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婚活パーティー①

出会いとは一期一会である。


特に知らない人に悩みを打ち明けた時、もう会うべきではない、と思う。

だって、解決してないといけないから。前に歩いていないといけないから。


「振り返るな。前を見ろ。偉い人はこう言いました」


「そう、ですか」


「ええ、そうなんです」そうですとも。


ここで一旦大きな深呼吸。今日も良い天気だこと。


「いや、なんで毎日のように懺悔室に来てるんですか」


私の前には今日も男が鎮座していた。喧嘩を売っているのか。

【1】

1回目の賽銭箱の成功で味を占めた私は本格的なビジネスを検討していた。


とはいえ、神父にばれるとマズイ。流石に本気で怒らせるとどうなるか分からない。


そういうわけで大々的な広告はできないだろう。

悩んだ結果、口コミを利用することにした。


あの冴えない男のように何かの気まぐれで来る人もいるはずだ。

そういった人たちに誠心誠意答えれば、少しずつ評判が広がるだろう。


信徒も増えて収入も増える。これだ。

我ながら頭の良さに笑みが出てしまう。天才過ぎて申し訳ない。


なのに。


「あなたしか来ないと何の意味もないじゃない!」


「すみません!」


賽銭箱を思いっきり蹴飛ばす。男がびくっとしているのが伝わる。


何度も言うけど懺悔室では顔が見えない。

見えないのだが、まあ、モテない顔なのだろう。何となく分かる。


もう一度、賽銭箱を蹴飛ばす。

ややあってチャリンとした音が聞こえる。


「で?」


「はあ」はあ、じゃないだろう。喧嘩を売っているのか。


「街コンもダメ。婚活パーティーもダメ。まっちんぐ?アプリもダメ」


ダメダメ尽くし。八方ふさがり。崖っぷち。


「どうしたものかと今日も来たと」


「そうですね」


「諦めたら?」


教会内がシンとする。

夏なのに教会は涼しい。それが好きな所ではある。でも、今は居心地が悪い。


「あー、ごめんなさい。言い過ぎました」


「いえ、こちらこそ」


イライラする。びっくりするぐらい。張り倒したい。

でも、来てくれた以上は何らかの救いの手は差し伸べねばならない。


私は腐ってもシスター。目の前にいるのは腐っても信徒(金づる)。


「仕方ありませんね。1つずつ整理しましょうか」


「整理、ですか」


「そうです。恥ずかしながら私は婚活の仕組みを知りません」


興味もありません。という言葉を出さない優しさが私にはあった。


「しかし、相談に乗る以上、多少の知識は必要でしょう」


「確かに」相槌しか打てないのか。


「なので、1つずつ婚活の仕組みを教えてくれないでしょうか。実体験も踏まえて」


「実体験もですか?」怪訝な声が聞こえた。


「そう。第3者の目があれば、問題点も見えてくるでしょう」


結果、全部が悪いとしたら来世で頑張ってもらうしかない。


「分かりました。もっともな意見です」


素直ではあるらしい。男の数少ない美徳を見つけた。いや、欠点か?


「では・・・」男は試案した後に「婚活パーティーはいかがでしょうか」と提案をしてきた。


「良いですよ」


やっと本題だ。話が長くて申し訳ない。


【2】

「婚活パーティー。分かりやすく言えば合コンのようなものです」


「あの3VS3で飲み食いする?」その程度の知識しかない。


「そうですね。ただ、規模は婚活パーティーが上です」


「というと?」


「一概に言えませんが、最小で7VS7、最大で14VS14はあるでしょう」


「14VS14って」頭がおかしい。


というか、出会いを求める人間はそんなにもいるのか。全員、懺悔室に来い。


「そして、1回の婚活パーティーは長くて2時間程度」


ふむ。


「1人当たり3分話します」「ちょっと待って」


「はい?」いや、それはこっちのセリフだ。


「3分?」「はい」「1人当たり?」「はい」「それを14人と?」

「そうですね」「馬鹿じゃないの」


狂気。ただでさえ大勢の人を覚えられるわけがないのに3分って。


「覚えられるの?」


「全員は無理ですね」そりゃそうだ。


なんとなく見えてきた。体験談を聞くまでも無い。


「そんな所で彼女ができますか?」会って3分でゴールインってインスタントラーメンか何か?


「そうですね。マッチングはできますが、その先は難しいですね」


「マッチング、ですか」

「ええ、カップルとまでは言いませんが、相性の良い2人が見つかった時にマッチングしたと言います」


なるほど。

その先も気になるが、今日は仕組みの確認までにしておこう。


「そのマッチングとは如何にして行うのでしょう」


「ここからはこの紙で説明しましょう」賽銭箱に1枚の紙が落とされた。諭吉ではない。


「これは?」


「マッチングカード、と呼ばれるものです」


【3】


私がマッチングカードと呼ばれるものをまじまじと観察した。


と言いたい所だが、そんなに見るべき箇所は無い。

至ってシンプルで第1希望~第3希望の番号を書くだけとなっている。


「しょぼ」と思うのも無理からぬこと。


「ご覧の通りです。話して良いなと思った女性3人に投票をするのです」


「なるほど。女性も同様に投票して一致すればマッチング、と」


こんなの見たことあるな。プロ野球のドラフト?みたいな。


「婚活パーティーの流れを整理しましょう」


1.女性と1回会話(3分程度)

2.中間印象シートの記入

3.女性ともう1回会話

4.マッチングシートの記入


「2と3は無い婚活パーティーもありますね」


また知らない単語。「中間印象シートとは?」


「シスターがおっしゃるように1回の会話でマッチングはかなり難しいです」でしょうね。


「それは男性と女性の興味がずれるからです」

「それはそうでしょう。好みはバラバラなんです」


「ええ、しかし、婚活パーティーに来た以上は何としてもマッチングしたいのが本音でしょう」


「そのため、人によっては自分に好意を持っている人を選びたいと考えるのです」


ふむ、なるほど。


「つまり、中間印象シートは様子見。そこで自分の評価を知ると」

「そうなりますね」


なんというか。すごく機械的だな。

恋愛ってもっとこうロマンティックなものだと思うのだけど、現代日本では違うらしい。


目の前の男が他人事で淡々と話すのも日本の闇の1つだろう。頭おかしいのではないか。


「あの、どうかされました?」「いいえ、なにも」今日一番の笑顔で答える。

「おおよその流れは理解できました」


やはり婚活パーティーで彼女を作るのは難しいのではないだろうか。


わずか3分程度で相手の事を理解できるわけがない。

せいぜい容姿や年齢、出身地ぐらいだろう。


基本事項を確認するだけで時間は終わってしまう。

いや、他に方法があるのだろうか。


「確認ですが、3分で何を話すのですか?」


「基本はプロフィールカードを見て、そこから質問をすることになります」


「面倒くさそうなものがでましたね」なんとか想像は付くけど。


「ええ、その説明をしたいのですが」男はそこで立ち上がり「今日はこれから打ち合わせがありまして」と申し訳なさそうに言った。


「そうですか」この男も暇ではないらしい。


「では、次回は婚活パーティーの続きを聞きましょう」


「そうですね。よろしくお願いします」やはり来るつもりなのか。


まあ、いいか。ここまで来たらとことん付き合ってあげよう。

彼の財布の紐が緩み続ける限り。


そして、今日の懺悔は終わった。懺悔ってなんだったっけ。

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