エイジとメグ3
前回までのあらすじ。
みんな私が蘇って心から喜んでくれたことに私は感極まった。
そして夜にエイちゃんと夜中にオールナイトデートでカラオケに行った帰りに、暴走族の連中に因縁を付けられ、私とエイちゃんは逃げようとしたがエイちゃんは頭を鉄パイプで殴られ気絶。
襲いかかろうとする連中に私は必死にもがいて、少し力を入れたら相手は吹っ飛んでいった。
この得体の知れない私の底知れぬ力は何だろう?
私がとっさに振り払った手に掛かり、男は吹っ飛んでいった事に、暴走族の連中は唖然としていた。
私も何が起こったのかわからない。
「野郎」
考える隙も与えないかのように、一人の男が鉄パイプを私の顔面に思い切り振りかざし、もうダメか思って死ぬ事を覚悟したが、鉄パイプが当たった衝撃は感じたが、痛みは感じなかった。
恐る恐るその目を開けると、私に鉄パイプを振りかざした少年は、尻餅をついて、
「化け物」
と言って後ずさって逃げてしまった。
「ひるむんじゃねえ。相手は女だよ」
次に二人が鉄パイプを持って私に振りかざしたが、衝撃は感じたが、痛みは赤子にふれられた感じだった。
私は確信した。
私は吸血鬼となった事で何か得たいのしれない力を得た事に。
先ほど吹っ飛ばした男と良い、鉄パイプを思いきり顔面に振りかざされても、痛みは感じない。
その時、私は自分の力を自覚し、すさまじい憤りと復讐心に心がかられた。
エイちゃんをこんな目に遭わせて絶対に許さない。
「くそったれ」
と罵りながら立ち向かってきた、相手の攻撃を受け止め手の甲で軽くはたいたら、相手は吹っ飛んで気絶してしまった。
何だろう。怒りがわき起こると同時に、体が燃えるように熱く、エイちゃんをこんな目に遭わせた連中を殺してやりたいと本気で思って、私は立ち向かった。
自分でも驚くくらいに早く、そして尋常じゃないこの力。
私の力に恐れてバイクでとっさに逃げていった連中もいた。
そんな奴はほおっておく。
そして一番許せないのが、この暴走族のリーダーだと思われる金髪リーゼント。
「こ、こんな事をしてただで済むと思っているのかよ」
虚勢を張っているのが丸わかりだった。
私はそのメッキのような虚勢を振り払うかのように思い切りにらみつけてやった。
「ひいい」
と、ひるんで尻餅をついてみっともなく小便を漏らしている。
こいつだけはぶち殺してやろうと、リーゼントに歩み寄り、
「助けてくれ」
命乞いをするが私は許さない。
「お前だけは許さない」
と言いながら、私は思いきり地面を踏みつけ、その衝撃で、コンクリートで出来ている地面に亀裂が走った。
リーゼントは気絶してしまった。
こいつがエイちゃんを。
そう思うと全身の血がひしめき合うかのように熱くなり、
「あああああああああ」
と叫びながら、リーゼントの首元を掴み軽々と持ち上げて、リーゼントの首元にかみついて、血を吸った。
何だったらこのまま血を吸って殺してやろうと本気で思った時、
「メグ、やめろー」
と後ろからエイちゃんの声が聞こえて、私の理性が働き、リーゼントにかみついた首もとから離して、気絶したリーゼントを放り投げて、エイちゃんの元へと行く。
「エイちゃん。しっかり」
「うう。メグ」
エイちゃんは意識が朦朧としている。
傷付きながらも先ほど私を呼び止め、無理をしたのだろう。
遠方からパトカーのサイレンの音がして、ここにいたら面倒な事になるので、エイちゃんを軽々と抱えてその場を去った。
エイちゃんを持ち上げてこんなにも身軽に動けるなんて、私はいったい。
とにかくそろそろ夜明けだ。
肌が接触してエイちゃんの心の声が聞こえた。
『もうメグのいない世界で生きられない』
と。
「それは私もだよ。エイちゃん」
エイちゃんの自宅に到着して、なぜかエイちゃんの部屋の窓が開いていたので、私はエイちゃんを抱えたまま跳躍して中に入った。
そして窓を閉めて、太陽の光が部屋に漏れないように、窓にベニアをはめて、夜が明ける前に、太陽の光を遮断した。
そしてエイちゃんをベットにそっと寝かせて、そのエイちゃんの手を握ってエイちゃんの心を読んだが、言っている事は先ほどと同じ事をリフレインしている。
そしてエイちゃんは目覚めて、弱り切った声で、
「メグ」
と言って笑ってくれた事に、恐ろしく心配な気持ちが一瞬で払拭されるかのように私は安心して、涙がこぼれ落ち、そしてエイちゃんを抱きしめた。
「エイちゃん。怖かったよ」
「メグ」
「エイちゃんエイちゃん」
と私はエイちゃんを抱きしめながら嗚咽を漏らす。
「メグ」
さっきから私の名前を呼んでいるが、何がいいたいのか、エイちゃんの口元に耳をそばだてる。
「苦しい」
そういわれて、
「ごめん」
と言ってエイちゃんから離れた。
そしてエイちゃんは徐々に意識が回復して、鉄パイプで殴られたが命に別状はない感じに安心した。
とにかくエイちゃんは完全に意識を取り戻し、エイちゃんをベッドに座らせて、私はエイちゃんの応急処置として、殴られた傷跡に消毒液を優しく塗って、ガーゼを張って包帯を巻いてあげた。
「うまく出来てないかもだけど、とりあえず、後で病院に行ってね」
「大丈夫だよ」
「ダメだよ。後遺症があったら大変でしょ」
「・・・」
なぜかエイちゃんは落ち込む。
「・・・エイちゃん?」
「俺はメグを守る事が出来なかった。俺は情けない人間だ」
と自分を攻める。私はそんなエイちゃんがおかしくて笑ってしまった。
「何がおかしい」
と怒るエイちゃん。私はそんなエイちゃんに優しい目で見つめ、エイちゃんも何か安心したように私を見る。
「エイちゃんは情けない人間じゃない。エイちゃんはあんな連中に果敢にも私を最後まで助けようとしてくれた。
だからエイちゃんは情けなくない。むしろカッコいいよ」
私の正直な気持ちを伝えて少しでも元気になってもらいたかったが、再び落胆して、そんなエイちゃんに。
「どうしたのエイちゃん」
するとエイちゃんは顔を上げ直向きな目で私を見て、
「俺はお前が心配だよ。お前あの力は何なんだ。あのまま誰も止めるものがいなかったら、完全に奴らを殺して殺人鬼になっていたところだぞ」
そう言われて、自分の力が恐ろしくなり不安な気持ちに染まった。
私は何を言って良いのか分からず、それはエイちゃんも同じだった。
私とエイちゃんの間に沈黙が訪れ、私はその沈黙の間、たまらなく不安で心臓がつぶれそうな感覚に陥った。
そしてエイちゃんが意を決したかのように、
「お前は一日にどれぐらいの血の量を求めるんだ」
先ほど、理性をなくしてリーゼントの血を殺す勢いで吸い続けたことが鮮明に思い出される。
「分からない」
「とにかく、血を吸うなら俺だけにしろ。俺以外の人間の血を吸うな」
「でも、そのままエイちゃんの血を吸い続けてしまったら、エイちゃんは死んじゃうよ」
それは考えただけでも嫌で、胸が苦しくなる。
「大丈夫だよ。今日からレバ食いまくって鉄分を体内に取り入れて血を量産するからよ」
何て笑って言っていたことに、つられて私も笑ってしまった。
「そんなの無理に決まっているじゃん」
「大丈夫俺に任せろ」
その後エイちゃんは眠りについた。
それと言い忘れていたが、私は人の手を握ることで相手の心を読む力がある事をエイちゃんに伝えるのを忘れていた。
まあ後で伝えれば良いかと思って、私は眠っているエイちゃんに寄り添って眠りにつこうとしたところ。心から悲しい声が聞こえてきた。
私はおかしくなって幻聴でも聞こえてしまったんじゃないかと思ったが、そうじゃない。
何?この声は。
とりあえず精神を集中して、頭にその姿が思い浮かんでくる。
それは私たちにひどいことをしたリーゼントだと言う事が分かった。
どうしてリーゼントの記憶が私の脳内に。
そこで気がついた。
相手の血を吸ったからだ。
昨日の謎の記憶はエイちゃんの記憶でエイちゃんが知っている聡美ちゃん麻美ちゃん、双子の盟と梓の事をエイちゃんの視点で理解できたのだ。
つまり相手の血を吸ったことで、その記憶が体内に宿り、その能力を駆使することが出来る。
それで精神を集中してリーゼントの記憶を探ってみた。
それは痛ましい程の辛い記憶だ。
幼少の頃から親に捨てられて、特別養護施設に預けられ、そこでも職員からも同じ入所している子供にも嫌がらせや虐待を受けて育った。
短期ですぐ怒る。それを面白がって職員と子供達にいじめを受けていた。
彼に心休まる場所はなかった。
学校には行かせてくれたが、字もろくに書けなくて、周りからバカにされ蔑ろにされていた。
どこへ行っても掃き溜め扱いに嫌気がさし、気に入らない相手を半殺しにしたり、とにかく自分にさわるものに対してそのとがった刃を向け傷つけおとしめた。
でも彼は私たちにあのようなひどいことをしようとしたが、実は仲間思いの面もある。
あの時私たちにその刃を向けたのは、幸せそうな私たちを見て妬みからだった。
「ふー」
と息をつき、どうやら相手の血を吸って、その記憶を探るのも体力が消耗するので控えた方がいいかもしれない。
まあ、あのリーゼントがどんな過去をたどったか何て私の知ったことではない。
でも私と重なる部分があり、その辛い気持ちは痛いほど共感できた。
夜起きて、大きなあくびを一つして、辺りを見渡すとエイちゃんは机に向かって勉強している。
そんなエイちゃんが私に気がつき、
「起きたかメグ」
「怪我は大丈夫なの?」
「しばらく体は動かせないが、とりあえず勉強は座って出来るから、とにかく明日までにレポートを仕上げなくちゃな」
エイちゃんは頑張りやさんだ。そんなエイちゃんは私は好きだ。
私が部屋にいるとエイちゃんは私に気を使って、勉強に集中できなくなると思うので、部屋を出ようとすると。
「どうしたメグ」
「ちょっとみんなに顔を合わせておこうかなって」
「そうか」
と言って勉強に集中するエイちゃん。
私はエイちゃんの力になりたいけど、私は側にいることしかできない自分に歯がゆくも思った。
二階から一階の豊川先生が経営する塾に行くと、娯楽室で昨日のメンツである、麻美ちゃんと双子の盟と梓、そして私のお姉さん的存在の里音がいた。
四人はテレビゲームを楽しんでいる。
「何をしているの?」
テレビゲームで見れば分かるだろと自分につっこみたくなるが、話の口実として言い掛ける。
「メグ。来たか?」
里音は私を歓迎すると言う表情で私を笑顔で見る。
「私も混ぜてくれないかな?」
「もちろん」
今、四人プレイでマ×オカートで盛り上がっている。
私もこのゲームはこの塾に入ってみんなと盛り上がって楽しんで、上達した。
レースが終わり、やはり里音がダントツ一位だ。
三人は里音にはかなわないよ。何て笑いながらささやきあっていた。
そこで麻美ちゃんが、私にコントローラーを差し出して、
「メグちゃんもやってみる」
「ありがと」
コントローラーを受け取り、画面を見据えてゲームに集中することにした。
「メグ、こてんぱんにしてあげるから」
「ハハ」
それは嫌みではなく親しみを込めて言っているのが分かって、何か心がほっこりとしたりする。
レースが終わり、一着は里音、二着は私、三着は盟、四着は梓だった。
「やっぱり里音にはかなわないな」
と盟。
「本当に里音は何をやってもうまいんだから」
と梓。
二人はそんな里音にふてくされた感じだった。そこで里音は、
「そんな事はないよ。私にだって苦手な事はたくさんあるよ」
視線をうつむかせて何か切なそうな顔をする。
盟と梓は気を取り直すように、
「まだ時間あるから違うゲームしようよ」
盟。
「良いねえ」
梓。
「うちもうちも」
麻美。
「ごめん。私はちょっと疲れたから抜けるよ」
里音。
そういって里音は私の目を見て、私に話があると言いたげにそのりりしい目で訴えてきた。
私と里音は塾の屋上に上がり、ここは屋上だが周りのマンションとかに辺りは遮断さっれていて見晴らしはあまり良くないが、よく里音に相談に持ちかけたときにここで相談に乗ってもらっていた。
「里音、私が死んで心配かけて悪かったよ」
「それは昨日聞いたから、もう良いよ」
そこで試したいことがあって、里音の手を断りもなく手で掴んだ。
「どうしたメグ」
「いや」
そういって心の中を探ろうとしたが、なぜか探ることが出来なかった。
どういう事だろう。
「何だよメグ気持ち悪いな」
と手を引っ込める里音。
「ゴメン」
すると里音は私の目を見つめてくる。
私は思い出す。
それは私の心を読む時の透明な視線だ。私にとってその目は苦手だったので、反らしたいが、反らしたら、隠し事がばれて、いつしかその隠し事を里音に言わなくてはいけない事があったケースがあるので、その目をじっと見つめた。
この吸血鬼であることと、尋常じゃない力、そのほかにもあるが、今は伏せておいた方がいいような気がして。
そして里音は目を閉じて、
「なるほど」
と意味深な台詞を言って屋上を後にしようとしたところ、立ち止まり、
「何を隠しているかは分からないが、困ったことがあったらいつでも私を頼っても良いからな。私とあんたはいつの間にかそういう間柄になったからな」
里音の気持ちを聞いて胸が熱くなり、後ろから里音を抱きしめて、
「何するんだよ」
何て言っていたが、嫌じゃない感じで笑っていた。
里音は私の優しいお姉さんだ。