パーティー
「ふっふふ~ん」
俺は鼻歌を歌ってしまうほど上機嫌である。
今俺は、茉莉の修行で料理をやっている。
最初は疲れており、やる気なしの状態だったが、いざ始めてみるとなんと楽しい事か。
今まで料理は、学校の授業での調理実習(ほとんど人任せ)以外してみた事はなかった。
そのため、最初の方は失敗してしまったが、コツをつかんだのか、に十分もすると、初めての料理でも失敗することがなくなった。
味もなかなかのものである。
そのおかげで、すべてに適性がある、というのを体験できている。
かれこれ二時間は続けている。
料理がうまく作れるようにいなり始めてからは、止める事が出来なくなってしまった。
料理の楽しさに、完全に溺れてしまったのだ。
気づいた時には、テーブルが料理で埋め尽くされそうになっている。
夢中になりすぎて、やりすぎてしまったようだ。
自重しなくては。
「おねーちゃん、そろそろ終わりにしようよ。張り切りすぎだよ?せっかく作ったのに、私たちじゃ食べきれないじゃん。」
「ごめんなさい...」
何も言い返す事ができぬほどにやりすぎてしまった。
この料理の量なら、食いしん坊な力士を何人か呼んでも余ってしまうだろう。
「しょうがないな。私たちだけでやろうとしてたけど、おねーちゃんの入学祝いのパーティーに、いろんな人を呼んで食べてもらおうよ。初めて作った料理の感想を言ってもらえるだろうしね。」
「呼ぶのはいいけど、来てくれるの?アストロンには、着て二日しか経ってないよ?あと食べ物冷めちゃうよ。」
「そこは大丈夫。誰かが適性検査の時に、とんでもない事をして、さらにそれが美少女だったって盛大に名前を広げちゃった人が目の前にいるからね。少し散歩をしてきただけなのに、そのうわさ話をしている人を何人も見つけちゃった。きっとたくさんの人が一目見ようと押し寄せてくると思うよ。食べ物は私の魔法で、保温することができるから、いつでも出来たての味だよ!」
「...」
というわけで、パーティーを行うことが決めってしまった。
この後も、パーティーの開催を阻止しようと、問題点をいくつかあげてみたがすべて無駄だった。
作りすぎたのが悪いじゃん、と反論する事の出来ない事を言われてしまった。
こんな事を言われてしまっては、返す言葉がない。
俺もわざとじゃないのに...
作りすぎるんじゃなかった...
二時間前の俺を、思いっきり叱りつけてやりたい。
出来ないのだが...
パーティーの会場は、近くの大きな広場。
このような広場は、都市の各地に設置されており、使用許可を誰でも自由に簡単に取る事が出来る。
お金もかからない。
公共物だからだそうだ。ただ、使用許可を得ずに広場を使用したり、許可を取る時に申請した目的と、実際に行っている活動が違うなどで、高額の罰則金が取られてしまう。
意外と違反をするものが多いようで、その罰則金だけで、広場の維持にかかる費用を賄えてしまうようだ。
その広場にテーブルを並べて、立食形式で行うことになった。
しっかり許可をもらっているため、罰則の心配はない。
やばそうなやつがいたら、追い出せば済み話だしな。
俺と茉莉が準備している間、セバスチャンがパーティーの宣伝をしに、出かけて行った。
セバスチャンのおかげで、何人人が来てしまうのだろうか?
俺は少なければ少ないほどうれしいのだが...
誰も来ないというのは一番うれしいな...
だが、俺の希望はすぐに打ち破られる。
急な開催にも関わらず、広場には多くの人が集まってしまった。
中には貴族もいるようだ。
その貴族のせいで問題が起きない事を願おう。
それか今すぐにつまみだしてしまおうか。
しかし、貴族がいる以上に一つ問題があった。
俺の服装である。
今回の俺の服装は、真っ白なドレスである。
ウエディングドレスみたいな華やかさはないが、十分かわいらしい衣装である。
しかし、とても動きにくい。
もう少し動きやすくしてほしい。
さらに、このドレスのせいで、嫌でも目立ってしまうだろう。
何せ貴族が来ているからといっても、やっぱり一番多いのは一般庶民である。
貴族も十分目立っているが、俺を隠すカモフラージュにはなってくれないだろう。
それらの事を茉莉に言うと、ドレスの良さを、パーティーが始まるまでの間、ずっと説明されてしまった。
説明だけで一日が終わってしまいそうである。
きっと俺が納得するまで続くのだろう。
服装が変わることはなさそうである。
太陽が沈み、星や月が輝きだした頃、パーティーが始まった。
俺の前には行列ができた。
一目見ようと、挨拶しに来たのだ。
それを一時間ほどいなし続け。
ようやく終わったかと思ったら、貴族が集まり始めた。
「君がアオイか。うわさ通りの人だ。」
「料理は君が作ったんだって?とてもおいしいよ!」
「君には婚約者がいるのかい?」
などなど、貴族からは様々な事を四方八方から言われて、どう反応すれば良いのか分からない。
正直邪魔である。
邪魔だからどけ!と俺が叫び出しそうになった時、一つの救いの手が差し伸べられた。
「皆様。アオイちゃんがお困りのようでございます。皆様は貴族であらせるのです。その名に恥じないような行動をしていただきたいです。」
「べ、ベル様だ。」
「ベル様も来ていたのか。」
おや、誰かこの状況から俺を助けてくれるようだ。
「私はベル・レギーナよ。私も今年第一学校に入学して、武術学科に所属してるの。アオイちゃんよろしくね。」
「よろしくお願いします...あの、ありがとうございます。」
貴族からベル様と呼ばれているので、かなり地位が高い人だろう。
そんな人がわざわざ庶民である俺を助けてくれたのか。
これは有りがたい。
しかし、こんな人々にまで、俺の名が知れ渡ってしまっているのか。
これからも面倒な事に巻き込まれそうな気がする。
ヤダなぁ。
せめて地位が高い人は、ベルのような感じで良い人ばっかだといいな...
しかし世の中はどんな甘くはないようだ。
「レギーナ伯爵令嬢。別に良いではないか。相手は平民。我ら貴族と関係を持つことは悪いことではなかろう。」
「クズマ伯爵、それでもやり方というものが御座います。相手に気を使わず寄ってたかって。相手は庶民だとしても最低限の礼儀をもって接していただきたいものです。それが出来ないのは猿ぐらいで御座います。」
「ほう、レギーナ伯爵令嬢は我を猿と言いますか。そうですかいい度胸ですね。仕方がない。そんなことを言ったらどうなるか、思い知らして差し上げます。」
伯爵と、伯爵令嬢の喧嘩か。
これは面倒だ。
ベルの方には、付き人でも何でも、誰かいるのだろう。
その人が止めてやればいいのに。
無能なのだろうか?
まあ、ベルは俺を助けようとしてくれているのだ。
その気持ちは受け取っておくが、ちょっとやり方を間違えてはいる。
伯爵相手に、猿呼ばわりはさすがにアウトだろう。
だが、貴族に少し呆れてしまった。
せっかくだからベルの手助けしたいな。
そばに茉莉がいるので相談してみると、
「そうだね...今から、ベル伯爵令嬢様とクズマ伯爵様の部下が対決するみたいだから、ベル様の部下として代わりに戦うのが良いんじゃない?全部に適性ついているから、最初の方は、きついかもしれないけど、今の状態でも人間風情には負けることはないと思うよ。」
「でも服汚しちゃうかもしれないけどいいの?」
「汚れなんて魔法で落とせるから大丈夫。でも、その服、動きにくいって言ってたでしょ。転ばないように気をつけてね。武器はこれを使って。」
「気をつけてほしいと思ってもらえるよりも、今は着替えが欲しいんだけど...」
茉莉は俺の言葉を完全に無視しつつ、おれに白くて丸い玉を渡した。
適性検査の時に、水晶玉もどきを思い出す。
「これは、私の神器の一つ『万変の玉』って言うの。自分の想像したものに変化してくれるの優れモノなんだよ。ある程度なら、想像の補助をしてくれるから、余りちゃんと覚えてなくても作りだす事が出来るんだよ。」
おお、何と便利な道具だ。
やっぱり神器すげー。
きっと何にでもなってくれるのだろう。
俺の分身を作ることもできるのかな?
とりあえず、この後に備え、日本刀を想像してみる。
そうすると、球体はみるみる変化していき、ひと振りの立派な刀になった。
これなら何でも切る事が出来そうである。
さあ、人助けを頑張ってみるか。