協議
「君が新しい軍事大臣か。話をしようじゃないか。」
応接間に入ってきた二人の片方の方が、カーリスさんに向けてそう言った。
ちょっと誤解しているようだ。
まあ普通は、ちびっこ少女よりも、大人の男性の方が見た目的には軍事大臣にはふさわしいか...
とりあえず誤解を解かなければならない。
「あの、そちらはカーリスさんと言って、副大臣です。」
「じゃあ、そちらの女性か?」
「いえ、その人は秘書官のナタリアです。」
「じゃあ、ここには大臣はいないということか?」
「いますよここに。」
「どこに?それらしき人は見当たらないぞ?」
「名前は聞いていますか?」
「ああ、確かヤサカイアオイという、変わった名前の人だったな。」
「私です。」
「え?」
「私がその、変わった名前の八坂井葵で、軍事大臣になりました。宜しくお願いします。」
「えっ!?えー!?こんなに小さいのに?これは失礼した。クハダ国王が任命されたのなら、相当優秀な人材なのだろう。私が共和国の軍事大臣だ。こっちは副大臣だ。宜しく頼む。」
あれ?
これは意外だ。
すぐに納得してくれた。
ちょっと面倒なことになるのかな、と覚悟していたが、必要無かったみたいだ。
良い人で助かった。
協議もきっと早く終わることだろう。
「いつ敵連合軍が攻めてくるかわからない。今は少しの時間も無駄には出来ない。速やかに協議を始めよう。」
「まずは現状の敵との差の話ですかね。」
「そうだな。とりあえず、サムリア共和国は現在、一千万人の兵を保持している。しかしそれは、わが軍の増数だから、実際に動員できるのは九百万人ほどになるだろう。陸軍のみだと七百万である。しかし、これ以上兵数を増やすことは難しい。兵糧の問題もあるのでな。」
「そうですか。次は我々の番ですね。ナタリアさん、お願いできますか?」
「はい、分かりました。まず、総兵数は二千万人、そのうち動員できるのは千七百万人ほどでしょう。そのうち陸軍は一千五百万人ほどですね。確か敵は情報によると、合計で約四千万人でしたから、圧倒的に不利ですね。」
「しかし、かなり大規模な戦争になりますね。この規模の戦争は、今まで聞いたことがありません。」
「戦力差はおよそ一千万人程度ですか。」
「だが、大陸を東西に分断している山脈。この山脈の谷を利用すれば、戦線は横には広がらず、数の不利を減らす事が出来る。質を上げれば十分勝機はある。」
「ですが、兵数の差は無視しきれません。しっかりとした作戦を考え、二国間の協力が出来ないと、勝ち目はありませんよ。」
「では、大陸の地図を用意しましょう。ナタリアさん、お願いします。」
「分かりました。少しお待ちください。」
ナタリアさんが地図を取りに行っている間に俺は、シュミレーションを行う準備をする。
このシュミレーション結果を使って、作戦を考えようと思う。
しかし、技術レベルはかなり低いのに、兵数がかなり多い。
どの国も人口が多いからだろう。
これはかなりの長期戦になりそうだ。
アメリカの南北戦争では、五十万人もの死傷者が出たが、今回の戦いでは、それを優に超える被害が出るだろう。。
俺も覚悟を決めなければならない可能性もあるだろう。
とりあえず今は、戦争に勝つことだけを考えよう。
ナタリアさんが地図を持ってくると、話し合いが再開した。
俺はシュミレーションを開始する。
ちなみに、我らがクハダ王国は大陸の南東で共和国が南西、北には東側から、公国、神国、帝国と並んでいる。
だから今回の戦争は、大陸の南側と北側で争う大陸の南北戦争だ。
アメリカでは北軍が勝ったが、こちらは南が勝てるだろうか?
まあ、やれることをやるだけだ。
「敵が通ってくると思われるルートは、共和国に三、王国に八ですね。」
「海路を使われなかったら、全てのルートを通られても、共和国にはあまり兵は行かないと考えられますね。」
「海路を使っても、どの軍も海軍はあまり発達していない。ですから、送れる兵には限りがある。ならば、最初は互いに援軍を送らずに様子を見てみましょう。」
「そうなるだろうな。私もその意見に賛成だ。」
「では、最初は様子を見て、援軍を送るかどうかを決めるという事で決定ですね。」
「援軍が必要だと思われた場合、迅速な対応が必要なため、どちらかの判断によって行うことにしましょう。」
「では、援軍を送った時の戦い方を考えましょうか。」
「しかし、戦うと言っても防戦一方になる事は必須です。どうやって防衛するかが問題です。」
「そこの点はご心配なく。共和国ではすでに、山脈のところに要塞を築いている途中なのだ。これが完成すれば、共和国の防衛はそう難しくありません。さらに道が狭いため、一度に相手をする必要がある敵の数はさほど多くない。長期戦に持ち込むことが出来れば、撃退することは容易になる。」
「しかし、油断大敵ですよ。敵がどんな手段をつかってくるかなんて、現段階では分からないのですから。もしかしたら、新兵器が出てきて要塞を突破される可能性だってありますよ。」
「ははは、新兵器が出て来たって問題無い。それこそ、巨人が出てきて山を崩さない限り、破られることはあり得ない。」
「そうですか。そんなに自信があるということは、それほどすごいものなんでしょう。では、私は王国の防衛に専念させてもらいます。我らの方では、八つのルートのうち、特に敵が多く来ると予想される場所に要塞を作ろうと思います。あと一つ提案なのですが、我らの国の国境にも、大きめの要塞を作ってみてはどうでしょうか?援軍を送るのが楽になると思います。勿論、作るのは王国側やらさせてもらいます。どうでしょうか?」
「おお、それは良さそうだ。宜しく頼む。」
「では、そろそろ協議も終わりにしましょうか。時間も有りませんし。」
「そうだな。今日は良い協議が出来た。感謝する。また、戦争が終わったら会おう。ともに頑張ろうではないか。」
「はい、お願いします。」
こうして、共和国の大臣さんたちとの協議は終わった。
しかし今回は、基本的に俺と共和国の大臣の二人の話し合いがメインになってしまった。
副大臣とか、ナタリアさんも意見を言ってくれたらよかったのに。
茉莉も、一言も言葉を発することが無かったな。
ずっとナタリアさんと話していたような気がする。
まあ、しばしば笑顔も見られたから、話を楽しんでいたみたいだし、よしとするか。
相手も何も言ってこなかったしね。
協議も終わって、新しく用意してもらった軍事大臣の部屋向かっている途中、カーリスさんが話しかけて来た。
「もう少し話し合わなくて良かったのですか?」
「と、言いますと?」
「問題点が多すぎます。共和国の大臣は、要塞が突破されることはないと言ってましたが、もしも本当に巨人が出て来たらどうするのでしょうか?一%でも可能性があるならば、その対応を協議すべきです。可能性が少ないからと言って、切り捨ててしまうのはおかしいです。」
「まったく、カーリスさんは頭が固いな。一つ聞くけど、共和国は役に立つと思う?」
「はい。我らの強力な助っ人となってくれるでしょう。」
「ざんねん!私はそうは思わないんだよ。逆に足手まといになるかもしれない。理由はいくつかあるんだけどね。まず第一に、さっきカーリスさんが言ってたけど、少ない可能性を切り捨てちゃってる。これは私の考えなんだけどね、今回は従来の戦争とは、一味も二味も違う戦争になると思うの。」
「そうなんですか?」
「確証はないけどね。でも、戦争の準備に費やしている時間が尋常じゃないんだよね。前に資料を見させてもらったんだけど、少なくても四年前から準備しているみたいなの。いい加減時間をかけ過ぎなんだよね。だから私は、新兵器とまでは行かなくても、今までの戦いとは違う攻め方とか、何か変えてくると思うんだよね。」
「なるほど。ですが要塞を築いていて、全く使えない事はないと思うのですが。」
「そうともいかないんだよね。これも予想なんだけどね、その要塞は、全く意味を成さないと思う。共和国側には三つのルートがあって、陸路を使う場合、山越えをしない限り必ず通る場所すべてに築かれてしまっている。そうしたら、別のルートにするか、しっかり準備をして打ち破るかの二択になってくるんだよ。私達が攻める側なら、私は別のルートを選択するね。そっちの方が、準備が楽だからね。そうなれば、要塞なんて関係ない。せめて、一ルートだけでも残っていれば、少しは変わると思うんだけどね。まあ、いまさら出来ることはないからほっとくけどね。そして共和国は要塞を過信しすぎている。だから、一か月と持たずに国は滅びていくと思うな。」
「ならば、こちらから支援をすればいいじゃないですか。」
「たぶん、そんな余裕は出来ないと思うんだよね。要塞が役に立たなかったら、軍は総崩れになると思う。すると兵力は良くて半減、悪かったら壊滅してしまう。そうすると、王国対北軍の構図が出来上がってしまうんだよ。さすがの王国でも、北軍前部を相手しながら自国と共和国の二つを守る事なんて不可能なんだよ。」
「共和国を見捨てるということですか?」
「そういうことになるね。」
「そんなのダメです!共和国は我らの同盟国であり、仲間ですよ。見捨てるなんて...」
「共和国の国民を少しの間受け入れて守ることなら出来るから、それで我慢するしかないよ。私達に出来る事なんて限りがあるんだよ。このことは、どのような考えを持っていたとしても、納得してもらうしかないんだよ。守ろうとして負けてしまったら、元も子もないからね。逆にもっとひどい結果になってしまうかもしれない。」
「ですが!...」
「話は以上だよ。共和国は国民は助けるけど見捨てる。これは決定事項。私達は、共和国と協力せず、私達だけの力で北軍に勝つの。その為の作戦も考えて、準備をしなくちゃいけないの。では、私は部屋に行くので。」




