王城
家に帰って、いつも通り茉莉に話をする。
この前やらかしてしまった、修行をしながらだ。
今日は、前回に引き続き料理である。
前回は、この世界で親しまれている料理が多かった。
しかし、今回は地球で親しまれている、世界各国の様々な料理を作った。
和食に始まり、中華やフランス料理、全国チェーン店で売られている料理もだ。
今回もたくさん作る。
しかし、前回とは違う点がある。
それは、料理はしっかり、目的があるという事だ。
前回も、修行という目的があったが、それだけだった。
今回は、修行だけでなく、作った料理は、自分達が食べる分以外は、すべて孤児院に寄付する。
だから、遠慮なく大量に作りまくる事が出来る。
何せ、孤児院の子供たちの為なのだ。
おいしい料理を、たくさん食べてもらわなくては。
そんなわけで、張り切って頑張っている。
茉莉も、色々手伝ってくれている。
しかし、茉莉も、今日の出来事を伝えてみると、数瞬動きが止まった。
目も見開かれている。
驚いてくれるだろうな、とは思っていたが、ここまでとは予想外である。
今まで、茉莉のこんなにおどいている顔なんて見たことがない。
なんか、申し訳ない気分になってくる。
しかし、すぐに再起動する。
「へぇ、そうなんだ...まだこっちに来てから、数日しかたっていないのにね。本当に色々やらかしてるんだね
。そうか、貴族様か...さっ、早く料理作らないと、時間無くなっちゃうよ?急げ急げ~」
「わかった。次は何作る?」
「次はね、どうしようかな?」
茉莉の反応に、不思議な点があったが、今気にしていてもしょうがない。
シュミレーションで確認してみたが、理由がわかる事はなかった。
まあ、きっとそのうちわかるだろう。
わからないのなら、俺にはどうでもいいという事だ。
割り切ることも大切だ。
その後の俺らは、さらに料理を作り、無事に孤児院に届ける事が出来た。
料理は、孤児院の子供たちだけでなく、その孤児院を運営している人達や、たまたま通りかかった人達にも食べてもらい、初めて食べる料理に、舌鼓を打っていた。
おいしそうに食べてもらって、嬉しかった。
子供達なんか、一心不乱に料理を食べ続けていた。
気に入ってくれたようでなによりだ。
これは、先にご飯を食べていなかったら、食べたくて食べたくて仕方がなかっただろう。
助かった助かった。
あれから5日がたった。
今日は、王城に行って、お披露目会?に参加しなくてはならない。
俺のだから、サボる事は出来ない。
さらに、今日はドレスを着なくてはならない。
ドレスは動きにくいから嫌いだ。
もしも、公衆の面前でずっこけでもしたら、ただの笑いものであり、転んでしまった本人からすれば、全く笑う事の出来ない、ただの黒歴史である。
もっと動きやすい服を作ってほしいな。
前世でも、こんな動きにくい服は着たことはない。
まあ、前世は男子だから、ドレスなんて着る機会ないんだけどね。
今、俺はしぶしぶドレスを身につけ、馬車に揺られながら、王城に向かっている。
騎手はもちろんセバスチャンである。
まあ、俺と茉莉は、騎手なんてできるわけないら、必然的にセバスチャンに頼る事になるのは、仕方がない事だと思う。
大事なことだから二回言う。
仕方がないのだ。
決して、俺の万事適性があれば、騎手なんて余裕だろ、なんて思ってはいけない。
面倒だから、やりたくないわけではない。
スルーしてくれるとありがたい。
いや、スルーしなさい。
これは命令です。
命令を無視すれば...特に何もないです。
はい。
忘れてください。
こんな感じで、とてもくだらない事を考えているうちに、セバスチャンが、王城についたと知らせてくれた。
これから、面倒事になるのかなっと思うと、気が進まない。
何せ、見ず知らずの人が、ふらっと現れたら、自分よりも高い地位につくというのだから。
納得しない人は少なからずいるだろう。
不満を爆発させる人もいるかもしれない。
その場合、俺は責任をとれない。
まあ、王様が何とかしてくれるだろうけど...
自分から、面倒事に首を突っ込んだ気分だ。
決して、そんなはずなかったはずなのに。
言い切れないのが答えになっているような気がする。
きっと気のせいである。
そう願おう。
馬車から下りる。
セバスチャンは、この後特に予定がないため、馬車の駐車場で待っていてくれるようだ。
何かあったら、急いで走っていけば、逃げる事が出来るだろう。
そう考えると、幾分か気持ちが楽になった。
まあ最低、極大魔法でも使って、お暇することもできるから、特に問題はなかったのだが。
何せ、人間程度では俺に勝てないらしいのだから。
茉莉のお墨付きである。
そう思うと、不安になっているのが、ばかばかしくなってきた。
もういいや、と思ってふっきれる事にする。
どうせなるようになるのだ。
駄目だったらだめ。
俺の世界はここだけではないのだ。
最終手段として、国外逃亡等、取れる手段は無数にある。
よし、と気合を入れた。
すると、タイミングが良いのか悪いのかは分からないが、とある人に見つかった。
「ああ、やっと来たわね。まったく、待ちくたびれてましたわ。」
ルルである。
俺はそのまま、ルルに連れ去られた。
実際は、案内してもらった、という表現の方が正しいのはわかっている。
ただ、今の俺の心境は、連れ去られた、または誘拐されたの方がしっくりくるのである。
まあ、俺が誘拐される事は、絶対と断言しても良いほどにありえない事なので、そう思っているだけで、自分があほに思えてくる。
ルルにつれされた部屋は、5日前に来た時に案内された部屋と同じだった。
「ここで、他の貴族が集まるまで、待ちましょう。」
ここで、時間をつぶせと、そう言うのかルルよ。
それはひどいぞ。
ここでやることと言えば、ルルと話す、ひたすらぼーっとする、寝るの3択である。
なら、選択肢はたった一つしかないじゃないか。
俺はその、唯一の選択肢を実行する為に、横になろうとした瞬間、
「せっかくの服装が台無しになっちゃうと困るから、寝るのはダメよ。」
何!?
貴様、どうやって、俺の心を読んだのだ?
俺はまだ、行動に移そうと思っただけだぞ。
と思ったら、
「そんな寝る気しか感じられない体制で、そんなに驚くのはやめてほしいわね。笑ってしまいそうになるわ。」
まだ、行動に移していないと思ったら、俺は無意識のうちに、寝ようとしていたようだ。
そりゃわかるわけだ。
でも、ルルに俺の心を読む力がなくて、本当に良かった。
もしもあったとしたら、ルルの前では、かなり思考を気をつけてしまわなければならないのだ。
さて、時間のつぶし方は、ひたすらぼーっとしているわけにはいかないから、ルルと話す。
まあ、ほとんど質問攻めされまくっただけなのだが...
そんな感じで、やり取りをしていると、メイドさんが入ってきた。
「そろそろ皆さんがお揃いです。会場まで来て下さいませ。」
そろそろ始まってしまうのか。
たぶんだけど、地獄になるであろう時間が...




