ルル
ルルは無事に目覚めた。
しかし、俺の怒りの火に油を注がれた。
俺の怒りは、ピークに達しようとしている。
確かに、ルルとは長い時間一緒にいたわけではない。
ベルの時もそうだ。
しかし、この世界に来てから、初めての他人とのかかわりや、初めてできた友達である。
どちらも、一緒に過ごした時間は関係なく、大切な人である。
俺はとても甘い人間である。
大切なものはすべて守りたい。
犠牲が、いくら大きくともだ。
そんな俺が、大切な人を気づつけられそうになった時の感情はただ一つ。
怒りなのだ。
理不尽かもしれないがしょうがない。
それが俺なのだから。
そして、その怒りは、相手に向けた物だけではない。
今の俺には力がある。
確かに、世界最強の力ではない。
しかし、今までに会った、俺より強い力を持っていそうなのは、茉莉しかいない。
と言う事は、俺の力で、危険なく過ごせたはずなのだ。
それでも、危険にさらしてしまったという自分への怒りもある。
と言うか、それが大半である。
かなりやつあたりに近いような気がするかもしれないが、相手が悪いのだ。
相手が何もしなければ、こちらも何もしなかったのだ。
そう、相手が悪いのである。
俺は、もう気持ちの面では、犯人をつぶす準備は十分できている。
しかし、俺は今から王城に向かわなくてはいけない。
すぐには行動できないのだ。
だからと言って、何も行動しないというのは、嫌だ。
せめて情報収集だけでもしたい。
しょうがない。
さっきは、頼らないとか何とか言ってたような気がするが、そんな事は忘れてしまえ。
茉莉に手伝ってもらう。
「茉莉、お願いがあるんだけど。」
「どうしたの、おねーちゃん?」
「魔法をかけてきた、犯人の事を知りたいんだけど...」
「いいよ、調べといて上げる。だからおねーちゃんは、早く王城に行ってきて。帰ってくるまでには、調べ終えとくから。」
「ありがとう!」
「別に大丈夫だよ。おねーちゃんの為なら、いっぱい頑張っちゃうんだから!」
「あはは...無茶しないようにね?」
「行ってきまーす。」
はあ、最後のは全く聞いてないな。
まあ神様だから、無茶しなきゃいけないような出来事は、あまりないと思うんだけどね。
まあ、それはそれで良い事だから、特に何か言わなくても良いのかな?
何事もないのが一番なのだが。
それは良いとして、情報は、茉莉が収集してきてくれるので、安心だ。
俺よりも確かな情報を、より詳しく集める事が出来るだろうし、俺に伝わる時も、情報を取捨選択してくれているのだろう。
そうすれば、おれは混乱する事はないだろう。
混乱する事がなければ、物事をしっかり判断でき、冷静に行動できる事につながるのだ。
それはとても大切なことである。
焦ってしまっては、正しい判断を下す事が出来ない。
それは、油断と同じくらい駄目な事である。
もしかしたら、油断以上にやばいことかもしれない。
それは避けなくてはいけない。
まあ、茉莉がうまくやってくれるだろう。
俺は、茉莉が情報を集めてくれるのを、待つだけである。
とりあえず、やらなくてはいけない事に専念しよう。
茉莉が出かけて行ったあと、ルルと校長について行き、馬車に乗り込む。
学校が用意したにしては、かなり豪華である。
まるで、どっかの貴族の馬車だ。
まあ、ルルをぼろい馬車に乗せる事は出来ないだろうがな。
こっちも得できるので万々歳だから、特に何か言うつもりはないが。
馬車の騎手は、校長が直々にしてくれるようだ。
そこまで頑張らなくても良いのに。
まあ、俺が頑張るわけではないから、特に問題はないのだが。
馬車の中には、俺とルルの二人だけだ。
俺は、一応の為に、馬車に強化魔法をかけた。
ミサイルが飛んできても、防ぐ事が出来るだろう。
この世界の魔法でも、ミサイル以上の魔法は、意外と多いが、その分消費魔力量や、詠唱が長くなる等、いくつか問題があるため、使用できる者は少ない。
だから、これである程度は安心していいだろう。
逆に、これを破ってくるような攻撃をしてくる相手に、俺が勝てるかが疑問だ。
まあ、その時はその時だ。
きっと何かあったら、茉莉が飛んでくるだろう。
茉莉と一緒に対処すれば、何とかならない問題の方が少ないはずだ。
そうであると信じたい。
そんな俺の考えはお構いなしに、馬車はどんどん進んでいく。
馬車の揺れは、予想していたのよりも少ない。
しかし、予想よりは、と言うだけであり、かなり揺れている。
馬車酔いしてしまいそうだ。
目の前に座っているルルは、うとうとしている。
ルルにとってこれは普通なのだろう。
魔法の効果が切れたとはいえ、一応ルルは寝起きの状態である。
まだ眠いのは仕方がないだろう。
しかし、揺れる馬車の中でうとうとしているルルはすごいな。
俺も早く、この世界に慣れていかなくては。
それにしても、暇である。
馬車についている、小窓をのぞいてみるが、風景が一向に変わらない。
自分で歩いてみているのならまだしも、揺れる馬車では、外の風景に余り集中できず、見入る事が出来ない。
気分転換しようにも、やる事はないし、何か相手してくれそうなルルは、うとうとしていて、もうじき完全に寝てしまいそうだ。
それを起こしてしまうのも、悪いだろう。
しょうがないので、全然変わらない風景にうんざりしながらも、小窓を覗く。
そんな俺をのせた馬車は、速度を変えず、国の中心地へ向かって、ゆっくり進んでいくのであった。
王城につくころには、ルルは完全復活していた。
その理由は、あのまま、外を見続けていると、眠気が襲ってきたため、俺もうとうとしだすと、それを見たであろうルルが、急に眼を見開いて、すごい物を見た時の表情になり、
「かわいい天使だなー。」
と、小声でつぶやく。
頑張って声は抑えていたようだが、しっかり聞こえてきた。
これは、急いで逃げたほうがいいのではないか?
と、考えていると、ルルがこちら側に移動してきた。
途中よろけて、転びそうになっていた。
笑いをこらえるのに、かなり苦労した。
それで少し和んでいると、隣に座ったルルが、
「さあさあ、かわいいかわいい天...アオイちゃん、おねむの時間ですよ。」
と、言って膝枕してくれた。
かなりどきどきしたが、これは頑張ったご褒美だと自分に言い聞かせ、ゆっくりと体の力を抜いて行く。
今ここに茉莉は居ないのだ。
ある程度の事をしても、許されるだろう。
少し、ルルの顔を見てみると、微笑んでいた。
何を考えているかはよく分からない。
しかし、今は至福の時間を楽しむ時である。
ぬくもりと柔らかさを感じつつ、ゆっくりと意識を手放していった。
そして、そのまま王城につき、至福の時間が終わりをつげ、馬車から下りて、今に至る。
今のルルは、とても機嫌が良い。
そんなに、俺を膝枕で来た事が良かったのだろうか?
まあ、本人が良いと思っているのなら、それでいいとしようではないか。
それよりも、俺は今から一大イベントが待っている。
王様に謁見するのだ。
王様はやさしくて、心が広い人だといいな。




