救出
マップと無音空間のおかげで、何人か気絶させる必要があったが、誰にもばれずに屋敷の中に潜入することができた。
警備の人もようやく音がしない事に気づいたらしく、今頃になって慌て始めている。
気付いたところでもう手遅れなのだが。
警備は役に立たない事が、今証明されたな。
俺はマップを見ながら無音空間が唯一発動させていない場所に向かって、屋敷の中は走っている。
もちろん、ベルが捕まっている場所である。
マップで確認したところ、クズマも一緒にいるようだ。
逆にいなかったら、無音空間を使う必要なんてないのだが。
クズマは、もう一度懲らしめないとだめなようだ。
いや、懲らしめるだけではだめだな。
死んだ方がまし、というぐらいの恐怖体験をしてもらおう。
廊下にも何人か警備がいた。
見かけた瞬間容赦なく、万変の玉を変化させた刀で峰打ちして気絶させていく。
わざわざ刀得お使う理由は、万変の玉をもらった時に、せっかく刀に変化させたのに使う機会がなかったからだ。
ただ、使いたいだけである。
警備をどんどん気絶させながら進むと、ベルのいる部屋に着いた。
俺が潜入した後は誰も出入りしていない。
部屋の外には無音空間がかけられているのも、知っているわけがないし、どれだけ派手に動いたとしても、部屋の外から音がしないから、ばれるはずがない。
さらにクズマは、ベルのことしか頭にないだろう。
そんな奴に、俺がここまで侵入してきている事に、気づけるわけがないのだ。
だから特に警戒などしない。
ベルも部屋の奥の方にいるようだ。
ドアにはかぎが掛かっていた。
いちいち開けるのは面倒である。
(爆破)
魔法でドアを爆破する。
無音空間で、音が生じないからと言って、魔法が発動できないわけではない。
イメージさえしっかりしていれば、何も言わなくても魔法は発動できるのだ。
言った方が、謎理論により威力が上がるみたいだが。
爆破が発動した事により、木片が飛び散っているが、燃えていないためスルーする。
部屋の中に入ると、椅子に縛られているベルと、驚いた顔でこちらを見ているクズマの姿があった。
部屋の中には他に人はいない。
マップにも表示されていないから、大丈夫だろう。
「ベル、怪我してない?」
「アオイちゃん!」
「なぜ貴様がここにいる!?貴様を見かけたら我に伝えるように言ってあるのに!」
「あなたの部下なら廊下で眠ってる。死んでないから安心してよ。」
「貴様のせいか!」
「そんな事はどうでもいい。早くベルを返して。私は久しぶりに怒ってるの。早く返さないと殺すよ?」
「返すものか!貴様には勝てぬとしても、その鬱憤と、パーティーでのこ奴の生意気な態度。この両方をぶつけなくては気が済まん!たとえ貴様だとしても返してたまるものか!殺される前に、こ奴を殺してやる!」
「へえ、ならば覚悟してね。」
俺が怒っているのは事実である。
ベルには確かに、ちょっとあれだな、とい思ってしまうが、友達になったのである。
友達がひどい事をされている、またはされそうになっている事がわかれば、怒るのは当り前だろう。
他の人は違うかもしれないが、俺はそうである。
こいつには、どんな恐怖体験をしてもらおうか。
徹底的にやらなければいけないな。
クズマはベルを渡してくれなさそうなので、しょうがない。
俺はクズマの方へ歩みを進める。
「ひっ!」
クズマが短い悲鳴を上げて顔をひきつらせた。
パーティーでの光景を思い出したのだろう。
「どうしたの?そんなに顔を引き攣らせて。急に怖くなっちゃった?」
「う、うるさい!もう良い、最後の手段だ。ベル!お前はいまから我と共に死ね!せめてお前だけでも...」
「させるわけないでしょ。」
俺は床を強く蹴り、一気にクズマとの差を詰める。
止まりそうになかったため、全力でクズマの顔面を蹴る。
手加減なんてするわけない。
歯が何本か折れたようだ。
歯が数本程宙を舞っている。
俺のじゃないから関係ないけどな。
クズマはそのまま後ろに吹っ飛び壁に激突する。
グシャッっと音がしたのは気のせいだろう。
でもあれ?
なんかおかしいな?
十歳の女の子に大人を蹴り飛ばすほどの力をどこに秘めているのだろうか?
筋肉ムキムキでもないし...
ああ、今はそんな事を考えている時ではない。
マップを見てみると、この屋敷の庭にクズマの私兵とみられる集団が集まりだしている。
無音空間で音を発することができなくても、何とか意思疎通ができているようだ。
まあ、あと数分すれば、無音空間の効果は切れてしまうのだから、焦る必要もない。
情報を確認してみると、強い奴は一人もいない...
だが数が多い。
これが一度にここまで来られると面倒だ。
廊下を通らなくてはいけない為、横に広がれず、一度に相手する人数は減るのだが、やっぱり時間がかかる。
ここから、魔法を放って攻撃する事も可能だが、屋敷が崩壊して、ベルが危ない。
とりあえず俺は、万変の玉を短剣に変化させ、ベルを椅子に縛りつけている縄を切る。
「ありがとう、アオイ!また助けてもらっちゃった。」
「友達なんだから、これぐらい当たり前だよ。こんなところさっさと脱出しちゃおうか。」
「はい!」
しかし、ドアの方へ向かおうと思ったが、話を長くしすぎてしまったようだ。
クズマの私兵が、そぐそこまで来ていた。
パーティーの時に俺ならば、強行突破して無理やり進むしかなかっただろう。
だが、今はそんな事をする必要はない。
すべての魔法を覚えている。
だから簡単に脱出できるのだ。
魔法で転移して帰ることもできるが、マップにはクズマの私兵度も意外に、無数の生命反応が表示されている。
きっと、誰かが呼んだ王国軍であろう。
王国軍が、ベルを救うために駆けつけてくれたようである。
王国軍と合流して、ベルを引き渡した方が、後処理とかはとても楽だろう。
さて、じゃあ掃除をするか。
次の行動を決め終わった時、クズマの私兵が、部屋の中に入ってきた。
一番位が高そうなやつが、
「お前!クズマ様に何をした!」
と言ってきた。
いま、クズマは、俺の後ろの方で気絶している。
俺の蹴り一撃で撃沈したみたいだ。
だから俺は真実を伝える。
「顔を思いっきり蹴っただけですよ。」
「嘘だ!お前なんかが思いっきり蹴っても、あんなふうにならないはずだ!」
まあ、そう思うのが普通だろう。
何せ見た目が、クズマは、がたいの良いおじさんであり、俺は、幼い少女なのだ。
そんな少女の蹴り一撃で、おじさんが気絶する事は、通常ならあり得ない話なのだから
だが事実だからしょうがない。
信じてもらうために一名犠牲になってもらおう。
「あの二人を捕える。突撃!」
おお、わざわざ敵から突っ込みに来てくれた。
証明する事は大切である。
全員が理解できるように、派手にやってやろう。
さあ、まずは一番前に居るリーダー格のやつの顔を蹴るために、ジャンプする。
予想以上に飛んでしまったため、縦に一回転してかかと落としを決める。
軽く蹴ったつもりだが、床を砕き、その下の地面に埋めてしまう結果となった。
開始三秒で退場してもらう結果となった。
やった自分でも予想外である。
しっかり力を制御できるようにコントロールしなくては...
練習相手は、目の前にたくさんいるのだから、すぐにマスターできるだろう。
「な、なんだこの力は。まるで化けものだ...」
「化け物とは失礼ですよ。」
サッサッとお掃除を終わらせよう。