旅立ちの前に3
出発時刻になり、豊川先生が運転するワゴンに私達は乗る。
私達の見送りにエイちゃんと聡美ちゃんが『気をつけて』と笑顔で言ってくれて、これで二週間も会えない事を思うと改めて寂しく思い、変な感じだけど涙がこぼれ落ちそうになった。
豊川先生は車を運転させ、私は助手席に座って、改めて昨日渡された参加者五人の詳細を見ていた。
この五人の中で手を焼きそうなのが、この悟子君と言う男の子。
「その男の子の悟子君の事が気になっているんでしょ」
豊川先生は前方を見て運転しながら、私が詳細を見ている様子をどこからか伺っていたみたいだ。
車は安全運転だし、私の心を読んだとしか思えないほどの言動だ。
「良く分かりましたね」
「今回の件で僕もその悟子君には手を焼くと覚悟を決めている。とにかくメグちゃん。大変な事になるかもしれないけれども、きっと楽しい旅になるようにして行こう」
「そうですね」
豊川先生の言う通りだ。大変だけど、楽しい旅にする。
それとみゆきちゃんのホーリープロフェットの事もあるし、このこともちゃんと豊川先生に報告をして置こう。
豊川先生に報告したら豊川先生は「うん」と言って、ただ頷いただけであった。
この時の豊川先生が何を考えているのか分からなくて、ちょっと不気味な感じがして、報告しない方が良かった気がした。
三人の様子を見てみると、みゆきちゃんは流れる景色に目をやり呆然としていて、アスターの二人はゲームをしている。
「盟、梓、ゲームは一時間までだぞ」
「えーこういう時は特別でしょ」「堅いことを言わないでよ」
「言う事を聞かない奴はここで下ろすよ」
二人に威圧的な視線を向けると、二人は黙って、ゲームをしまい縮こまるように言うことを聞いてくれた。
豊川先生は笑いだし、「まあ良いじゃない、こういう時ぐらいは」
「そうだよ豊川先生の言うとおりだよ」「盟、ゲームしよう」
豊川先生に余計な事を言われたくなかったが、豊川先生は私のボスだ。
「分かったよ。とにかく二人とも程々にな」
「分かっているよ」梓と盟はピコピコとゲームをしている。
成田空港に到着して、空港の待ち合わせ場所であるラウンジまで足を運び私達はそこで待っていた。
周りの人は様々な外国人でいっぱいだった。
さすがは世界を経由する成田空港だ。
これから私達は飛行機でアメリカのフロリダまで行くんだな。
成田空港からオーランドフロリダまでは直行便はなくて、まず私たちはアメリカン航空でいったん降りて乗り換えて、そこからオーランドフロリダまで行く。
その間、色々と手続きの時間を含めると二十時間はかかるらしい。
実を言うと私は飛行機に乗るのは生まれて初めての事だ。
本当に空の旅と言うのはどんな物か楽しみで仕方がない。
時計を見ると八時を示していて待ち合わせ時間は九時だ。
ちょっと早く来すぎたが、まあ早く来すぎて損はない。
改めて空港のラウンジを見てみると、本当に凄い設備だ。
何か喉が乾いてきた。
そこでラウンジのソファーにどっかりとくつろぎながらゲームをしているアスターの二人を呼ぶ。
「盟、梓、これで私達の飲み物を買ってきてよ」
「えー何で僕たちを使うの?」「僕たちはメグさんの奴隷じゃない」
「分かったよ。あんた達の分も買ってきて良いから」
「本当に」「行こう盟」
千円札を差し出して梓に手渡した。
本当に現金な連中だ。
そこでみんな何が飲みたいか、豊川先生と私とみゆきちゃんはミネラルウォーターで後はアスターの好きな物を買わせれば良い。
アスターの二人は千円札を握りしめて飲み物を買いに行った。
豊川先生は本を読んでいて、みゆきちゃんはぼんやりと音楽プレーヤーで何か曲を聴いている。
何か話題でも語り合おうと思ったが、二人とも何か今は話したくない雰囲気を醸し出していたので、私もみゆきちゃんと同じように音楽プレーヤーで曲を聴くことにする。
私の音楽プレーヤーには千曲ぐらい入っていて、どれもエイちゃんの持っているCDからインポートしたものばかりだった。
こんな時にうってつけの曲って何だろうと思いながら、曲を選んでいると、何かL'Arc-○n-Cielが無性に聴きたくなり起動させる。
聴いていると、何か幻想的な世界に引きずり込まれそうな感じで、イルカと戯れているみゆきちゃんを想像して気持ちを高揚させていた。
今回の旅は私達四人にとって何かあるとみゆきちゃんは予言した。
私も吸血鬼で何かしらの予感って言うか、みゆきちゃんほどの力には及ばないが、そういった勘を働かす能力は人よりも強いことを自負している。
私の勘を働かすと、少なくとも今回の旅で悪い事は起きないと思っている。
でも予言にしろ人並みはずれた勘にしろ、確証はないので何とも言えないのが答えだが、とにかく悪い事が起きないように常に気をつける心構えは必要だと思っている。
「お待たせ」「買ってきたよ」
アスターの二人は豊川先生とみゆきちゃんにそれぞれミネラルウォーターを渡して、なぜか私だけ炭酸を差し出してきた。
「私は炭酸なんて言っていないけど」
「ごめん間違えちゃった」「とにかく飲んでよ」
二人はニヤニヤと炭酸のプルタブを開けようとする私を面白そうに見ていて、すぐに二人のもくろみが読めた。
こいつらわざと間違えて、炭酸を買って、ほくそ笑みながら炭酸を振っている姿が頭に浮かんだ。
何と浅はかなのだろう。アスターの二人を呼び寄せて、二人に向けてプルタブを開けた。
「うわー何するんだよメグさん」「何で分かったの?」
二人は吹き出した炭酸を浴び、悲鳴を上げている。
そんな二人を見て私は面白かったが、その後大きなため息を自然と漏らしていた。
とりあえずこんないたずらをした罰として、二人の買ってきた飲み物は没収して、勢いよく吹き出てしまった炭酸飲料の残りを二人に分けて飲んでもらった。
さらにラウンジは炭酸が吹き出たことで床が塗れてしまい、清掃の方が掃除してくれると言ったが、私はとりあえずモップを借りて二人に拭かせた。
本当にどうしてこんな幼稚ないたずらをするのだろう。
二人がモップで床を拭いている姿を見て、私はまた深いため息が漏れて、思わず豊川先生の方を見ると、穏やかな表情で見ていた。
先生、ここは心を鬼にしてこの二人を叱りつけてくださいよ。
二人のいたずらで忘れていたが、私は喉が乾いていたんだ。
とりあえず没収した飲み物のプルタブを開けて一口飲んで喉を潤しながらおいしくいただいた。
この飲み物おいしいな。しかも炭酸だ。でも私に差し出した炭酸とは違う。
こいつら自分たちだけ・・・本当に情けない。
その時だった、ラウンジに向かって三人並んで、こちらに向かってくる女の子達が目に入った。
私は一目見て分かった。
あの子達が三姉妹の女の子で聴覚障害を持った藤沢三姉妹。
豊川先生が三人に気がついてその手を穏やかな笑顔で手を振る。
すると藤沢三姉妹も穏やかに笑って手を振って駆け足で私たちの所まで駆けつけてくる。
藤沢三姉妹は詳細に書いてあった通り、聴覚障害を持っており、豊川先生は巧みな手話で藤沢三姉妹と会話をしている。
私も傍らで藤沢三姉妹の手話を見ていたが、てんで分からなくて、とりあえず、藤沢三姉妹の穏やかな表情を見て、気持ちが和んだりしていた。
この三人何か気持ちの良い子達だ。
それと三人とも同じ顔でかなりチャーミングだ。
さらに同じ服を来て藍色のワンピースに緑色のジャケットを羽織っている。
「メグちゃん。三人は言葉はある程度通じるから、とりあえず自己紹介して、ほらみゆきちゃんも盟ちゃんも梓ちゃんも」
ソファーに座っているみゆきちゃんとたった今、床の掃除を終えた盟と梓が三人の前に立つ。
「朝倉盟です」「朝倉梓です」
「私はみゆき」
「私が副引率係の川神メグです」
三人は言葉は通じると聞いたがどうやら伝わったみたいだ。
そこで私は、「あなた達が藤沢えーと舞ちゃん未来ちゃん京美ちゃんね。誰がどの名前かは分からないけれども」
「みんな、三人の名前は家族も見分けられないほどそっくりなんだって。一番お姉ちゃんが未来ちゃんで二番目が舞ちゃん、三番目が京美ちゃんって言われても僕も見分けがつかないな」
すると真ん中にいるお姉ちゃんの未来ちゃんか?どちらが舞ちゃんで京美ちゃんか分からないけれども、二人はお姉ちゃんの未来ちゃんを何かを促す。
お姉ちゃんの未来ちゃんは、私たちを一人一人指さして、そしてその手を両手で握りしめ、「てめだみ」と片言の言葉で、端から見たら何を言っているか分からないが、その手話の意味は分かった。
『あなた達と私達は友達』
だと言いたいんだ。
その意味を理解すると、何か気持ちがほっこりとしてしまい、自然と笑顔になり、盟と梓は「僕たちも友達だよ」「マイフレンド」みゆきちゃんはその未来ちゃんがやった手話を真似て友達であることを改めて示した。
私は出会ったその日から、友達だと言われたのは初めてで、それは嘘偽りない事だと分かり、私達の心を和ませてくれた。
そしていつの間にいたのか?
緑のベレー帽にメガネをかけた女の子が気配を消して私の脇にいた。
その子も一目見て分かった。長月スミレちゃんだと。
「長月スミレちゃんだね」
そうですと言わんばかりにコクリと頷く。
そう頷いてから持っていたスマホでタッチペンで絵を描いていた。
「何を描いているの?」
私が横から見ると、見せたくないと言わんばかりに、スマホを引っ込めてしまった。
詳細に書いてあった通り、彼女はサヴァン症候群だ。
絵を描くことに執着して没頭している。
豊川先生達も『よろしくね』と言っていたがスミレちゃんは表情を変えずに絵に没頭しながら頷いただけであった。
こうして出会って改めて扱いづらい子じゃないかと思ったりした。
そしてラウンジに表情からして落ち着きのなさそうなちょっと危なっかしい男の子がやってきた。
髪は金髪に染めて、服装も何かだらしなさを感じさせる、よれよれの服を来ている。
長塚悟子君だ。
見た目からして、あまり関わりたくない印象を与えている感じだ。
その証拠に藤沢三姉妹も見てちょっとおびえた感じで、それは盟も梓もみゆきちゃんもちょっと苦手という感じの嫌な顔をかいま見れた感じだった。
「長塚悟子っすただいま到着しました」
私もこの子改めてあったけれども何か苦手な感じがしたが、豊川先生は嫌な顔一つ見せずに穏やかな笑顔で対応する。
「悟子君だね。これから二週間よろしくね」
「よろしくっす」
悟子君は参加するメンバーを見て「何辛気くさい顔しているんすか?盛り上がって行きましょうよ」と見るからに下品な笑みを浮かべて、そうみんなに言い掛ける。
この悟子君は空気も読めないような子だ。
私たちメンバーは豊川先生以外は何か苦笑いで無理に笑顔で対応している様子だ。ちなみにスミレちゃんは何も気にせずにスマホのアプリで絵を描くことに没頭している。
早速みんなそろった。
ラウンジで待機していると、私達が乗る飛行機の準備が出来て、私たちはラウンジを後にして、それぞれ荷物を持って、機内へと向かう。
あー飛行機なんて初めてで何かドキドキするな。
早速私たちは機内に入り、豊川先生が指定座席の方へと私達を誘導する。
私たちは合わせ十人だ。
内窓際に座れるのは三人。
「僕たちは窓際に決定ね」「僕も」
「ちょっと待ちなさいよ。みんなも窓際に座りたいよね」
みんなに言うと、みゆきちゃんとスミレちゃんはどちらでも良い感じで、藤沢三姉妹は窓際に座りたいような表情をしていたが、三人とも優しいので私たちを優先して、悟子君はもう窓際に座っている。私も窓際に座りたい。
そして私は思いつく。
飛行機のエンジンが起動して機内は振動で揺れている。
結局窓際に座ったのは私であり、私の隣とその隣は盟と梓が不服そうな顔をして、ぶつぶつと文句を言っている。
そう、私は普段の行いが悪いことを理由に私が窓際に座るようにしたのだ。
ちなみに私達が座る席は指定席であり、それぞれ三列の座席に別れて、一列の座席に三人が並んで座れるようになっている。それと豊川先生は中央の列の座席の一つだ。
そして飛行機が滑走路をゆっくりと走り、そして離陸する。
私は窓からの景色を胸一杯に膨らませて眺めていた。
ふてくされている盟と梓には後で埋め合わせをしておく事にしよう。




