リリィのアラタト
そういえば忘れていたが旅行一週間が過ぎていたんだな。
大変なことがありすぎてすっかり忘れていた。
ここの世界の一日は指輪の世界では一年が経過したことになる。
豊川先生がメビウスの禁忌を受け継ぐことになるなんて。
万物の生物すべて魂が込められている。
その魂は始まりも終わりもない尊い物だと豊川先生から聞いた。
肉体は魂の牢獄って言うけれど、その肉体が朽ちることなくそのまま永遠に輪廻転生出来ないのは死ぬことよりも恐ろしいことだ。
今、みゆきちゃんは節子ちゃんが無事に傷つけられた魂が回復したことを喜び合っている。
元を正せばみゆきちゃんがメビウスを体内に放り込み、封印したメビウスを取り出したのはみゆきちゃんだ。
だったらみゆきちゃんのせいなのかと思いたいが、節子ちゃんを助けると約束を破ってしまったんだしな。
これは自分自身のふがいなさを呪うべきだと思った。
心の負担も身体の負担も重く私は部屋に戻ることにした。
「メグお姉ちゃん」
背後からみゆきちゃんの声が聞こえた。
振り向くと喜びを満面にしたみゆきちゃんが私の所に走ってくる。
「ありがとう。メグさん。そしてごめんなさい」
「・・・」
私は何て答えたら分からなくて作り笑いも出来ないほど落ち込んでいて、何も言わずにその場から去っていった。
部屋に戻り、誰もいなかった。
みんなイルカと戯れているのだろう。
私の心もイルカセラピーで心をケアーに勤めたいと思ったが、今はそんな気持ちにはなれなかった。
誰もいない部屋でふて寝するしかなかった。
丁度そんな時に部屋におきっぱなしにしたスマホを手に取る。
エイちゃんからのラインが届いていた。
『あまり無理をし過ぎるなよ』
といつものエイちゃんの一言に気分を取り戻してきた。
そうだよ。禁忌だか何だか知らないが、一緒にみんなと一緒に考えていけば良いんじゃないかな?
方法は見つからなくても、それをみんなと考えていけば良いんじゃないかな。
豊川先生がメビウスの禁忌を請け負うことになっても、豊川先生は一人じゃない。
私も力になれる。
そう心が明るくなった直後にそっと扉の方から音が聞こえてきた。
「誰?」
と振り向いてみるとリリィだった。
「メグ」
リリィは何か目が泳いでいる。
私が不機嫌な事をみゆきちゃんにでも聞いたのか?分からないけれども、いつものリリィではなかった。
私の機嫌を損ねないような感じで近づいてくる。
リリィにもこのように人に気を使う事が出来ることに無性に嬉しくなったりする。
「どうしたリリィ」
「あのねリリィ、みゆきからメグが元気ないし、もしかしたら怒っているんじゃないかと思って心配していた」
やっぱりそうかみゆきちゃんから私が不機嫌なのを聞いたのか。
「別に怒っていないよ」
「本当に?」
「うん」
すると部屋からみゆきちゃんと節子ちゃん、それと藤沢三姉妹にアスターの二人と悟子君が入ってきた。
「どうしたんだよみんな」
何か嬉しくて涙が出そうになった。
お腹が好いてきて、時計を見ると、十二時十五分を示している。
そういえばあちらの世界でろくな物を食べていないし、メビウスの一件から何も食べていなかったのだ。
お昼はホテルのルームサービスでそれぞれ部屋に戻り、私と藤沢三姉妹とリリィとで食事をした。
ホテルの人間はリリィの存在を知らないので私がリリィの分を取り繕うと一つ多めに頼んでおいた。
メニューは大きなハンバーガーだった。
「それじゃあいただこうか」
私が言うとリリィが「おいしそうな食べ物」
藤沢三姉妹は相変わらずにリリィが見えるサングラスを着用している。
いや藤沢三姉妹だけじゃなかった。
さっき来たみんなもサングラスを着用していた。
そういえばあの人形はメビウスと関係があったのだろうか?
でももう悪の根元であるメビウスは皮肉だが豊川先生が禁忌を身代わりにすることで収まった。
ブンブンと私に気を向かせようと未来さんが手で合図をした。
「何、どうしたの?」
大丈夫と手話で言っていたが、私には手話は分からないので彼女の態度でそれを把握した。
「大丈夫大丈夫」
そうだ。まだ旅行の最中だ。
残り一週間、楽しまなきゃな。
「リリィ、私たちは後一週間でこの国をたつけれども、あんたはどうする?私達についてくる?」
「リリィここに残る。もうみんなに迷惑かけられない」
すると藤沢三姉妹が『一緒に行こうよ』と仕草で表していたが、リリィはゆっくりと首を左右に振った。
「藤沢さん達、リリィの好きにさせてあげようよ」
私がそういうと三人はがっかりしたような感じで落ち込んでいた。
それはそうだろうな。
せっかく仲良くなれた友達だからな。
そう思った直後、リリィが窓の外の空を指した。
そちらに目を向けると驚くことに紛れもないアラタトだった。
「アラタトは壊滅したはず、なのにどうして?」
「アラタト、不滅、あのアラタトはリリィの物」
「またメビウスが悪用しようと考えるんじゃないか?ダメだろうそんなの?」
「大丈夫、あのアラタトはリリィと一心同体みたいな物。
それにあのアラタトはメグと藤沢三姉妹が着用しているサングラスをしたものしか見えない」
何かまた嫌な予感がしてきた。
そんな私の気持ちをくんだのか?リリィは「大丈夫メグ。帰りはあのアラタトで見送る。飛行機代、チャラ」
嫌な予感とは一転して頼もしい仲間が増えたと実感した。
浮遊大陸アラタト、リリィの話によるともうアラタトには危険な物はなくなったらしい。
あのアラタトはリリィのお家になったみたいだ。
だからリリィと会いたくなればいつでもあえるし、海外の旅行だって行ける。
すごく便利な代物だ。
食事が済んだらアラタトに行くことを決意した私。
藤沢三姉妹も行きたいって言っていたけれども、危険な物はないと言っていたが、万が一と言うことで私は一人でリリィに案内される事になった。
***** *****
食事が済んで早速外に出て私とリリィはリリィにつれられ浜辺に向かった。
浜辺の方に行き、リリィは目を閉じて念じると、アラタトの浮遊大陸がゆっくりと動き近づいてくる。
本当にシュールな夢を見ているみたいだ。
「言い忘れていたけれども、これはメグの物でもある。だからメグが念じればアラタトを呼び寄せる事が出来る」
「本当に、それは凄いな」
「でもアラタトの事はあまり他言しないで欲しい」
「じゃあ、私の大切な人たちだけ言っても良いかな?」
難しい顔をするリリィ。
「とりあえず私の恋人のエイちゃんだけには喋っては良いかな?」
「メグ、彼氏がいたのか?」
「うん。とっても素敵な人、今度リリィに紹介する」
「だったら今からメグの恋人に会いに行こう」
「ええっ!」
突然の事なので驚いてしまった。
「ダメか?」
「ダメじゃないけれども、ここから日本には凄い距離だし、今はまだ旅行中で私が突然いなくなったら、心配するかも」
「それなら大丈夫、すぐに日本に到着する」
そう語り合いながらアラタトは私とリリィの頭上まで接近している。
するとリリィは「フェイト」と口にする。
すると一瞬でアラタトの内部の中に入っていった。
中は操作するところか?様々なコンピューターのような物が所々に設置されている。
その中央にクリスタルのような物があり、リリィがそのクリスタルにさわり、目をつむって念じる。
するとリリィが私に手をさしのべる。
不思議に思った私は「リリィ?」
「メグが行きたい場所まで案内する。だからメグの記憶を察知して行く」
「分かった」
そういってリリィの手を握り、リリィが「着いた」
「着いたってまだ刹那の時しかたっていない」
「メグ外に出て見ろ」
動力部から外に出ると、仙台の町並みで私がいつも町を傍観していたタワーが見受けられる。
「凄い。でも大丈夫なの?」
「アラタトはリリィとメグにしか見えない。同席してもらいたい者がいれば、メグとリリィの心からの同意が必要」
今は日本は夜中だ。フロリダと日本に時差は十時間以上あるからな。
「降りる時はどうするんだ?」
リリィは動力部のクリスタルを手にして私に手をさしのべた。
リリィの手にふれた瞬間に仙台の夜の町がモニターに映し出されていた。
いけない忘れていた。リリィはサングラスを着用していないと見えないんだった。
「そういえばリリィは私かあのサングラスを着用しなければ存在自体見えないんだっけ」
「大丈夫、以前藤沢達のように手と手を取り合って話すことが出来る」
「それは名案だ」
でもエイちゃんは藤沢三姉妹のように洞察力は鋭くない。
リリィは動力部と思われるクリスタルに振れ、私に手を差し伸べた。
手を取った瞬間にエイちゃんの家に転送された。
それは一瞬の出来事だった。
「何これ凄い」
とりあえず私が旅行中だと思っているエイちゃんを驚かす事にわくわくしてきた。
エイちゃん家の二階を見てみると明かりがついていてまだ起きているようだ。
それに久しぶりに会う感じがするのはきっと指輪の世界で一年を過ごしてきた感も会った。
早くエイちゃんにあって驚かせてあげて、私の大切な妹のリリィを紹介してあげたい。
ドアノブをひねり、リリィを招き入れる。
そこでやってきたのが聡美ちゃんだった。
「あれ、メグちゃん、今旅行中だったんじゃないの?」
「いや色々と事情があって」
「旅先で何かあったの?」
どこから説明すれば良いのか分からなくなり、とりあえず「エイちゃんは?」
「二階の自室にいるけれども」
「丁度良い聡美ちゃんにも紹介するからエイちゃんの部屋に行こう」
「うん」
もちろん聡美ちゃんはリリィは見えていないだろう。
二階に上がりエイちゃんの部屋に入ると、エイちゃんは机の上で勉強をしていた。
「メグ。お前どうして?」
目を丸くして驚いている。
私はその顔がみたいのも一利あった。
「エイちゃんただいま」
「ただいまってお前」
「エイちゃんにも聡美ちゃんにも紹介したい人がいるんだ」
リリィに左手を差し伸べる。するとリリィは左手を握ってきた。
「エイちゃん。聡美ちゃん」
エイちゃんと聡美ちゃんに右手を差し伸べた。
すると二人とも恐る恐るって感じで私の右手に手を添えた。
二人とも不思議そうな顔をしている。
私は藤沢三姉妹と同じように私の気持ちを通してリリィと会話をした。
それを二人に再現しているのだ。
聡美ちゃんが「何、誰かいるの?」
しばらく私を通してリリィと二人は会話をしている。
この二人は話が早いすぐにリリィの存在を理解して、ここに来た事情もすべて知ったのだった。
「凄いメグちゃん。それに素敵な不思議だね」
と聡美ちゃん。
そこでリリィにエイちゃんと聡美ちゃんもフロリダにつれていって良いか聞いてみると了承してくれた。
「ねえ、エイちゃんも聡美ちゃんもフロリダにいかない?」
「そのアラタトって言う浮遊大陸で行くんだよね」
聡美ちゃん。
「大丈夫なのかメグ」
エイちゃん。
二人とも心配している。
「大丈夫」
話は付いて、二人を外に連れていく。
二人には見えていないが頭上にはアラタトがそびえている。
私はリリィの手を取り、私のもう一つの手を二人に差し出した。
するとアラタトの動力部に到着した。
「うわーすげえな」「夢を見ているみたい」
二人は驚いている。
「驚くのはまだ早いよ二人とも」
「じゃあ、リリィお願い」
「うん」
動力部であるクリスタルを手にした瞬間にフロリダに到着した。
モニターにはフロリダが私たちが宿泊していたホテルとその綺麗な海が映し出された。
早速、二人と地上に降ろして、豊川先生達の所へ。
そういえば二人を驚かす事で忘れていたが、豊川先生は大変な事になっていたことを思い返され、二人を驚かせた喜びの気持ちとは一転した。
二人は豊川先生の知らない。
それはメモリーブラッドでエイちゃんの血を吸った事で知っている。
エイちゃんは豊川先生が普通の人間だと思っている。
でも密かに今まで生きてきた中で、何か父親は何かしらの不思議な力を持っていると思っていたとしても。
メビウスの禁忌を受け継ぐこと以前に豊川先生がどんな人物なのかを知ったら二人はどんな思いをするのか怖い。
私は豊川先生の血を吸って流霧さんの血を吸って事情は知っている。
「とりあえず、二人ともみんなの所に行こうよ。きっとみんな驚くと思うから」
そういって残酷な真実から逃れることで私はいっぱいいっぱいだった。




