鈴
ベルを助けにいくために伯爵の所へ向かう。
伯爵と言えば誰のことを指しているかわかるだろう。
まあ、俺の知っている伯爵は一人しかいないからな...
そんな事はどうでもいい。
そう、クズマ伯爵の所に向かっている。
万変の玉をクズマ伯爵邸まで続く道を表示させた地図を作製する。
万が一迷子になってしまったら、笑えない冗談である。
このような時に、万変の玉は便利である。
何か特定の条件に沿ったものを作る事が出来るのである。
ベルが連れ去られてから、あまり時間はたっていないはずである。
間に合うと良いのだが。
ベルは困惑している。
パーティーで自分の命を救ってくれた天才少女、アオイに心を奪われた。
自分は武術に関してはかなりの腕前があると自負していた。
しかし、クズマ伯爵の部下五人に敗北してしまった。
敗北しただけならまだチャンスは有っただろう。
しかし、心を折られてしまった。
周りは気づかなかっただろう。
ばれてしまっては、さらに何かされてしまうかもしれない。
そんな中、アオイは弓と、初めて見た剣に槍の柄を組み合わせたような武器を操り、あっという間にクズマ達を追い払ってしまった。
アオイが敵の手を切り落とした時に血がついてしまったが、そんな事を忘れてしまうくらいに鮮やかな動作だった。
私は、葵に武術を教わりたい。
友達になりたい。
仲良くなりたい。
今まで他の誰にも感じさせられた事のない感情である。
葵と仲良くなるためには、たくさん話して互いの事を知るのが一番良いだろうと考えた。
たくさん話をするために自宅に誘ったら、来てくれることになった。
ものすごくはしゃぎながら執事と共に馬車に向かった。
アオイの事を執事に話していると急に、誰かが手で口をふさぎ、目隠しをしてきた。
抵抗しようともがいたが無駄だった。
あろうことか、執事も助けてくれなかった。
始末されてしまったのだろうか?
今度こそやられてしまうのだろうか。
先ほど感じた恐怖が、再び湧きあがってきた。
だが、再び心が折れる事はなかった。
きっと助けに来てくれるだろうと信じたからだ。
たった一人の私のヒーローが...
さて、クズマの屋敷まで来たのだが、警備が厳しい。
万変の玉を使えば何とかなるだろう。
しかし、時間がない。
そのせいで、焦るが生じてくる。
その焦りが思考を邪魔してくる。
どれだけ万変の玉が万能であったとしても、その目的に沿ったものを想像できなくては意味をなさないのだ。
そういえば、出発するときに茉莉が、
「この鈴は私の代わりに助けてくれるから、困ったら鳴らしてね。」
と、言っていた事を思い出した。
腰につけていたのになぜ思いつかなかったのだろうか?
だが今はそんなことを考えている場合ではない。
この状況から抜け出すためには、利用できる者はすべて使うしかないだろう。
とりあえず鈴を鳴らすために振ってみる。
しかし鳴らない。
普通に振るだけではだめなんだろう。
逆に振る動作をすることでは、何かをしてもならない可能性が出てきた。
まあ、普通に振るだけでいいなら、走っている最中に鳴りまくっていただろうが。
どうすればよいのだろうか?
茉莉にどうやって鳴らせば良いか聞いておくべきだった。
今更悔やんでも仕方がない。
だが、鈴が鳴らないことと、焦りでイライラしてきて、さらに考えがまとまらなくなる。
もういっそのこと、後先考えず突撃してしまおうか?
そんな事を考えていると、頭の中で声が響いた。
鈴に意識を集中させなさい。
そして、自分の力を鈴に込めるイメージをしなさい。
そうすれば、鈴に魔力がたまり、きれいな音色を響かせるでしょう。
俺は頭で理解するよりも早く、即座に実行した。
誰の声かもわからないし、妄想なのかもしれない。
でも今は、その声に頼るしかなかった。
俺ではどうしようもできないが、何とかなるかもしれない。
ひたすらイメージを続ける。
一度イメージを始めてみると、すぐにコツをつかむ事が出来、簡単に魔力を込める事が出来た。
ここにも適性があったのか。
魔力を込め続けると、次第に鈴は淡い光を発し始めた。
最初は淡かった光も、どんどん強くなってくる。
これが最大だろうと直感で理解した瞬間、俺は迷わず、思いっきり鈴を振る。
リーン
鈴の音が響いた。
何も変化がないな。
響いた音は、いつまでも反響し続ける。
永遠に反響する。
そう思っていると、急に反響していた音が止んだ。
その瞬間、目の前に半透明なパネルのようなものが出てきた。
そこには二つの選択肢が書かれていた。
・スキル メニュー の付与。
・スキル 魔術書 の付与。
メニューは、ゲームとかでよくあるものなのだろう。
ストレージがあったり、ステータスが見れたりする奴だ。
魔術書が良く分からない。
魔術書とあるから、魔法関連なのは間違いないだろう。
かなり迷う選択である。
とりあえず、この二つの選択肢、どちらを選択してもベルを助けることは可能なのは確かだろう。
だが、魔術書の能力が不明である以上、使える能力なのかどうかがわからない。
もしかしたら、最強の能力なのかもしれない。
その可能性があるため、なかなか決まる事が出来ない。
ここで時間をかけるのは良くないという事は十分理解している。
しかし、ここでの選択は、これから生活していくうえでも、かなり関わってくる要素である。
しょうがない、ここは二つ同時に選択して認識された方にしよう。
要するに運任せである。
まさか、二つ選択するときのタイミングが、完璧に一致するという奇跡が起きる事はないだろう。
良い方が選択される事を祈るしかないだろう。
しかし、この選択が良い結果を生む。
両方同時に押す。
すると、パネルに想定外という文字が大量に並ぶ。
奇跡が起きてしまったようだ。
先ほどの考えた事は、フラグになってしまったらしい。
そして次に、対応策検討中が真ん中に大きく表示される。
そんなに意外なことだったのだろうか?
どんな選択が来ても良いように、先に対応の仕方を決めておいてほしかったな。
待つこと数分。
最後に表示されたのは、対応策として両方を付与します。だった。
まじか。
まさか両方ゲットできるとは思いもしなかった。
奇跡が奇跡を呼んだみたいだ。
先ほどまで出ていたパネルが消えると、今度は視界の端の方に別の二つのパネルが表示された。
片方のパネル(左上)には、いくつかの欄が表示され、もう片方には、マップ(右上)が表示されている。
早速、スキル メニュー が発動されたようだ。
マップには、道や場所の名称だけでなく、生物がどこにいるかまで表示されている。
各家庭の、Gの生息数までわかってしまう。
嬉しい事に、クズマの屋敷の警備の状況が丸わかりである。
さらに、頭の中に様々な新しい知識が走馬灯のように流れていく。
すべて魔法の事のようだ。
魔術書も発動したようだ。
それが終わると、この事態を解決するのに使えそうな魔法がいくつか頭に浮かんできた。
今ならどんな魔法でも使用可能である。
早速隠密魔法を使ってみる。
「無音空間」
屋敷の真ん中を中心に、一部穴があいているが屋敷を覆うぐらいの巨大な音を打ち消す空間ができた。
もう屋敷の中では、一部を除いたすべての場所で音が消え去っている。
夜なので物音はもともと少ない。
マップを見る限り、まだ気づいていないみたいだ。
築かれる前にササッと終わらせますか。




