禁忌を受け継ぐ者
みゆきちゃんと節子ちゃんの元に戻ると、二人とも生きていて、邪悪なオーラも徐々になくなっている感じだ。
「豊川先生、節子ちゃんは助かったのでしょうか?」
「そうなるね。でも・・・」
「でもって、何か問題でもあるんですか?」
「節子ちゃんの魂はぼろぼろに傷だらけだ。修復させるにはかなりの時間が必要とされるか・・・」
「されるか、どうなんですか?」
「二度と戻らないかもしれない」
私は節子ちゃんとみゆきちゃんが不憫に思えてきた。
そこで私は思いつく。
「ならイルカとあわせるのはどうでしょうか?」
「それは言い考えかもしれない」
私は倒れたみゆきちゃんを背負い、豊川先生は節子ちゃんを背負ってホテルまで戻る。
みゆきちゃんはメビウスの力を利用して節子ちゃんを助けた。
まさかこんな形で節子ちゃんをを助けることになるなんて。
ホテルに向かう途中、みゆきちゃんが気を取り戻した。
「メグさん」
私を呼ぶその声は申し訳がないと言う気持ちがこもっていた。
だから私は「別に気にしなくていいんだよ」
「私メグさんに迷惑をかけちゃったね」
「いいや、私も節子ちゃんを助けることが出来なかったのは事実だった。
でもみゆきちゃん。みゆきちゃんのしたことで節子ちゃんは蘇る事が出来たんだよ」
「本当に?」
元気を取り戻すみゆきちゃん。
「けれども・・・」
「・・・けれども?」
「節子ちゃんの魂は傷だらけだって」
「でも、生きているんでしょ。生きているんでしょ」
「うん」
私がそういうとホッと胸をなで下ろして落ち着いてくれた。
ホテルに到着して豊川先生は節子ちゃんを横たわらせて、みゆきちゃんは「節子ちゃん」と言ってその手を取りみゆきちゃんの胸元に当てて止めどなく涙を流していた。
そしてみゆきちゃんは節子ちゃんに寄り添って眠りについた。
そんな二人を見て無垢な天使だと思えてくる。
これで一件落着なのか?
でもどんな形にせよ節子ちゃんが命を取り戻したことにみゆきちゃんは安心している。
本当に今日は疲れた。
私もそろそろ眠らないと。
朝起きて、私は早速みゆきちゃんと節子ちゃんが眠っている部屋へ行った。
昨日はあんな大変な事があったからか?
節子ちゃんとみゆきちゃんは抱き合うように眠っていた。
そんな様子を見ていると私は安心してしまう。
早速節子ちゃんを車いすに乗せてイルカの所に連れていきたいが、みゆきちゃんも節子ちゃんも眠っているので今はそっとしておこう。
自分の部屋に戻ると、藤沢三姉妹は起きていて、リリィはぐっすりと眠っている。
「リリィ起きろ」
リリィを揺さぶる。
リリィはゆっくりと体を起こして私に思い切り抱きついてきた。
「メグ」
相変わらずの甘えっぷり。
まったく使用がない奴だ。
「そろそろ朝ご飯だから食堂に行くぞ」
藤沢三姉妹はサングラスを着用している。
どうしてこんなサングラスが作られたのか?
メビウスとは違った何か野望を盛った者がいるのか?
さらにポケットにしまってある三鬼神。
私はかつてアラタトの民と言われている。
さらにリリィとは双子の兄弟だとも言われている。
考えても仕方のない事ばかりだが妙な感じがする。
それよりも今はみゆきちゃんと節子ちゃんの事いっぱいいっぱいだ。
節子ちゃんの魂はボロボロでもみゆきちゃんが節子ちゃんが生きていることでそれでいいと思っている。
まあ私は節子ちゃんが生きてみゆきちゃんが元気ならそれで良いのかな?
でもどちらかと言えば節子ちゃんの魂も何とかして上げたい。
だから節子ちゃんには今ここのイルカセラピーを実施したいと思っている。
朝食はバイキングだ。肉や魚などのメニューが盛りだくさんだ。
相変わらずにリリィは大食いだ。
私は節子ちゃんとみゆきちゃんの分までお皿に盛って後で部屋に持って行こうと思っている。
食事中みんなにみゆきちゃんの事を話そうとしたが、詳しい事情は伏せておいて、とりあえず大変な事が合った事だけを伝えておいた。
みんなも心配してくれている。
そんなみゆきちゃんと節子ちゃんにバイキングの料理を持って部屋へと入っていった。
みゆきちゃんは起きていて、節子ちゃんの看病をしていた。
藤沢三姉妹もリリィ悟子君もスミレちゃんも豊川先生も同じように心配していたが、『ここは私に任せて』と言ってみんなには悪いが席を外して貰った。
「みゆきちゃん」
明るい口調で言ったがみゆきちゃんの元気は戻らなかった。
節子ちゃんはベットの上に座ったまま上の空って感じだった。
魂を傷つけられると人ってここまでおかしくなってしまう事に私はそんな節子ちゃんを見るの辛いしみゆきちゃんが悲しむ姿も見たくない。
「みゆきちゃん。食事を食べたら行くよ」
「行くってどこに」
「節子ちゃんを連れてイルカセラピーを試して見ようよ」
「節子ちゃんは本当にそれで治るの?」
「それは・・・」一瞬言葉に迷い、「みゆきちゃん覚えている?イルカとふれ合った時の事を」
「あっ」みゆきちゃんは思い出したようだ。
イルカに出会い不思議な体験をした事に。
そして少しでも悲しみを緩和させた事を。
それを節子ちゃんに試して見ようと言うことで節子ちゃんを車いすに乗せてみんなも同じように外に出た。
「大丈夫なのかよ」
悟子君が心配そうに言う。
「とにかくやって見なきゃ分からないよ」
早速節子ちゃんを車いすで外に出して、イルカのいる港まで行く。
浜辺に到着すると、住民の人が不思議な声を上げてイルカを呼び寄せていた。
節子ちゃんがイルカを目にすると「あっ」と声を上げて、ゆっくりと車いすから立ち上がり、イルカのいる方へ歩いていった。
「節子ちゃん」
みゆきちゃんが言う。
「みゆきちゃん」
節子ちゃんの瞳から大量の涙がこぼれ落ちていた。
節子ちゃんはイルカに誘われるように行く。
そして節子ちゃんはおもむろに笑った。
奇跡が起こったんだと思う。
これ以上でもこれ以下でもない奇跡。
気のせいではないだろう。
節子ちゃんのボロボロだった魂が少しずつ形成されていくのが分かった。
「イルカセラピー本当に凄い」
節子ちゃんが回復していき、みゆきちゃんは私に抱きついて「ありがとう。そしてごめんなさい」と泣きながら言った。
「そんなことないよみゆきちゃん。私はそんなお礼を言われるほどの事はしていないし、謝られる程の事はしていないよ」
「でも、ありがとう。そしてごめんなさい」
再び同じ台詞を言って、私に感謝と謝罪の意を示した。
考えていれば、みゆきちゃんがメビウスにたぶらかされて、それで節子ちゃんは蘇ったものだよな。
それよりメビウスは輪廻転生に向けて、自らの肉体から脱出する方法は見つかったのか?
私が考えても仕方がな事かもしれないが、今後メビウスが私達の前に敵として現れたら、全力でたちふさぎ、二度と出れないように壷に閉じこめてやる。
でもメビウスもかわいそうな人間だったんだよな。
禁忌を犯して永遠の命を手にして、輪廻転生が出来なかったのだろう。
メビウスは何万年もの間生き続けて苦しんできたのだろう。
それに流霧さんも同じように永遠の命を手にして、その永遠の命を豊川先生に譲ることで話は付いていると聞く。
何だろう?私に不安が生じてきた。
私も人間と同じくして死ぬことが出来るのかと。
でも豊川先生にそれは心配いらないと以前言っていたっけ。
もし流霧さんに豊川先生から禁忌である永遠の命をメビウスに身代わりになったら、流霧さんはどうなるのだろう?
流霧さんとメビウスはあちらの世界で何をしているのか?
いや流霧さんは豊川先生に禁忌である永遠の命を身代わりになるほかに色々と試しているみたいだと聞いた。
豊川先生が身代わりになるのは最悪の場合になってからの事だと言っていた。
最悪の場合になったらと思うと心が凍り付くほど恐ろしくなる。
そんなのに身代わりになれる豊川先生はいったい何者なのだろう?
もしかして豊川先生は吸血鬼?
イルカセラピーに立ち会っている豊川先生の方を見ると、節子ちゃんが無事に傷ついた魂を修復して、みゆきちゃんと喜びを分かち合っている姿を見てとても穏やかな感じがする。
だから吸血鬼かどうか知らないがやましいことを考えるような人ではない。
そう豊川先生は私の恩人でもあり、その息子とのエイちゃんとも交際だってしている。
それにエイちゃんは私の事を大事に思っている。
もしどちらかエイちゃんでも豊川先生でもどちらかいなければ私の存在は無かったかもしれない。
私の中でまた一つの心配が生まれた。
「豊川先生。ちょっと」
「何、メグちゃん」
「ここでお話する内容じゃないので、ちょっとこっち来てください」
ちょっと強引に豊川先生の手を取り、誰もいないところに誘導する。
「ちょっとどうしたの?」
「豊川先生、もし流霧さんが輪廻転生出来なかったら、それを豊川先生が身代わりになるって」
「うん。言ったね」
豊川先生は恐れもせずケロリ口する。
「そんな、そんな事を豊川先生が禁忌を受け継ぐなんてあり得ませんよ」
「・・・」
どこか遠くを見て黙り込む豊川先生。
そこで私は今思ったことを口にする。
「豊川先生はもしかして吸血鬼なのでは?」
すると豊川先生はその瞳を閉じて語り出す。
「察しが良いねその通りだよ」
真実を聞いて黙り込む豊川先生。続けて、
「流霧は僕より一万年もの間、生きてきた。そして色々な事を知りすぎた」
「じゃあエイちゃんは?」
「大丈夫安心して、英治は普通の人間だよ。でもこのままだと僕よりも先に死んでしまうのは確実だ。僕は何代もわたって我が子をもうけてきた。僕の年はもう詳しくは分からないけれど、もう五千年は生きている。
でも僕は禁忌を犯した吸血鬼ではない。
だから後数千年すれば生き耐えるだろう。
でも僕には流霧の禁忌が必要だ」
「どうして?どうして禁忌を犯してまで吸血鬼であり続けようとするのですか?」
私は涙があふれてきた。永遠の生命と言うのは地獄よりも恐ろしい事だと私は思う。
「僕にはこの世にまだ未練がある。まだこの体で誰かの為に生きたいと思っている」
「そんなの惨すぎます」
「そうかな、僕はまだ後一億年は生きていたいと思っている」
「嘘です。誰かが言いました。人体は魂の牢獄だと」
「僕はそうは思わない」
「嘘です」
「嘘じゃない」
「なら私がその禁忌を身代わりに出来ませんか?私も吸血鬼です」
「そんな事をしてはいけない」
必死に言う豊川先生。
「じゃあ、どうしてそんなに必死に私を止めようとするのですか?」
「メグちゃん、君は普通の人間として生きることが出来る。君には流霧の禁忌は荷が重すぎる」
「私は大丈夫です。どうやら私は神の子孫であるアラタトの子孫なのですから。
壊滅してしまったアラタトを蘇らせなくてはいけない」
「誰がそんな事を決めたの?アラタトは君の双子の妹のリリィがすでに滅ぼしている」
私は豊川先生に抱きつき、「お願いですから無理な事はやめてください。私はこの件に関しては部外者じゃないような気がするんです」
「僕は流霧の禁忌を託すのではなく、メビウスの方を託す事になった」
「・・・そんな」
私はショックのあまり立ち上がる事も出来なくなり、地面にすとんとへたりこんだ。
何であんな奴の代わりに豊川先生が禁忌を身代わりにならなくてはいけないのかと思うと目の前が真っ暗になるほどの気持ちになる。
「豊川先生考え直してください。あんな奴のために禁忌を身代わりになることはありません」
「まだ決定となった訳じゃない。彼らは指輪の世界でその方法を探している。それは万が一と言う意味でだよ」
「そうなんですか?本当に本当にそうなんですか?」
「本当だよ」
いつもの信憑性のある笑顔にはその時は見えなかった。
永遠に死ぬことの出来ない身体ってどんな気持ちでいるのだろう。
でもその禁忌を身代わりにならなければ、みゆきちゃんと節子ちゃんを助ける事が出来なかったんだよね。
何なんだよ禁忌って、何が輪廻天性だよ。
それが私達に何の因果があって関係しているのか?
誰か説明してよ教えてよ。
気がつけば豊川先生はいなくなっていた。
どんよりとした気持ちを胸に身体を動かすのもおっくうだ。
節子ちゃんとみゆきちゃんが無事に戻って喜んで良いはずなのに、私はやはり素直には喜ぶ事は出来なかった。




