初登校
馬車に乗って家に向かっていたら、いつの間にか眠ってしまったようだ。
学校で疲れすぎてしまったようだ。
体をゆすられて起きると、目の前に茉莉がいた。
わざわざ迎えに来てくれたようだ。
「お帰りなさい、おねーちゃん。家に着いたよ。早く中に入ろうよ。お話たくさん聞くからね。」
まだ寝ぼけている。
思考がはっきりしない。
何か靄がかかっているような感じだ。
茉莉が言った言葉が、理解できたかどうかすら分からない。
とりあえず、
「うん」
と返事をして、ゆっくり移動する。
歩いているうちにだんだん目が覚めてきた。
思考がはっきりしてくる。
リビングに着くと、茉莉が
「学校どうだった?」
と聞いた来た。
俺はしっかりと学校であったことを詳しく話した。
もちろん詳しくと言っても全部ではない。
迷子になったことは省かせてもらった。
自分の妹に、自分の失態など話せるわけないのだ。
それを聞いた茉莉は、
「おねーちゃん、絶対に迷子になったでしょ。前からずっとそうだったもんね。高校の校舎の中でも迷うぐらいなんだから、迷わない方がおかしいけどね。迷子になってなかったのなら、パーティーを盛大に開いて、お祝いしてあげるくらいの出来事なんだからね。まあ、とにかく学校頑張ったね。問題もあったみたいだけど、大事になならなかったし。」
俺は確実に迷子になると思われていたのか。
とてもひどいいようである。
パーティーを開くなんて、大げさすぎる。
でもなんか、今の茉莉奈良、本当にやってしまいそうで怖い。
「浄化。綺麗にしたから、今日はもう寝なよ。疲れたでしょ。布団は綺麗にしてあるから、きっと寝心地いいよ。」
「うん、わかったよ。そうするね。お休みなさい。」
「お休み」
まさか、迷子になっていることがばれているとは。
高校生になってからはあまり迷子になっていないから、忘れられていると思ったのに。
何と言う記憶力。
これは脅威である。
まあ、しょうがない。
茉莉言うとおりに寝てくる。
学校は、明日から始まるから疲れが万が一残っていたら大変だ。
若いどころか幼くなってしまったから絶対にないが。
このぐらいの年齢の子は、ものすごく疲れてしまっていても、次の日まで疲れが残っている子は見た事がない。
まあとにかく、疲れたから、今日は早く寝る。
茉莉が言っていたように、布団がふかふかで、寝心地がよさそうだ。
これで良い夢が見れそうである。
ベッドに横になると、すぐに夢の世界へと旅立った。
何だろう...体がふわふわしている。
薄暗い空間の中に何かぼんやりと見える。
何か動いている。
薄暗いためか、ここがどこなのかも検討がつかない。
人だろうか?
音は聞こえない。
ぼんやりとしすぎていてなにをしているかわからない。
だが、ほんの少しずつだが、それが近くになっているような気がする。
こちら側から近付いているのだろうか?
近くなれば、なにがいるのか?
それが、なにをしているのかわかるだろう?
ああ、目が覚めてしまう。
近づくだけなのに、すごいスピードが遅い。
急がなくては間に合わない。
何がいるかはわからなくても良い。
せめて何をしてるかだけでも知りた...い...
目が覚めた。
今度は自然な目覚めである。
変な夢を見ていた気がする。
何かぼやけているものが何かを見ようとして...
まあ、いいか。
所詮、夢である。
正夢か何かだったら、もっとちゃんと覚えているだろう。
忘れているという事は、そこまで重要というわけではないのだろう。
カーテンから日航が木漏れ日のように入ってきている。
朝のようだ。
疲れは残っていない。
それは、ベッドのおかげか、この体のおかげか。
どっちも茉莉が用意したものなので、茉莉のおかげだろう。
まあ、疲れたのは肉体的ではなく、精神的にだった事もあるだあろうが。
机の上には着替えが用意されていた。
ルルが着ていた服と同じだ。
制服である。
少々舞い上がりながら着替えをした。
しかし実際に来てみると、残念なことがある。
スカートなのだ。
普段着ているようなズボンではないのだ。
スカートの下が下着ではないとしても、元男として少し、いや、かなり不満が残る。
これを着ていかなくては学校に行けないので、しぶしぶ着替えて、ちゃんと切れえているか、鏡の前に立つ。
色白の肌に、紺色メインの制服が映えている。
我ながらかわいい。
一瞬見惚れてしまいそうになった。
俺はナルシストになる気はないので、急いで正常な思考に戻す。
前の世界で会いたかったなー。
着替え等が済んだため、食堂へ向かう。
この家の階段は、広々としていて、地球にいたあころのような感じで、階段から落ちる事はない。
何と良い家だろうか。
食堂につくと、茉莉が料理をテーブルに並べているところだった。
食事は、セバスチャンではなく茉莉が作ってくれるようだ。
「おっはよー!よく眠れた?今日から学校だよ。頑張ってきてね。目指せ3年で全学科一番の成績で卒業!それができるように、私も頑張っちゃうよ~。一度やった事は忘れないように、記憶力が良くなるような体に仕上げたんだから、宝の持ち腐れにはしないでね!いろんな事にレッツトライ!」
ワタシモガンバル?
あれれ、おっかし~な~。
頑張るのはおれのはずなのに?
嫌な予感しかしないな。
れっつとらい?
頭に字が思い浮かんでこないな。
ついに脳味噌が拒否するようになったか。
何をやらされることになるのだろう。
面倒くさい事はヤダな。
上手く逃げ出す方法を考えなくては。
「ま、茉莉もなにかするの?」
「もっちろ~ん!私もお手伝いしちゃうよ!毎日二時間は家で修行するよ!」
「えっ!?」
「当り前じゃない!おねーちゃんの為だもん!」
「私は良くないの!学校の後は自由時間がいいの!」
「そろそろ支度しないと遅刻しちゃうよ?」
「もうそんな時間なの!?急がなきゃ!」
上手く話をそらされた気がするが、気のせいであろう。
世の中には、知らない方が良い物があるのだ。
今回はそれであろう。
これ以上、何か言うのは良くないと、本能が警報音をならし続けている。
もう学校行く前から憂鬱である。
まったく、学校はどうなるかわからないから不安でいっぱいなのに、さらに不安なことが増えてしまった。
これから卒業までの3年間やっていけるだろうか。
支度と言っても着替えは終っているし、髪は乱れていない。
だから朝ごはんを食べて、歯磨きをするだけである。
それはすぐに終わり、セバスチャンが御者をしてくれる馬車に乗り登校する。
馬車の中には、荷物が置いてあった。
学校で使う道具だ。
セバスチャンが用意してくれたらしい。
セバスチャンにお礼を言った後は緊張で話なども何もなく、黙々と時間が過ぎた。
そして、学校に着いた。
「いってらっしゃいませ。」
「うん、行ってきます。」
セバスチャンが声をかけてくれた。
勇気を振り絞って正門をくぐる。