なんだ、わざとか。そこまで馬鹿ではないらしい。


上杉龍馬。本人に似合わずごつい名前だこと。たぶん坂本龍馬から取ったのだろう。他に理由が思いつかない。


「それもそうですね。では、今後は上杉さんとお呼びしましょう」あの男と呼ぶのも面倒になってきたところだ。


「よろしくお願いします」


「さて」改めてプロフィールカードに目を向けた「これを元に会話を広げるわけですね」


「そうです。例えば、出身地や趣味が同じだと話題を広げやすいですね」


「ふうん」自営業なのか。年齢は男ならまだセーフ?よく分からない。


「お互いの共通点をいち早く見つけ、そこから女性に覚えてもらう。そうすることがマッチングの早道と言えます」


「面白いですね。これはどの婚活パーティーにもあるのですか」


「必ずあります。そうでないと話の広げようがないですから。もっとも内容は婚活パーティーによって異なります」


一通り見終わった後、上杉さんにプロフィールカードを返した。

うまいことにこちらから手渡せる仕組みも懺悔室には完備されている。


「ありがとうございました。良い勉強になりました」


「なによりです」心なしか彼は得意げだった。いや、そこで得意げになられても困る。


「はあ」改めてマッチングについて考えてみた。


確かにこれならマッチングする可能性は0%から5%には上がっただろう。

でも、その程度だ。


「それにしたって大勢と話すのに覚えてもらえますか?」聞いてみる。


「難しいでしょうね。でも、不可能ではありません」予想通りの答え。


「何度も参加して、わずかな成功にかける。それが婚活パーティーの実情でしょう」


もちろん話がうまいイケメンなら話は変わるでしょうけど。ぼそっと呟いた彼の愚痴は無視することにした。


要するに根性論か。

婚活パーティーの難しさはやはり覚えてもらいにくいことなのだろう。


「まず1回しか女性と話さない婚活パーティー。これはほぼ無理でしょう」


これが私の結論。無理に決まっている。


「そうですね。となると2回以上話せる婚活パーティーが理想です」


「あるのですね」早く言え。いや、言ったっけ?


「ええ、まあ」そこで今まで流ちょうに話していた彼の言葉が止まった。


「どうしましたか」


「理想ではあるが、うまくいくとも限らない」


「なぜ説明口調」


そこでピンとくる私。


「なるほど。ここからは実体験ですね」


「そうですね。実際に僕の体験談をお話しした方が分かりやすいでしょう」


「結構です。では、聞きましょう」なんだか楽しくなってきた。

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