初めての戦い
俺が茉莉と話している間も、ベルとクズマ伯爵の間の話もどんどん進んでいるようで、そろそろ戦いが始まりそうである。
さて、どうやって割り込もうかな?
その場の雰囲気というものはとても大切である。
少しの間様子をうかがって、なるべく雰囲気を乱さずにわりこめるタイミングを見極めよう。
「自分では戦わないのですね、クズマ伯爵」
「私が出る必要などないのだよ、ベル伯爵令嬢。部下だけで十分だ。」
「すぐに終わらせます。」
ベルがそう言いながら剣を抜いた。
クズマ側では部下が五人前に出てきた。
「卑怯です。正々堂々一対一で勝負です。」
「知らんな。勝負の形式は、なんとも言われてないしな。卑怯だと思うのなら、今すぐに仲間を読んでみろ。まあ、そんな事は出来ない事は知っているがな。そんなのに時間を費やす必要はない。始めるぞ。やれ!」
勝負は始まってしまった。
すぐに割り込もうとしたのだが、クズマのくそ野郎がすぐに始めやがって、タイミングを失ってしまった。
一対五は卑怯である。
それを理由に参戦すればいいか。
でもタイミングが...
そう思ったのだが、そんな事意識していたら、きっといつまでたっても参戦できない事に気づいてしまった。
気づいた瞬間即行動を開始した。
しかし、距離を取りすぎた。
真正面から突っ込むのは、余り良い事とは言えないだろう。
とりあえずは、ベルを守る事が出来そうな所に、静かに移動しよう。
「あぶな、五人で一斉に攻撃されると、よけるのも大変。」
そう呟いている間にも、ベルに向かって武器が向かってくる。
相手は全員ロングソードを使用している。
攻撃をくらったら、ひとたまりもない。
一撃くらっただけでも、死んでしまう可能性だってある。
良くて片腕を失うぐらいであろうか?
そう考えながらも、敵の攻撃をいなしたり、避けたりしながら捌いていく。
ベルは、決して弱いというわけではなかった。
しかし、部が悪すぎた。
たった一人の少女に、五人の大人の男性を相手取らせるのは無茶であろう。
逆によくここまで、一撃もくらわずにいられたなというぐらいである。
そんな状態では、すべての攻撃をいないし続けるのには限界があるだろう。
「くっ、うっ、きゃっ」
上手くいなしたつもりが、相手の力技で、剣を弾き飛ばされてしまう。
そのせいで、ベルは尻もちをついてしまった。
それを見たクズマの部下達はニヤニヤしながら、ゆっくりとベルに近づく。
ベルも、後ずさりするが、ここは広場のように、だだっ広い場所ではない。
あり程度の広さがあるが、建物に面している場所もある。
ベルは、いる場所が悪く、壁際に追い詰められてしまった。
「まっ、まって。もう私の負けで勝負はついたでしょ。剣をしまって?お願いだから!」
ベルの必死のお願いもクズマの部下達には届かなかった。
「ベル伯爵令嬢、あなたはここで死ぬのだ。安心したまえ。事故で処理をしておくからな。事故ならしょうがないだろ?ははははは。」
「嫌だ、やめて。死にたくない。許して、お願いだから許して!」
そして、クズマの部下の剣は振り下ろされた。
血しぶきがあがり、悲鳴が聞こえた。
その悲鳴は男のものだった。
ベルに向かって剣を振りおろした男は、何者かが放った矢によって、腕を引きちぎられたのだ。
「うっ腕が」
「隊長!」
「誰だ!よくも隊長の腕を!」
「まったく、私は伯爵だぞ?伯爵の部下に手を出したらどうなるか分からないほどの馬鹿なのかね?アオイよ」
そう、矢を放ったのはアオイである。
万変の玉で魔法の弓を作り、弓の効果で矢を出現させ、腕に向けてはなったのである。
その矢は、狙い通りに目標に的中したのだ。
俺は適性の高さのおかげで、一度使ったものは使いこなせるようになるのだ。
何と便利な能力。
このチート能力だけでやっていけそうである。
しかし俺は、さっき日本刀作った意味なかったな、と少し落ち込んでいる。
「たかが腕の一本や二本失っただけでそんなに怒るのですか?クズマ伯爵様。伯爵令嬢の命と比べると随分安いものに見えますがね?人の命は奪っていいのに、人の腕は奪ってはいけないなんて道理は通用しませんよ?それともこう言えば良かったでしょうか。事故だったと。事故ならば仕方ないんですよね?」
「そうかそうか。貴様はそんなに死にたかったとは思わなかったよ。しょうがない。ベルよりも先に死んでもらおう。やれ!」
「了解!これでもくらえ!隊長の敵!!」
そう叫びながら、残り四人の部下が切りかかってくる。
俺は、ため息をつきながら、万変の玉を弓から薙刀に変化させる。
そして、薙刀の柄で一人の剣を受け止め、その剣の振り下ろされる勢いを利用して、もう一人の手首を切り落とし、武器を持てないようにする。
さらにその勢いのまま、薙刀を回転させて、つかで攻撃してきた奴の後頭部を強打する。
そのまま気絶したようである。
一瞬で二人を片付ける事が出来た。
まだ、残り二人の部下が残っているが、クズマが、
「ええい、我が直々に貴様を葬ってくれるわ!力で伯爵まで上り詰めた我の力を見るがいい!」
クズマがいつの間にか剣を手に持ちこっちに向かって走り出す。
俺は、実力差すらもわからない馬鹿なのかと呆れながら、待ち構える。
「死ねー!」
クズマは剣を振りおろした。。
俺は薙刀を振りあげた。
剣と薙刀がぶつかりあった。
高い位置から降り下ろす事の出来たクズマが、優勢かと思われたが、クズマにとって予想外の出来事が発生した。
クズマの剣が真っ二つになったのだ。
「なに!?剣が切れただと!」
クズマは、驚愕の表情を浮かべる。
そしてその表情は、やがて、恐怖に変わった。
「さて、剣を抜いたということは、死ぬ覚悟は出来ているはずですよね?戦うとは、そのようなリスクが伴う行為なんですから。」
「待て、貴様!いままでの無礼な行いを許そう。問題には一切しない。ベルの事も見逃してやろう。我にできる事なら何でもやってやろう。我のはいかにもしてやる。だから助けてくれ!」
クズマの言ったことは無視して、笑顔を顔に張り付けながら、薙刀を持って近づく。
「誰が、お前の部下になんかなるものか。さて、事故として処理するので安心してくださいね。それではさようなら。」
クズマはまだ何か言っていたが無視する。
薙刀を振り上げ、全力で振り落とす。
薙刀はクズマの数センチ横に落ちた。
その勢いで、地面が陥没しひびが入る。
それをくらいそうになったクズマはというと...
「あれ、失神しちゃった。まあいっか。君達、いまなら見逃してあげるけど、どうする?やるなら、全力でやるよ?もちろん、楽には殺さないけどね。」
「に、逃げろー!」
クズマの部下は、無事な奴がと失神しているクズマともう一人を担ぎ逃げて行った。
怪我をした奴は自力でだ。
人数不足なのだからしょうがない。
これだけやったら、クズマはベルに手を出さないだろう。
ベルは、少し血を浴びてしまっているが、怪我はなさそうである。
とりあえずは解決でいいのかな?