燦然と舞台で歌う二人の天使
前回のあらすじ。
みゆきちゃんに盟と梓の事をホーリープロフェットで予言してもらい、スラム街の一角に位置するダンスホールへと足を向けた。
そして会場のライトが消えステージにスポットライトが美しい衣装をまとった盟と梓が登場して、二人はマイクをとり歌った。
盟と梓がその済んだ声で歌い、会場内の観客達は二人の歌声に魅了されている。
先ほどの女性に蛮行を働いた男性も、何事もなかったかのように二人の歌声に魅了されていた。
知らなかった。二人がこんなに歌が上手いなんて。
みゆきちゃんも二人の歌声に魅了されて、歌う二人をうっとりと見ている。
二人の歌声を聞いていると、寂れた会場内が、神話に出てくるような美しい物語の世界にいるような臨場感。
そして伴奏が始まり、二人はそれに併せて歌う。
会場内はヒートアップして私もそのノリに乗ってしまう。
すごいこんな演奏聴いたのは初めてだ。
私はアーティストのコンサートには行ったことがないが、こんなにテンションが上がるものなのか?
何だろう。そんな二人を見ていると、周りが気にならないほどの夢中な気持ちに駆られる。
すごい。
もっと聴いていたい。
そんな時、二人がここで危険な目に遭ってしまう予感がして、私は我にかえるように気が付き、辺りを見渡すと観客達は完全に魅了されている。
その時、私は気が付いた。二人の歌声は魔性のようなもの感じる。
二人の歌声を聞いていると、心が奪われるかのような恍惚な気持ちになるが、それに惑わされてはいけない気がして、とりあえず私にしがみつきながら魅了されているみゆきちゃんを我にかえるように、揺さぶった。
「みゆきちゃん。みゆきちゃん」
みゆきちゃんの目を見てみると、私の事に無関心な感じで、二人の歌声に魅了されて、何かに操られている感じがする。
これはまずいような感じがして、
「みゆきちゃん」
背中をちょっと強めに叩いて、渇を入れた。
「わっ」
みゆきちゃんは素っ頓狂な声を発して我を取り戻した感じだ。
「メグさん」
「何かヤバい感じがするけど・・・」
気を引き締めていないと二人の歌声に魅了されて、何かに囚われてしまう感じになる。
そうなってはいけないと思っても・・・。
自分の頬を叩いて、思い切り気を引き締め、ステージで歌っている盟と梓を見た。
みゆきちゃんはもはや心を二人の歌声に囚われてしまったようだ。
そんなみゆきちゃんの手をしっかりと握り、歌っている二人をしっかりと見守った。
この魔性に近い歌声は悪意は感じられないが、二人が何か危険な何かが迫っている予感がする。
盟と梓はステージの上で、本当に楽しそうに歌っている。
まるで歌うために生まれてこの地に舞い降りた天使と言ったところか。
ダメだ・・・。
まるで私はシュールな夢を見ている心境にかられて恍惚としてしまい、心を奪われてしまう。
とにかく私は二人の歌声を聞いていたい。
渡辺さんがアスターの二人に恋をしていると言う気持ちは充分に分かった。
・・・私は。
広大な草原に私はたたずみ、透き通った青い壮大な空に抱かれ、心地よい風に包まれている。
気持ちいい。
ここはどこなのだろう?
何でも良い。
私はもっとこの地にとどまり、この心地よい自然の中に身をゆだねていたい。
永遠に・・・。
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「メグさん。メグさん」
みゆきちゃんの声がする。
「何だ何だ。それ程までにアスターの歌声に魅了されたか?」
・・・アスター・・・盟・・・梓・・・。
何か全身を枷で縛り付けられている感じがする。
もがくような勢いで体を動かし起き上がると、静まりかえったダンスホールの中だった。
「・・・私」
「気が付いた?」
「みゆきちゃん」
「まったく感受性の強い奴だな。アスターの歌声にそこまで感情移入してしまうとはな」
「渡辺さん」
私は何か重大な事を忘れているような気がして、ステージを見ると、盟と梓はおらず、ダンスホール内は祭りの後のように静まり帰り、観客はほとんどいなかった。
「盟と梓は?」
「アスターなら、もうコンサートは終わってステージから降りたよ。今頃控え室で一息ついている所じゃないか・・・って、あんた達、アスターの知り合いかい」
『そうです』と言いそうになり、私たちが友達だって言う事は伏せた方がいいだろうと止まって「・・・いえ・・・あの・・・その・・・あんな素敵な歌声を聞かせてくれるアスターに人目合いたいなーと思って」とごまかして言った。
「やめておけ、面会は遮絶でファンは一目見るのも精一杯、中にはちょっかいを出そうとした何人かいたが、そいつらの消息は不明のままだ。多分消されたんだろうな」
背筋が凍るほどの悪寒が生じて、二人が恐ろしく心配になり、私は立ち上がり、ステージまで走って登り、舞台袖の中へと入って行った。
そこにはSPらしきサングラスをかけた黒服の男が二人が、その先を遮るように立っていた。
「こんな所で何をしている」
「アスターの二人に会いたくて」
「面会は遮絶だ。お引き取り願おう」
二人をぶっ飛ばして中へ続く、奥へと進もうと思ったが、冷静になり、
「分かりました」
と言って引き下がることにした。
舞台袖から出て、ステージに出ると、みゆきちゃんと渡辺さんと片山さんが観客席から私の事を心配そうなまなざしで見つめていた。
「アスターと何かありそうだが、関わるのはやめておいた方が良いぞ」
渡辺さんが言う。
その後、私とみゆきちゃんは静まりかえったダンスホールを後にして、外は土砂降りの雨が降っていた。
秋の夜の雨は冷たく、風邪ひくといけないので、歩道橋の下で雨宿りをしていた。
みゆきちゃんが寒そうに身震いをしていたので、私が羽織っているカーディガン着せてあげた。
時計を見ると真夜中の一時を示している。
「みゆき、アスターのライブまた聴きたいと思うけど・・・」
「思うけど・・・何?」
「何か嫌な予感がするし、盟さんと梓さんの事も心配だし・・・」
みゆきちゃんは眠そうにしているので、みゆきちゃんを背負った。
みゆきちゃんは私の背中の中で眠りについている。
無理ないよね。こんな幼い子が冷たい雨が降る真夜中の時間に無理をさせてしまっているんだから。
本当に申し訳ないと思う。
今度の日曜はエイちゃんとのデートをキャンセルしてまでも、水族館に連れて行ってあげないとね。
それよりもあの歌声はどうやらみゆきちゃんも、何かを感じているようだ。危険な何かを。
それに渡辺さんも片山さんも、アスターの事は関わらない方が良いと釘を指すように言われた。
そんな事を言われると盟と梓の二人がすごく心配で心許なくなってくる。
あの予知夢。
今すぐにみゆきちゃんに二人の事をホーリープロフェットで占って欲しいと思ったが、今日はもう疲れ果てて眠っているのでまた日を改めて、出直すしかない。
雨が少しおさまり、少し濡れてしまうが、私の背中で眠っているみゆきちゃんを背負いながら、走って帰った。
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体を起こして、辺りを見渡すとエイちゃんの部屋の中であった。
「・・・夢かあ」
本当に夢で良かった。
本当に恐ろしい夢を私は見てしまった。
内容的には、盟と梓が、真っ暗な永遠の闇の中に放り込まれてしまう恐ろしく生生しい夢だった。
これが予知夢だと思うと、盟と梓の二人が恐ろしく心配になり、気が気でなくなるような感じになる。
でも今、どうこう出来る問題じゃないので、私は深呼吸をして、気持ちを落ち着かせて、時計を確かめた。
時計は午前六時半を示している。
あれから三時間ちょっとしか寝ていないが、多少の無理なら何とかなる。
私は常人とは違う吸血鬼だから。
また今日も悩みを抱えながら、一日が始まる。
カーテンを開けると、真夜中の雨の後の空から燦々と照りつける太陽の光を浴び、とにかく今日も頑張れそうにな気がする。
毎日の日課であるランニングに出かけようと思って、そう言えばみゆきちゃん朝のジョギングに連れてって言われたけど、昨日は無理をさせてしまったから起こさない方が良いと思って外に出た。
走っていてやはり気になってしまうのが、今日見た悪夢だった。
それに昨日の様子からして、心配は募る。
そしていつもの折り返し地点である、河川敷から壮大な景色が見渡せる場所にたどり着き、盟と梓の歌声が胸に流れて来て、恍惚とした気持ちになる。
あの二人の歌声、また聴きたいと思うし、ずっと聴き入っていたいと言うのが私の本音だが、漠然と危険な何かを感じている。
それは何なのか憶測を巡らせれば霧がなく考えられるが、あまり憶測を巡らせると、悪い方向へと考えてしまい、事が本当に悪い方向へと向かっていくことがあるので、このような時は信頼できる豊川先生に相談した方がいいだろう。
まあそれよりも、今は盟と梓の歌声を思い出して、太陽の日差しに照らされ、透き通った風に包まれながら鑑賞に少しだけ浸った。
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「それは心配だね」
昨日の事と、今朝見た悪夢の事を豊川先生に話して、先生もすごく心配している。
「とにかく今日の夜も、私、あのダンスホールに行きます」
「・・・うーん。あまり僕は迂闊に動かない方が良いと思うんだけどね」
「でもこうして手をこまねいていられないです」
「まあ、焦る気持ちも分かるけど、焦りは冷静な判断が出来なくなる場合があるから、とにかくここは落ち着いて慎重に行った方が良いと僕は思う」
豊川先生に言われて、私はちょっと頭が熱くなっていた事に気が付く。
そうだ。豊川先生の言う通り、焦りは冷静な判断が出来なくなるおそれがあるから慎重に行った方が良い。
・・・そう慎重に・・・冷静に・・・。
だからまたみゆきちゃんに力を借りるしかない。
みゆきちゃんもそろそろ起きていると思うから、部屋に行くと、みゆきちゃんは布団にくるまって眠っていた。
時計は午前九時を示している。
いくら昨日は夜更かししてしまったけれども、そろそろ起きても言い時間だと思ってみゆきちゃんを揺さぶり起こそうとすると、起きなかった。
ちょっといらだち、布団を引っ剥がして、無理矢理起こそうとすると、みゆきちゃんは顔色が悪い。
「みゆきちゃん?」
そう言ってみゆきちゃんのおでこに触れてみると、すごい熱を出している事がわかり、私は心配になり、パニックに陥りそうになり、ここは深呼吸して、気持ちを落ち着かせて、由美子さんのところに行き、事情を説明した。
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今日も東大合格を目指している高齢者の徳川さんは来て、私はその勉強のサポートをしている。
徳川さんが勉強をしている傍らで私はみゆきちゃんの事で後ろめたくて悩んでしまう。
私はみゆきちゃんに無理をさせて、体調を崩させてしまった。
みゆきちゃんは今、由美子さんの看病を受けて、眠っている。
私は本当にバカな吸血鬼だ。
みゆきちゃんをもっと大事にしてあげないといけないよね。
「・・・さん」
何か声が聞こえて、気のせいだと思って、自己嫌悪に陥っていると。
「川上さん」
徳川さんの声が聞こえて、私は、
「はい」
と、素っ頓狂な声を出して思わず立ち上がり、そんな私を見て徳川さんはおかしそうに笑っていた。
すごく恥ずかしくなって、私も笑ってごまかした。
「川上さんはいつも悩み事を抱え込んでいるような顔をしているけど、今日の悩みはひと味違うな」
「別に悩んではいませんよ」
「まあ、これは俺の持論だが、人間は常に悩みを抱えて生きていると思っている。もし俺で良かったら相談に乗っても良いぞ」
「・・・」
親切な気持ちで言っているようだが、それは私にとってお節介だと思って返す言葉が見つからなかった。
「悪い悪い。お節介がすぎたかな。まあ、悩みが大きいなら誰かに話してすっきりさせる事も大事だし、俺なんかは誰にも話せない時は、海で叫んだりもして解消させたがな」
と笑って再び勉強に戻った。
徳川さんの話を聞いて、この人は勉強よりも大事な物を心に諭していると感じた。




