これから
「すごいびっくりしたでしょ。」
茉莉は部屋に入ってきてまず一言目に、こういった。
「茉莉!これは何だよ!びっくりしたでしょ。じゃないよ!」
「まあまあ落ち着いてよ、おねーちゃん。」
「勝手に性別変えられて落ち着いてられるかー!」
そう、鏡に映っていたのは、今までのそこららへんにいそうな顔ランキング第一位を取れそうなほどの普通の顔だったのが、何という事でしょう。
今まで見た事がないほどの、絶世の美少女になっていたのである。
茶髪で、お肌は真っ白、ぱっちりおめめは茶色の小顔少女である。
女子になったから声が今までよりも高いわけだ。
身長が低いのはちょっと引っかかるが、少し幼くなって、さらに性別が変わったからという事にしておきたい。
「うるさいよ。消されたいの?そんなに消されたいなら、もったいないけど消しちゃうよ?」
「分かった、ちゃんと静かにするから、しかっり、俺が納得するように、なんで俺がこうなったのか説明して。」
「ほら、ここの世界に来る前に言ったでしょ。新しく体を作るってね。その時にね、おねーちゃん欲しいなーって思ったの。だからお兄ちゃんの体をちょっと変えたの。だめだった?」
「駄目に決まってるでしょー!はあ、はあ、もういいよ。どうせ何言っても無駄だ。」
「おお、オッケーもらえた!やったね!じゃあ、今の言葉使いを変えなきゃね!このままじゃ、男の人が誰も近寄らなくなっちゃう。ついでに性格も少し変える事が出来たら良いんだけどね。セバスチャン、ちょっといい?」
茉莉がセバスチャンを呼ぶと、すぐに俺の部屋に来た。
まるで、待ち構えていたようだ。
言葉づかいを変えるって、確かに今の俺は、女の子のしゃべり方とは言えないけども、そこまでする必要があるのだろうか?
別に元男子だからそこの所は関係ないのに。
性格なんてそうそう変わるものじゃないことぐらい理解してほしい。
これは少しやばい事になりそうだ。
「なんでございましょうか、マツリ様。」
「例のこと、よろしくね。」
「かしこまりました。アオイ様こちらへどうぞ。」
本当に待ち構えていたようだ。
なぜ嫌な予感は当たりやすいのだろうか。
もっといい未来は来なかったのだろうか?
来世は良い人生になるように、良い事をたくさんしておかなくちゃいけないな。
茉莉は俺になにをやらせるつもりだろう?
嫌な予感しかしない。
この予感もあたってしまうのだろうか?
それからはものすごく大変だった。
名家に仕えたこともあるというセバスチャンの熱血指導のもと、女の子としての、しゃべり方や動き方、礼儀まで一日中叩きこまれたのだ。
さらには、性格まで変えようと色々な事をしかけられていたりした。
指導が始まったのがお昼前ぐらいから始まり、少し休憩をはさみつつ、夜の十時ごろまで続いたのだ。もうくたくたである。
だが、そのおかげで、かなりのことは身についてしまった。いいのか悪いのかも分からなくなってきた。
性格が変わるという最悪な事はなかったので、まだいい方にあるという事にしよう。
そう思っていないとやっていけない。
早くも心が折れてしまいそうである。
もう寝て、そんな事は忘れてしまおう。
忘れられるなんて確証はないけど。
だが、今できることなんて寝ることぐらいしかない。
このセリフだけ聞けば、かなりのグータラ発言だが、本当にやる事がないのだ。
いや、やる事がないというよりは出来る事がないという方が正しいか。
掃除などはすべて、セバスチャンがやってくれているようで部屋はピッカピカだし、勉強道具なども持っていない。
暇つぶしの道具すらないのだ。
すると、
「おねーちゃん、お疲れ様!良く頑張ったね」
と、茉莉が俺の部屋に入ってきた。
「本当に大変だったんだぞ!なんで一日中あんなことしていなきゃいけないんだよー!」
「言葉づかいに気をつけて。まだ身についていないのなら、もう一週間は続けなきゃねー」
「わ、分かった。だから、もうやめて?」
「きゃー!すごいかわいいー!こんなかわいい女の子なんて、そうそう見れないから、しっかり目に焼き付けなきゃ。もうずっとこのままでいいかな。そうすればいつまでも愛でていられるもんね。」
「ちょっ、それは困るよ。早く元に...」
「それじゃあ、また明日ね。お休みー」
完全に俺の気持ちは無視されている。
このままではかなりやばい。
心まで女の子化しかねない。
性格も本当に変えられてしまいそうだ。
心の中で、やばいが連呼され続けている。
しかし、かなり俺は疲れている。
普段しない事を一日中続けていては、体力が持たない。
さらに、幼くなったことで、体力まで落ちてしまったようだ。
眠気に勝つことは出来ず、数分で夢の世界に入ってしまった。
次の日の朝、起きると、部屋の中に机と椅子が運び込まれており、そこに茉莉が座っていた。
「おはよーおねーちゃん。女の子生活一日目の夜は、良く眠れたかな?おにーちゃんには、早速だけど、準備が終わったら、学校で入学手続きをしてもらうよ。」
「もう?まだこの学校のことわかんないよ。」
「大丈夫だよ。何とかなるって。」
学校に入学するのは、何とかなるで出来てしまうほど簡単なものなんだろうか?
簡単に越したことはないのだが、入学試験等は簡単なものではだめな気がする。
「それで、なにをすればいいの?」
「お風呂に入って、着替えをして、髪の毛を整えて、荷物の準備をして...これぐらいかな?」
「本当にそれだけで入学できるの?」
「入試も筆記試験じゃなくて、適性検査ってのをやるんだけど、水晶玉みたいなのに手を置くだけで良いんだよね。そこで、一定以上の適性があるだけで合格なんだよ。面倒くさい手続きはすべて終わらせておいたから、何とかなるのよ。」
しかし、入学手続きの前に、少し問題がある。
最初の二つのハードルが高すぎる。
女の子になってしまったのだ。
俺が自分から女の子になった変態だとしたら、喜んで行うだろう。
だがしかし、俺はそんな変態ではない。
確かに、興味があるのは認めよう。
だが、それとこれとは話が違う。
自分の体が変化したのも同然なのだ。
なので、かなりの抵抗があるのだ。
「なんてね。そんな嫌そうな顔しないでよ。お風呂に入らなくても、魔法で体を服ごと綺麗にできるから、入る必要はないし、服は、中に普段着みたいな、半袖短パンをはいてて、その上から着る事になるから、何の問題もないよ。服ごと綺麗にできるから、正直着替える必要もないんだけどね。」
かなり安心した。
二つのハードルを越えなくていいのは、かなり気が楽だ。
だが、普段着る服の下に、さらにきているとなると、かなり暑そうなイメージになる。
今のところは、ちょうど良いので特に問題はないのだが。
「じゃあ、体綺麗にするね。浄化」
茉莉が魔法を使ったみたいだ。
体が心地よい風みたいなものに包まれ、綺麗になるのを感じる。
これは楽だ。
「終ったよ。それじゃあ、次は着替えね。早く服を脱いで、これを着ちゃってね。私はその間に荷物の準備をしてくるよ。」
茉莉から渡された服は、袖のある白色のワンピースだった。
清楚な感じがする。
そんなにお嬢様っぽくしたいのだろか?
まあ、しょうがない。
今はこの服しかもっていないので、着るしかない。
ワンピースを着て鏡の前に立ってみる。
俺の肌は日焼けしておらず白くなっている。
白い肌に白いワンピースがいいかんじにあっている。
見た目の心配は大丈夫そうだ。
さあ、これから入学手続きだ。
頑張らなくては。
茉莉が面倒な事を済ませてくれていたとしても、少しは残っているはずだ。
その残っているものを気合入れてやってやろう。