シンクロ
みんなでゲームを満喫して、みんなで夕食を囲み私は里音と聡美ちゃんに会話の節々に言われた。『無理をしないで』と。
二人と会話をして私は何か心に熱くなる感じがした。
それは私のことを心から思っている優しさだったりする。
布団の上に仰向けになり、今日一日豊川先生にささやかな休日を貰って気持ちに大分余裕が持てるようになった。
さあこれからキャバクラに行って一仕事終えてくれば今日の私の仕事は終わる。
そしてキャバクラでは今日の私は昨日と違って心にゆとりが持てて、お客にささやかな癒しを提供できて、その点に関しては五月さんにほめられたりした。
そして五月さんは言った。また私が心配事を抱え込んでいるんじゃないかと。でもこれは口には出さなかったが、元気な私を見て何かほっとしたような感じに私も何か嬉しく思って、心が熱くなった。
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朝起きて、私は毎日の日課の早朝のマラソンをする。
心地よい風に包まれ、お日様の光を浴びてたっぷりと体にエネルギーを蓄え、私は風を切り走り続ける。
すごく気持ちが良い。
これなら今日に控えている困難な物事に対してぶちこわせそうな気がして体がうずうずとしてしまう。
待っていて盟、梓。あなた達を私は助けに絶対に行くから。そしてまたみんなでマ×オカートでもして楽しもうよ。
二人に蔓延る魔の手が及んでいるが私がこの手で粉砕してやる。
早朝のランニングを終えて家に戻ると、玄関でみゆきちゃんが待機していた。
「みゆきも誘ってくれれば良いのに」
「みゆきちゃん。病気は治ったの?」
「この通り」
その場で一回転して元気をアピールした。
「みゆきちゃん。病み上がりなんだからあまり無理しないで」
「大丈夫だよ」と私に抱きつき、「今日も盟さんと梓さんの所に行くんでしょ」
付いてくる気満々のみゆきちゃんに対して、私は「ダメだよみゆきちゃん。また体こわしたら・・・」
「大丈夫。それにみゆき二人の事をホーリープロフェットで予言したけど、メビウスが関わっている」
「メビウス」
以前私が対峙して、圧倒的な強さに歯が立たずに、打ちのめされた記憶がよぎった。
そして私は不安になり、そして恐怖さえもして、一瞬逃げ出したい気持ちに陥ったが、その場で両頬をパチンと叩いて、気持ちを鼓舞した。
『負けない』
と。
「でもどうしてメビウスだと分かったの?」
みゆきちゃんのホーリープロフェットは特定の人物までは断定できない曖昧な物だと私は知っている。
「これはみゆきの予感だよ。あいつ(メビウス)しか思い浮かぶ節は見つからない。これを機に節子ちゃんを助ける。だからこれはメグさんだけの問題じゃない。みゆきの問題でもある」
みゆきちゃんは真摯な瞳を私に突きつけ、どうやら覚悟はあるみたいだ。
そして私は考える。
みゆきちゃんのホーリープロフェットと私の力が合わさればまさに百人力だし、以前歯が立たなかったメビウスに太刀打ち出来るかもしれない、それにみゆきちゃんも節子ちゃんの事だってある。
だから私はもうみゆきちゃんを止める理由などないと知った私はみゆきちゃんを抱き上げて、
「じゃあ、よろしくお願いね」
「任せてよ」
私とみゆきちゃんが玄関で戯れている姿を由美子さんが見ていて、
「あら、あなた達、朝から仲良しさんだね」
「そうなんですよ」
私が言うと由美子さんは、
「朝ご飯出来ているから二人とも、食堂にいらっしゃい」
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徳川さんの勉強が終わって夕方頃、私は改めて気を引き締めるために、部屋で瞑想をしていた。
相手がメビウスと分かった以上、気を抜いたり乱したりしたら奴らの思うつぼだ。だからここは精神を集中させて望まなくてはいけない。
盟、梓、私はあなた達の危機から私たちは救いたい。
あなた達があのような歌声をどうしてあそこで披露しているのかは謎だが、私は絶対にあなた達を助けて見せる。
待っていて。
私はその瞳を開けて立ち上がり、明かりをつけると、ちょうどエイちゃんが部屋に戻っていた所だった。
「エイちゃん」
「ただいま」
「おかえり」
こうしてエイちゃんとも顔を合わせるのも久しぶりに感じて、何か緊張してしまい、思わず私はその目を反らしてしまった。
「行くんだろ」
「うん」
するとエイちゃんはそっと私を抱きしめてくれた。
「父さんにメグの事を聞いたけど、俺には教えてはくれなかった。多分俺が力にはなれる事じゃないんだろうなって。
そう思うと正直悔しくてさ」
エイちゃんの優しい包容に力が籠もる。
「だから俺はメグの事を信じて毎日を頑張って生きようと思っている」
「エイちゃん」
そしてエイちゃんは私の包容を解いて、
「だからメグ・・・気をつけてな」
力強い笑顔を私にくれて、それ以上は何も言わずに机に座って鞄から参考書を取り出して勉強を始めている。
そんなエイちゃんを見て、当たり前の事だがきっとエイちゃんも私の事を心配している。
私の命は私だけの物じゃない。
心がぐっと熱くなるような感覚になり、底知れぬ力が体に宿った感じがして、どんな敵も打ちのめせるような気がしてくる。
「じゃあ、行ってくるから」
エイちゃんにそう言うとエイちゃんは親指を突き上げニヤリと不敵な笑みを浮かべて私を見送った。
私は部屋から出て、玄関にみゆきちゃんが待機していた。
「メグお姉ちゃん」
みゆきちゃんの瞳の奥に熱く燃えるような何かを感じて、思わず私は不敵に笑って、
「行くよみゆきちゃん」
時計は午後九時を示している。
アスターのコンサートが開演するのは零時だ。
キャバクラの同僚の片山さんも胸を膨らませて絶対に見に行くと生き込んでいた。それに渡辺さんも来るのだろう。
空を見上げると月が赤く何か不気味に感じて、嫌な予感がするが、私の右手にはみゆきちゃんの小さな左手があり、心強く、さっきエイちゃんが見せてくれた力強い笑顔が過ぎって私に吹き荒れる不安が払拭された感じがした。
そこで私は重大な事を忘れていた。
今日は私が率いる暴走族の集会があるんだった。
時計を見ると午後九時十分を示している。
すっぽかす訳には行かないし、このまま行けばみゆきちゃんも鉢合わせてしまう。
私が暴走族の総長だと言うことを出来れば誰にも知られたくない。
私が集会に行っている間に、みゆきちゃんをどこかの喫茶店で待っていてもらう・・・それはいけないだろう。
「みゆきちゃん悪いんだけど、ちょっと私の野暮用につき合ってくれないかな?」
みゆきちゃんは首を傾げて、きょとんとする。
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集会は丁度スラム街の行き先の途中にある港なので、私はみゆきちゃんを連れて、とりあえず顔だけは出しておくことにする。
「メグ総長。ご無沙汰です」
龍平君が私を目にすると走り寄ってきて挨拶をする。
「うん。そうだね」
みゆきちゃんの方を見ると、怯えていて私の背後に隠れている。
「その子っすか?メグ総長の妹さんですか?」
「まあ、色々とあって」
「ちわっす龍平っす。夜露死苦」
人見知りの激しいみゆきちゃんは私の背後に完全に隠れてしまい、まあ無理もないか。
「かわいい子っすね」
「でしょ」
「で、今日はメンバーそれぞれ全員夜間学校かバイトをしてニート脱却しました。今日はその祝いとして、カラオケでパーと行きましょうよ」
「悪いけど龍平君。私達ちょっと野暮用があって、今日は顔を出すだけで申し訳ないけど、外させてくれないかな?」
「また危険な何かに巻き込まれているんじゃないっすか?」
察しの良い龍平君に私は軽く息を付き「まあ、そんな所かな?」
「何ですかそれは?よければ俺たちも協力しますよ」
「ありがとう。でも・・・」
「俺たちには力にはなれそうにないですね」
「ゴメンね」
「良いんすよ。総長がいつも言っているように、触れ合いながら自分が出来ることをやっていれば良いって」
「ありがとう」
「何を言っているんすか?礼が言いたいのはこっちの方っすよ」
集会には参加したが、メンバーがニートを脱却したパーティーには参加出来ず、申し訳ない気持ちを込めて謝って置いた。
みんなと別れて時計は午後十時半を示していた。
みゆきちゃんは言っていたが、龍平君達の事を苦手だけど、何かみんなに輝かしい未来を感じて嫌いにはならなかったって。
集会は終わって私とみゆきちゃんはスラム街のダンスホールに向かう。
ダンスホールに到着して、今日は入る時、今日のライブはプレミアチケットだったために、仕方なく外でチケットを高額でさばいているダフ屋でみゆきちゃんのお金で買って入った。
中に入ると人混みの中、「川上さーん」と手を振ってくる片山さんがいた。
私とみゆきちゃんは片山さんの方へと行った。
そこには渡辺さんも一緒だった。
「あんた達、またアスターに何か探りを入れようとしているのか?」
私は大きく息をつき、もう隠しても仕方がないと思って、
「アスターの二人は私の友達です」
「だと思ったよ。でなきゃ危険を冒してまでアスターの裏の関係者にちょっかいだそうとは思わないだろうしな」
「・・・」
「まあ、とにかく俺が知っている情報は提供してやるよ」
その渡辺さんの行為に不審に思った私は、
「私達にどうしてそこまでしてくれるんですか?」
「何だろうな。いきなりそう言われても言葉に迷うが、逢えて言うなら、アスターの為、俺自身の為とでも言っておこうか」
渡辺さんの目を見る。
強面のその瞳の奥に何か感じる。
詳しくは分からないが、何となく信じて良いと思えたが、用心していないと足をすくわれると気をつけた方が良いともとれる。
ダンスホールの中は観客達が酒を嗜み、時には喧嘩をおっぱじめる人間も入れば、廃人寸前の麻薬常習者の人間も見られる。
以前と変わらない情景だ。
みゆきちゃんも気をしっかりとして、その瞳の奥に燃えるような気概を感じる。
感じる。
何か強大な力が。
でも以前は感じる事は無かった。
みゆきちゃんにメビウスが絡んでいると言われたせいで私は神経質になってしまっているのだろうか?
みゆきちゃんを見てみると、私の手を握りしめて、目を閉じて、その左手で水晶玉を握りしめていた。
ホーリープロフェットを発動して、警戒しているのだろう。
私も気を張りつめて見張っている。
時計を見ると、午後十一時を回っているところだ。
そこで渡辺さんと目が合い。
「そんなに気を張りつめちゃって、アスターをどうにかしたいと言う気持ちは分かるが、彼女らを舞台から引きずりおろすような真似だけはするなよ。アスターは俺、いや俺たちの生き甲斐だからな」
威圧的な視線で見つめられ、私は息を飲む。
引きずり降ろすかどうかは、渡辺さんや私達が決める事じゃない。それは盟と梓が決めることだとその思いを込めて威圧的ににらみ返してやった。
「おっかないな。まあ、二人をどうにかしたいと思っても、彼女らはここ以外に居場所なんかないからな。
聞くと彼女らは幼少の頃、父親に捨てられて色々な因果を経てこの舞台にやって来たいわば堕天使みたいな者だ。
裏で何かヤバい者が絡んでいるなんて俺にはどうでも良い。彼女たちの歌声が聞ければ、俺はそれで良いと思っている」
渡辺さんの話を聞いて、この人なら、何か二人につけられている見えない枷を取り外してくれる事に協力してくれるかもしれないが、とりあえず敵に回さないように穏便にほほえみを返して、正面の舞台を見つめ開演を待つ。
『メグお姉ちゃん』
みゆきちゃんの声が聞こえて、みゆきちゃんの方を見ると、みゆきちゃんは左手で水晶玉を握りしめ、黙っている様子だ。
どうやら私と手を握ってそれを介して私の頭に伝えている感じだ。
いつも間にこういう事も出来るのだと、自分の新しい能力にちょっとびっくりしたし嬉しかったりもする。
『間違いないよ。メビウスを感じる』
『メビウス』
そして私もメビウスを感じた。
私とみゆきちゃんで手を繋いで共鳴して、邪悪なメビウスの気配を感じる力を察知できる。
共鳴して精神を集中して私とみゆきちゃんはシンクロして、メビウスの邪悪な気配が次第に露わになってくるのが分かってきた。
何をもくろんでいるのかは分からないが、目的はアスターの盟と梓だ。あの二人の歌声を悪用しようともくろんでいる気がする。いやそれしか考えられない。




