4:気分屋な魔女と愚かな王様
そんな魔女の元に、従者達を引き連れて現れた王様。
突然の訪問に驚く魔女を尻目に王様は開口一番にこう言いました。
「我が願いを叶えよ。その為なら幾らでも対価は支払おうぞ」
魔女は内心呆れながらも笑顔を浮かべて首を傾げます。
「へぇ、幾らでも? それって貴方様の命を差し出して、って言っても叶うのかなぁ?」
「ふん、我が願い叶うならこの命くらい幾らでも差し出してやる」
「おや、それはそれは……では貴方様の願いはなんなのかな?」
「永遠の命だ」
「…………は?」
今目の前の王様はなんと言ったのでしょう?
魔女は聞き間違いをしてしまっただろうかと首を捻ります。
ドヤ顔の王様はふんぞり返って魔女を見つめました。瞳には拒絶などしないだろうと言うよく解らない自信を宿らせながら。
魔女はそれを見て自分の耳が可笑しくなったわけではない事を悟ります。
一応の可能性を考慮して、王様の傍に控えている従者達にも視線を向けたのですが、従者達は揃って魔女から視線を逸らしました。
流石に自分の主が可笑しな事を願い出ている事に気付いているのでしょう。
誰もが口を閉ざして、しかし、魔女の出す答えを待っているようです。魔女はまたも呆れました。
そしてそれを今度は隠す素振り見せぬまま溜息という形で示して見せたのです。
「やれやれ、貴方様は馬鹿なんだね」
キパッと言い切ったその言葉に王様は言葉を無くしたようにポカンとしました。
従者達はざわめき、各々厳しい顔立ちで魔女を見据えます。
「貴様、王様に対して無礼な口を聞くとは何事か!!」
「なんと恐れ多い事を!!」
「その命、この場で切り捨てられても文句は言えぬぞ!!」
色めき立つ従者達。彼らの言葉を右から左へとサラッと流す魔女。
対象的な二対の姿に王様は我を取り戻したのか、わざとらしい咳払いを一つ。
「ゴホン。……あー、魔女よ、余の願いは何を対価に差し出せばいい?」
先程の問題発言を見事さらりと無視して自分の都合のいい方向へと王様は誘導するように言葉を紡ぎます。
そのわざとらしさに器用に片眉吊り上げた魔女でしたが、すぐさまニッコリと笑顔を浮かべて結論を王様へと突き付けました。
「無理だね」
清々しいその一言に迷いはなく、魔女はさてこれで会話は終了と言わんばかりに王様達に背を向けました。
王様はまたもぽかんとしましたが、今度はすぐに復活して遠ざかる魔女の背中を慌てて追いかけました。従者はそれを更に追いかけます。
魔女は面倒な事になった、と舌打ち一つ。逃げる足を速めて突き進みます。しかし王様も諦めません。願いを叶えてくれるまではと鬼気迫る勢いで魔女の後を追いかけます。そして従者達も以下同文。
魔女、王様、従者達の三つの立場があろうことか追いかけっこに興じるなんて誰が想像したでしょう。息つく暇も無く、隙も無く、それぞれがそれぞれの背中を追いかけて追いかけて――丸二日が潰れました。
「もう、いい加減にしてくれないかな。貴方様の願いを叶えるのは無理。どう足掻いたって無理なものは無理なんだよ」
流石に三日も付き合う気はない魔女ですから、渋々と足を止めて後ろを追いかけて来ている王様とその従者を見遣ります。
王様はゼィゼィと荒い息を吐きながらもその立場を誇る様に胸を反らして大威張り。潰れかけている従者達を振り返ることなく魔女に言いました。
「何が無理だと言う? もしやそなたがどんな願いでも対価次第で全て叶える事が出来ると言うのは嘘なのか?」
「嘘じゃないよ。本当だ。だけど、貴方様が願った願いに問題があるんだよ」
「永遠の命の事か? それのどこに問題がある?」
心底解らないと首を傾げるその姿に魔女は深々と溜息を一つ吐いて、王様の願いに必要な対価を教えてあげる事にしました。
「愚かな王様、貴方様は願いが叶うのなら、対価に自分の命すら差し出せると仰いましたよね? それに偽りは?」
「ふん、有る筈なかろう。必要なら幾らでも差し出してやる。だから余の願いを叶え」「られません」「何故だ!?」
「永遠の命を望むなら、対価に同等のものを必要とする。貴方様の命と同じモノ――となると、自然と貴方様の命を私に差し出す事になる。それじゃ永遠の命なんて与えられないでしょ」
一息にここまで言い終えた魔女は小さく息を吐きだしてちらりと王様を見ました。その視線は「理解しました?しましたよね?してないと殺す」と無言で語っているようです。
流石の王様もその視線を真っ向から受け止められないようで、僅かに顔をずらして唸りました。