ベル
少し長いです。(七百字位)
「あ、あの、ありがとうございました。助けて頂けなかったら、今頃どうなっていたか...今回の事で、クズマ伯爵は何かしてくるでしょう。今回の件で罰せられないように、配慮させていただきます。」
「ありがとうございます、ベル様。さあ、広場では皆さんが待っております。早く行って、パーティーの続きを楽しみましょうよ。」
「は、はい。」
「あと、敬語はおやめ下さい。私は庶民で、ベル様は伯爵令嬢です。立場が違います。確かに私はあなたにとって、命の恩人なのかもしれませんが、私も助けられたのでおあいこです。」
「ですが...」
「出来ないなら絶交です。」
「...わかりました。その代わりアオイも敬語はやめてください。友達になりたいです。」
「わかったよ。でも、他のみんなの前では、敬語を使うからね。それじゃあ、行こうよ。みんなが待ってるから。」
「はい!」
戻ろうとしたところで、一つ思いだした。
ベルの服には、血がべっとりと付いてしまっていた。
この状態で戻ってしまうのはまずい。
万変の玉は、すべての物に変化することができる。
さらにそれは、数は関係ないのだ。
例えば、万変の玉が一つあるだけで、ボールを無限に作る事が出来るのだ。
ならば、万変の玉を増やす事もできるのではないのだろうか?
思いついたら即実行である。
実物はすぐ目の前にあるので想像はたやすい。
そして、予想通りに、万変の玉は二つに増えてくれた。
成功した。
そして、片方で見た目が全く同じ着物を作製する。
そちらの方に着替えてもらった。
汚れてしまった服は、茉莉に綺麗にしてもらう。
洗濯機を作ることも考えたが、洗濯機で洗ってしまって大丈夫なものかわからなかった。
まあ、着替えが終わったため、ベルと一緒に広場に戻る。
パーティーはつつがなく進行していた。
茉莉がパーティーの続きを行っていてくれていたようだ。
みんな、楽しそうに談笑したり、料理を楽しんでくれている。
クズマ達と戦う前と余り変わっていないようで何よりだ。
唯一、先ほどと変わったことと言えば、貴族が一人例外を除いて寄ってこなくなった。
もちろんその例外はベルである。
もう忠犬に近い感じでべたべたしてくる。
ふざけて、待て!と言ったらストップするし、いいぞ!というと再会する。
本当に犬みたいだ。
ふざけるのはやめておこう。
本当にいろんな事をやってくれそうだが、少し罪悪感がわいてくる。
まあ先ほどよりは迷惑ではないのだが。
でも、ベルは友達の意味を履き違えていないだろうか?
大丈夫だろうか?
そこはベルを信用するしかないだろう。
貴族たちは、先ほど、クズマと戦いに行ったベルと、その手伝いに行った俺が戻ってきたのに、クズマは戻ってきていないことに対して、何か感じたのだろう。
実際に色々あったのだが...
クズマが自分で、力で伯爵位にまで上り詰めたと言っていた。
もしも本当にそうなのだとすれば、かなりの強さだったのだろう。
そのクズマが負けたのなら、自分ではかなうはずがないと思ったのだろう。
少し恐怖を埋め込む事は出来たかな?
そうだとしたら、これからは多少いざこざが減ってくれるかな?
まあとにかく、邪魔ものがいなくなって、貴族が寄ってこなくなった。
ベルを助けれる事が出来たから、一石二鳥で大満足だ。
茉莉に一つ借りていた万変の玉は、二つ渡してもらえる事になった。
万変の玉はいくつかあるようだ。
まあ、万変の玉は、一つからいくつでも増殖する事が出来る。
だから、一つだけでも何の問題もないのだが、予備としてもらっておこう。
結局パーティーは、俺達が戻ってきてから、二時間後にお開きとなった。
作った食べ物はすべて食べてもらえた。
おいしかったと言ってもらえた時にはすごくうれしかった。
また、作りすぎてしまうのも良いかもしれない。
次作りすぎるときは、もっと大量ウに作りすぎなければならないな。
もっと練習して、もっと早く上手に作れるようにならなくてはいけないな。
しかし、名前が広まってしまったのはうれしいとは言い難い。
名前など広がることなく、普通に過ごしていきたいものだ。
適性検査でやらかしたしまった時にはもうすでに手遅れだろうけど、さらに名前が広がりやすくしてしまった。
しょうがない、もう諦めるしかないか。
俺のチート能力で全部乗りきってやる!
自分で獲得した力ではない、というところが少しさみしい事である。
パーティーがお開きになったため家に帰ろうとしたのだが、ベルに家に来ないかと誘われてしまった。
茉莉に相談したら、
「いってくれば。断る理由がないしね。私は家で待ってるね。」
と言っていた。
確かにこの後予定し、行ってはいけない理由もない。
だが、一応”元”男子である。
ゲイではない。
心はまだ男子である。
死んでしまった俺が悪いのだが。
まあそれはともかく、男子が(心が)女子にべたべたされて、家に招かれるこっちの身にもなってほしい。
もう死んでしまいそうである。
しかし行くことになってしまった。
断れないっというのは、かなりきつい。
ベルは、お友達だから断らないよね?というのを目で問いかけてきているのだ。
そんなのずるすぎる。
断れるはずないのだ。
一旦家に帰り着替えたり、支度をしたりしてからベルが迎えに来てくれることになった。
家に帰り別のドレスに着替える。
ドレスを脱いでいる間に、返り血が少し付いている事に気付いた時は少し驚いた。
きっと、薙刀で手を切り落とした時についてしまったのだろう。
貴族が近付いてこなかった本当の理由がいま分かった。
まさか、俺がクズマを殺したと、勘違いされてないよね?
気絶させただけなんだけど...
殺すのと気絶させるのではかなり違うと思う。
とりあえず、血が付いているドレスを着ている人に近付く気にはなれないよね。
そんな事を考えていると、無事に着替え終わった。
今度は水色のドレスである。
このドレスは汚さないように気をつけなくては。
まあまさか血をつけることはないだろう。
支度をしてしばらくすると、ドアが叩かれた音がした。。
外には豪華な馬車が止まっているのが自室の窓から見ることができた。
ドアが開く音がした。
ベルが迎えに来てくれたのだろう。
俺も外に出ようと自室を出て、玄関へ行く。
しかしそこには、伯爵家の召使らしき人しかいなかった。
ベルは居ないようだ。
だが、少し様子がおかしい。
きてくれた、召使らしき人は顔が真っ白だった。
「どうしたの?」
とりあえず何があったか聞いてみる。
「べ、ベル様がいなくなったのだ!どこに行ったか知らないか!?」
「ベル様が?家に帰ってないの?」
「家どころか、パーティーに参加していた執事と共に、馬車にすら来ていなかったのだ!」
俺は嫌な予感がして走り出した。
ベルの家の場所は確認してある。
意外と近くだったので、道の確認もしてあるので、迷う事はないはずだ。
ベルの家がある通りをかなり進むと、クズマの家があるのも確認済みだ。
走り出した先には茉莉がいた。
まるでこうなることが分かっているかのように。
神様だからおかしくはない。
「分かってたの?」
「もちろん。」
「止めたりはしてくれないんだ。」
「過干渉して、未来を変えるのは良くない事だからね。」
「私がいるだけで変わっちゃうと思うけど。」
「おねーちゃんぐらいの影響力ならまだ大丈夫だからね。修正がいくらでもできるからね。神の力を使っちゃうと物事を変えすぎちゃって、修正しきれないの。それはともかく、急がないと手遅れになっちゃう。場所は...」
「先に一つ確認させて?犯人は伯爵?」
「その通り。」
「場所は分かるから大丈夫。」
「これを持って行って。」
茉莉が万変の玉と鈴を渡してくれた。
「忘れものと、すずね。私は直接助けることはできない。この鈴は私の代わりに助けてくれるから、困ったら鳴らしてね。」
「ありがとう。」
「行ってらっしゃい。ちゃんと帰ってきてね。」
「行ってきます。」
万変の玉は、片方はベルト状にして、鈴を腰の位置に取り付ける事が出来るようにする。
俺はまた走り出す。
もう片方の万変の玉は、地図に変化させる。
ただの地図ではない。
伯爵の屋敷までの道のりしか載っていない特殊な地図だ。
地図を見ながら走っているため、普段は知る時よりも速度は落ちると思われたが、そんな事はなかった。
生まれ変わった事により、身体能力がアップしたようである。
しかし、持久力はそこまで期待できないだろう。
さあ、本日二度目の人助けと行くか。
今度は早く終わらせなければならない。
気を引き締めて行こうか。