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メモリーブラッド0  作者: sibatamei
第1章
6/89

リーゼント

 エイちゃんが眠りに入った頃、私はエイちゃんの手を握り、心を探った。


 どうやらエイちゃんは医学部の友達なんかおらず、医者の御曹司に頼み込んで、輸血バンクを高額で買い取ったみたい。

 しかも八万円もの値段で買い取った。

 私は豊川先生がパソコンで作業しているパソコン室に入り、豊川先生に聞いてみる。


「豊川先生、輸血バンクっていくらぐらいするの?」


「輸血バンク?調べてみるね」

 豊川先生がキーボードをたたく音。そして、


「200シーシー二万円ぐらいだね」

 それを聞いて私はショックを受ける。つまりエイちゃんは騙されて高額で輸血バンクを購入して、こつこつためたバイト代も、ほとんどなくなってしまったみたいだ。


 私はエイちゃんの重荷になっているんじゃないかと、その場で目を閉じた。

 そして私はため息をこぼしてしまい。


「どうしたの?ため息なんてこぼしちゃって」

 心配され、


「いや別に」

 心配させないように笑顔を取り繕って、豊川先生に言った。


 それと今日はリーゼントに会いに行く決心を私は昨日からしていたのだ。

 私はリーゼントの理解者になって上げたい。

 私にそれが出来るのかは分からないけど、とにかくほおっておけない。






 展望台に立ち、町を俯瞰していた。


 町は騒然としていって、パトカーのサイレンの音が鳴り止まない。


 リーゼントがどこに入るのかは分からないが、この町のどこかにいる。


 そういえば、私とエイちゃんが絡まれたところに入るんじゃないかと思って早速私は言ってみることにした。

 私は展望台の天辺から、ダイブして、ものすごい勢いで降下していき、着地。

 さて行ってみよう。




 だがその場所には誰もいなかった。


 相変わらず真っ暗で、そこにずっと佇んでいると疑心暗鬼にとらわれそうなので、他を当たることにする。


 すると私の側でパトカーのサイレンの音が鳴り響いた。


「お前等、そんな事をしてただで済むと思っているのか?」

 外線ごしに警察官らしき人のそんな声が轟いた。


 早速行ってみる。 

 路地から大通りを見ると、バイクがものすごいスピードで私の目の前をよぎる。

 そして今気がついたが私の反射神経は常人並じゃない事に。

 すさまじいスピードで通りすぎていったが、一瞬、目にしただけでリーゼントだと確信した。

 急がなきゃ。

 どうやって追っていこうか考え、私はビルに飛び移りながら、バイクで走るリーゼントとその仲間達を見下ろしながら追っていく。


 リーゼント達はパトカーを欺き、舌を出して中指を突きつけ去っていく。

 警察の目が離れたことが私にとって好都合だと思って、私はリーゼント達のバイクの前に飛び降り、立ち止まり、それに気がついたリーゼント達は斜め横にバイクを傾けて急ブレーキをした。


「てめえは」

 リーゼントが恐れながらも言う。


 リーゼントも含めて、連中はバイク五台で五人いる。それにこの暴走族の精鋭的な連中だと分かった。


「何をしに来た」

 リーゼントはあの時、私にあれだけやられたにも関わらず、威勢がいい。


 そんな私は、いざこうしてリーゼント達の前に現れたは良いが、どんな言葉をかければ良いのか分からず、そこで豊川先生の言葉を思い出す。


 一歩一歩距離を縮める事。


「分かってるよ豊川先生」

 人知れずつぶやき、私はにっこりと笑って、


「今日は話し合いに来た」


「はあ、てめえに話す事なんて何もねえよ」

 するとリーゼントの後ろで控えていた少年が鉄パイプを持って私に近づいてきたところ、リーゼントが、


「やめろ」

 と、止めた。


「でも、あの時俺たち、やられたんですよ。悔しくないんですか?」


「やめろって言ったらやめろ。とにかく俺の命令を聞け」


「はい」

 と神妙にバイクにまたがり元のポジションに戻る。


 そんなリーゼントを見て、仲間がやられるのはあまり良くないから、きつくそういったのだろう。悪そうな人間でも、記憶を探ったとおり、本当に仲間思いに感心したりする。


「仲間思いなんだね」

 するとリーゼントのしゃくにさわったのか?


「てめえ」

 手を出すなと言ったのは自分なのに、バイクから降りて拳を丸めて私に立ち向かってくるリーゼント。


「おい。龍平」

 仲間がやめろと言わんばかりに呼び止めたが、その言葉はリーゼント、龍平君には届いていなかった。


 私は軽く締めてやろうと思った。

 でも、その時、暴力では何も解決できないと言うエイちゃんの記憶が巡り、どうして良いか戸惑っていると龍平君の拳が顔面に直撃したが、赤子にさわられる衝撃で肉体的にも精神的にも痛みは感じない。でも龍平君の憤りは感じる。


 あの時の仕返しを込めた怒りのパンチだ。


 だから私は好きなようにさせて上げた。


 目を真っ赤にさせて、私にその怒りの拳を体全体にたたきつける。


 あの時はやってきたのは龍平君達だが、憂さが晴れるまで好きにさせて上げたいと思った。


 だんだん思い切り殴りつけてきて疲れてきたのか?息が上がってきて、

「何なんだよてめえは。俺のパンチが痛くないのかよ。それに何で反撃してこない」


 私は目を閉じ黙っていた。

「何とか言ったらどうなんだよ」

 怒りを爆発させて私に叫んだ。


「私はあなた達に話が合って、ここに来た。ただそれだけだよ」

 リーゼントはしらけてしまって、

「やめだやめだ。こんな奴相手にしていたら時間の無駄だ」

 背を向け、バイクにまたがり、

「行くぞ」

 と言って、激しくマフラーをかき鳴らして、去り際に、

「また明日、この時間で待っているから」

 と伝えて、聞こえていると思う。


 そして彼らは私を振りきってバイクで去っていった。

 私は心なしかリーゼント、龍平君達と距離が縮まった感じがした。

 夜空を見上げると、青みがかかり、そろそろ夜明けが訪れる事に私は急いでエイちゃんの部屋に戻った。


 ベッドにはエイちゃんが無垢な顔をして眠っている。

 龍平君の事といい、エイちゃんが高額で輸血バンクを医学部の御曹司から受け取ったこと。


 私の中で問題は山積みだが、それでも私は一つずつ問題を処理していこうと思う。


 エイちゃんの無垢な寝顔に私は頬に軽くキスをした。


 エイちゃんも自分の事で、てんてこ舞いなんだけど、私のためにアルバイト代をほとんどはたいてまで、高額で輸血バンクを手にしたエイちゃん。


 私はそんなエイちゃんにどうすれば良いのか分からないけど、手をこまねいて黙ってはいたくない。


 私は私の力で出来ることをやって、いつかエイちゃんの支えになって上げたいと思っている。


 エイちゃんはか弱い私が健気に成長することを生き甲斐でもあるみたいだが、私はそれに甘えているだけでは嫌。

 思えば吸血鬼になる前は、私はエイちゃんにも塾のみんなにも頼りっぱなしで、今思うと、そんな自分が嫌になる。


 私は自分の手のひらを見つめて、


「この力でみんなを守りたい」

 と開いた手のひらを握りしめ、自分にそう鼓舞した。





 夜起きて、時計は午後十九時を示している。


 体を起こして一階の塾に行って勉強室を垣間見ると、聡美ちゃんと里音が勉強していた。


 そういえば二人は同じ高校で同じ学年だったんだ。


 二人で宿題でもやっているのか、二人とも黙って参考書を見つめて集中して学習している。


 挨拶でもと思ったが、邪魔になりそうなのでやめておいた。娯楽室に行くと誰もいない。


 寂しいと思いつつ、パソコン室に行くと豊川先生がいつものように引きこもりの生徒にメールでエールを打っているのか?そんな後ろ姿が見えた。


 昨日の事で語り合いたいと思って、ゆっくりとドアを開け、

「失礼します」


「はーいメグちゃん」

 振り返りもせず、私の声を聞いただけで私だと分かって、その穏やかな声は相変わらずに癒される。


「豊川先生、以前言った暴走族の人に、何とか一歩距離が縮まった感じがしたよ。もしかしたらだけど、私その人の理解者になれるかなって」


 先生は私に振り向いて笑顔で、

「なれるさ」


「本当ですか。でも私ただのバカだし。もしかしたら、余計な事をして、また傷つけちゃうかもだし」


「とにかくメグちゃんは理解者になって上げたいんでしょ」


「なりたいけど、何か色々と不安な事があって頭の中が整理がつかなくて」


「それで良いんだよ」

 私の不安を真っ二つに両断する言葉だった。


「メグちゃんのその暴走族の子に対する気持ちは本物だよ」

 私は豊川先生の声に耳を疑った。しばし沈黙が生じて、私は、

「何を根拠にそんな事を」


「フフーン」と笑って「後は自分で考えるんだね」

 そういってまた再び、パソコンの画面に目をやり作業に移った。 


 私はまだ豊川先生に相談したい事がたくさんあったが、豊川先生の背中を見つめると、『後は自分で考えるんだね』と背中に張り紙がついているかのように思えて、これ以上、豊川先生に相談しないで自分で考えた方が良いと思って、私はゆっくりと椅子から立ち上がり、「失礼しました」と言ってパソコン室を出ると「はーい。また何かあったらいつでも相談に乗るからね」と私に言った。


 私はエイちゃんの部屋に戻り、一人考えた。

 

 私はリーゼントで龍平君の理解者になって上げたい。

 

 それは私と共感できる部分があったから。


 私は自分の気持ちを確かめてみる。


 私は龍平君の血を吸ってその悲しい過去の記憶を思い巡らした。

 

 血を吸った人の手を触れるだけで心が読める。

 この力を私は『メモリーブラッド』と名付けた。

 メモリーは記憶でブラッドは血で記憶の血、つまりメモリーブラッド。



 それはそうと昨日はちゃんとあの場所で、また待っているからと言ったが、ちゃんと来てくれるどうか不安だ。


 来たら、私は彼の理解者なんて大言壮語だが、とにかく彼に、いや彼らに対して私は尽くして上げたいと思う。


 もし来なければ、それはそれで仕方なく諦めるしかないかもしれない。

 来れば、龍平君達がその気なら理解者になって上げ、もし来なければ、ほおっておく。


 前者であれば今思うとちょっと面倒ごとだが私はそうしたい。もし後者だったら、・・・面倒から解放される気持ちになるんじゃないかと思ったが、何か悲しい。


 色々と考え巡らしているとお腹がすいてきた。


 私は今、猛烈に血を欲している。


 するとちょうどそんな時にエイちゃんは帰ってきた。


「ただいまメグ」

 エイちゃんの顔を見ると何か申し訳なくて、まともに顔を見ることが出来なかった。


「どうしたメグ」

 いや別に。


 私は心配されないように笑顔を取り繕い、頭に思い浮かんだのは高額で買った輸血バンクだった。


 高額で買ったのに私は吸いたかった。


 そういえば、輸血バンクの血を吸っても、その人の記憶が頭には思い浮かばなかった。


 どうしてだろうと考えると頭がおかしくなるので、考えなかった。


 そしてエイちゃんは、残り一つの輸血バンクを私に差し出して、私は受け取りじっと眺めた。


 涎が出そうな程のおいしそうな血に、考えてみればエイちゃんは二つで八万円で購入して、これ一つ四万。


 明日からどうすれば良いのかと思っていると気がつけば私は輸血バンクにかみついて、チューチューと蚊のように吸っていた。

 めちゃくちゃにおいしい。


 夜エイちゃんが眠った頃、エイちゃんの手を握り、その心を読む。


『輸血バンクで俺のバイト代はほとんどなくなってしまった。明日はとりあえず、俺の血を吸わせてしのぐとしよう』


 私はエイちゃんの手を離して、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 この件に関しては、今私の目の前に差し迫った問題を解決させてから、考えよう。

 その時間もわずかかもしれないし、あまりその事に考えると不安に気持ちが染まりそうなので、とにかく昨日の約束を果たすために、龍平君達との約束の地へと向かった。



 町に到着して、私は展望台の天辺から俯瞰して時間を待った。


 町は相変わらず眠ることを知らない。


 そんな中、パトカーのサイレンの音が今日も響いた。


 人間は生まれた時から争うことを強いられる。


 私が今まで生きた中で争いのない世界など存在しなかった。


 そう思うと私は生まれて来なければ良いんじゃないかと、ネガティブな気持ちになりそうになったが、その時、頭によぎったのがエイちゃんの優しさだった。その他にも豊川先生や塾のみんなも。


 だから私は生まれてきて良かった。


 生きている事はすばらしい。


 とにかく色々な気持ちの中、すべてを前向きに変えられるように胸を張って私は生きたい。



 そろそろ時間だ。

 私は展望台の天辺から飛び降りた。

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