川上メグの休息
前回のあらすじ。
盟と梓の様子を見に、スラム街のライブ会場へ。
二人の歌声に心も意識も奪われてしまうほどの恍惚な気持ちに、気が付けば私は気を失っていて、二人のライブは終わっていた。
気が気でなくなった私は、二人の後を追うように、舞台に上がり、舞台袖の奥に進んでいくと、面会は遮絶と断れ、会うことは出来ずに、私とみゆきちゃんは引き返すことになった。
二人の事を豊川先生に相談したところ、気が気でない私に、慎重に言った方が良いと釘を刺され、とりあえずみゆきちゃんに力を借りよと思ったが、みゆきちゃんは前日の無理がたたって体調不良で風邪をひき、私はみゆきちゃんに無理をさせてしまった後ろめたさと、盟と梓の事が気が気でない気持ちに苛みながら日常を過ごすことに。
徳川さんの勉強が一段落して昼休みを迎えて、私は走って、あまり人気の少ない河川敷まで足を運び、叫んだ。
そう私は徳川さんに悩みが大きすぎたら打ち明けるか、海に行って叫んで解消させる方法だってあると学んで、私は後者を今活用している。
実際に実行して私の気持ちはだいぶ楽になった感じだった。
まるで叫んだことによって、後ろめたい気持ちや蟠りを空に放った感じがしてすっきりしている。
徳川さんに良い方法を教えて貰った。
悩みに押しつぶされそうな時は、ため込まないように、こうして発散させることも大事。
腕時計を見ると、そろそろお昼休みも終わってしまうので、私は急いで戻った。
まあ気持ちはだいぶ楽になったけど、やはり徳川さんの言うとおり、人間は多かれ少なかれ、悩みは常に付き物だと勉強になり、本当にその通りだ。
徳川さんに勉強を教えている最中に私は、みゆきちゃんに対する後ろめたい気持ちはだいぶ小さくなったが、やはりアスターの盟と梓の事が心配だった。
でも叫んだことによって、気が狂うほどに苛む事はないし、冷静に慎重に考えられる心のゆとりを保っている。
そんな私を見て徳川さんは嬉しそうに「さっきよりも顔がすっきりしているよ」と言われて、私は徳川さんに「ありがとう。徳川さんに教えて貰って、私の気持ちはだいぶ楽になりましたよ」徳川さんは「別に礼を言われる程の事はないよ」と照れくさそうに笑っていた。
さあ、今はアスターの事はおいといて、私に託されている徳川さんの勉強をサポートするんだ。
これは私が私であるための役目と言っても良いだろう。
時計は夕方になり、徳川さんは勉強をしっかりと学んで今日も帰って行った。
今日は徳川さんに教えるよりも、私が教わった気がした。
これが教える側と教えられる側との最高の関係何じゃないかとすばらしい事に気が付いた気がする。
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キャバクラを休んでアスターの事を探りに行きたいと思うが、でもちゃんと役目を全うしないと周りに迷惑をかけてしまうからね。
職場に到着して、更衣室には昨日偶然ライブ会場であった片山さんとはち合った。
「おはようございます」
「あらおはよう。昨日は大変だったね」
大変と言われて、私の心の中で後ろめたさが堰を切るように押し寄せてきて、憂鬱な気持ちになる。
「・・・私、何か悪い事を言っちゃったかしら」
ちょっぴり動揺している片山さん。
「・・・いや、別に。・・・それよりもアスターのライブ最高でしたよ」
「そうよね~今度のアスターのライブは週末の土曜だわ。・・・川上さんも、もちろん行く?」
「行きます」
と何のためらいもなく私は言い切った。
片山さんのおかげで良い情報が手に入った。
今週の週末の予定を手帳に記入しようとしたが、その日は龍平君達との集会があるんだった。
キャンセルする訳にも行かないし、とにかく両方とも外せない。
色々ともやもやと考えているうちに仕事は始まる。
仕事が終わった時、私は私のお姉さん的存在の同僚の五月さんに注意を受けてしまった。
今日はお客さんに対してぎこちがないと。
それに対して「いつも頑張っているから、良いじゃないですか」と言ったらお説教モードに入り、私は叱られてしまった。
店から出て、私は少しブルーだった。
「あんなに怒ることはないのに・・・」
と、ため息と共に発する。
でも考えてみれば五月さんの言っている事は筋が通っている。
そして五月さんは最後に言ったのだ。
『もし悩み事があるなら、私でよければ話ぐらいは聞いてあげられるから、そういう時はちゃんと話しなさい。ため込みながら物事に取り組むと、かえって失敗してあらゆる事が瓦解していくから』
と。
それは今日徳川さんにも似たような事を言われたような気がする。
二人の要点をまとめると、私はため込む癖がある。
でも私には私を頼る人がたくさんいる。
でもそんなのは理由にならない。
かといって話そうとしてもどのような時に話せば良いのか困惑して、さらに気持ちに大きな負担がかかってしまう。
ため息を吐き出して、私は徳川さんに教わったことを思い出して、とっさに大きく吐いたため息を吸い込むようにした。
こうすると幸せは逃げないようになるって言ってけど、半信半疑な気持ちだ。
何かこう心が疲弊していると、悪い方向に事が進むから、もう今日は帰って、ご飯食べてお風呂に入って歯を磨いてすぐに寝ようと思う。
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私は目覚めて怖い夢を見てしまった。
これもただの怖い夢ではないような気がした。
また、盟と梓の二人が真っ暗な永遠の闇に飲み込まれてしまう生々しく怖い夢を。
時間がないような気がする。
みゆきちゃんのホーリープロフェットを駆使してもらい、二人の事を予言して貰おうと思ったが、みゆきちゃんは今体調を崩して、療養しているから無理だ。
今眠っているエイちゃんに相談しようとしたが、エイちゃんも大学やらバイトで忙しいから、その手を煩わせたくない。
気が付けば私は呼吸を荒くして、落ち着かない感じだったので深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
とにかく気持ちを落ち着かせる為に外に出て、太陽の光を浴び、心地よい風に包まれ、自然を五感で感じて、少し落ち着いた。
そして走って、いつもの壮大な景色が見渡せる河川敷にたどり着き、私は叫んだ。
私は心にゆとりがもてたのか?心にため込まれた鬱積のような物が大分無くなった気がして、気持ちが楽になった。
早速帰って、パソコン室で作業をしている豊川先生の所に行き、とりあえず私の気持ちを話した。
するとパソコンの作業をいったん止めて、私に向き合い、
「・・・メグちゃん。話を聞いて分かったんだけど、メグちゃんには少し無理をさせてしまっているのかもしれない。その事に気づいてあげられなくて、ごめんね」
「・・・豊川先生」
「だからメグちゃん。少し休んだ方が良いと思う。今日は徳川さんの勉強だけど、僕が引き受けるよ。だから今日は一日、ゆっくりしていた方が良い」
「でも、豊川先生もたくさんの生徒を引き受けているんでしょ。それなのに・・・」
すると豊川先生は立ち上がり、私の肩に手をポンと置いて、
「大丈夫。・・・それとメグちゃんは僕の大切なスタッフだし、これは命令だからね」
「・・・はい」
何か腑に落ちない命令だったが仕方がない。
みゆきちゃんの様子を見に由美子さんの部屋に行くと、今、由美子さんの看病を受け、食事を食べさせて貰っている所だ。
「大丈夫ですよ由美子さん。私一人で食べられます」
「そう。じゃあここに置いておくから、ちゃんとしっかり食べなさいよ」
「・・・はーい。・・・あっ!メグお姉ちゃん」
「調子はどう?」
「もう大丈夫だよ。だから日曜日に・・・」
それを制して由美子さんが、「ダメよ。病気は治りかけが一番危ないの。しっかりと休んで、ちゃんと治さなければ、『めっ』よ」
「・・・はい」
私は由美子さんに真摯な目で見て、
「由美子さん。本当に申し訳ありませんでした」
すると由美子さんは笑い出して、「どうして謝るの?」
「私がみゆきちゃんに無理をさせてしまって・・・」
申し訳なく言葉をなくす私に、
「めっ!」
人差し指を私のおでこに突きつける。
私は訳が分からないと言わんばかりにきょとんとしていると、
「何もかも自分一人で背負い込んではダメ。もっと自分を大切にしないと」
「・・・由美子さん」
「とにかく朝ご飯、メグちゃんの分も出来ているから、急いでね。早く食べてくれないと片づかないからね」
そういって由美子さんは部屋から出ていった。
私とみゆきちゃんは二人きり、とりあえず私は、
「ごめんねみゆきちゃん。無理な事をさせちゃって」
するとみゆきちゃんの表情が変わり、それは甘える時の仕草だと私は感じた。
いつもならそんなみゆきちゃんに腹を立てていたが、今回は私が悪いと思い、みゆきちゃんがこれから私に対しての要求を聞いてあげるべきだと思ってみゆきちゃんの目を見た。
「日曜日覚えているよね」
「はい」
あまりの申し訳なさに敬語になってしまう。
「みゆきね、みゆきね、水族館に行って、イルカのショーが見たい」
「はい」
「あっその時は、英治お兄ちゃんも一緒で良いよ。でもみゆきを置いて二人だけの世界に入ったら、みゆきは一生占ってあげないからね」
「はい」
「メグさん?」
みゆきちゃんの無邪気な笑顔を見ていると、すごく安心して、涙があふれ出てきて、目の前にいるみゆきちゃんが網膜に映らないほどだ。
そして先ほど由美子さんに言われた事を思い出して、さらにさらに涙があふれ出て来る。
本当に私は自分を大切にしなくてはいけない。
だから私は目の前にいるみゆきちゃんを抱きしめずにはいられなかった。
今日は徳川さんの事を豊川先生に任せて、一日みゆきちゃんと過ごそう。
今抱えている問題である盟と梓の事も心配だけど、とにかく私自身を大切にしなければ、二人を助ける事は出来ないと思った。
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今日はみゆきちゃんと過ごす事にした。
朝食の時に由美子さんに言われたが、みゆきちゃんと接するときは風邪がうつらないように気をつけなさいと。
そういう事を注意しながら、みゆきちゃんの体調の事も考えて、娯楽室でゲームしたりとか、一緒にテレビを見て楽しんだりと、本当に嬉しそうにしていたので私は心がほっこりとして、みゆきちゃんに対する蟠りが少しずつなくなっていった。
ただ私は難しく考えずに、みゆきちゃんが元気ならそれで良い事に気づかされる。
お昼になり、みゆきちゃんが食べたい物をリクエストしたのはハンバーグだったので、私は由美子さんと相談して、一緒に作ったりもした。
由美子さんのハンバーグは絶品で、それはまさに三つ星のレストランを上回ってしまう程のおいしさと言っても過言じゃない。
私は側で手伝っていたが、材料は別に特別な物は使われてはいないし、調理の仕方も普通だった。
それは何なのか?・・・少し考えてそれは愛情かもしれない。
みゆきちゃんは満腹になって眠そうにしていたので私はみゆきちゃんを由美子さんの部屋にあるベットに寝かせた。
「ハンバーグおいしかったね」
「・・・うん」
そしてみゆきちゃんは眠りにつき、そのみゆきちゃんの健やかな寝顔を見ていると、ただ単純にかわいく愛おしくなって来る。
もしかしたらみゆきちゃんの風邪も良くなったかもしれない。
そう思って、安堵の吐息を漏らしたと同時に、ふつふつ浮かんでくるのは心の脇に置いてあった盟と梓の問題だった。
明日アスターである盟と梓のコンサートがあのスラム街の寂れたダンスホールで行われる。
何か対策を考えるなら、ただ明日に備えて気を引き締めて望むのだ。
それと私が総長を勤めている暴走族の事だってある。
私には考えれば色々な問題が山積みだ。
だから一つ一つ丁寧に処理していきたい。
あまりぼんやりと考えていると、気がおかしくなるんで、私は誰もいない娯楽室に行き、一人でファイ×ルファンタジー7を最初から初めて、そのゲームに没頭して、気を引き締める。
ロールプレイングゲームなんてやったことがないが、以前エイちゃんが気晴らしにやっていた所を見て思い出して、不器用だが見よう見まねで進めていった。
実際にやるとなかなか面白く、次から次へと主人公がトラブルに巻き込まれ立ち向かい、それを操作しているのは私であり、まるで私が物語の主人公になった臨場感を味わっている。
「メグ」
名前を呼ばれて私は我にかえるように、振り向くと里音が学校帰りか?セーラー服姿で鞄を持っている。
「里音」
「メグ、面白いか?」
「すごいはまっちゃった」
気が付けば、もう十七時を回って夕刻だった。
その後も聡美ちゃんも帰ってきて、私がコントローラーを握り、二人に色々とアドバイスをされて、夕ご飯を食べる事も忘れてしまうほど熱中してしまった。




