転移の決意
俺は目覚めた。
あたりを見まわしてみる。
色々おかしい。
夢を見ていたはずなのに、なぜか自分の寝室ではなく、真っ白なところだからだ。
ふかふかの布団の上にいるわけでもなく、硬い地面の上にいるわけでもない。
床(または地面)の感触が全くしない。
まるでふわふわと浮いているような感じがするような、しないような。
まだ自分の知っている土地なら、そこで寝落ちをしてしまったのだろうと思えるのから、まだ何とかなるのだが。
なったらすごいのだが。
普段夜更かししないため、寝落ちしたというのはもともと考えにくいのだが。
誘拐される事もないだろうし。
こんな何のとりえもないようなごくごく普通な高校生を誘拐するようなモノ好きは、世界に数名ほどしかきっといないだろう。
それか、頭が狂っている人だ。
誰かを誘拐する時点で、犯人の頭は狂っているのだろうけど。
ここはどこだ?
前方に人影が見える。
かなりぼやけて見えるが、そこにいる人は、いくらぼやけていたとしても、いくら寝ぼけていたとしても、何があったとしても見間違える事のない。
茉莉だった。
だが、茉莉もいつもと様子が違う。
いつもと服装が違うからだろうか?
茉莉は、中学に入ってから、ものすごいファッションなどに気を使っている、おしゃれ好きだ。
この前なんか、服の組み合わせで悩んでいたせいで、学校に遅刻してしまったらしい。
気を遣いすぎだと思うのは俺だけだろう。
今は純白ドレスを身にまとっている。
さすがに普段ドレスを着るような、お譲さまではない。
そもそもスカート等振り振りしたものを身につけること自体が少ないのだ。
茉莉と俺は同年代の人と比べて背が低い。
俺は背の順で、前から三番目より後ろに行った事は一度もない。
中学校に入学してからはずっと一番前なのだが。
茉莉はなんと、背の順は一番前にしかなった事がないのだ。
学年一番の小ささである。
茉莉は中二なのに身長は130センチだし、俺は高二なのに140センチしかない。
だからよく小学生と間違えられる。
そんな茉莉がドレスのような服を着ていると、普段から背伸びをしているように見えるのに、今はさらに背伸びをしているようで、とてもかわいい。
それはともかく、本当にいろいろ違うのだ。
いつもと同じところを見つける方が難しい。
「茉莉、なのか?」
「そうだけど。他の誰かに見える?」
「ここはどこなんだ?」
「魂の待機場所。ほんとは使えないんだけどね。お願いして許可もらってきたの。」
「やっぱり俺は死んだのか?」
「うん、死んだよ。自殺は見事に成功。私はお腹が潰れていたけど、おにーちゃんは頭が潰れてたね。もうだれかわからないぐらいにね。」
「それはやばいな。」
夢ではなかったみたいだ。
全部本当にあった事のようだ。
俺の自殺は無事成功したらしい。
成功して助かった。
もしも失敗していたら、説明が大変だっただろうし、第一に格好悪い。
この一言に尽きる。
最後に痛みを感じなくて助かった。痛いのはごめんだ。
特に今回は頭が潰れてたって言ってたから、今までの普通の生活では絶対に味わうことも、経験する事もない痛みを感じるところだった。
なら、そもそもやるなって話だけどな。
もしも言われたら、返す言葉がない。
「なにはともあれ、また会えてよかったよー茉莉。」
「会えるのはうれしいけど、再会の仕方がこれだと、嬉しさ半減だね。今のおにーちゃん、白いまんまるにしか見えないから。」
「自分を見ることができいないから、よくわからないな。」
「見えてたらすごいけどね。それはともかく色々説明しなきゃだよね。まず、私は数日の修行により、神様になりました。」
茉莉が神様?
俺、今神様と話しているの?
実はまだ夢が続いたりしてるのかな?
あと、神様って、数日でなれるものなの?
実はものすごい妹がいたのか。
かなり以外なんだけど。
そんなにすごいんだったら、この情けない兄に、少し力を分けてほしかった。
あと、神様って、厳しい修行とかして、数百年後にようやくなれる事が出来るものだと思うんだけど、そう思っているのは俺だけ?
ものすごく、みんなの意見が聞きたくなってきた。
ああ、地球が恋しい。
まさかこんな理由で、こんなに早く地球が恋しくなるなんて思わなかった。
「そんな目で見ないでおにーちゃん。すごい傷つくから。私は正常だよ?おかしくないよ?厨二病になってないからね?私言ったの全部本当のことなんだよ?はやくその目やめないと魂を消し去るからね?せっかく助けだしたけど、しょうがない事だよね。不可抗力だよね。神様の言う音は絶対だから、しょうがないね。」
「ちょっ、信じる。信じてるから、そんな物騒なこと言わないで。」
今さらっと危ない言葉が出てきたのは気のせいだろうか?
まあ、とりあえず茉莉のことは信じてあげよう。
それが一番安全である。
今それを思い知った。
逆らったらどうなるかわからない。
「とりあえず私は頑張って神様をやっているので、ご褒美で一つ希望がかなえられるようになったの。それで、どうしようかなって考えてたら、おにーちゃん自殺しちゃったから、しょうがなく助けてあげようと思ったの。生き返るのが嫌なのなら、このまま輪廻転生の流れに沿ってくれても良いんだよ?でもその代わり、今までの記憶はすべて忘れることになるの。たまに、記憶持っている人もたまにいるけれど、数百年に一度ぐらいのペースだから、期待しない方がいいよ。」
「すべて忘れちゃうのはやだなー。分かった。生き返るよ...って待って。生き返るのは別に良いんだけどさ、今の俺の体って頭潰れてるんでしょ?生き返ったら、まだ頭潰れてて、痛みに苦しみながら二度目の死を迎えるのは嫌だよ。さらにそれじゃあ意味がないし。」
「そこはご安心を。体は新しく作り直すから、頭が潰れていても、それこそ、体が粉々になっても、生き返るのには何の問題もないよ。新しく作り直すから、前の姿になる事もできるし、別の姿になる事も、性別を変えることも、種族を変えることだって出来るんだよ。馬鹿にすることも天才にすることもできるんだよ。行く場所はかなりやばいところだから、馬鹿にする事はないけど、ちょっと遊ぶのは良いかなって考えてるんだよね。」
とりあえずわかったことがある。
それは、これから危険いっぱいの怖い場所に行くっていうことだ。
茉莉の笑顔が怖くなっている。
あの表情のときはたいてい、やばいことを考えている時だ。
神様になっても、そういうところは変わらないんだな。
そういうところは良い方向に変わってほしかった。
せっかく神様になったんだから。
「俺はその場所でなにをしていけばいいんだ?まさか、魔王討伐のための修行の旅に出ろとかはないよな?」
「普通に異世界生活を楽しめばいいと思うよ。」
「思うって...というか、やばい場所なんだってさっき言ってたじゃん。そんな中で安心して楽しむのは難しいと思うんだけど。」
「やばいって確かに言ったけど、どんな場所か詳しく聞いてないでしょ。危険じゃないかもしれねいよ?」
「笑顔が怖くなってるから絶対危険な場所だよ。兄の目はごまかせないのだ。」
「ごまかすも何も、気のせいだから、ね。」
「わ、わかったよ。気のせいだ、気のせい。茉莉は怖い顔なんてしていなかった。言葉は大丈夫なのか?」
「問題ない。」
「あっちの世界も日本語なのか?」
「そんなわけないじゃない。でも、いつの間にか言葉は覚えてるから。書けるようにもなってる。神様パワーで。」
「うーん、それなら大丈夫かな?」
「大丈夫でしょ、神様いるんだし。神様が役に立たないわけないじゃない。」
すごい不安である。




