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メモリーブラッド0  作者: sibatamei
第2章
32/89

イルカとみゆき



 盟と梓の件が収まって、三日が過ぎたある日の休日に、本当なら私とエイちゃんだけの二人きりのデートだったのに、みゆきちゃんとの約束で、私とエイちゃんとの間に割り込むように今日はみゆきちゃんと一緒で三人だ。


 みゆきちゃんの約束通り、私は町に新設された水族館に来ている。


「すごーいお魚さんがいっぱい」


 水槽を眺めながら、走り回り、大はしゃぎをしているみゆきちゃん。


「ほら、みゆきちゃん、はしゃがないの」


 と注意したがみゆきちゃんの水族館のお魚に対する好奇心に私の声は届いていないみたいだ。


「みゆきちゃん。本当に元気良いな」


 エイちゃんはもう一人妹が出来たみたいで、何か嬉しそうだった。


 いつもの休日の二人切りのデートの時に勝手に約束してしまった事をエイちゃんに謝ったが、エイちゃんは「おいおい俺にそんな風に謝らないでくれよ。俺たち恋人同士なんだから」と言われてしまった。

 

 でもみゆきちゃんが喜んでいる姿を見ると、エイちゃんも嬉しいんだろうな。


 でも行く前は、あんな約束しなければ良かったなんて後悔してしまったが、これほどまでにみゆきちゃんが行きたがっていた水族館に連れて来て、それで喜んで貰えたんだから良いよね。


 でもみゆきちゃんが無邪気な子供のようにはしゃぐ気持ちも分からなくはない。


 私も水族館に来たのは生まれて初めてだが、この水族館の中はまさに素敵な別世界と言った感じで、私もテンションがあがってしまう。


 薄暗い室内の中の水槽をのぞき込んでみると、まるで二つ目の宇宙とも呼べる深海の中を潜っているような不思議な感覚にとらわれる。


 水槽の中は様々な海の生物がいる。


 エビやカニ、ウツボや色鮮やかな熱帯魚、グロテスクなアンコウなど、様々。


 高い電車賃を払ってまで来て、さらに高い入場料を払った甲斐があったよ。


 それに私とエイちゃんそれにみゆきちゃんと居ると、何か不思議と家族で来たようなそんな感覚になり、気分が高揚してしまう。


 みゆきちゃんは本当に迷子にならないか心配になるぐらいに室内を巡り、水槽の中をのぞき見ている。

 そんなみゆきちゃんを見ると、あの時、メビウスに捕らわれている節子ちゃんを助けられなかった時の無念な気持ちがまったく感じられないほどだ。

 でもみゆきちゃんも今は悲しい事を忘れて、こうして子供のようにはしゃいでいる姿を見ると、ほっとする。


 そこでエイちゃんが時計を見て、


「どうしたの?」


 と聞くと、


「そろそろ時間だと思って」


 私も時計を見て確かめる。


 そうこの水族館のメインイベントであるイルカのショーまで後十分だった。


 私達は、屋外に出て、イルカが泳いでいるプールを囲う観客席に行き、そこには家族連れやカップル何かがごった返していて、立ち見を覚悟したが、ギリギリ後ろの端の席に座る事が出来て、とりあえず良かったと思えた。


「イルカさんイルカさんイルカさん・・・・」


 みゆきちゃんはプールで泳いでるイルカを遠くで見て、本当に小さな子供のようにはしゃいでいる。

 みゆきちゃんは子供だけれども、幼稚園児のような小さな子供じゃない。だから私はちょっとそんなみゆきちゃんと居ると無性に恥ずかしくなって、「みゆきちゃん。大人しくして」と言ったが、みゆきちゃんは足をブラブラと動かしながら興奮して、私の声が届いていないみたいだ。


 やれやれと思って、ため息がこぼれるとエイちゃんが「まあ良いじゃない。メグもこれ程までにみゆきちゃんが喜んでくれて嬉しいんだろ」と私にウインクする。

 

「そうだけど」


「だったら良いじゃないか。はしゃがせて置けば」


 そう言ってエイちゃんは興奮しているみゆきちゃんの頭を優しくなでたりしている。

 そんなエイちゃんはお兄ちゃんじゃなく、パパのような感じがした。


 それと先ほどエイちゃんが私にウインクしたが、その事がちょっと気になって、意味深な感じがして、その事でちょっと考えさせられる。

 もしかしたらエイちゃん。みゆきちゃんの悲しい事情を私が気にして悩んでいる事を知っているんじゃないかと思った。

 いやもしかしたらみゆきちゃんに限らずに、色々と・・・その先ほど私に見せたエイちゃんの意味深なウインクの想像を膨らませていると、突然インストラクターの女性がマイク越しで言った事に意識が向く。


『はい。この度はこの水族館にお越しいただきありがとうございました。それではまもなくイルカのショーを披露したいと思います』


 するとみゆきちゃんは興奮の堰を切るように立ち上がり、「イルカさーん。イルカさーん・・・」と連呼している。さすがにうるせえ。周りの子供はそこまではしゃいでいない。

 エイちゃんに『何とかしてよ』と目配せを送ったが、さすがにちょっと参ってやれやれと苦笑いをした。


『さて、ここでこの水族館の三匹のイルカ君をご紹介します。向かって右側のアル君です』


 そこでインストラクターの女性がアル君を呼び寄せ、餌を上げる。


「アルくーんかわいい」


 みゆきちゃん。


 続いて司会のインストラクターの女性は中央にいるイルカのマナ、そして左にいるイルカをラーナを紹介して、イルカに指示をする笛を鳴らした瞬間三匹のイルカは同時に飛び跳ねて、パフォーマンスを披露する。

 

 私はその光景を見てすごくテンションが上がって、みゆきちゃんと同じように、思わずはしゃいでしまった。


 そしてイルカのショーは始まり、インストラクターの笛の合図で、イルカは尾で水の上を歩くように走り、プールの頭上にぶら下げられている輪をくぐったりと、まさに人間には出来ない神業に私とみゆきちゃんそれに観客の人達もすごく興奮する。


 そしてショーの佳境に入り、司会のインストラクターの女性がマイク越しに私たち観客に向けて言う。


『さて三匹のイルカのアル君にマナちゃんにラーナさんのパフォーマンスはいかがだったでしょうか?

 ではこの三匹のイルカと記念写真を撮りたいお友達はいるかな?もし入るのなら、手を挙げてみてはどうかな?』


 みゆきちゃんは司会の話を聞いて真っ先に誰よりも早く挙手して「はいはいはいはい。みゆきイルカさんと記念撮影したい」と大仰に言う。


『一番早かったのは、あの赤いワンピースを着た可愛らしい女の子だね』


 司会が明らかにみゆきちゃんを指名した。


 するとインストラクターの男性二人がみゆきちゃんの所に来て、


「じゃあ、一緒に行きましょう」


 舞台へと促す。


 みゆきちゃんは興奮して舞台の方へ走って行ってしまった。

 ちょっと心配だったが大丈夫だろうと、エイちゃんとアイコンタクトを取った。

 

 だが、行くのはみゆきちゃんだけじゃないく、インストラクターの男性二人は「ご家族の方もご一緒に」と明らかに私とエイちゃんをみゆきちゃんの両親だと思っていたらしく、そう思われて何か嬉しかった。

 まあそれはそれで良いとして、私とエイちゃんはインストラクター二人に案内され、舞台の方へ走っていったみゆきちゃんの後について行く。


 私達は舞台の方に立ち、みゆきちゃんは勝手にイルカがいるプールの方へ、歩み寄っていった。


「ちょっとみゆきちゃん」


 と止めに入ろうと言って、インストラクターの二人も、止めに入ろうとしたところ、みゆきちゃんと三匹のイルカに何が起こったのか?

 三匹のイルカはまるでみゆきちゃんを誘うように挙って、みゆきちゃんに向かってキュキュと可愛らしく泣いている。


 みゆきちゃんが三匹のイルカの方に歩み寄り、その距離に何か不思議な何かを感じた。


 そしてみゆきちゃんは三匹のイルカに近づいて、イルカと戯れている姿は何かみゆきちゃんとイルカとの間には、まるで別の世界に隔離されてしまったかのような不思議な感覚に捕らわれたかのようだった。

 止めに入ろうとしたインストラクターの男性二人は、その間に入ってはいけないとでも思ったのか?止めに入るのをやめた。


 観客のみんなもその光景を見て、不思議な何かを見ている感じがしているようだ。


 司会のインストラクターの女性は声をひそめてマイクを通して言う。


『どうしたのでしょうか?三匹のイルカはまるで少女と遊びたがっている様子です』


 そしてみゆきちゃんはそんなイルカ達と戯れて、笑顔で止めどなくその大きな瞳から大量の涙を流していた。


 そのイルカ達と戯れているみゆきちゃんになぜか入ってはいけない気がして、インストラクターの人たちもそう感じたのかまったく止めに入ろうとせず、黙って見続けて、観客の人たちも、その姿をまるでイルカとみゆきちゃんの戯れるショーを傍観しているようにほっこりとしている。


 みゆきちゃんとイルカの間に何が起こったのだろう?



 ******   ******   ******   *****

 *********   ******   ******   **



 みゆきちゃんはイルカと戯れて、そして記念撮影が出来て、もう満足で、私はそんな疲れ果ててしまったみゆきちゃんを背中にエイちゃんと水族館を出た。


 時計を見ると午後十六時を十分回ったところだった。

 これから電車に乗って帰るには丁度言い時間だ。


 背負っているみゆきちゃんの顔を見てみると、健やかな感じで眠りに入っている。


 駅のホームまでエイちゃんとは会話はなく、電車に乗って、エイちゃんが思いだしたように言う。


「イルカって、悲しい人の心に引き寄せられて、その悲しみを癒すって言われているんだ。

 現にイルカセラピーって言う自閉症の人にイルカに会わせて、自閉症を克服したと言う研究結果も出ている。

 それにうちの父親も毎年、この時期になると、いじめや虐待で心の病を追った子供達を連れて、海外でイルカと戯れてその心の傷を癒すんだって」


 エイちゃんのイルカに関する知識は新しい物で、私の中の以前メモリーブラッドとしてエイちゃんの血を吸って得た知識にはなかった。


 エイちゃんも色々と大学で勉強に励みながら奔走してがんばっている事を知って、何か私も頑張ろうという気になる。


 それはそれで良いとして、エイちゃんの話で聞いたイルカセラピーの話に私は興味を持ち、私の背中で眠っているみゆきちゃんの寝顔を見て思った。

 みゆきちゃんも色々と悲しい目に遭い心の傷を負っている。

 それで今日、そんなみゆきちゃんを三匹のイルカは引き寄せられるように、みゆきちゃんと戯れたのかな。

 その後みゆきちゃんは心が晴れたかのような幸せな笑顔だった。

 もしかしたら、みゆきちゃんイルカに心を癒されたのか?

 でもみゆきちゃんの心はまだ完全に傷が治ったとは言い切れない。

 まあ人間には誰でも心の傷は存在して、その心を客観的に見るのは安易な事じゃない。

 きっとみゆきちゃんの心にはメビウスに捕らわれている節子ちゃんの事でいっぱいなのかもしれない。

 もし節子ちゃんに何か合ったら、みゆきちゃんの心は粉々に砕けて、一生直らない心の病に侵されてしまうかもしれない。

 だから一刻も早くメビウスと蹴りをつけてみゆきちゃんが一番慕ってた節子ちゃんを救って上げたい。


 それとエイちゃんは言っていたが父親の豊川先生は毎年この時期になると、いじめや虐待で心に傷を負った子供達を連れて、海外に行き、イルカセラピーを受けると聞いた。

 出来ればみゆきちゃんも参加させて上げたいとふと思い、帰ったら豊川先生に相談してみようと思った。


 家に到着したのは午後十九時を回ったところだ。


 気持ちよく眠っているみゆきちゃんをベットの上に寝かせて、私は早速今日の事を豊川先生に話して、イルカセラピーの件をみゆきちゃんも参加させて上げられないか聞いてみることにする。

 ちなみにエイちゃんは帰ったらすぐに机に向かい勉強だ。

 みゆきちゃんが邪魔にならないか聞いてみたが大丈夫だと言ったから大丈夫だと思った。


 玄関に出て、何か悲鳴のような声が聞こえた。


『来ないで』


 辺りを見渡してみると、誰もおらず、勉強室を見てみたが、そこには里音が勉強をしていた。

 何か声をかけようと思ったが、すごい集中ぶりで、その集中線を一本切らせたらまずいと思って、音を立てないようにゆっくりとドアを閉めた。


『私に構わないで』


 また聞こえた。

 もしかしたら私は今日相当疲れているかもしれない。

 今日の事を豊川先生に相談しようと思ったが、多分私は疲れているんだと思って、部屋で勉強しているエイちゃんに悪いが、静かにすると言ってみゆきちゃんに寄り添って眠りについた。


 何だろう?私は誰かに見られている気がする。


 多分気のせいだ。私はちょっと疲れているんだとその時はそう思った。


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