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嘘吐き寓話  作者: 葉月羽音
第二幕
5/25

5:愚かな王様が差し出した答え

 魔女の言い分も理解できます。命には命の対価で支払うべきと言うことは。しかし王様は自分の命を差し出したとしても新たに永遠の命を貰う形なのであれば、なんの問題も無いのではないか、と考えました。

 そして実際にそれを魔女に打ち明けますと魔女は呆れた様な視線で王様を射抜くばかり。更にはまた溜息を吐かれると言う自体に陥るのです。

「本当に貴方様は馬鹿なんだねぇ」

「……余のどこが馬鹿だと言うんだ?」

「全部だよ。と言うか、貴方様の言い分は矛盾してる。私は言った筈だよ? 永遠の命を願うなら同等の対価が必要だと」

「だから我が命をその対価として」「差し出されても無理!!」「……ッ」

 鋭い一喝の声に王様の言葉は遮られます。王様は思わずビクリ、と身体を振るわせましたが、すぐにそんな素振りは取っていないと思わせるように堂々とその胸を張りました。

 これでも一国の王、魔女であろうと弱みとなる様な姿は見せられぬと己の矜持を貫いたのです。

 しかし魔女は王様の態度を虚勢と取って鼻で笑います。ここまで滑稽だと笑いたくもなると言うもので、気分屋ながらも根は正直な魔女は己の感情を一つも隠さず見せつけます。

 王様はそんな魔女に苛立ちを覚えました。しかしここで下手を打ってしまえば己の願いは叶わない。それだけはどうしても避けたい王様。グッと己の手を強く握りしめて魔女の嘲笑を堪えました。

 そんな王様の姿に魔女は少しばかり関心を寄せたのか、気分を切り替えて口を開きます。

「いいかい? よくお聞き、愚かな王様。己の命とは魂であり、魂は己の命である。これは理解できているよね?」

 物分かりの良くない子供に言い聞かせるように訥々と語り出す魔女。王様は魔女の言葉に頷きを返答として返します。

 魔女は満足げに笑みを一つ浮かべ、次いで、真剣な表情で王様の胸元――丁度心臓がある部分へと人差し指を突きつけました。

「永遠の命のベースとなる魂は貴方様の魂なんだ。それなのに対価として貴方様の魂を私が貰ってしまえば、ベースとなる魂が無くなってしまう」

「――つまり、余の魂を対価に支払うことは出来ない、と」

「その通りだよ、愚かな王様。そうなると自然と貴方様の願いも叶えられない――結論、無理な願いだとご理解いただけたかな?」

 ニッコリと微笑んで、わざとらしい程の仕草で恭しく首を傾げる魔女に対して、王様はギリギリと奥歯を噛みしめました。

 ここに至るまで王様は沢山の労力と時間を割いてきたのです。魔女の居場所を探す為に十年、見つけ出して追いかけるに至るまでに五年。その間、民から湧き上がる不満を暴力と言う名の権力で押さえつけ、ようやっと、ようやっと魔女に直接会えたのです。

 永遠の命――それは王様が長年望み続けた願いでした。それさえ手に入れば、王様は永遠に王様として在る事が許されます。欲しいモノ全てが手に入る権力が永遠に許されるのです。

 なのに、対価を支払えないからとその夢が、長年の労力と時間があっさりと水に流されるなどあってはならないことなのです。

 そう考えるのが例え王様ただ一人だとしても、王様が考える事は絶対なのだと、その意見を押し通すのは眼に見えています。

 どうにかこうにか回復した従者達はこの後の展開に恐れ慄きました。王様の傍に仕えてウン十年。欲しいものに対して貪欲な王様の非道な行為は傍でずっと見て来たのです。きっと、そうきっと――その先を考える気力は無く、僅かな期待に掛けるように王様を見つめる彼らの視線は哀れな子犬の眼差しでした。

 しかし、悲しいかな、王様はやはり王様なのです。何かを思いついたかのように従者達を見て、魔女を見て、ニッコリと、それはいい笑顔を浮かべられました。

「魔女よ、我が魂で無くとも対価は支払えるぞ」

「……それは、誰の魂を指してるのかな? 愚かな王様」

「なに、余の魂が使えぬなら、我が臣下の魂を使えばいい」

「!!」

「臣下は余の物ぞ。余の物=そやつらの魂も余の物だ。対価としては十分ではないか?」

「…………」

 言葉が出ないとはこのことでしょうか。魔女は呆れを通り越して頭痛を通り越して眩暈を覚えました。従者達は僅かな期待を粉々に砕かれ、想像していた未来になってしまった事に顔から血の気を引き、真っ青に染めていきます。

 誰が好き好んで己の命を赤の他人の為に引き渡せましょうか。例えそれが彼らの主たる王様の命令であったとしても、やすやすと頷けるほど彼らの忠誠は王様にはありませんでした。

 王様はそんな事露知らず、これで願いは叶うと大喜びです。魔女を見つめる視線が早く早くとまるで子供の様に大人げなく急かしています。

この時、王様は何一つとして疑いませんでした。自分の願いが叶う現実を。魔女が拒否する未来を。臣下達を失ってでも欲する強い欲望の前に、眼が眩んでいたのです。

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