戦争準備②
茉莉の希望により、お昼ごはんを食べるために自分の屋敷に戻ってきた。
ご飯を作るのは、こっちの世界に来てからは、完全に俺の仕事になっている。
一応、外食が出来る店もあるにはあるのだが、一度も行ったことはない。
俺が早めに寝てしまった時も、茉莉やセバスチャンがごはんを作るわけではなく、ご飯抜きで過ごしているみたいである。
おなかすかないのだろうか?
茉莉は神様だから、食べる必要が無いのかもしれないけど、セバスチャンまで、何で食べないのだろうか?
絶対おなかはすいているだろう。
不思議である。
自分たちで作れないわけではないはずだ。
地球に居た時に両親が出かけているときは、茉莉がごはんを作ってくれた。
セバスチャンは、基本的に何でもできる。
お願いしたら、何でもやってくれる。
出来ない筈が無いのだ。
不思議である。
大切なので三回言う。
二回では足りないので三回言う。
不思議である。
まあ、それは置いといて、こっちに来てからは、俺が作ったごはんしか食べた事しかないのだ。
そんな状況で、自宅にお昼ごはんを食べに戻ったら、俺がごはんを作ることになるのは必然的である。
だが、俺の料理スキルを舐めてもらっては困る。
元々、万物適正で高かった料理スキルが、一年間磨かれ続けたのだ。
達人とまでは行かなくても、かなりのものになっている筈である。
さらに、いろいろ試して、作れる食べ物のバリエーションもかなり増えたのである。
作りすぎないように気をつけながら、ナタリアさんの胃袋をつかんでいこうと思う。
作る料理は、得意料理と言うか、作ることが多い人気料理(茉莉に)、和風料理だ。
まあ、和風と言っても適当に作るから、和風風になるのは内緒である。
和風料理の中で今回作るものは、ご飯、お味噌汁代わりの魚介だしを使った暖かスープ、焼き魚、ほうれん草のお浸しである。
お味噌汁が作れなかった理由は、味噌がこの世界にはなかったのだ。
そもそも調味料自体は、あまり種類が無いのだ。
お酢とお酒、みりんは作れたが、醤油や味噌はまだ作れておらず、まだ作れない料理が多いのだ。
その為、味を似せているわけではないのだが、一応で代わりの物をつくっているのだ。
まあ、和風なので問題はないだろう。
とりあえず、味は保証されているので、おいしく頂いている。
さらに今回は、いつも以上に気合いを入れて作る。
焼き加減などを、細心の注意を払って気を付けながら調整する。
調味料の量も、多すぎず少なすぎずの適量を探しながら調節する。
そんな努力のかいあって、かなり自信のあるものに仕上がった。
それをセバスチャンに手伝ってもらい、食卓に並べていく。
「見たことが無いものばかりです。」
「確かに、町にはない食べ物ね。だけどとってもおいしいのよ。今日は丹精込めて作ったみたいだしね。」
まったく、その言い方じゃあ、普段は適当に作っているみたいじゃないか。
誤解されてしまったらどうするんだ。
まあ、誤解されてしまったとしても、特に問題はないからいいや。
「じゃあ、食べよ!頂きます。」
「ナタリアさん、魚は骨があるから気をつけてね。」
「はい、頂きます。」
こんな感じで、まったりとご飯を食べた。
たまにはこんなごはんもいいものだ。
ご飯を食べ終わった後、俺とナタリアさんは、王国軍の司令部に来ていた。
ちなみに今回は、茉莉は家で留守番である。
今回ばかりは、付いてくるのは駄目だったようだ。
司令部は、指揮官や、軍の幹部が有事の際に集まって、指示を出す。
普段は、軍の会議に使用されている、何かと便利な場所である。
そんな場所に俺たちが来た理由は、軍の人たちに、色々と指示しに来たのだ。
話を聞くのは、陸軍の兵士長である。
兵士長は、一か月前に交代したばかりで、かなり若そうに見える。
もうちょっと、年を取っていると予想していたが、外れてしまった。
きっと、かなり優秀な人材なのだろう。
軍の階級的には、一番上に、全軍の決定権を持つ軍事大臣に指示を出せる王様。
そして、軍事大臣や副大臣。
その下に、陸、海軍のリーダーとなる兵士長がいる。
一応、陸軍と海軍で、権力の差は一応ないはずだが、軍の規模から陸軍の方が権力が強いかもしれない。
これから海軍は強化したいとは思っているので、その差はすぐになくなるだろうが。
とりあえず俺たちは、陸軍の歩兵部隊の中から特に運動能力の高い人を引き抜いて作る機動部隊の作成、共和国との国境に建設予定の巨大要塞のための人員の確保、船の大改装をするように指示した。
しかし、それを聞いた兵士長は、
「それは無茶ではないでしょうか?」
と返してきた。
「え!?どうして?」
「時間が無いからです。準備が終わらないうちに開戦するよりかは、今まで通りの方法で、準備した方がいいと考えるからです。」
「準備は絶対に間に合うからいいでしょ。」
「では、もしも間に合ったとしましょう。そうだとしても、訓練の時間までは確保できないでしょう。」
「形になれば十分だよ。訓練が出来なくても、十分な成果が期待できる。だから、訓練できない事はそこまで問題じゃないの。」
「ですが!」
「うるさい。この方針は変えない。何もしないで負けるより、出来る限りのことをして勝ちたい。」
「我々が負けると言うのですか!そんなことはない!我々は必ず勝てます!」
「うるさいって言ってる。良いから黙って私を信じて、言ったことをどんどんやって。結果は保証する。から。」
「いくら大臣だからと言っても、信じることはできません。」
ああ、このままだと、話は平行線のままだ。
この兵士長、頑固すぎる。
頑固なのは、頭の固い年寄りの事だと思っていたが、若くても、頑固な奴はいるみたいだ。
シュミレーションの結果だと、早くて後二カ月しかない。
まあ、一番可能性が高いのは四ヶ月後なのだが。
どちらにしろ、あまり時間が無い。
無駄に出来る時間はないのだ。
無理やり押しきるしかない。
「はあ、やってくれないならもういいです。私が直接全部指揮します。」
「そんな横暴な!」
「なんとだって言って下さい。私は、茉莉と私の帰る場所がある、この国を守ります。どんな壁があろうと、私が正しいと思うことをやるだけです。大切なものを守るためなたら、なんだってやります。」
「そんな!出来る筈が無い!」
「出来る出来ないは関係ありません。やるだけです。」
「そのせいで、被害が拡大したらどうするんですか。」
「私が責任もって守ります。私の手が届く範囲に居る人に、被害は出させません。」
「大臣は自分の力を過信しすぎている。」
「過信などしていません。私はそれが出来るだけの力を持っています。」
「嘘だ!」
「別に信じてくれなくてもいいです。真実ですので。現実逃避をしてて下さい。私は、その間に、やるべきことをやるだけです。」
「ああもういいですよ!やってやりますよ!やればいいんでしょう!反対する奴らを黙らせてやりますよ!大臣が言ったこと全部言われたとおりにやってやりますよ!」
「本当にやってくれるんですね?」
「ええ!何でもやってやりますよ!」
よし!
相手の方が折れてくれた。
これで心配事は減った。
此処までくれば何も問題はない。
頑固だけど、兵士長はきっと優秀な筈である。
彼ならきっとやってくれるだろう。
楽しみだ。




