メグと五月
交差点の約束の場所にたどり着くと、すでに龍平君達は仲間達と集まって待っていた。
「龍平君。みんな」
私が手を振ると、
「まさか、こんな俺たちの為に来てくれるとな」
嬉しそうに手を挙げ私に言い掛ける。
私はそんな龍平君達の元へと駆け足で向かう。
「待った?」
「俺たちは総長に期待して、一時間前には来たよ」
総長と言われて何か違和感を感じてしまう。それに一時間も前に来ていたことに、それほど私の事を頼るみんなに、先ほどの不安は嬉しさで吹っ飛んでいった感じだった。
こうなれば自棄になる気持ちも含めて、
「私が総長になったからには、みんなで幸せの在処を共に探しに行く旅に出るんだから」
強気な発言をする。
「決まりだな。総長は強いし、本当に頼りがいがあって信頼できる」
その期待は嬉しいが、何か心にずっしりと重くのしかかる感じがして、これがいわゆるプレッシャーと言う奴か。
私はそのプレッシャーをはねのけるように、
「みんな私に黙ってついてこい」
と言ってしまった。
龍平君達は歓声を上げ、「よろしくな」「がんばるぜ」とか色々と前向きな発言が飛び交った。
私自身も言ってしまった事に不安も後悔も多少会ったが、でもそれよりも、私は全力で龍平君達を輝かしい未来へと共に歩もうといきこんでいる。
そこで龍平君が、
「じゃあ、新総長就任祝いにこれからカラオケでも行こうぜ」
みんなも賛成で私も賛成だった。
カラオケ屋に入り、私を先頭に後からついてくる特効服を着た龍平君達を見て、店員さんはひどく動揺して、とりあえず対応してくれた。
部屋に案内され、本当は未成年だからいけないんだけど、酒やらたばこやらみんなやりたい放題だ。これぐらいは大目に見た。
みんながはしゃいでいるところを見ると、一件が済んだようだが、まだ問題は私の中である。
それはエイちゃんが医者の御曹司の弱みにつけ込んで、輸血バンクを大量にせしめている事実は避けられない。
その事は仕方がないと割り切って、エイちゃんに任せようと思ったが、何か心に引っかかる。
それはやっぱり人の弱みにつけ込んで、そのような事はしてはいけない。
いくら私の生命維持とは言え、やはりエイちゃんを悪者にさせてまで生きたいとは思わない。
本当にどうしよう。
色々と悩んでいると、龍平君が私にマイクを差しだし、
「総長も一曲言ってくださいよ」
私はマイクを受け取り、みんなには申し訳ないがあまり歌う気分ではなかったが、総長の私がそんなテンションじゃ、何かしめしがつかない感じがするので、私は思い切って歌った。
歌っている私を煽るように盛り上げる仲間達。
そんな中歌っていると、だんだんテンションが上がってきて、楽しくなり、とにかく先の事を杞憂していないで、今を楽しもうと必死に歌う。
本当に楽しい時間を過ごしたと思う。
なぜか楽しい時間と言うのは過ぎるのが早く感じるのはなぜか?
そして終わりというものは必ずやってきて、龍平君達とは明日また今日と待ち合わせた同じ場所で会う約束をして、別れた。
ちなみに明日はバイクで集合するみたいだ。
バイクで走るのは良いが、周りに迷惑かけないようにするのも私の仕事だろう。
そろそろ夜明けが近づいている。
部屋に戻り、エイちゃんの寝顔を見て、私はため息が漏れた。
私はエイちゃんを悪者にしたくない。
とりあえず、この件に関しては今日はもう眠いので明日の夜また考えようと思う。
目覚めて時計を見ると、二十時を示している。
早速、昨日の件に関して考えることにする。
その前に豊川先生に相談しようと思ったが、私が吸血鬼だと言う事を話したって信じてくれないだろうし、お金に関する事だから、そんな事を相談したってどうしようもない。
パソコン室の前で立ち尽くし私は部屋に戻ろうとすると、向かい側にある勉強室から聡美ちゃんが出てきた。
「あっメグちゃん」
「うん。おはよう」
「どうしたの?メグちゃん。何か表情が暗いけど」
そう言われて私は深刻な問題を抱えて、それが顔にでていることに気がつき、私は笑顔を取り繕って、
「別に何でもないよ」
と言ってエイちゃんの部屋に戻った。
本当に私は何かあるとすぐに、顔に出てしまいみんなに心配をかけてしまう。
どうせならみんなにも協力してもらおうか考えたが、やはりお金に関することは話したってどうしようもない。
そこでエイちゃんの机の上に一冊のアルバイト雑誌があった。
それを見て思いついた。
私が働けば良いのだと。
でも血液は高額だ。
深夜は割が良いと言われているが、まともに働いて輸血代を捻出するのは難しい。
雑誌を見てコンビニのバイトでも、深夜で働いて一日約一万三千円。それに私みたいな子供雇ってくれないだろう。
ため息をこぼしつつ、アルバイト雑誌をペラペラと眺めて、条件の良いのが見つかった。
それはキャバクラであり、時給五千円。しかも履歴書不要であなたのやる気次第で、お金もあがる。
これは良いんじゃないかな。
でもキャバクラってすごくいかがわしい感じだし、変な客にセクハラなんてされたらたまらないし・・・私は不安に押しつぶされそうだったが、エイちゃんを悪者にしたくないと言う気持ちが芽生え、私は速攻で決意する。
ためらっている暇なんてない。
とにかく私は行かなければいけない。
私はエイちゃんの人形的な存在じゃないことをアピールしなきゃいけない。
それに私は強い。もし何か会ったら私は戦えば良いのだ。
そう自分に言い聞かせ、スマホを取り出して、電話した。
電話に出た人間は男の人で、まともな感じがして少し安心したりもしていた。
面接は明日で、時間はエイちゃんが眠る三十分後だ。お互いに好都合だ。
それに面接が終わったら龍平君達とあう約束もある。
まあ予定通りにはなるけど、やっぱりキャバクラは不安だ。でもやるしかない。
いつものようにエイちゃんは帰ってくる。
血液の事を聞くとエイちゃんは、やっぱりやましさが隠せない目を泳がせていた。
きっとメモリーブラッドがなければ、その表情を見ただけでは分からなかっただろう。
だからエイちゃんは私に嘘が突き通せると思っているのだろう。
私の事を甘く見ている。
私って吸血鬼になる前は、みんな優しくしてくれた。そして頑張れた。でも優しくされ過ぎて、何かが盲目になって大事な事を見過ごしていたのだろう。
それはみんなを頼りすぎて、私から何かを掴もうとする強さがなかった。
でも今は違う。
正直みんなの優しさには感謝している私と恨んでいる私が心の中に存在している。
優しくされているのに恨むなんて、そんな自分が嫌になる。
だからこれからは、優しくされるばかりじゃなく、私がこれからは優しくして、みんなに恩返しして、そんな恨む自分を根こそぎなくしていきたいと思う。
だから私は目の前の問題を一つずつ終わらせる事だけを考える。
私が私であるために。
「ここね」
いかがわしい店が建ち並ぶ繁華街の一角に私が働こうとするキャバクラはあった。
店を見上げると、きわどいチャイナ服に身を包んだ粋な女性のパネルの看板がたっている。
すごい不安になってきた。
不安で呼吸が不安定でまともに出来ないほどだが、エイちゃんを悪者にしないためには、ここは最大限の勇気を振り絞って入るしかない。
そして私は捨て身の覚悟で中に入っていった。
中に入ると、甘い匂いが漂い、何か気持ちが悪くなり、とにかく奥へと進むと、カウンターにたどり着き、そこには厳ついスキンヘッドのいかにもやくざって感じの男が赤いパッピを来て立っていた。
目を合わせたが、暴走族の龍平君と違って何かすごい威圧的なオーラに圧倒されてまともに目を合わせられなかった。
「・・・」
男は黙って私を見ている。だから私は思い切って、
「あ、あ、あ、あの、先ほど、いや、昨日、いや」
もはやしどろもどろとなっている私に、
「川上メグさんでしたっけ」
私の名前を言って切り出され、
「こちらへ」
誘導され、私は恐る恐る入っていく。
扉を開けると、左にロッカーが並んで、右に鏡台が並べられている。
そこに一人の妖艶な女性が赤いチャイナ服に身を包んでお化粧を施していた。
「五月さん。研修一時間この子によろしく」
「はいはい」
こちらに振り向きもせず、おざなりに返事をする。
男は出て行って、その五月さんに私を任せたみたいだ。
「あの、面接は」
「何を言っているの?あなたはもう採用よ」
それを聞いて不安に押しつぶされそうな気持ちに陥った。
て言うかまだ心の準備を私はしていない。
そこでようやく五月さんは私の顔を見て、
「なかなかかわいい子じゃない」
と妖艶に微笑み、
「それにあなた未成年ね」
看破され、言葉を失う。
「まあ、悪いことは言わないわ。短時間で楽にお金を稼げるからとか、そんな考えで挑んだら痛い目に遭うよ。だから帰るなら今のうちよ」
そういわれて私は、
「そういう訳にはいきません」
と毅然とした態度で五月さんに伝える。
五月さんは私の目をじっと見つめ、怖くはないが何か緊張してしまい、でも私はその目をそらしてはいけない気がして、しっかりとその目を見つめた。
すると五月さんは、
「何か事情があるみたいね」
「・・・」
「まあ、良いわ。とにかく鏡台の前に座りなさい。今からあなたは一時間だけ研修を受けるのよ。それで今後あなたはどうするか、決めるのよ」
つまり研修は適性検査じゃなくて、自分で体験してどうするか決めろって事みたいだ。
私は五月さんの言うとおり鏡台の前に座った。
すると五月さんは鏡越しに私の目を見つめて、
「その目は何かを守ろうとするめだね」
心を看破され、私は五月さんに心を許して、話してしまいそうになったが、私は黙ってやり過ごした。
「あなたは間違ってはいないわ。初対面の人に対しては詐欺師と思えってね。私の父親の台詞だった」
私は心を許してはいけない。五月さんの言うとおり、人を見たら詐欺師と思え、ありがたいご高説に心の中で人知れず感謝した。
「フフ」
と妖艶に微笑み、
「動かないで」
五月さんは私に手慣れた手つきで真っ赤なルージュに頬を際だたせるファンデーション。そして極めつけに、まつげにマスカラを施し、瞳が大きく際だたせる。
その間十五分。
お化粧は一通り終わり、
「綺麗よ。やっぱり素材が良いのと、その目を見て分かるけど、その誰かを守りたいと言う、意志が相乗効果でメグさんをより一層美しくさせるんだわ」
私の顔を鏡越しで、うっとりとした目で見て、この人何か気持ち悪いと思ってしまう。
それに私は無性に血が欲する自分がいる。
そんな私五月さんは顔と顔を密着するぐらいに近づけ、私の本能に打ちひしがれるのを必死に抑えていた。
さっき輸血バンクで血液を吸っていなかったら私は間違いなく五月さんを襲っていたかもしれない。
とにかく今日は一時間の研修で、話によると研修を受ければ一時間分の給与は支払われる。
次に服だが、五月さんは私に着替えさせてくれると言ったが私は断固拒否したが、彼女の妖艶な瞳で見つめられ、断れない気持ちになり渋々だが私はそうしてもらう事にした。
「今来ている白いワンピースも純情なあなたを強調しているのね。それでもお客には受けるかもしれないけど、もっとあなたの魅力を際だたせる服を私がチョイスするわ」
五月さんは私の白いワンピースをボタンを一つ一つ外していき、私は下着姿になり、女性同士、気にならないと思ったが、その五月さんの私を見る目は嫌らしく、異性に見られるよりも何か苦痛を感じてしまう。
そしてロッカーから取り出したのは、白いショートパンツに白いへそが出てしまいそうな、白いキャミソール。
私はそれを見た瞬間に、
「そんなの着れませんよ」
すると五月さんは目を細めて、
「じゃあ、守りたい人を諦めて、ここで帰る」
「わかりました」
五月さんに差し出された裾がおへそまで出てしまう白いキャミソールと下着がはみ出てしまいそうなほどの際どい白いデニムのショートパンツ。
「着ましたよ」
「健気な子。私はあなたみたいな子は好きよ」
その目つきは気持ち悪いというか何か、怖い。
早速、私と五月さんが控える部屋に外線放送が流れた。
「五月さん。メグさんを連れて、三番テーブルに」
それを聞いて私の緊張が最大限に達し、さらに加えるように、妖艶な笑みで私を見る五月さんに緊張につぶされそうになったが、思い切り首を振って、真摯な瞳で五月さんを見た。
「行くわよ。健気でかわいい勇者さん」
からかわれているようだが、もう気にしていられない。
とにかくエイちゃんを悪者にしたくないし、エイちゃんに守られてばかりの私ではいたくない。これからは私がエイちゃんを、みんなを守るんだ。
頑張れ私。
そして私は五月さんの後について行き、艶やかな赤い光に包まれたフロアーの方へと行く。